艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

138 / 227
第十一話 2 真打登場

保健室が大神のお世話をするのは自分だと名乗りを上げた艦娘たちで埋まりかけた頃、鎮守府の廊下を打ち合わせを終えた間宮と伊良湖が歩いていた。

 

用件は食堂の料理長たちとの、来月の食堂での食事内容についての打ち合わせだった。

艦娘には間宮監修と言うことで信頼を得ているのだが、食堂の定食の内容は間宮が1から10まで全て決めて指示をして作っている訳ではない。

一ヶ月のメニューを決める打ち合わせに間宮たちが立ち会って、食堂の設備での作りやすさなども考慮した上で話し合い、間宮がOKを出した上で決定しているのだ。

 

「はぁ~。一月に一度のこととは言え、この打ち合わせは疲れるわね~」

 

手を組んで大きく背伸びしながら、間宮が少し先を歩いている。

 

「え? 間宮さん、疲れているんですか? いつも食堂側の提案をビシバシ指摘して、こういう風に作ればもっと美味しくできるとか、効率よく出来るとか言っているじゃないですか」

 

先程の間宮の様子を思い出して、どっちかというとストレス解消しているんじゃないかなと感じた伊良湖が疑問を口にする。

 

「それは当然よ。艦娘だけじゃなく、ここで働いているみんなや大神さんが私の監修ということで

食堂の食事を信頼しているんですもの。一つのメニューだって見落としする訳にはいかないし、そう思うと思いっきり集中しないといけないわ」

「……そうですね。甘味処やバーのメニューとは違って、毎日違うメニューにした上で皆さんに満足いただける内容にしないといけませんからね」

「そう思うなら、伊良湖ちゃんももう少し発言して欲しいわ。なんだか私ばっかりケチをつけているようで、最近食堂の皆に怖がられているような気がするの」

 

先程の打ち合わせで、指摘される度にだんだん凍り付いていく料理長の表情を思い出し、ため息をつく間宮。

いや、別にそれだけが原因じゃないと思うぞ、艦娘に説教とか良くしてるし。

 

「ごめんなさい、間宮さん……間宮さんが居ると思うと、どうしても頼ってしまって。もう少し、伊良湖も頑張らないといけないですね」

「じゃあ、伊良湖ちゃんには次の打ち合わせには一人で参加してもらおうかしら?」

「ええっ!? いきなり、そんな……」

 

いきなり孤立無援となることを恐れ、伊良湖が慌てて首を振り出す。

その様子をみてこっそりため息をつく間宮、この様子ではまだ独り立ちは無理か。

甘味処とバーの並行運営はなかなか大変なので、もう少し任せられれば楽になるのに。

 

「冗談よ、伊良湖ちゃん。さっきも言った通り、一つのメニューも見落としは許されないもの。伊良湖ちゃんには打ち合わせでもっと発言して貰って、その上でかしら?」

「分かりました、伊良湖ももっと頑張ります!」

 

間宮の訂正に気合を入れなおす伊良湖。

 

「それより先に甘味処の閉店か、バーの開店の方を伊良湖ちゃんには任せたいわ」

「艦娘の方から、バーの開店を早められないかって要望もありましたからね。分かりました、それについては伊良湖、どちらか受け持ちます!」

 

 

 

そんな会話をしているうちに、保健室の近くを通る間宮たち。

 

「あ、そう言えば大神さんの健康状態について確認しておかないといけないわね。食事の内容とかどうする予定なのか、明石さんに聞いておかないと」

 

間宮がそう言って部屋の中に入ろうとすると、

 

「だから、昔、料理コンテストでポイズンクッキングをして自爆した経歴のある金剛さんに、大神くんには任せられません! 大神くんの容態が悪化しちゃいます!」

「それは……比叡が居たからデース! 私と榛名ならそんなことはありまセーン!! 鹿島こそ、おしゃれ料理は得意みたいですけど、今の隊長に食べさせられるものを作れるのデスカー?」

「うっ!」

「ほれ見ろデース。ここは私たちに任せるのデース! ね、榛名~」

「はい、榛名なら大丈夫です!」

 

最大の敵の弱点を突き、除外できそうな雰囲気に持っていけそうになり勢いづく金剛と榛名。

 

「ふはは、隊長に必要な食事だと、そんなの決まっている! 体を形作るもの、肉だ!!」

「はい、武蔵さんは失格ですねー」

「何故だ!?」

 

