艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十二話 13 龍飛鳳翔

ドイツ海軍の了解も、グラン・マの承認も取った。

ビスマルクを始め、全艦の戦意も漲っている。

そして深海棲艦は、ドイツの艦娘たちが撤退してきた方角を戻れば容易に捕捉出来るであろう。

 

ならば、気を付けなければならないことはあと一つ。

敵潜水艦の有無についてだ、大神はビスマルクとグラーフに問いかける。

 

「ビスマルクくん、グラーフくん、敵に潜水艦は居たかい?」

「いいえ、私を取り囲んでいた中には存在しなかったわ」

「ああ、こちらの追っ手にも潜水艦は居なかった」

 

二人の回答に大神は大きく頷く。

 

「分かった、ならば戦いは水上艦隊の決戦となる。俺たちは高速統一された艦隊で相手の陣形を撹乱しながら戦うぞ! だからゆーくんは――」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

大神の宣言に鳳翔が口を挟む、どうしたというのだろうか。

 

「言いにくいのですが、大神さん。私は高速では航行できないことお忘れではないですか?」

 

この良い雰囲気に水をさすことを躊躇ってか、鳳翔の口調はつたない。

だが、事実ではある筈――なのだが、大神は鳳翔の言葉にも大きく首を横に振って答える。

 

「大丈夫だよ、鳳翔くん。ドイツのみんなのことで気が逸っていて、気が付いてないのかもしれないけど、君はダンケルクからここまで川内くんに遅れを取ることなく辿り着けた」

「あ……そうですね。確かに言われてみれば」

「つまり、君は既に補正で高速航行出来るようになっているという事なんだ、だから大丈夫!!」

 

鳳翔の両肩を掴み、その瞳を見つめて断言する大神。

鳳翔も僅かに頬を赤らめるが、やがて力強く頷く。

 

「はい……分かりました。大神さんがそう言われるのなら、私もやれるだけやるのです!」

「よし。みんな、他に質問はあるかい?」

 

異論は特に出てこない。

ビスマルクが拗ねたような表情をしているが、それはどうも違う要因の様だ。

 

「なければ話を続けるよ。水上戦になるから低速のゆーくんは潜行して退避していてくれ」

「分かった、ゆーは潜ってる」

「残りの艦は全部俺の直接指揮下に入ってほしい。戦闘中も随時指示するから音声チャンネルを合わせてくれ」

「ちょ、ちょっと待って!? イチロー、貴方、接近戦を行いながら私たちに砲撃の指示する余裕なんてあるの? そんなの人間業じゃ――」

「ふふっ、ビスマルクさん、その表情は大神さんのこと信じてないの? 大神さん通としては、まだまだだねっ」

 

当然の疑問を口にするビスマルクだったが、有明鎮守府においてはもう既に常識。

大神に惹かれているのがバレバレなのに、信じられないだなんて信じられないと川内は煽る。

 

「そ、そんな事はないわっ! イチローがやれるっていうのならやるわよ! みんなも!!」

 

リーダーのビスマルクがそう言うのならばと、複雑そうな表情をしながらも頷くプリンツたち。

 

「え……ええ?」

 

ただ一人マックスだけは見るからに怪訝そうな顔をしていた。

 

 

 

そうしている内に川内が放っていた水偵部隊より敵艦隊及び航空部隊発見の報が入る。

どうやら向こうもこちらの艦隊が合流したことに勘付いたようだ、小出しの追撃ではなく全航空戦力を以って仕掛けようとしている。

 

「不味いな、私の艦載機は損耗している。アドミラル、鳳翔と合流して二艦となったとは言え、制空劣勢を強いられるかもしれない」

 

グラーフの呟きに、大神が鳳翔を見つめる。

 

「鳳翔くん、君は単独で霊力技の使用はまだ――」

「ごめんなさい、先程まで自分の速力が上がっていることにも気づけなかったので……」

「……分かった。鳳翔くん、グラーフくん! 航空戦力の発艦を! 敵の数が多いから『風』は危険だ、作戦は『林』でいくぞ!!」

「「了解!!」」

 

鳳翔と川内が大神に答えると、作戦『林』が発動し、艦娘の全ての力が底上げされる。

更に湧き上がる力に混乱するビスマルクたち。

 

「これは!?」

「グラーフくん、大丈夫だ! 俺を信じてくれ!!」

「……分かった! アドミラル、詳しい話は後で聞こう! 全艦載機、発艦始め!!」

 

いつもと全く違う手ごたえにグラーフも驚くが、大神が肩に手を置くと落ち着いたのか艦載機を発艦させていく。

 

「風向き、よし! 航空部隊、発艦!!」

 

続いて鳳翔も航空部隊を発艦させる。

だが、敵の艦載機の数も多い、制空劣勢とまでは行かないが、この様相では制空互角か。

 

「すまない、制空優勢までは取れなかった、敵機の爆撃に注意してくれ!」

「ごめんなさい、赤城さんたちのように霊力技が使えていれば優勢を取れていたのに……」

 

