艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十四話 11 反撃! パラオ強襲艦隊撃滅戦1

「みんな、そこまでだ。敵は未だ健在だから、俺の去就については後にしてくれ」

 

宇宙人のように死刑台に送られようとしていた川内を、流石に止める大神。

舌戦ならともかく、行動に移そうとしたのを見て流石に止めるべきとみたようだ。

 

「大神さん! 助けてくれるって信じてたよ!!」

 

感激の涙を流す川内に、他の艦娘全員が日欧問わず舌打ちをする。

 

『ムッシュの言う通りだよ、それにビスマルク以下の艦娘は欧州には戻らなくていいんだ』

「大統領、それはどういう意味なの? 欧州は開放されたとは言え、大西洋は依然深海の手の内。大西洋航路が回復しないうちは完全とはいえないわ」

 

グラン・マの言葉に疑問を投げかけるビスマルク。

確かに尤もな疑問ではある。

 

『前にも言っただろう、そのためにはムッシュも艦娘にもブレイクスルーが必要だって。現在、艦娘の研究についても、ムッシュのサポートの研究も進んでいるのは日本だからね。あんたたちは当分の間は、日本に派遣する形にする』

「だけど、私達を欠いたら制海権を廻る戦いが不利に……」

『深海棲艦は完全に開放された欧州近海には進入する事すら出来ない。元々深海棲艦が確認されていない北氷洋は、艦娘の活動も不可である以上気にしても仕方がない。アフリカ大陸の大西洋側沿岸の保護はあんたたち抜きでもやれるさ』

「……分かったわ。ビスマルク以下、欧州援軍艦隊は『大神一郎隊長に指揮権を委ねたまま』、日本の華撃団への派遣任務を受諾するわ」

 

ビスマルクは派遣任務について了承する。

幸い、日欧艦娘共通の敵、川内と鳳翔を見出すことで帝國の艦娘との一時的な和解はなった。

このまま派遣されても問題は――

 

『えー、こっちにやって来るんデスカー?』

「金剛くん、そんな事を言ってはダメだよ。みんなも今は戦いに集中しよう!」

「「「了解」」」

 

完全にわだかまりがなくなったわけではないが、大神の呼びかけに即答する内は大丈夫だろう。

 

「大淀くん、敵の状況に変化はあるかい?」

『全体的に彼我の距離は詰まっていますが、大きな変化はありません』

「分かった。山風くん、野分くん、秋月くん、春雨くんはパラオ泊地に退避! ゆーくんとルイ、リベ、レーベくん、マックスくん、コマンダンテストくんとローマくんは彼女達を守ってくれ!」

「了解です」

 

そして山風たちはパラオ泊地への退避を始める。

 

「時雨くんはこのまま俺たちと戦いに参加してもらう、いいね?」

「うん、勿論だよ。山風たちをあんな目に遭わせた敵に、これ以上失望しても仕方ないけどやれるだけの事はしたいよ!」

「アドミラル、敵索敵は完了したが先遣艦隊の旗艦艦隊には未確認の鬼級深海棲艦が居るぞ! 機動艦隊も多数存在する、どうする?」

 

索敵機を飛ばしていたグラーフが援軍艦隊の行動指示について求めてくる。

退避する山風たちの護衛をつけた為、残りの艦隊は――時雨をのぞいて全て巡洋艦以上。

 

「今ここに居る艦隊で連合艦隊、空母機動艦隊を構成する! 艦隊編成は――

 

第一艦隊 ウォースパイト イタリア グラーフ アクィラ アークロイヤル 鳳翔

第二艦隊 大神 ビスマルク ガングート 川内 リシュリュー ザラ ポーラ 時雨

 

でいこう! セオリーとは全く異なるが、第一艦隊で制空をとった後に第二艦隊の弾着観測射撃を主にして損害を出さずに突破する。作戦は勿論『風』だ!!」

「「「了解!!」」」

「連合艦隊でも作戦効果は変わらず発動するが、気を抜かずに行こう! 殲滅するぞ!!」

「このアークロイヤル初の戦いが、貴下での戦いとはな。我がソードフィッシュを貴方に!」

 

そして、その言葉通り敵索敵艦隊を計20回に及ぶ連続攻撃で何もさせずに撃破。

続く機動部隊群に対しても制空権を確保し、開幕爆撃からの連続攻撃で撃破する。

 

「大神さん!」

 

しかし、続く敵艦隊は戦艦棲姫を擁している。『風』で戦艦棲姫を仕留め損ねた場合は、痛撃を必中状態で貰う以上作戦の変更が必要だ。

 

「ああ、作戦を『火』に変更する! ビスマルクくん、ガングートくん、リシュリューくんは戦艦棲姫を弾着観測射撃で狙ってくれ! 『火』なら打ち抜ける!」

「分かったわ、イチロー!」

「ああ、あの火力なら戦艦棲姫といえど敵ではない!」

「提督、リシュリューに任せて」

 

