「あいたたたたた……」
「もう……大神さん、間宮さんにえっちな視線を向けるからですよ。大神さんが年頃なのは分かりますけど、あんまりえっちなのは伊良湖ママ、『めっ!』ですからね」
「伊良湖くん、頼むからそれはもう勘弁してくれないか~」
既に酷い目にあったのか、『ママ』と言う言葉に過剰に反応する大神。
だが身体があちこちつっている状態で、更に震わせようとすると新たにつった箇所が発生する。
ここは我慢の一途だと、身体の反応を堪える大神。
その反応を見てくすくす笑いながら、丁寧に大神の身体を揉み解していく伊良湖。
「はい、分かりました。大神さん、他につっている場所はありますか?」
プールサイドに上がって、腕やふくらはぎなどつった箇所のマッサージを伊良湖に受ける大神。
その甲斐もあって大神の身体は徐々に解れていく。
あとは胸とか腹部など身体の一部前面が残るのみなのだが、流石にその箇所を女性にマッサージされるのは恥ずかしい。
「いや、もう良いよ、伊良湖くん。あとは自分の手で揉み解せる箇所だし」
「ダメですっ! 大神さんの身体カチコチでしたから、もし自分でやろうとしてもまた腕がつってしまいますよ?」
「そうですよ、大神さん。ここまできたら全部伊良湖ちゃんに任せてあげて下さい」
明石と伊良湖。
二人の言葉に少し躊躇う大神だったが、やがて諦めたかのように息を一つ吐く。
「……分かった、伊良湖くん、明石くん。流石に恥ずかしいんだけど、こうなったら全部お任せするよ。あとは胸とかお腹になるんだけど」
そう言って大神はうつぶせの状態からひっくり返って仰向けになる。
「お胸とお腹ですね。では、失礼しますね、大神さん」
そう言って伊良湖は手に力を入れやすい体勢として、大神の腰にまたがる事を選択した。
そして、大神のお腹の筋肉を丁寧に揉み解していく。
「……んっ、んっ。よいしょ、よいしょ」
だが、その手が脇腹の方に近づくと流石にくすぐったいのか体が僅かによじれる。
「い、伊良湖くん、ちょ、ちょっとくすぐったいかな」
「ごめんなさい。大神さん、少し我慢してもらえますか、すぐに終わりますから」
だが、考えて欲しい。
(……あれ? この体勢って、もしかして――)
仰向けになった男性の腰にまたがる女性。
その体位のことを世間一般ではなんと言うだろうか。
「あれ? なんか――、大神さんと伊良湖ちゃんの体位、えっちくない?」
「騎○位?」
鈴谷など、一部の耳年増な艦娘たちもそのことに気付く。
流石に駆逐艦は気付かないものが多いようだが。
その呟きを耳に入れ、遅まきながら自分の体勢にようやく気づき、伊良湖が顔を赤らめる。
(ど、どうしよう。伊良湖は大神さんのママなのに、お母さんなのにっ)
「伊良湖くん?」
腹部のマッサージを終えたまま、手が動かなくなった伊良湖の様子を訝しんで大神が顔を上げる。
そして、その視線は伊良湖の視線と絡み合った。
(あ、大神さんが、見てる。大神さんに見つめられてる……)
思考がストップして完全に固まった伊良湖。
やがて、
「どうしたんだい、伊良湖く――」
「ダメですっ、大神さん! 伊良湖は大神さんのママなんですから! お母さんなんですから! ママをそんなえっちな目で見ちゃダメなんです、大神さん!!」
「――へ?」
伊良湖に思いも寄らぬことを言われ、唖然とする大神。
目をぐるぐるさせながら更にまくし立てようとする伊良湖。
「あぁ……でも、大神さんに望まれたら伊良湖は、伊良湖は……。こんなこと、こんなこと考えちゃいけないのにっ、伊良湖は大神さんのママなのにっ!?」
「違うわよ、伊良湖ちゃん」
そんな混乱する伊良湖の肩に間宮が手を置き宥める。
「伊良湖ちゃんは艦娘なの。大神さんのママじゃないの」
「でも、伊良湖は――大神さんの、お母さんで……」
「ううん、何よりも先に伊良湖ちゃんは、一人の女の子なの」
「でも、だとしたら――」
伊良湖は、大神の看病中、大神にしてきたことを一つずつ思い出していく。
大神の母親になったつもりで、大神に甘えて欲しいと大神の身の回りの世話を一生懸命した。
いろいろなことをした。
着替えを手伝ったり、
膝枕をして耳かきをしたり、
その寝顔を幸せそうに見たり、
熱を測るため額に手を、いや額を当てたり、
間違っても女の子が何の関係もない男にすることではない。
それが全部、一人の女の子が家族でない一人の男にすることだとしたら――
――傍から見れば、その二人は恋人以外の何者でもないだろう。
