艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十四話 3 目覚め――破滅へのカウントダウン

現在、作戦遂行中のパラオ泊地であるが、明石や夕張の姿はパラオにはなかった。

 

それは欧州の地中海奪還作戦で現れたアビスゲートの発動によって生じるエリア効果――深淵の、そして現れたより強力な敵存在――深淵拠点に対抗するための方策を陸海軍の技術部と協議するためである。

有明鎮守府の代表として、艦娘の代表として彼女達は東京における会合に出席している。

艦娘に一大事が起きない限り、この作戦中に彼女達がパラオに来る時間的余裕はないだろう。

 

 

 

その為、渾作戦の第二段階で救出した艦娘たちの面倒は、渾作戦の第一、第二段階に参加した軽巡や駆逐艦の仕事となっている。

今日の担当は時雨の番だ。

作戦における自分達の出番を既に終えた艦娘たち、特に落ち着きのない夕立や白露は自分もやると言い出していたが、騒がれては眠る艦娘たちの邪魔になりかねない。

流石に断って、朝食をとり終えた時雨は艦娘たちが眠る建物へと歩いていく。

 

空には雲ひとつない。

 

気温は流石に高くあるが、湿度のない風は程よく心地よい。

 

「うん、いい天気だね、風も心地よいし、少し風を通そうかな」

 

今日くらいはクーラーを切った方がいいかもしれないかな、そんな事を時雨は思う。

建物の部屋に入ると彼女たち4人の安らかな寝息が聞こえてくる。

まずは4人の寝顔を確認、うん、みんな心地よさそうに眠っている。

その様子を見た後で、分厚いカーテンを開けて薄手のカーテンだけにして、部屋の中に少し日光を取り入れるように調節。

窓を開け、部屋の中に風を取り入れる。

 

「うん……」

 

頬を風がくすぐることで一人の艦娘、緑色の髪の小柄な艦娘が身じろいだ。

 

「もしかして、目覚めが近いのかな?」

 

時雨は次に行う予定だった、顔周りを濡らしたタオルで拭いていく作業をやめて、身じろいだ艦娘の元へ近づいていく。

サラサラと吹き流れる風に前髪が揺れる、それがくすぐったいのかイヤイヤと少し顔を振る艦娘。

 

「ふふっ、可愛いかな」

 

そんな様子が妹のように見えて、時雨は穏やかに微笑みながら艦娘の髪の毛を掻き分ける。

しかし、頭を振った頭に時雨の指が少し当たる。

 

それが最後の決め手になったのか、彼女はゆっくりと――目を覚ました。

 

 

 

目覚めた彼女の視界に入ったのは、自分を微笑みながら見つめる三つ編みの少女だった。

彼女には艦としての記憶はある、だけど艦娘としての記憶は一切ない、だから――

 

「え……と、誰?」

 

恐る恐る三つ編みの少女――時雨へと問いかける。

時雨も彼女を怖がらせないように話しかける。

 

「ゴメンね、自己紹介するよ。僕は白露型駆逐艦の艦娘、時雨だよ」

 

自分の知っている艦の名前を聞いて、少し緊張が解ける少女。

 

「時雨……姉?」

 

首を傾げながら時雨に問いかける。

その様は小動物のようで愛らしい、クスリと微笑む時雨。

だが、少女にとっては時雨の機嫌を損ねてしまったのではないか、と気が気ではない。

 

「……あの、あたし……時雨姉に変な事……した?」

「ううん、大丈夫だよ。それで、君の名前は? 僕の姉妹艦なのかな?」

 

それで、ようやく少女は自己紹介をしていなかった事に気が付いた。

 

「ご、ごめんなさい……私は、あうっ」

 

慌てて身を起こそうとするが、身体に上手く力が入らない。

ベッドに付いた手が滑って、ゴンと音を立てて衝立に額をぶつけてしまう。

 

「……いたい」

「そんなに慌てなくていいよ、ゆっくり、ゆっくりでいいから」

 

時雨は少女を抱き起こし、上半身だけ起こした状態にさせる。

そして、身を起こすことで広がった少女の髪の毛を手櫛で整えていく。

深海の輸送ポッドから助けられた後、簡単に手入れはしたが、丹念なケアまでは行っていない。

だから、少女の緑色の髪の毛は若干ボサボサだ、それを時雨はゆっくりと時間をかけて梳いていく。

それが心地よくて、時雨の体温が暖かくて、少女は時雨の為すがままになる。

 