大神の言葉に頷き、主砲を戦艦棲姫へと向ける三人。

 

「残りはflagshipもロクに居ない。今の俺達が負ける相手ではない! 蹴散らすぞ!!」

 

その宣言どおり、軽母や駆逐艦を撃破していく大神たち。

しかし、一つ誤算が生じた。

 

「イチロー、ごめんなさい! 戦艦棲姫を大破に追い込みはしたけど仕留め損なったわ!!」

「誰を狙って――時雨くん!!」

 

戦艦棲姫の攻撃力は高い。

大破状態とは言え、場合によっては時雨に痛打を与える事も可能だ。

 

「え?」

 

大神は勿論時雨を庇う事を選択した。

 

「イチロー! 第一艦隊で止めを刺すわ!」

「ああ、行くぞ! ソードフィッシュ! シュート!!」

「時雨くん、大丈夫かい? 退避の必要は?」

 

第一艦隊の攻撃によって残った戦艦棲姫も撃破に追い込まれていく。

それを確認して、念のために時雨の傍に近づく大神。

 

「うん……大神さんが守ってくれたから、大丈夫だよ」

「よし! あとは旗艦艦隊だけか。決めるぞ、時雨くん!!」

 

そう言って、時雨の手を握る大神。

 

「え? ええ?」

 

最初は何の事かわからなかった時雨。

しかし、それが大神との合体技の相手に選ばれたのだと悟ると、心が暖かくなっていく。

喜びで満ち溢れていく。

 

「うん! 大神さん!!」

 

大神に握られた手に自分からも力を込める。

 

 

 

 

 

「うーん、どれにしようかな?」

 

夏休みのとある日、僕は鏡の前でどの服に袖を通そうか迷っていた。

だって、今日は都会の叔父さんたちが、ううん、正確には従兄弟のお兄ちゃんが来るから。

数年ぶりに親戚が集まる日。

大好きなお兄ちゃんとの、数年ぶりの再会の日。

この数年の間に自分がどれだけ成長したのか見せ付けたい。

可愛くなったねと言ってもらいたい。

そう思うと、とびっきりの自分を見せるために妥協なんて出来なかった。

 

「うーん……」

 

結局、僕は手持ちの服で一番露出度の高い服を選んだ。

でも、もしえっちな目で見られたら……どうしよう。

そんな事を考えながら階段から下に下りたら、お父さんに、

 

「まずは『僕』と言う口調を直したほうがいいぞ、時雨」

 

とため息を吐かれた。

でも、でもでも、それで、もしお兄ちゃんに僕が時雨だって気付かれなかったらいやだし。

お爺さんには、

 

「ほっほっほっ、時雨も色気づくようになったか。年は経ってみるもんじゃのー」

 

と笑われた、お母さん達にも僕が何のためにこの服を選んだのかバレバレのようだった。

ううう、恥ずかしいよ。

と、階段下で話していると、玄関のチャイムが鳴った。

 

「ごめん下さい、一郎です」

 

お兄ちゃんだ!

 

そう思ったら、勝手に身体が動いていた。

玄関先まで小走りで辿り着いて、呼吸を落ち着かせようと一呼吸。

その間に扉が開いて、お兄ちゃんの姿が見える。

 

お兄ちゃんは僕の姿を見て驚いているようだった。

お兄ちゃんの視線が体のあちこちに向けられているのを感じる、恥ずかしくて顔が火照りそう。

それに、数年ぶりに会うお兄ちゃんも凄くかっこよくなってた。

海軍士官学校で主席を取っているって聞いてたけど、凛々しくて男らしく見えるのは欲目かな。

 

「……もしかして、時雨くんかい?」

「うんっ!」

 

何も行ってないのに、僕だって気付いてくれた!

ただそれだけなのに嬉しい、嬉しくて堪らない。

 

「びっくりしたよ、時雨くん。しばらく見ないうちに可愛くなったね」

「僕、そんなに……可愛いかな?」

「ああ。でも、可愛くなりすぎて、ちょっと分からなかった。ジロジロみてゴメン」

 

そう言って頭を下げるお兄ちゃん。

そんな事はしないで欲しいかな。

お兄ちゃんに見てもらいたくて、可愛いといって貰いたくてこの服にしたのだから。

 

「一郎くん、頭を下げんでも構わんぞ、早く上がりなさい。士官学校の話とか聞きたいからね」

「あ、はい! それでは失礼致します」

 

その後、親戚一同の集まった広間でお酒も交えてお互いの近況を話すみんな。

その中でも一番の話題はお兄ちゃんの話、士官学校での日常。

どうやらお兄ちゃんの近くにはあまり女の人の姿はないみたい、少し安心。

お兄ちゃんもお酒を飲める年齢になったので、みんなにこれでもかと言わんばかりにビールを注がれている。

お兄ちゃんに余り話しかけられなくて不満。

これは夜中まで続きそう、ちょっと残念かな。

 

しばらくして僕はお腹が一杯になったので、一度自分の部屋に戻って寝間着に着替える。

ネグリジェも一枚あったけど、流石にお兄ちゃんに見せるのは恥ずかしくて、無理!

