読み飛ばしたい方は後書きで超短略版を載せてます。
水着エプロン姿の明石をシャワー室に残し、更衣室で新しい装いに着替えた大神。
髪の毛の水気は拭いきれなかったが仕方がない。
全体的に後ろに流し、オールバックに近い髪型で外に出る。
「あ、大神さん。こちらでしたか」
自分を探していた人物、吹雪が工廠の入り口付近からこちらにやって来る。
訓練の後のためだろうか、ほほが軽く上気していた。
「吹雪くん、俺がここにいるってよく分かったね」
「はい。神通さんたちが、明石さんに連れていかれる大神さんを見たと言ってましたので」
神通たちに一部始終を見られていたのか、それなら納得だ。
「神通くんたちは何か言っていたかい?」
「いえ、特には。それで、天龍さんから連絡なんですけど、訓練は一段楽したので座学の方に移るそうです」
「実地訓練は終了か、結局吹雪くん以外の娘とはまともに連携できなかったな」
先の長さを予測して大神はため息を吐く。
「大丈夫ですよ、大神さん。明日もありますし、それに私がいるじゃないですか!」
「……そ、そうだね。吹雪くん、ありがとう」
後ろめたいところがあるわけではないのだが、吹雪の明るさが大神には妙に眩しい。
大神は一歩たじろいだ。
「それで、大神さんはこれからどうなさるのですか、よかったら……」
上目遣いで問いかける吹雪に、つい、分かったと答えそうになるが、グッとこらえる。
今日は早い段階でやってしまいたいことがあるのだ。
「俺は資料室で調べ物をする予定だよ」
「そうですか……」
残念そうに俯く吹雪。
しかし、実情を調べることは今の大神には必要だ。
なら、せめて――
「資料室までで良いならだけど、一緒に行くかい?」
「え、あ……はい!」
吹雪の笑顔を見て、これでいいのだと大神は思うのだった。
そして数分後大神は吹雪と別れ、資料室の中に居た。
昨日、司令部が負ったダメージは小さくなく、それは資料室においても同じこと。
壁にはひびが入り、窓ガラスは割れていた。
現在は雨水の進入を避けるためにビニールシートを窓にテープで固定しており、司令室の設備の修理後に手を入れる予定らしい。
「さて、何から調べたものか……」
軍組織・階級については、大神の知る海軍と大体一致していた。
「まずは敵らしき存在、深海棲艦からかな」
そうして、大神は資料を読み解いていく。
資料を片手に紙片にピックアップした内容を書き込み、関連したキーワードごとにメモを連ねていく。
ある程度まとまったら自分の手帳に纏まった内容を記載する。
気の長い作業を大神は続けていく。
そうこうする事、一刻か二刻。
大体の内容が纏まってきたらしい。
大神は帝国華撃団に着任し始めたときのことを思い出し、自らの常識を再度かなぐり捨て、自らに言い聞かせるように内容を読み上げ始めた。
「ええと――」
1、深海棲艦――
深海棲艦の発見日は詳しくは不明、発見者らしき人間が行方不明(恐らく深海棲艦に襲われ死亡)のため。
世界での海難事故の増加したタイミングをと考えるのであれば、○○○○年前後。
ごく初期でこそ海難事故の増加でしか被害がなかったが、世界のシーレーンがほぼ封鎖されていた。
「シーレーンが封鎖、そんなに状況は悪いのか」
シーレーンの封鎖により、エネルギー、食料面での問題が噴出。
通信により各国の連絡こそ途絶することなく行われているが、物資の海上輸送については絶望的な状態(艦娘登場以前)
一部の島国においては飢餓地獄に陥ったところもあり。
「飢餓……どれだけの人が犠牲に、くそっ!」
日本近海において発見された深海棲艦については伊呂波歌に基づいて命名・分類されている。
主だった攻撃手段より駆逐などの艦種も分類されているが、便宜上のものであり正確なものかは不明。
また、一部海域では、その他の鬼・姫と呼ばれるより強力な深海棲艦も存在している。
深海棲艦の被害を食い止められなかった理由。
それは深海棲艦に対し、通常兵器が一切通用しなかったため。
後述の艦娘による攻撃以外では深海棲艦に有効打を与えることは不可能。
よって人間が直接、深海棲艦に抗することは不可能。
「通用しない? 俺と神刀滅却は思いっきり通用したけど、俺だけか? 表沙汰になったら俺、人体実験ものか? 霊子技術は――」
手帳をめくって確認するが、霊子技術に関連するキーワードはない、霊子技術、抗魔技術、シルスウス鋼については発展していないようだ。
朝方見た、艦娘の装備を担当している妖精が霊的存在であったが、それ以外の技術はないらしい。
「霊的技術は存在しないと考えた方が良いか、だけど――」
この手に守るための力があるのに、自らの身を惜しんで、少女たちだけを戦地へ遣るなどありえない。
「次は――」
2、艦娘――
深海棲艦による被害が拡大する中、現れた存在。
初の艦娘の確認が日本で為された事もあり、『艦娘』は世界共通語となっている。
深海棲艦に対し、唯一抗することのできる存在(自分同様霊力を有している?)
