艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第二話 11 幸運の空母?

「大神隊長!? え、いったい何が……」

 

眼前に居る筈のない大神の姿を見て、神通は慌てて振り返り後ろに大神がいることを再確認する。

何が起きたのか理解できず、戦場であることを忘れ呆然とする神通。

 

「神通くん、今はこの戦いに集中を!」

「あ、は……はい!」

 

大神の声に、神通は前方に意識を集中させ砲撃を行う。

大神の言うとおりだ、今はこの敵艦載機をどうにかしないといけない。

 

「敵艦載機に動きが!」

 

そうしている間に敵艦載機はいくつかの編隊に別れ、その内二つが大神たちの上方に位置どろうとする。

急降下爆撃を行うためか。

 

しかし、z方向に大きく距離は開いていても、xy平面上の距離であれば大きく縮まっている。

この距離は大神の間合いだ。

 

「近づきすぎたのが、お前たちの誤りだ!」

 

大神は二刀を振り翳し、霊力を雷と化さしめる。

 

「狼虎滅却! 国士無双!!」

 

雷が更なる雷撃を呼び、大神の周囲は艦娘を除いて雷の嵐が荒れ狂う。

上方に位置どった敵機体は、悉くが荒れ狂った雷の嵐に飲まれ爆発四散した。

 

「残りは!」

「大神隊長の今の攻撃で敵機の3割程度を撃破した模様……敵第二波、来ます!」

 

残りの敵艦載機が左右から近づいてくる。

大神は再度艦娘をかばうために霊力を貯めた。

 

「隊長! 後方から、敵第3波が!!」

「まだそんなに残っていたのか!」

 

後方の白雪が悲鳴交じりの声を上げる。

振り返ると、大神の後方からも機影が近づいてくるのが見える。

完全に囲まれた形だ。

 

「うそ……」

 

初雪が絶望の声を上げる。

神通の表情にも影が差し始めた。

 

「総員、対空砲火! 大丈夫だ、俺が君たちを沈ませたりなんて絶対にさせない!」

「大神隊長……」

 

大神は艦娘の様子を見て、自らの霊力の限界を超えたとしても艦娘をかばうことを決意する。

誰一人として、失われるなんて許さない。

そんなのはあやめさんだけで十分だ。

 

「違う……あれは、敵機影じゃないよ! 味方だよ!」

 

川内の声に機影を改めて確認すると、どこか異形めいた深海棲艦の艦載機とは異なる機影。

よくある航空機のもの、艦娘の運用する航空隊のものだ。

 

「第4艦隊がもどってきたということか?」

 

味方航空隊の接近を察知した敵艦載機群は、航空戦が行われる前に大神たちに肉薄せんとした。

だが、味方航空隊の到着の方が早い。

艦戦が多めの構成なのだろう、航空隊は敵艦載機群を踏み荒らす。

 

 

そうして制空権がこちらのものとなり敵艦載機が撤退していく中、第4艦隊が姿を現した。

旗艦翔鶴、瑞鶴、祥鳳、睦月、弥生、望月の6艦で構成される、警備府唯一の航空戦力である。

遠征で少なくない戦闘を戦ってきたのか、衣服の裾は解れ、髪もどこか煤けていた。

 

「間に合ったみたいですね、神通さんこの方は?」

 

旗艦である翔鶴が、吹雪に抱きついた大神の姿を訝しみながら声をかける。

もっともな話である。

 

「あ…はい、大神さん。私たちの……隊長です」

「隊長ー? こんな、駆逐艦に抱きつかないと海の上を行けないような男の人間が? 神通、冗談はやめてよ」

 

横からツインテールにした袴姿の艦娘、瑞鶴が口を挟む。

どこかタカをくくった様子だ。

 

「本当です! 大神さん、戦艦だって一刀で沈められるんですから!」

「またまたー。吹雪、夢でも見てたんじゃない?」

「夢じゃない……隊長、さっきも雷の嵐を……撃った」

 

命の恩人である大神を軽んじられて、吹雪は瑞鶴に詰め寄った。

だが、瑞鶴はまともに取り合おうとしない。

俄かに吹雪たち駆逐艦の視線が熱いものに変わっていく。

 

「みんな、俺のことは後でいい。今は敵主力艦隊を撃破することに集中しよう」

「そうですね……敵に航空戦力がいるのですが、第4艦隊は大丈夫ですか?」

「参加したいのは山々なのですが、私たちも遠征で損害を受けていて……」

 

翔鶴の言葉は確かだ。

確かに、よく見ると衣服だけでなく、艤装も損傷している。

敵戦艦との砲撃戦に赴くにはいささか心もとないだろう。

 

「そういうことなら、俺にできることがある」

 

大神の発言だったが、第4艦隊は不審げな視線を大神に送っていた。

艦娘の損傷は入渠か明石の泊地修理でないと直せない、これは常識中の常識だ。

何を言ってるのだこの男は、と言いたげな視線を送っている。

 