「!!!!????」
ようやくそのことに気付いて、伊良湖は頬を、否、全身を紅に染める。
この10日間、自分がやってきたことの一つ一つが羞恥となって伊良湖を苛んでいく。
「伊良湖くん?」
恥ずかしくて、あまりにも恥ずかしくて大神の顔をまともに見れない。
そして、さっきまで気付かないようにしていた、伊良湖のおしりにずっと当たっていた異物の感触を思い出してしまった。
もう、止められなかった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
伊良湖は大神から飛び退くと、プールサイドを一目散に駆け出していく。
そして、プールの外に飛び出そうとする。
しかし――、
「キャッ!」
「おっと、大丈夫か? 艦娘のお嬢ちゃん?」
脇目も振らずに走っていたので、外からプールの中に入ろうとしていた人物と伊良湖はぶつかってしまう。
倒れそうになる伊良湖の手を引き、伊良湖のバランスを支えるその人物は、
「米田閣下!?」
そう、かつての華撃団司令、現在は陸軍大臣である米田であった。
素早く身を起こして米田に向き直る大神。
一方艦娘たちは、予想外の男性の出現に手で自らの水着姿を隠そうとする。
自分たちをそのような目で見るはずのない男性と分かっていても、大神以外の男性に見られたくはないらしい。
「ったくよ、リハビリと聞いていたのに艦娘侍らせて何やっているんだ、おめぇは」
「いや、それは……」
若干呆れた視線を大神に向ける米田。
大神も伊良湖のマッサージが終わった後は、プールで艦娘たちと遊ぶと応えているだけに答えの歯切れが悪い。
「まあいい。プールでの運動をしているということは、回復は順調ということで良いんだな?」
「はい、明石くん――」
「分かりました、大神さん。米田閣下、大神さんの狙撃による傷、炎症自体は回復しています。あとは、徐々に運動に慣らしていけば問題ありません」
自分が直接答えるより、医師役の報告の方が良いだろう。
そう考えた大神は隣の明石を促した。
「そうか、報告どおりだな、なら問題はないな。閣議での決定事項を告げる」
「――閣議ですか?」
「ああ、お前は軍から独立した立場だから、軍では決められないからな。お前が療養を終え復帰の為のリハビリを始めたと報告を受けて、大元帥閣下を交えての閣議の上決定した」
その言葉に大神の体が緊張に彩られる、一体何が決定したのだろうか。
「大神一郎大佐!」
「はっ!」
「仏をはじめとする欧州連合からの要請に応え、我が国は欧州の地中海奪還作戦の応援として貴官の派遣を決定した! 出発は二週間後! それまでに体調を整え出発の準備をせよ!!」
「「「ええっ!?」」」
事態は急を告げる。
なお、言うまでもないが、依然として懲罰房に入れられている赤城や加賀たちは、このプールでの一件に関しても、全く関わる事は出来なかった。
大神に見せる為の水着を購入することも、大神に水着姿を見せ付けることも当然出来なかった。
赤城や加賀の起伏に富んだ身体のラインも、
蒼龍のふくよかなおっぱいも、
飛龍の魅力的な肢体も、
利根の幼げな身体も、
また筑摩の腰のラインも、
全て懲罰房の中にいる限り、水着を着ない限り、輝くことはない。
食事を運んできた瑞鶴に、実に楽しげに微に入り細に渡りプールでの出来事を語られ、夏コミの逆襲とばかりにNDKをまたもやされて、流石の加賀もおいおいと泣くのであった。
かわいそうだけど残念ながらそれも罰です。
残り一週間、大人しく受けていなさい。
まあ、懲罰房から出る頃には、もう大神とプールに入ることは出来ないけどね。
来年まで待ちましょう。
「……流石に気分がドドメ色です」
一応、大神の出発を見送れるだけマシと思いなさい。
でも、瑞鶴。
君も一歩間違ってれば、大神を死の淵に追いやったことで懲罰ものだったんだから。
もし万が一大神を救えなかったら、加賀たちの比じゃない懲罰受けてたかもしれないんだから、少しは手加減しなさい。
伊良湖ちゃん夢から目覚める。
伊良湖に馬乗りになられて、下腹部のマッサージを受けて、とある一部に血液が集中する大神さんとか、
伊良湖がそれをいろんな意味で感じて真っ赤になる、
というのも一瞬考えたのですが、大神さんにやらせていいえっちな反応の枠を超えるのでボツ。
大神さんはえっちではあってもエロではありませんから(個人的見解)
薄い本ネタかましたくせに何を今更とか言わないでw