艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十一話 7 あなたならどうする

翌朝、間宮たちを伴って大神が食堂に現れた、約2週間ぶりに。

 

「あ、大神さん! 回復されたんですか!」

「隊長さん! もう食堂で食べられるの?」

「ご主人様! 漣をマ――いえ、なんでもないです……」

 

久しぶりに見る大神の姿に艦娘たちが歓声を上げる。

一部大神をからかおうとする動きもあったが、させないと伊良湖が眼光で黙らせた。

やっと、食事が元に戻る様になったのだ、また逆戻りされたらたまったものではない。

 

「みなさん、大神さんはもう少しで全快なんです。それまでは自重してくださいね」

 

完全に威圧感を身に纏わせて、伊良湖が艦娘たちを威嚇する。

逆に間宮は頬を朱に染め、どこかボーっとしている。

大神に連れ添って朝定食を持ち、伊良湖と共に大神の隣の席に座り、もぐもぐと朝食を取り始めた。

 

今の間宮は気の抜けてしまった風船のようだ。

 

まるで、説教するときの間宮の威圧感が伊良湖に移ってしまったようにすら思える。

 

「間宮くん、大丈夫かい?」

「はい……」

 

大神も少なからずそれを感じていたが、自分の看病で疲れさせたのかな、と考えていた。

 

ただ間宮の心中はそんなことはなく、大神の傍にいられる喜びに打ち震え、そして、襲い来る感情の波に戸惑っていた。

 

昨日の夜、『あなた』と呼んでみたその時から、大神の傍に居たいと思うようになった。

でも、それだけでは終わってくれなかったのだ。

今朝起きた時には更に進んで、大神の赤ちゃんが欲しいと思うようになっていた。

非常に不味いとは間宮自身が分かっている。

こんなことを考えるなんて、自分はどうにかしている。

そうなのに、その筈なのに、考えることを間宮は止められない。

 

身体の中から求め、間宮に囁きかけてくる声を止めることができない。

 

食事の味すら満足に感じることができない。

 

いや、味と思うだけで、赤ちゃんへのミルクを連想してしまう。

そして、赤ちゃんにおっぱいを上げている自分の姿を。

 

もう、どうにかなりそうで、でも、こんなこと他の艦娘には相談できない。

言えっこない、言えるわけがない。

 

言ったが最後、昨日までのように大神のお世話だってできなくなる。

昨日までのように大神の傍に居られなくなる、大神が笑いかけてくれなくなる。

 

そう考えるだけで恐ろしくなる。

 

大神に変な艦娘と、怖い艦娘と思われたら、今の間宮はそれだけで死んでしまうだろう。

 

「テレビでもつけようか?」

「はい……」

 

そんな思考に飲み込まれてしまいそうな、一見、注意力散漫に見える間宮の気が向くかと、大神は情報番組、ニュースを流そうとテレビのスイッチをつける。

 

しかし、そのテレビに映っていた――赤ちゃんの様子を見て、大神が、

 

「間宮くん、可愛いね」

 

と呟いたことが間宮のなけなしの理性にとどめを刺した。

間宮は、昨晩想像した大神の傍で微笑む自分の姿から更に一歩進んだ、自分が赤ちゃんを抱いて大神と連れ添う姿を想像した。

してしまった。

 

そして、間宮は身体の中から囁きかけてくる声に負けた。

 

『汝の為したい様に為すがいい』

 

 

 

「ええ、そうですね。『あなた』」

 

身体の中から囁きかけてくる声に応えるように、大神に答える間宮。

そこには、やっと大神に『あなた』と言葉に出せた喜びが溢れていた。

見ようによっては慈愛に満ちた表情のようにも見える。

 

だけど、当然食堂は凍りついた。

 

「ま、まま、間宮―!? 『あなた』って、いきなり、何を言い出すネー!!??」

「『あなた』ってどういうことなんです!? まさか、大神くん!?」

「私というものがありながら、間宮さんに『あなた』って呼ばせるって、どういうことなの!? 隊長さん!!」

「大神さんは年上に弱いのかな……ううう、どうやったら戦艦になれるのかな……」

「あー、秋雲さん。それ私の台詞―」

「ち、違う! 誤解だ!!」

「誤解も六階もないデース!!」

 

艦娘たちが大神のもとに殺到する。

大神の言う通り勿論誤解なのだが、言葉にしたのは、『あの』間宮である。

とどめに伊良湖が、

 

