『カンムスバクダンニ、シタテアゲタ、カンムスヲ……コウゲキシテドウスル!!』
敵主管――空母水鬼のその声は、戦域に居る全ての艦娘に聞こえていた。
「艦娘が爆弾、だと……何を言っているのだ?」
呟く長門の声にも、空母水鬼は耳を傾けない。
『ダガ……カンムスバクダンニ、カイゾウシタシルシ……セナカノ、ホシノマークヲ、ミテルヨユウハ……ナイ!』
『ダカライッタノダ! カオニデモ、ツケテオケト!!』
空母水鬼はリ級flagshipと会話を続けるが、その会話内容に艦娘たちは顔を蒼褪めさせる。
つい先日、お風呂でした会話内容が、その後長門たちに行った報告内容が脳裏に思い出される。
『ねえ春雨、背中の星印の痕、なに?』
『え? 村雨姉さん、春雨の背中にそんなのあるの?』
『ホントだ、小さいけど星印っぽい~。春雨、痛くない?』
『うん、特に痛くはないけど……』
『あら、秋月の背中にも星印の痕あるわね』
『のわっちの背中にも……なんだろ、これ?』
『山風の背中にもあるわね』
「背中の星のマーク……だと…………まさか、まさか山風たちは!?」
震える声で空母水鬼に問い質す長門。
『ソウダ! オマエタチガ、スクッタトオモイコンダ……カンムスハ……タダノ、バクダンナンダヨ!!』
その答えは嘲笑だった。
爆弾を救い、爆弾の面倒を見て、爆弾と笑いあう艦娘を――時が来れば自分の命を奪う事になる爆弾に対し心を配る艦娘を、空母水鬼は心の底から嘲笑っていた。
「……そんな」
春雨が、力を失い水面にへたり込む。
野分や秋月はかろうじて立っているが、その顔面は蒼白だ。
山風に至っては気を失っている。
それは、パラオで戦う全ての艦娘にとっても同様の事だ。
目の前に深海棲艦がいると言うのに全身から絶望が染み出そうとしている。
このままでは――、
「戦意を失うな、みんな! AL/MIの二の轍は踏んではならない!!」
「だが、長門――」
「たとえ、山風たちが艦娘爆弾だったとしても、救う方法はあるはず! 爆弾を解除する方法はあるはず! それを敵主管から聞き出せばいい!!」
大神のように、そう言い切る長門の様子に、艦娘たちに闘志が戻る。
「全艦隊、全力で戦闘準備だ! 一刻も早く敵を殲滅し、山風たちを救う方法を聞きだすんだ!」
「「「了解!!」」」
「今度ばかりは時間との戦いだ、隊長のように一戦で撃滅するぞ!!」
「ハハハ……デキルモノナラ、ヤッテミルガイイ!」
そして、長門たちは正規空母 空母水鬼の率いる艦隊へと決戦を挑む。
大神との好感度補正を受けている長門たちに対し、敵はアビスゲートによる深淵のエリア効果を受けていないただの深海棲艦。
無論、その戦いそのものは長門たちの勝利に終わった。
「イイダロウ……」
だが、砲撃戦で勝利を収めてしまった為、空母水鬼との彼我の距離はあると言うのに、空母水鬼は沈もうとしている。
それでは意味がないのだ、空母水鬼から山風たちを救う方法を聞きださなければ。
そう思い、長門は全力で空母水鬼の元に駆け寄る。
「山風たちを救う術は、爆弾から開放する方法はあるんだろう! 言えっ!!」
長門は沈んでいこうとする空母水鬼を掴み、自白させようとする。
だが、空母水鬼は残された力で長門の手を払いのけると沈んでいく。
「ソンナスベハ、ナイ! セイゼイモガキ、ゼツボウスルガイイ!!」
「嘘を言うな! 嘘だと言えーっ!!」
もはや懇願に等しい長門の絶叫を聞き、満足げに嘲笑う空母水鬼。
「アハハハハーッ!!」
笑い声と共に空母水鬼は沈んでいく。
そして深海棲艦が沈み、蒼き海が広がっていく。
だが、深海棲艦に勝利したと言うのに艦娘全員の表情は暗い。
