艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

194 / 227
第十四話 8 希望は西方より――死兆星は輝かず

その声の主は、ここには居ない筈だった。

欧州で地中海決戦の傷を癒しており、その後も陸路で帰国する筈だった。

だが、形は変われど、彼が身にまとっているものは間違いなく光武・海で、なにより……

 

「待たせて、ゴメン! みんな!!」

 

その愛おしい声を、その凛々しい姿を、艦娘たちが見間違える筈もない。

誰あろう大神一郎が目の前に居た。

 

「隊長、どうして……」

「もちろん決まっている。君達を、艦娘爆弾にされた4人をパリからリボルバーカノンで救援に来た! 既にグラン・マから、米田閣下から状況は聞いている。彼女達を助けるぞ!!」

 

未だ信じられないと言った表情を浮かべている艦娘たちに、大神は力強く答える。

 

「でも、どうやって……僕達には、どうする事もできなくて…………」

「それが深海の手によるものであるならば関係ない! 破邪の剣を以って全てを浄化する!!」

 

その声を聞いて時雨の眦から涙が溢れる。

ああ、救えると言うのか、山風を。

 

「時間が惜しいから、俺は今から可翔機関を用い空を飛んで4人の元に向かう。けれども、俺は4人と面識がない。誰か、4人に説明するために俺と共に飛んで欲しい」

 

艦娘が空を飛ぶ、そんな事は誰も経験がない。

一瞬、戸惑いが艦娘の中を通り抜けるが、山風のためならばと時雨は手を挙げる。

 

「僕が行くよ! 山風は人見知りが激しいから、僕が説明する。だから、だからお願い、隊長! みんなを!!」

「分かった、いくぞ時雨くん!!」

「きゃっ?」

 

そう言って、大神は時雨の体を横抱きに抱える。

大神の顔を至近で見て顔を赤らめる時雨。

しまったと思う一部艦娘であったが、そんな事を考えていられる状況ではない。

 

「落ちるといけないから、俺にしっかり抱き付いてくれ、時雨くん!」

「うん!!」

「よし、霊子タービンフル稼働! 可翔機関機動! 飛ぶぞ!!」

 

そうして、剣狼はパラオの空へ飛び立つ。

 

パラオから4人の叫び声が聞こえる程度だ、そこまでの距離はない。

二人は間もなくして、敵艦隊の砲撃戦距離内に入った位置で泣き崩れる4人の姿を確認した。

彼女達が艦娘爆弾である事は知られているのだろう。

敵の砲撃はされていない。

 

「あそこだな。降りるぞ、時雨くん!」

「うん!」

 

泣き崩れ、周囲に気を配る余裕すらなくなっていた4人だが、空から降り立つ見知らぬ男の姿に警戒感を露にする。

だが、その姿に時雨が混ざっていた事に山風の警戒感が薄まる。

いや、時雨を巻き込んで死なせてはいけないと正気に戻る。

 

「時雨姉、来ちゃダメだよ! 時雨姉まで……死んじゃう!!」

「山風、大丈夫! 隊長が、大神さんが来てくれたんだ! もう山風は死ななくていいんだよ!」

「え……時雨姉、それ……本当なの?」

 

絶望の中もたらされた希望。

しかし、それはあまりにも唐突であった為、4人は大神の事を訝しげな視線で見やる。

 

「本当だよ! 隊長は深海棲艦になってた艦娘も元に戻せるんだ、怪我をした艦娘も治せるんだ! 隊長を信じて!!」

「でも……」

 

再度の時雨の声にも、山風は怯えた様子を隠せない。

 

「分かった、山風くん。なら、まずは君の腕の怪我を治す。それからでもいいかい?」

 

そう言って、大神は山風の失われた左腕に触れる。

 

「大丈夫だよ、山風。隊長を信じて」

 

男の人に触られて、山風はビクリと怯えるが、右腕を時雨が握る事でその場から駆け出したりはしなかった。

時雨は山風の包帯を外して、時を待つ。

そして、いつもとは異なり優しげな声で大神の霊力技が発動した。

 

「狼虎滅却 金甌無欠」

 