「……ありがと……時雨姉」

「どういたしまして、じゃあ、改めて聞くね。君の名前は?」

 

今度こそは失敗してなるものかと、気合を入れなおす少女。

 

「あたし……は、白露型駆逐艦の8番艦、改白露型の山風」

「なるほど。確か浦賀生まれだったよね? だから僕の事、時雨姉と呼んでくれるんだ」

「イヤ……だった?」

 

勝手に姉呼ばわりしてよかったのだろうかと、機嫌を損ねたりはしていないだろうかと、不安げな様子で、上目遣いで時雨の様子を伺う少女――山風。

 

「ううん、こんなに可愛い妹なら大歓迎だよ。これから宜しくね、山風」

 

山風を安心させるためか、そう言って時雨は山風の頭を優しく撫でる。

 

「うんっ!」

 

山風も時雨に満面の笑みで応えるのであった。

 

 

 

そんな会話をしているうちに、他の艦娘たちも目を覚ましたようだ。

時雨は流石に一人では対応しきれないと思って、夕立たちを呼んだ上で一人ずつ名前を確認していく。

 

「白露型駆逐艦五番艦の春雨です、はい」

 

そう自己紹介した春雨に、夕立と村雨が突撃して抱き締める。

 

「春雨~、久しぶりっぽい~。夕立だよ~!」

「はいはーい、村雨だよ! 春雨、元気そうで良かった!」

「あ……夕立姉さん! 村雨姉さん! またお会い出来て嬉しいです!!」

 

力任せに抱きつく姉が少々息苦しいが、それが自分がここに居る事の証に思える。

自分からも夕立と村雨を抱き締める春雨だった。

 

 

 

「陽炎型駆逐艦十五番艦、野分です」

「のわっちー! のわっちのわっちのわっち~!!」

 

名前を聞くや否や、野分に飛びつく舞風。

だけど、見覚えのない少女に突然飛びつかれて驚きを隠せない野分。

 

「だ、誰ですか? 貴方は!?」

「ひっどーい。あたし、舞風だよー」

「舞風……今度は絶対に助けますから!!」

 

かつての戦いでは助けられず見殺しにしてしまった舞風が目の前に居る。

思わず涙を浮かべると、野分は飛びつかれた舞風を逆に抱き締める。

 

「やだなー、助けられたのはのわっちの方だよ? しんみりした雰囲気は苦手だし、踊ろ?」

 

そう言って野分を立たせ踊ろうとする舞風。

 

「ちょ、ちょっと待ってください舞風!? 私、目覚めたばかりなんですよ?」

「大丈夫だよ、のわっち! あたしがリードしてあげるから! それ、ワン、ツー!」

 

 

 

「秋月型防空駆逐艦、秋月です」

 

そして、秋月が自己紹介を行う、今回救出できた艦娘はこれで全員となる。

それで山風は一つの事に気が付いた。

 

「あれ? 時雨姉、江風や海風姉は……居ないの?」

「うん、江風も海風も未だ見つけられていないんだ、ごめんね」

「ううんっ……気にしてないから……」

 

そうは言う山風だったが、表情には寂しさが隠しきれない。

 

「大丈夫、もう直ぐしたら隊長も戻ってきてくれるし、そうしたらきっとみんな助け出せるよ」

「……隊長? 隊長って誰?」

「ああ、隊長の説明をしていなかったね。隊長はね……」

 

時雨は大神の事を説明していく。

その壮絶なまでの戦果を耳にして、山風は大神のことを筋骨隆々とした鬼のような大男ではないかと想像する。

大神の前に一人で立ったら取って食われそうな気すらする。

 

「男の人なの? あたし、少し、怖い……」

「大丈夫だよ、隊長は優しい人だから。でも、もし心配なら僕が付き添ってあげるよ」

 

時雨の言葉にほっと一息つく山風。

 

「ホント? じゃあ……日本に戻ったら、会うね。あの、時雨姉……」

「なに?」

「そのとき、手を離さないでね……一人にしないでね」

 

 

 

 

 

会話を交わす彼女達、そんな中カチリと彼女達の、山風たちの中で何かが起動し始めた。

破滅へのカウントダウンを刻む何かが。




山風は可愛い、可愛く書かなくてはならない。
そして守護らねばならない。

でも、いじめてもいいよね?w


本当はここでオリキャラをもう一人投入予定でした。
投入理由は言わなくても言うに及ばず。

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