「長門さん、一体どうすれば――」
陽炎が長門に問いかける。
だが、長門にはもう思いつく方策などない。
戦うべき相手はもう居ないのだから、有明鎮守府に帰還して――
「そうだ、明石なら、有明鎮守府の設備で、明石に調査・施術させることが出来れば!!」
『長門よ、すまんがそれを許可する事は流石にできん』
長門の方策を永井司令官は、沈痛な表情で却下する。
「何故ですか!? 山風たちを助けたくないというのですか!?」
永井の言葉に激怒する長門。
だが――
『山風たちがいつ爆発するのか分からんのじゃ。有明鎮守府ならまだしも、帝國唯一の工作艦である明石をむやみに危険には晒せない』
「そんな……山風たちが爆発して死を迎えるのをただ待てと言うのですか!?」
『いや、陛下は未だ考えられて居る。早急にパラオから帰還すれば或いは――』
しかし、状況は艦娘たちのあらゆる手段を奪っていく、方策を考える時間さえ与えない。
「司令官! 長門さん! 大変です! パラオ泊地に敵深海棲艦の大艦隊が近づいているとの事です」
大淀が周辺哨戒網から入手した情報を持って、司令室に慌てて駆け込んでくる。
「大艦隊? 規模はどの程度じゃ?」
「敵主力艦隊に参列している鬼、姫クラスの戦艦、空母だけでも10隻以上! 総艦隊数は30艦隊に上ると想定されます!!」
「なんじゃと、敵の進行速度は?」
司令官の問いに大淀は資料を再確認して答える。
「それが変なんです。かなり遅い進行速度でパラオを包囲するように近づいています。艦隊線の距離となるまで一日はかかるものと思われます」
「確かに変じゃ。その艦隊数で言えば、渾作戦を終えたばかりの我らに戦いを挑んだほうがよい。ビッグサイトキャノンで援軍も遅れるしの――」
そこまで。
そこまで考えて、永井は敵の狙いに気が付いた。
「あやつら、なんと非道な策を!!」
怒りの余り、永井は机を拳で叩く。
「司令官? どうされたのですか?」
「どうしたのだ? 永井司令官?」
いきなり机を叩いた司令官に驚く大淀と長門。
「あやつらは待って居るのじゃ!! 山風たち艦娘爆弾がパラオ泊地で爆発し、我らが満身創痍になるときを!」
「「なっ!?」」
「包囲を続ければいずれ山風たちは爆発する! 援軍を送れば泊地に攻撃を仕掛け山風たちを爆発させる! 我らが艦娘を救わずには居られない事を逆手に取られたんじゃ!!」
長門は天を仰ぐ。
なんと言うことだ、敵と対峙する事はできない。援軍と併せて殲滅する事も出来ない。
「ならば、戦力を包囲陣の一箇所に叩きつけて、突破することはできないのですか!」
「その場合も山風たちは見捨てなければならない! 戦力を集中させるのなら自然、密集陣形となる。なら尚更、艦娘爆弾は効果を発揮する! 集中させようとした戦力が満身創痍になれば壊滅するだけじゃ!!」
「そんな……」
山風たちが死を迎えようと、爆発しようとしているのに、何もする事が出来ない。
無力感に苛まれる長門たち。
その時、海軍 関中将からの私信が永井司令官宛に入る。
「なんじゃ、こちらは作戦中なので時間はないぞ」
『いえ、そちらの窮状は分かっておりますので、助言をと思いまして』
「なに、そんな手があるのか?」
永井司令官の問いに関中将はくくくと、人を馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
『簡単な事です。艦娘を、いえ、艦娘爆弾を敵陣に突撃させ、敵陣で爆発させれば良いのですよ』
15冬イベント、トラック泊地強襲の内容もまとめてやります。
そろそろ反応が怖い