「またー、四方山話は程々にしてよね? エセ隊長さん」

「ちょっと、瑞鶴。いくらなんでも言い過ぎよ」

「そんな事言わないでさ、瑞鶴ー。隊長のやる事ちょっと待ってみてよ」

 

だが、川内たちは先ほど大神が神通をかばいきった事、雷の嵐を放ったところを目の前で見ている。

大神が何かできるというのであれば、本当にできる事なのだと今なら信じられる。

 

「大神隊長……あまり時間もありません。何かできるというのならお願いします」

「ああ、わかった。狼虎滅却!」

「え?」

 

先ほど雷の嵐を放ったときと同じ、装甲板を、敵を切ったときと同じ掛け声に、神通たちの笑顔が強張る。

エセ隊長呼ばわりがそんなに頭に来たのだろうか。

吹雪は大神を制止するべきか一瞬迷うが、大神を信じ支える。

 

「金甌無欠!!」

 

大神から優しい光が放たれ、周囲の味方を癒していく。

艤装の損傷は勿論、力まで回復していく。

これは泊地修理のレベルではない、入渠したときと同じ、完全回復だ。

 

「うそっ?」

 

衣服の解れ、煤けた髪まで回復して、おまけとばかりにピカピカになった肌。

高速修復材よりも早く、入渠した時と同じ効果を海上で受けて、瑞鶴はびっくりする。

 

「何とかできたかな? ええと……」

「瑞鶴よ……ごめんなさい、四方山話とか、エセ隊長とか言って」

 

ここまで見事に回復されてしまうと、減らず口も出る言葉がない。

 

「分かってくれたのならそれでいいよ、瑞鶴くん。翔鶴くん、問題は有りそうかな?」

「え、あ、はい。全く問題ありません。みんなも大丈夫よね?」

「ええ、俄かには信じられませんが」

「びっくりしました、ええ、大丈夫です」

「いいです……」

「はーい、お風呂はいるのもめんどいときいいかも」

 

翔鶴の言葉に答えていく、第4艦隊の面々。

約一人、問題発言をしているものもいたが。

 

「よし、なら敵主力艦隊を撃破する!」

「「「了解!」」」

「「「りょ、了解……」」」

 

第3艦隊に遅れ、第4艦隊が続き答える。

大神たちは敵艦載機が去り、味方航空戦力が追って行った方へ進んでいく。

 

 

 

なお、航空隊の索敵結果から敵艦隊の位置を把握した大神たちは、作戦通りに交戦。

敵戦艦を一刀の下に、返す刃で敵空母を沈黙せしめた大神に、第4艦隊、と言うか瑞鶴は自分の軽口を後悔するのであった。

 

「ねえ、神通? ホントに私大丈夫? 隊長さんにズンバラリンされないかな?」

「瑞鶴、口には気をつけなさいって言ったでしょう?」

「ひーん、こんな事になるだなんて思わなかったんだよー」

 

いささか顔が青くなった瑞鶴だったが、神通たちは答えない。

大神をエセ隊長呼ばわりした事に流石にムッとしたようだ。

 

 

口は災いの元。

 

 

 

 

 

「みんな、大丈夫かい?」

 

敵艦隊を全滅させ、突入した大神たちがこちらに近づいてくる。

大神の姿が大きくなる毎に、瑞鶴は絞首台の13階段を登っている心地になる。

 

「ええ、問題ありません。大神さんが空母も一隻沈めてくれたおかげで」

「よし。なら、前回と同じくアレをやりたいんだけどいいかな?」

 

「あ、アレ?」

 

アレって何だ。瑞鶴は何かされるのではないかと気が気でない。

 

「大賛成ー、アレやると気分がいいんだよね~」

「気分がいい?」

 

ヘンな想像をしてしまう。

もしかして、淫らな事なのだろうか。

 

「よし、第4艦隊もいいかな?」

「あのー、アレって何ですか?」

「第4艦隊、翔鶴くんたちには教えてなかったね、アレってのは――」

 

翔鶴ねぇに大神が近づいてくる、翔鶴ねぇにも何かするつもりではないだろうか。

 

「待って!! 隊長さん、さっき言った事なら謝るから、何度でも謝るから! 翔鶴ねぇにヘンな事しないで!」

「さっき? だから、分かってくれたのならそれでいいって……」

「でも、アレをやりたいって、隊長さん言った」

「ああ、じゃあ翔鶴くんと一緒に教えるよ。アレっていうのは――」

「……」

「……――っ!?」

 

 

 

 

 

「せぇの――」

 

 

 

「「「勝利のポーズ、決めっ!」」」

 

大神の声に続き全員が勝利のポーズを取る。

が、瑞鶴はどこかヤケクソな感じであった、自分の勘違いが恥ずかしかったらしい。




本戦はもう完全に消化戦なので省略割愛。

かばうも大概チートですが、ゲーム的に艦これ世界で一番チートなのは回復技だと思うのです。
入渠ドッグ要らず。

次回警備府の艦船も揃ったことですし花見回。

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