声と共に大神から柔らかな霊力の波動が発散される。

そして、霊力の波動を受けた山風の左腕はうっすらと元の姿を取り戻していく。

霊力の波動を受けるたび山風の左腕は実体に近くなり、技の発動が終わる頃には山風の左腕は完全にその姿を取り戻していた。

そこには、もう傷痕一つ残されていなかった。

 

「え?」

 

山風が左手を握ってみようと思うと、すぐに握り締めた左手の感触が山風に伝わっていく。

当然の事であるが、考えたとおりに左腕が動く、左腕の感触が伝わる。

 

「う……そ…………」

 

信じられないものを見て、4人は唖然とする。

けれども目の前で行われた事は事実だ、もはや疑う余地など存在しない。

 

「みんな、これで信じてもらえるかな? 俺がみんなを助ける事が出来ると」

「助けて……くれるの?」

「ああ!」

 

それで4人の涙腺は再度決壊した。

涙を零しながら、大神に懇願する。

 

「「「助けて! 爆発なんてしたくない、死にたくないの!! だからお願い! 助けて!!」」」

「勿論だ! みんな行くぞ! 破邪滅却 悪鬼退散!!」

 

大神の放った破邪の剣風が4人を通り抜ける。

そして、4人に仕掛けられた悪魔のカラクリを浄化し、消滅させる。

4人も自分の中にあった何かが消失していくのを感じた。

 

けれども、確証がもてなかった。

自分たちが救われたと言う、艦娘爆弾でなくなったという確証が。

戸惑いを未だ隠せない4人を見て、時雨は4人の制服を捲り上げた。

 

「キャッ!? 何するの、時雨姉?」

 

男の人の前で制服を捲り上げられて、可愛らしい叫び声を上げる山風。

 

「みんな、ゴメン! 背中を僕に見せて!!」

 

そうだ、艦娘爆弾の証が背中の星の印と言うのなら、今の4人には――

 

「ない……星の印も消えているよ!」

「本当、本当なの? 時雨姉さん?」

「うん! みんなも確認して!」

 

そう言われて、4人はお互いの背中を見せ合う。

確かに星のマークは完全に消失していた、喜ぶ山風以外の3人。

一方山風は大神をじっと見つめていた。

 

「……もう、あたし……爆弾じゃないの?」

「ああ」

 

山風は自分の腕を治し、艦娘爆弾から解き放った大神の元に少しずつ近寄る。

 

「爆発しなくて……いいの?」

「そうだよ」

 

恐る恐る、大神に手を伸ばす山風。

 

「あたし、助かったの? 死ななくても……いいの?」

「勿論だ、山風くん!」

 

そんな山風を、大神は引き寄せ抱き締める。

けれども山風は大神から離れようとしなかった。

引っ込み思案な、人見知りする自分の筈なのに、会って間もない大神の事が近くに居てほしい存在に思える。

 

「生きても……生きてもいいの?」

「ああ! 君は……君は生きていい! 生きていいんだ!!」

 

大神に更に強く抱き締められる山風。

けれども、それが少しも嫌じゃない。

大神の力強いぬくもりを感じて、そして、山風は再び緊張の糸が切れた。

 

「あ……ああ……あああああっ! うわあああーっ!」

 

しかし、それは絶望によるものではない。

大神の胸に抱かれ、喜びのままに山風は涙を溢れさせ、泣き叫ぶ。

 

「大丈夫、大丈夫だよ、山風くん。君はもう大丈夫だから」

「あああああっ! ああああっ……お、大神さん……ありがと……ありがとぉ……っ」

 

子供をあやすように、山風の髪を撫でる大神。

それが暖かくて、山風は子供のように大神の胸の中で泣くのだった。




軍や黒提督の事が感想にありました。
ネタばらしせずに回答するのも難しくまた誤解されそうなので、もうネタばらししちゃいます。
サクラ大戦2に出てた黒鬼会 五行衆 火車の声優さんは、『関』俊彦さんです。
火車の性格は――つまりはそう言うことです。

せっかくの仕込みだったので、もう少し後のサプライズにしたかったのですが。


渥頼は2の天笠がモデルですが、一応オリジナルです。


あと活動報告でも書きましたが、この土日は艦これ観艦式に行きますのですいませんが更新はありません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。