自らの無力を嘆く鳳翔。

そんな鳳翔を大神は正面から抱き締めた。

 

「いいや、まだだ! 鳳翔くん、君の霊力だけで足りないなら俺がリードする!!」

「でも、私は、艦載機は全て発艦させてしまって――」

「君が矢尽きたというのなら、俺が君の矢となり、刃となる!!」

「わたしは……」

 

そう言って大神は鳳翔の弓を、手を握る。

大神の思いが、伝わってくる。

心が熱くなってくる。

 

「だから、鳳翔くん! 君の力を、心を、俺に預けてくれ!!」

「隊長……はい!!」

 

鳳翔は思う、ああ、やっぱり自分はこの人が好きなのだと。

絶望に屈しない、希望を切り開くこの人を愛しているのだと。

 

大神と鳳翔は寄り添って弓を引き絞る、矢を番えずして。

 

「たいちょ――大神さん!!」

「ああ! 鳳翔くん、いくぞ!!」

 

そして姿なき矢を放った。

 

 

 

 

 

「こんにちは、ほうしょうおねえちゃん!」

 

お隣に引っ越してきた彼に初めて会ったとき、彼は未だ幼い子供でした。

可愛い子だな、それが私の彼への最初の印象。

 

留守が多い彼の両親の代わりに、私の両親は彼を遊びに良く来させていました。

でも私の両親は結構ずぼらで、彼の面倒は殆ど私の役目。

そんな私を彼は母親代わりのように思っていたのかもしれませんね。

 

 

「今日こんなことがあったんだ、鳳翔お姉ちゃん」

 

小学生になった彼は剣道をはじめ、賞を取るたびに私に報告しに来てくれました。

彼はやんちゃで、元気で、でも悪いことが許せない、正義感に溢れた子供でした。

時には年上でも目上の人でも譲らない、でも理不尽な力は振るわないそんな優しい子。

 

そんな彼が可愛くて、弟のように思えて私はつい甘やかしてしまいそうになってしまいます。

逆に甘やかさなくても良いよ、と笑いながら断る彼。

今思えば、もうこのときには私は……いいえ、なんでもありません。

 

 

「おはよう、鳳翔姉さん」

 

中学になって、刻一刻と成長していく彼は、どんどん背も伸びて、凛々しく、かっこよくなって、女の子が放っておかない様になって来ました。

彼の方から私の家に来ることも減って、寂しく思う日も増えてきました。

いつかは彼女も出来るのでしょうか、そう考えると胸が痛んでしまいます。

ええ、もうこの頃には自覚していました、彼が好きだって。

でも、私は彼より年上で、彼が振り向いてくれる筈ない。

そう自分に言い聞かせるのが精一杯でした。

 

 

そして、彼が高校に入学してしばらくして、士官学校の受験勉強に勤しむ彼に夜食を届ける私。

もう彼から私の家にやってくることは殆どない、だから、何かと理由をつけて彼の家に行く私。

そんなある日、一生懸命な彼に休んで欲しくて、彼の帰宅に合わせてこんなことを言ってみました。

 

「お疲れ様です。お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも……えっ?」

 

本当は続けて冗談と言うつもりでした。

だけど言う前に私は彼に抱き締められていました。

なんで、どうして、と疑問を口にする前に彼――大神さんが、

 

「鳳翔さんがいい」

 

と耳元で囁いた。

 

「でも、私は年上で、あなたには似合わな――」

 

嬉しい、それだけで涙がこぼれてしまう。

でも断らないとダメだ、大神さんの為にも。

なのに――

 

「鳳翔さんじゃなきゃダメなんだ。お姉ちゃんでも、姉さんでもない、一人の女性として貴方が好きなんだ」

 

と、大神さんは私のことを抱きしめて離さない。

ああ、もう大神さんから離れられない、自分にウソもつけない。

今こうして私を抱き締めている大神さんが好きなのだ。

 

「なら、ひとつだけ……一つだけお願い、私のこと――」

「ああ。好きだよ、鳳翔」

 

そうして私たちはキスをした。

 

『一昨日より昨日、昨日より今日、そして今』

 

 

 

 

 

そして放たれた姿なき矢は雷を纏い金色の龍が飛翔するかのように空を駆け巡る。

雷龍が全ての敵艦載機を片っ端から飲み込み、爪を振るい浄化していく。

艦載機の機銃も、爆撃、雷撃も龍には全く通用しない、龍の吐く雷に撃たれ消え去っていく。

 

しばらくして龍が消え去ったとき敵艦載機は全滅していた。

 

 

 

「おかしいでしょ! なんで、提督と鳳翔がキスしたら敵艦載機が全滅してるのよ!!」

 

まともに考えたらあまりにも理不尽な現象に、マックスがツッコミを入れていた。

でも考えたら負け、あきらめましょう。

 

ちなみにビスマルクは羨ましそうに大神たちを見ていた。




砂糖吐き殺すぞw

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