第二次世界大戦において戦った艦船の名を持ち、記憶を有している。
同じ艦戦の名を持つ艦娘が、同時に二人以上居たことはない。
「えっと、第二次世界大戦って何だ? もしかして、歴史が違うのか?」
2.1、第二次世界大戦――
(※日本史と同じ内容につき長くなるので省略)
「アメリカか……新次郎は元気だろうか、といかんいかん、脱線した」
人間に似た姿をしており、独自の意思を持っているが、厳密には人間とは異なる存在。
だが、人間としての機能を持っているため、人間かつ兵器として扱われている。
「機能って何だ。彼女たちは恥ずかしがるし、笑う。それで十分じゃないか」
初期は海から上がった彼女たちを歓迎することで、陣容を増やしていったが、
建造により人間の手で生み出すことが可能になって以降、沈んでも、次を作ればいいと人扱いしない提督、司令官が続出し大問題となった(後述のブラック提督)
現在、建造によって艦娘を生み出す事は不可能(後述のブラックダウン)
世間一般としては彼女たちを英雄として扱っているが、一部提督には未だに人扱いしない者もいる。
「――っ!」
建造が機能せず、海から上がる艦娘も激減し艦娘の絶対数がほぼ増加しない今、劣勢を強いられている。
「深海棲艦から響くんたちが現れた件については――と」
深海棲艦を撃破して、艦娘となった例はなし。
2.2、ブラック提督――
艦娘を指揮する存在の中で外道に類する行動をとる人間のこと。ブラック司令官とも呼ぶ。
艦娘を人間として扱わず、兵器・消耗品として取り扱う提督、司令官のこと。以前は多数居た。
建造で生み出せることが拍車をかけていた。
「ふざけるな! 無為に失っていい命などない!!」
2.3、ブラックダウン――
ブラック提督の蔓延後のあるとき以降、世界中で建造による艦娘が一切生み出されなくなった事件。
理由は、沈められた艦娘たちの恨みだなど諸説あるが不明。
現在工廠は、艦娘の装備の開発・改修のみを行う場となっている。
……etc
「こんなものか」
ずいぶんと熱中していたらしい、日は西へと傾き始めていた。
どうやら昼食を食べ損ねてしまったようだ。
小腹がすいたなと大神が自覚すると、キュ~とお腹が鳴った。
「今からいっても何かあるとは思えないけど……」
資料を片付けたら、とりあえず食堂に行ってみようか。
そう考えながら、大神は机の上に広げた資料を片付け始めた。
結局、夕食の時間まで食事は食べれずじまいだった。
前回はやりすぎたかもしれない、やっぱり流石に反省。
背景の説明回になります。と言ってもよくある艦これ世界観になりますが。
16話も前振り使って世界説明にようやく移れたことにびっくりだ。
超短略版
・第二次大戦後のはなし
・海軍組織は戦前と変わらず
・艦娘以外で深海棲艦に有効打を与えられるのは大神だけ
・艦娘の建造:不可
・艦娘のドロップ:なし(大神:あり)
・艦娘のダブり:なし
・深海棲艦との戦い:劣勢
・ブラ鎮:以前蔓延。今もあり