着替えて階段から降りると、広間にはお兄ちゃんの姿はなかった。

 

「あれ、お兄ちゃんは?」

「一郎君なら、酔いが回ったので少し休むそうだ、客間で横になっているんじゃないかな」

「そうなんだ、ちょっと見てくるね」

「襲うなよ」

「襲わないよ!!」

 

客間を覗くと、明かりの消えた布団の敷かれた客間でお兄ちゃんが横になって寝ていた。

でも、酔っていたせいか、着替えないまま服を緩めて寝っ転がっていた。

ちょっと寝苦しそうだ。

枕くらいは要るんじゃないかな、と考えたところで一つ思いついた。

 

「失礼するね、お兄ちゃん」

 

僕は、お兄ちゃんの頭を少し持ち上げると自分の太ももの上に乗せる。

そしてお兄ちゃんを起こさないように少しずつ位置調整、うん、これでいいかな。

膝枕をすると、お兄ちゃんの寝息が少し安らかになる。

 

上から覗き込むと、月明かりに照らされたお兄ちゃんの顔が良く見える。

寝る前に顔を洗ったり歯磨きしたりしてたのかな、お酒臭さは感じない。

ううん、多分それを含めても、お兄ちゃんの深い吐息が心地よく感じるんだ、やっぱり欲目かな。

 

でも、今日はこうしていられても、お兄ちゃんがいる数日間はこうしていられても、数日間経ったらお兄ちゃんは帰ってしまう。

ずっと前からそうなるのが嫌だった。

もっと子供だったときは泣いて、お兄ちゃんを引き止めたりもした。

でも、滞在を伸ばしてはくれてもお兄ちゃんは最後には帰ってしまう。

ずっと傍に居たいのに。

 

「あれ……」

 

そんな事を考えていたら涙が出てきた。

いけない、お兄ちゃんを膝枕しているのに、このまま泣いていたらお兄ちゃんに涙が。

そう思って涙を拭き取ろうとする前に、お兄ちゃんの手が僕の涙を拭き取った。

 

「なんで泣いているんだい、時雨くん?」

「だって、お兄ちゃんは数日経ったら帰ってしまうから……僕はずっと傍に居たいのに」

「……参ったな」

 

ああ、やっぱりお兄ちゃんを困らせてしまう、お兄ちゃんは帰ってしまう。

そんな事はしたくなかったのに。

 

「ああ、違うんだ。時雨くん、今日君と会って俺もそう思ったんだよ」

「え?」

 

お兄ちゃんが何を言ってるのか分からない。

 

「君を離したくないって、君の傍に居たいって、そう思ってしまったんだ」

「え、ええ? それって……もしかして、僕とお兄ちゃんは両おも――」

 

そこまで言おうとした僕の唇がお兄ちゃんの唇でふさがれる。

唇を奪われて驚く僕を、起き上がったお兄ちゃんが抱き締める。

 

「そこから先は俺に言わせてくれ、時雨くん。君が好きだ」

「あぁ……僕も好き。お兄ちゃんが大好き!」

 

そして、今度は正面からもう一度僕とお兄ちゃんはキスをしたのだった。

 

 

 

『月灯りの晩、お兄ちゃんと』

 

 

 

「でも、参ったな……」

 

僕を抱き締めてくれていたお兄ちゃんがふと言葉を漏らした。

 

「え? どうしたの、お兄ちゃん?」

「いや、俺が時雨くんに手を出したら、叔父さんたちにロリコンと怒られそうでさ」

「そんな事はないぞ! 一郎君!!」

 

「「えっ!?」」

 

振り向くと、ふすまの隙間から親戚一同が僕達を見ていた。

も、もしかしてずっと見られていたの!?

 

「一郎君には時雨を貰って欲しいと常々思っていたんだ! 一郎君を射止めるとはでかしたぞ、時雨!」

「…………」

「どうした、時雨?」

「お父さん達のバカーッ!!」

 

僕の叫び声が夜空に響き渡った。

 

 

 

 

 

時雨と大神の繋ぎあった手から霊力が迸る。

扇形に広がった霊力は敵先遣艦隊の旗艦艦隊を飲み込み、一隻残らず浄化していく。

浄化された深海棲艦はすべて霊力の柱となり天へと昇り、雲の合間からは天使の羽が舞い降りる。

 

敵深海東方先遣艦隊は全滅した。




時雨みたいな妹が欲しいぞなw
初期案では、時雨との合体技はもっともっと長い話にするつもりだったのですが、凄まじく長くなりすぎると思ったので色々割愛、時雨ちゃんのピンチとか。
これでも長いとかいわないで。

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