後悔はしていない、反省もしていない。
お風呂場を出て行った大神だったが、すぐに困ったことに気づいた。
自分自身が濡れ鼠のままだったのだ。
「参ったな。結局シャワーを浴びれずじまいだ」
とは言う物の、神通たちが残っているお風呂場に戻ってシャワーを使うというのは流石に気まずい。
神通たちがお風呂場から出て行くのを待ち伏せするのも、お風呂場の中に踏み込んださっきの今では難しいだろう。
彼女たちが出て行くのを待ってお風呂場に侵入するって、まるで変態じみているではないか。
「とはいえ、このまま放っておいたら風邪を引いてしまうな。せめてタオルで拭って、着替えだけしてくるか」
そうと決まれば、善は急げだ。
一旦自室に戻って――
「大神さん」
「明石くん、どうしたんだい。訓練はしなくても良いのかい?」
もう聞き慣れた彼を呼ぶ声、振り替えると白衣を羽織った明石がいた。
水に濡れた様子もない、訓練はせずに戻ってきたようだ。
「大神さんこそ。お風呂に入りにいったんじゃないんですか?」
「あー、えっと、それは……」
答えるのに一瞬躊躇する大神。
いくらなんでも神通たちがいたお風呂場に入ってましたと言うわけにもいかない。
「なんてね、分かってますよ」
「え?」
まさか見られていたのだろうか、と大神は戦慄する。
いや、そんな事はないはずだ。
「神通さんたちが先に入っていたから、使えなかったんでしょ」
「そっちのことか……」
「そっち? なんのことですか?」
「いや、なんでもないよ」
どうやら見られていたわけではないらしい。
大神は安堵の声を漏らす。
「? まあいいや。そんなお風呂が使えなくて困っている大神さんを、シャワー室に案内しちゃいますねっ」
「シャワー室? シャワー室はここだけじゃないのかい?」
自室についていないわけだし、集合なのではないのだろうか。
「ふふーん、実はですね。工廠にもあるんですよ、シャワー室!」
自慢げに胸を反らせる明石。胸がプルンと強調され大きく見えた。
「じゃーん、ここが明石の秘密のシャワー室です!」
「こんなところに……」
明石が案内した場所は、今朝方入った工廠の脇にあった。
知っていなければ、早々分かるものではないだろう。
「工廠で改修作業していると暑くってー、汗かいちゃうから」
「なるほどね、でも使ってもいいのかい? 今まで明石くん以外が使っていない、専用と云ってもいい場所だったんだろう?」
女の子専用のシャワー室に男が入っていいものだろうかと、大神は明石に尋ねる。
現在人が入っていないとは言え、何かヤなものを感じはしないのだろうか。
「今まではほとんど私専用だったんですけど、最近それが逆に重荷になっちゃいまして。大神さんも使ってくれれば」
「まあ、明石くんがいいのであればありがたく使わせて貰うよ」
問題ないのであれば、早いところシャワーを浴びたいことには変わりない。
大神は更衣室で服を脱ぐと、シャワーを浴び始めるのであった。
「ふう、海水がベトベトし始めていたからな、生き返る……」
それは人一人用の小さなシャワールーム。
浴槽もなく、洗面台と物見の鏡があるだけ。
洗面台にはかわいらしい絵柄のシャンプー・ボディソープなどが置かれていたが、明石と同じ芳香を体からさせていたら何を云われるか分かったものではない。
女所帯で生活していた頃の悲しき教訓に則って、大神は石鹸を手の中で軽く泡立てる。
と、そこへ、
「大神さん、お背中流しますねー」
「いいっ!? 何で入ってくるんだい、明石くん!?」
明石が更衣室から入ってきた。
振り向こうとしたが、もし明石が裸だったらと考えると、振り向くわけにはいかない。
大神はシャワーの方に慌てて向き直した。
腰にはハンドタオルを巻いているから、最悪見られても大丈夫だろう。
こちらを向いてこないことに気をよくした明石は、大神の元へとヒタヒタと歩いてくる。
「うっわー。大神さん、お背中、おっきいですね~。私たちとは違うな~」
「ちょっ、明石くん!」
遠慮なく明石は、大神の背中をペタペタと触る。
こんな小さなシャワー室に男女二人で居て、恥ずかしくないのだろうか。
「指で文字書いちゃっても良いですか? えーっとぉ……」
「こらっ、明石くん! あ、しまっ――」
背中を指でなぞられてビクンと身を震わせると、大神は我慢の限界だと明石に振り向く。
だが、明石が裸だったら非常にまずい。慌てて目を手でふさごうとする。
しかし――
「あははっ、大神さん。流石に裸な訳ないじゃないですかー」
「いやっ! エプロン一枚って、その格好も非常にどうかと思うよ!?」
明石の格好はエプロン一枚だった。
確かに重要な箇所は、エプロン一枚でほとんど隠れてしまってはいる。
だが、どうして、裸にエプロン一枚だとこうもエロティックなのだろうか。
大神の頭には血が上り、クラクラし始めた。
「違いますよー、裸にエプロンじゃなくて、水着にエプロンですっ、ほらっ」
「うわあっ! エプロンを翻さないでくれって!」
ステップを踏んで翻るエプロンから、明石のビキニの水着がチラチラ見えて実にエロい。
大神も背けようとする視線の片隅で、明石の水着エプロン姿を見てしまう。
「ふふっ、大神さん♪ ――きゃっ!」
そんな大神の様子にご満悦なのか、調子に乗って更にエプロンを翻す明石だったが、やがて、水で足が滑ってしまう。
「明石くん!?」
こちらに倒れこむ明石を抱き止める大神。
明石は大神の胸の中にすっぽりと納まる。
「……」
「……」
互いに動きは止まったまま、シャワーの流れる音のみがシャワー室に鳴り響く。
「……」
「……」
明石のふくよかな胸が大神の胸板で潰れている。
互いの動悸が伝わりそうだ。
「……大神さん、胸板も本当に大きいんですね…………」
やがて、腕の中の明石の潤んだ瞳が大神を見上げる。
見返した大神の瞳の中に自分がいる。自分しかいない。
そう思うと、明石の思考は真っ白に染まっていく。
「大神さん……」
「!?」
呟き、明石はゆっくりと目を閉じる。
「……」
「……」
「大神さーん、どちらですか?」
「「!?」」
外から聞こえる声に慌てて二人はその身を離す。
が、明石はそのままペタリとシャワー室の床に座り込んでしまう。
「ど、どうしたんだい?」
「いえ、私、こ、腰が抜けちゃいまして……」
「分かった、ここは俺が出て行くよ」
そう言うと、大神はシャワー室から出て行った。
「……」
シャワーも止まり、雫が落ちる音だけがシャワー室に鳴り響く。
やがて明石は、虚ろ気に唇を指でなぞる。
動悸はしばらく治まりそうになかった。
危ない危ない、もう少しでやりすぎるところでした。
それもこれも水着エプロン明石が可愛すぎるのが(ry
あと天龍が想像以上に大きかったのですが、気にしないことにいたしました。
着痩せするんですよ、きっと。