艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十四話 9 ていと――欧州華撃団! 参上!!

大神の腕の中で泣いていた山風だったが、しばらくするとようやく我に返って泣き止んだ。

そして、自分が大神の腕の中で、大神の胸にすがり付いて泣いていた事に気が付いた。

 

「あ……あたし……なんて……なんて、大胆な事を……」

 

山風は更に頭を大神に撫でられている。

恥ずかしい、時雨や野分たちにも生暖かい目で見られている気がする。

山風は顔を真っ赤にして大神から離れようとする。

 

「ん? どうしたんだい、山風くん?」

「あのね? あたし……あたし……」

「ああ、ごめん、山風くん。馴れ馴れし過ぎたかな、嫌だったかな?」

 

そう言って山風から一歩下がって離れ、間を空けようとする大神。

 

「あ……」

 

ところが大神が離れていく事に急に寂しさを感じた山風は、ぴったりと大神に寄り添ったまま歩み寄り、離れない。

 

「山風くん?」

「あたし、嫌じゃないから……大神さんのこと、嫌いじゃないから……」

 

捨てないでと、小猫の様に縋り付く様に大神を上目遣いで見上げる山風。

そんな山風の頭を再度撫でる大神。

 

「分かった、山風くん。でも、じきにここは戦地と化す。艤装の調整も改修も終わってない君達には危険だから、今はパラオ泊地まで下がってくれ」

「……うん、分かった……」

 

大神がそう言うとようやく山風は大神から離れ、野分たちの元に歩む。

次いで、大神は有明鎮守府の永井司令官に連絡を取る。

 

「永井さん、自分が不在の間の指揮ありがとうございました」

『すまん、大神。敵の策にしてやられた。あと少しで山風たちを無為に――』

「気にしないでくださいとまでは言えませんが、敵の策が悪辣すぎたのです。情報がなければ自分も誰かが傷つくまで、気付けなかったかもしれません」

『アビスゲートが一つ破壊された事で、深海も手段を選ばなくなっているということじゃろう――いや、総括は後にしよう』

 

そこまで言うと、永井は佇まいを直す。

 

『大神大佐、貴公が帰ってきたのなら司令官代理の代理業はもう必要ないな。艦隊の指揮権を貴官に返却する!』

「艦隊の指揮権、確かに受け取りました! これより、自分達はパラオ泊地を包囲せんとしている敵深海攻略部隊への反撃を開始! これを撃滅します!!」

『隊長! 現在における敵戦力の情報を送信します! ご確認下さい!!』

「ありがとう大淀くん――長門くん!」

 

敵戦力の配置を伝えられ、大神は一瞬考えた後対応を決定する。

永井ら有明鎮守府との通信を、パラオの全艦娘にも聞こえるようにチャンネルを設定する大神。

 

『大佐!! 地中海で負った怪我の治療はもうよいのか!?』

「ああ! リボルバーカノンでの射出前にエリカくんたちの霊的治療も受けた、もう万全だ! そちらの損害状況は?」

『渾作戦最終段階での損害は殆どない! 山風たちを大佐が救ったと聞いて士気も回復した! 問題ない!!』

『隊長とのわっちにいいとこ見せるんだもん!』

『いいねー、しびれるねー』

『やだ、かっこいい……』

 

そう気合を入れる舞風に続き、パラオに滞在する艦娘たちが次々と答える。

 

「分かった。山風くんたちはパラオ泊地に帰還し待機。加賀くんたちを基幹とした機動部隊は北方の敵機動部隊を撃破してくれ!」

『了解しました。大神隊長と共に挑む久々の戦い、流石に心が高揚します』

 

久方ぶりに聞く大神の声に胸を熱くさせる加賀。

 

「扶桑くんたち水上戦力は、南方の敵水上打撃軍を撃破!」

『分かりましたわ、隊長』

 

「榛名くんたちはその高速性を生かして遊撃偵察! 後方に控えるであろう敵主力部隊の位置を掴んでくれ!!」

『榛名を指定して下さるなんて、榛名感激です! 全力で参ります!』

『なんで、私じゃなくて榛名なのかしら……ぶつぶつ』

 

比叡は若干不満げな表情をしている。

 

「長門くんたちは西方の敵艦隊を撃滅! その後敵主力部隊を捕捉した後に、パラオの全戦力を以って敵攻略部隊主戦力と交戦! 撃滅するぞ!」

『東方の敵先遣艦隊はどうするのだ、大佐?』

「それは俺たちに任せてくれ! 接近している敵艦隊の先峰をこのまま撃滅する!」

『待ってくれ! いくらなんでも、時雨と大佐の二人だけでは無茶だ!!』

『隊長、ビッグサイトキャノンによる援軍戦力の手配も可能です、ご再考を!!』

 

大神の無謀ともいえる作戦に、長門と大淀が再考を促そうとする。

だが、大神はパラオ救援に向かうに当たって、全てを手配済みだ。

 

「大丈夫だ! 山風くんたちの爆弾の解除を確認して、援軍戦力はリボルバーカノンで既にこちらに向かっている! そうですよね、グラン・マ?」

『ああ、日本の艦娘も安心しな。とびっきりの戦力を送ったよ!!』

『イザベラ・ライラック大統領? と、言う事はまさか!?』

 

「「「All right! その通りよ!!」」」

 

その声と共に大神の周囲に数多の水柱が立ち並ぶ。

 

「来たか、みんな! 行くぞ! ていと――」

 

そう名乗りをあげようとする、大神、川内、そして鳳翔。

しかし、言い終わる前にビスマルクたちが大神の声を遮って叫んだ。

 

「欧州華撃団! 参上!!」

 

 

 

 

 

ぴきーん、と、ある筈のない音を立てて時が、時雨が、山風たちが凍った。

 

 

 

 

 

パラオ泊地も凍った。

 

 

 

 

 

有明鎮守府も凍った。

 

 

 

 

 

それをいい事に援軍戦力の旗艦である――ビスマルクは調子に乗って叫んだ。

 

「イチローは私達のAdmiralなんだから! 返してあげないもん!!」

 

 

 

 

 

後に、その場に居た時雨はこう語る。

 

 

 

「あれは間違いなく、宣戦布告でした……」

 

 

 

「欧州の艦娘から、僕達、日本の艦娘全員への宣戦布告でした!!」




別の意味で大海戦の前振り。

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