その間に失言して、明石に除外される武蔵。

危なかったな、大神。

 

「…………」

 

鹿島は俯きながら肩を震わせている。

いや、病人に対する食事を作れない大半の艦娘が、どうしようかと顔を見合わせている。

逆に作れる翔鶴や如月、夕雲などはライバルが消えることとなるこの展開に一安心していた。

 

しかし、鹿島は転んでもタダでは起きなかった。

 

「それを言うなら、そちらだって、いえ、みなさん、大神くんの栄養管理をしながら間宮さん並みの料理が作れると言うんですか!? 病人食だからといって、味気ないものしか食べられないのは大神くんが可愛そうです!!」

「「「うっ!!」」」

 

鹿島の思わぬ言葉のカウンターに、病人食が作れることで一安心していた全艦娘が押し黙る。

間宮並の食事を作れ、それだけでも至難の業だと言うのに、病人食でだなんてそんなの誰にだって無理だ。

いや、正しくは一人、加えてもう一人を除いて無理だ。

 

「ほら、誰も出来ないじゃないですか!! それなら――」

「私なら出来るわよ」

「私も間宮さんほどではありませんが、一応……」

 

更に言葉を続けようとする鹿島を遮る声。

 

「間宮さんに食事を作ってもらって、お世話は私が――って誰ですか!? そんな、間宮さんに喧嘩を売るような――って間宮さんに伊良湖ちゃん…………」

 

誰だと振り向いた鹿島の目の前には、誰あろう間宮本人たちが居た。

確かに給糧艦の二人なら出来るだろう。

しかも、間宮は若干怒り気味だ。

 

「貴方たち、大神さん本人を忘れてお世話役の争奪戦に明け暮れて……そんな暇があったら、大神さんのお世話をしなさい! 一番大変なのは身体の弱った大神さんなのよ!」

「「「はいっ!」」」

 

始まろうとする間宮のお説教に心から震え上がる艦娘たち。

食堂での大神争奪戦が行き過ぎる度に炸裂した説教が、ここでも繰り広げられるのか。

 

「それなら、間宮さんが大神くんのお世話をすればいいじゃないですか。でも、間宮さんは甘味処とかバーとか忙しくて無理でしょう?」

「そうデース。出来ないならあまり口出ししないで欲しいデース」

 

だが、テンションの上がっていた鹿島たちは間宮にも噛み付こうとする。

ところがどっこい、

 

「そうね。話の内容からすると、どちらにしても大神さんの食事を作るのは私になりそうだし。それなら大神さんのお世話についても、任せてもらったほうが早いわ。貴方たちが間に入るより、私と明石さんで直接相談しながら進められるから」

「え……」

 

思わぬ回答が間宮から飛び出て、鹿島たちは閉口する。

 

「そうですねー。私も間宮さん並みの料理を作れって言われたら無理ですし、間宮さんが大神さんのお世話をしていただけるなら、それが一番かもしれませんね」

 

更に明石のお墨付きまで出た。

このまま、とんとん拍子に話は決まってしまいそうだ。

先程まで舌戦を繰り広げていたのが嘘のように。

 

「いいのかい、間宮くん? 甘味処とか、バーとか運営しながらだと大変じゃないかい?」

「そうデース! 間宮、無茶をして今度は間宮が倒れたりしたら大変デース!」

「縮小運営しますよ、勿論。だって、大神さんの身体が第一ですもの。そんな心配に時間を割くより、大神さんは体を治す事に専念して下さい」

「「「…………」」」

 

とどめにあっさり大神を優先すると宣言する間宮。

そこまで言われてしまうと、艦娘たちは完全にぐうの音も出ない。

 

「明石さん、改めて大神さんの健康状態について教えてくれないかしら? 出来れば詳細まで」

「ええ、大神さんの部屋に移動しながらお話しますね。大神さん、それでよろしいですか?」

「ああ、俺も出来れば美味しい食事を食べたいからね。楽しみにさせてもらうよ、間宮くん、伊良湖くん」

「うふふ、お任せ下さい。大神さんの体調に関わらず、美味しい食事をお作りして召し上がっていただきますから」

「はい、伊良湖も頑張ります!」

 

そして大神たちは保健室を出て大神の部屋へと向かう。

 

 

 

「「「…………」」」

 

大神たちの居なくなった保健室。

そこには負け犬の群れだけが残されていた、吹き荒ぶ風が良く似合っている。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。