「やっぱり初日に間宮さんを押し倒してたのは誤解じゃなかったんですね……大神さん。お母さん、お二人の邪魔をしてしまったんですね! ごめんなさい、今日からは二人っきりにしてあげます!!」

 

なんて言ったものだから、収拾がつかない。

 

「間宮を押し倒したって、隊長、どういうことデスカー!」

 

伊良湖に悪気はもちろんないのだが、この場でその発言は、大神に証拠を「くらえ!!」とつきつけたようなものだ。

 

ますます大神への視線が厳しくなる。

 

と、大神に厳しい視線を向けていた明石は、隣の間宮が全く発言していない事に気が付いた。

本当のことなら肯定するはずだし、違うなら否定するはずである。

それに、顔が赤く、頭も揺れている――これって、もしかして――

 

「間宮さん?」

 

明石が呼びかけるが間宮の返事はない。

その代り間宮の身体は力を失い、大神にもたれかかった。

その身体は熱かった、一週間前の大神のように。

 

「間宮くん? すごい熱じゃないか!? 明石くん!」

「はい、大神さん! 間宮さん、本当に熱、高いじゃないですか!? 保健室に連れて行きますよ!」

 

額に手を触れるだけで、明らかに高いと分かる、明らかに普通の体温ではない。

 

「……大丈夫ですよ、今日もあなたのお世話をしないと……」

「そんなこと言っている場合じゃない! 今重症なのは君の方だ、間宮くん!!」

 

そう言うと、大神は間宮を横抱きにして抱える。

正直、2週間近く運動をしていなかった腕に艦娘一人は若干厳しいものがあったが、迷ってる場合じゃない。

明石とともに、保健室へと向かうのだった。

 

大神を吊るし上げようとしていた艦娘たちも、その真剣な様子に、間宮の状態がただ事ではないと理解したらしい。

伊良湖を筆頭に間宮たちの後を追うのだった。

 

 

 

そして、しばらくの後――

 

「炎症反応はなし、他の症状を見ても器質的疾患ではなさそう……と。熱も落ち着いてきましたね。うーん、知恵熱ですかねー」

「知恵熱? 間宮くん、もしかして、そんなに俺の看病が負担だったのかい? そうとは知らずに、10日間もすまなかった! 間宮くん!!」

 

知らず間宮たちの存在に甘えてしまっていたかもしれない、熱を出した時など。

そう思い、保健室のベッドで休む間宮に、大神は頭を下げる。

 

「ち、違います! そんな風に謝らないで下さい、大神さん! 大神さんのお世話は負担じゃありませんでした!!」

 

だが、間宮にとっては謝られても困る。

 

「じゃあ、どうして知恵熱を?」

「そ、それは――」

 

答えあぐねる間宮。

知恵熱といわれて、間宮自身の中ではなんとなく答えは出ている。

お世話役の終わりの寂しさや、伊良湖への羨望、そして気付いたばかりの自分の気持ちなどがグチャグチャに混ざってしまって、整理できなくなってしまったのだろうと。

それが暴走してできたものが、今朝の突拍子もない考えだったり、熱なのだろうと。

 

でも、それを一から十まで話したら、それは大神への告白と同義だ。

こんな、明石に見られ、恐らく他の艦娘が聞き耳を立てている状況で話せるわけがない。

 

「はい、大神さん。そこまでです。知恵熱の原因はプライベートにもかかわりますので、

これ以上問い詰めるのはなしですよ」

 

なんとなく察したのか、明石がストップをかける。

 

「ああ、そうだね。間宮くん、すまなかった。今日は1日ゆっくり休んでいてくれ」

「でも――」

「でもじゃない、今は間宮くんの方が重病人なんだから」

 

それでもとベッドを出ようとする間宮の肩を掴んで、寝かしつける大神。

 

「分かりました、今日は休ませていただきますね。大神さんも無理はしないで下さい」

「ああ、じゃあ俺は自室で休んでいればいいのかな? 明石くん、運動は――」

「間宮さんを抱きかかえてここまで来た時点で、十分過ぎます! 午前中は無理をしないで休んでください」

「分かった」

 

そうして、大神は伊良湖とともに自室に戻っていった。

艦娘たちも解散したのか、保健室には明石と間宮の二人が残される。

 

「で、本当のところを教えてもらいますよ、間宮さん。プライバシーは守りますので」

「え――」

 

逃げることはできなさそうだった。




内面で大暴走

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