艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十四話 14 アイツは可愛い年下の男の子

「はぁ~」

 

何回見ても、お財布の中はすっからかん。

大学生活がこんなにもお金を使うものだったなんて、大誤算だわ。

これからは使い方を見直さないといけないけれど、次の仕送りまでどうしようかしら。

 

私は友人を待ちながら、水だけ持って一人学食で黄昏ていた。

 

「ん~、どうしたの~。大井っち~」

 

友人の北上さんが、昼にしては少し多目の食事を持って私の対面に座る。

服装とかもそこまで気合入れてないし、私も参考にした方がいいのかしら。

 

「はあ、北上さん。実はお金を使いすぎてしまって、お財布の中身が――そうだわ!」

「お金なら貸さないよ~、お金のやり取りは友情を壊す第一歩だからね~」

 

何気に厳しい北上さん。

でも、間違ってはいないかな、こんな事で貴重な女友達がいなくなるのは私も嫌だし。

 

「でも、本当にどうしようかしら。このままだと、月末は大変な事になりそうなのよ」

「アルバイトするしかないんじゃない~?」

「やっぱりそれしかないわよねー。でも、一年の内は単位も取れるだけ取っておきたいし、時間があまりきつくないバイトがいいのだけど、北上さん何か知らない?」

 

アルバイトを探すには正直出遅れてしまっている、条件のよさそうなアルバイトはもうないかも。

北上さんはのらりくらりと生活してるので、その辺はあまり詳しくなさそう。

と思っていたのだけど――

 

「一応あるよ~、知り合いの家庭教師のアルバイトが~。やってみる、大井っち?」

「勿論やるわ!」

 

それに飛びついた私だった。

 

 

 

そして数日後、大学の授業の終了後、北上さんに渡された地図の家の前にやってきていた。

 

「高校3年生って、受験生よね。せっかく受験を終えたのにまた関わるなんて、はぁ~」

 

受験を終えた後に、参考書やノートを処分しないでよかった。

メモ付きではあるけれど実家から一式を送ってもらって、一読して、とりあえずの準備は完了。

あとは生徒になる子の学力次第ね。

 

「ごめん下さい~」

 

チャイムを鳴らして、人を呼ぶ。

 

「はい、どちらさまですか?」

 

しばらくすると、黒髪の綺麗な女の人が出てきた、どう見ても高校3年生には見えない。

お姉さんかしら?

 

「私、北上さんに紹介されてきました家庭教師のものです。今日から宜しくお願いします!」

「ああ、家庭教師の方ですか。それではこちらにお上がり下さい。一郎さん、家庭教師の方が来ましたよ」

「ごめん、鳳翔姉さん! 今すぐそっちに行くよ!!」

 

奥から男の人の声が聞こえてくる、こちらに向かってくるようだ。

 

え。

 

ちょっと待って、北上さん!?

家庭教師の生徒って男の子なの!?

そんなの聞いてないわよ!?

 

そう迷っている間にも彼はこちらに近づいてくる。

ど、どうしよう、北上さんの紹介だから今更断るなんて出来ないし。

男の子にえっちな目で見られるなんて思わなかったから、視線の防御策は何も考えてない!

ああ、こんなことなら、もっと野暮ったい服にしてくるんだった!

そんな事を考えていると、生徒になる男の子が奥の方から現れるのだった。

 

「こんばんは。貴方が北上さんの紹介にありました大井さんですね? 自分は大神一郎と言います。これから受験が終わるまでの間、宜しくお願いします」

 

うそ…………

受験生と聞いてたからもっと不健康な、ガリガリのやせっぽっちだと思ったのだけど、身体はかなり鍛えられていて凛々しい、顔もすっとしていて意志の強そうな瞳が印象的。

ぶっちゃけ言うとカッコ良かった。

 

「大井さん?」

 

イケメンとはベクトルが違うけれど、私はこっちの方が……

横にいる鳳翔さんの視線が厳しくなった気がしたけど、私はそれを見ない振りをする。

 

「大井さん、どうかしましたか?」

「いえ、なんでもありませんっ! それで、私は何を見ればいいのかしら?」

「自分は公立高校に通ってますので、高3で学ぶ範囲は未だ独力でしか学んでいません。そこの確認をメインでお願いしたいと。後は受験に向けた筆記試験全般のサポートをしていただければ」

 

ん? 筆記試験?

と言う事は筆記試験以外の項目もある学校なのかしら。

 

「すいません、一郎さんの志望校はどちらに……」

「あ、失礼しました。自分は海軍士官学校を第一希望としています」

 

士官学校狙い!?

ガチのエリートコースじゃない!?

 

「あと、自分の事は呼び捨てで構いませんよ。これからは、お世話になるのですから」

「そう言うわけには行きませんっ。んーと、じゃあ、『一郎くん』って呼びますね」

「あ、はい、これからお願いします、大井さん」

「こちらこそ宜しくね、一郎くん」

 

そう言って私たちは握手を交わした。

後の私はこの手を離したくなくなるだなんて、今の私は夢にも思わなかった。

 

 

 

確認した彼の学力は高2までは申し分なし、でも高3の範囲はところどころ欠損が見られた。

これは私の参考書の出番ね。

 

「じゃあ、一郎くん。これを使いましょうか」

 

そう言って次の家庭教師の日に、私は持ってきた参考書を何冊か一郎くんに手渡す。

全て高3の範囲を主にした物、これを見ながら教えるのが一番早いわ。

ちょっと前まで使っていた物だから、大半の範囲は覚えているし。

 

「ありがとうございます、大井さ――えぇっ!? これを自分が使うのですか?」

 

どうやら女の子の文字でメモられたり、デコられた参考書をみて面食らってる一郎くん。

ふーん、その辺で面食らうって事は女の子には免疫があまりないのかな。

ちょっと可愛いかも。

 

「そうよ。元もいいけど、私が一年間更に練り上げた参考書だから中身は保障するわ。へんな参考書を使うよりこれのほうがずっと良いわよ」

「いや、それは分かるのですが……これを電車内や学校で使うのは…………」

 

困ったような顔をしている一郎くん、なんだかもっといじめたくなっちゃう。

 

「ダーメっ、先生命令です。これ以外の参考書を使うことは許しませんっ♪」

「とほほ……」

 

学校で笑われたりしたみたいだけど、私のせいじゃないからね♪

 

 

 

その他にも家庭教師の勉強の合間に、お茶を飲みながら一郎君の私生活について聞いたりする。

 

「ふーん、一郎くん、剣道部の主将をやっているんだ?」

「ええ、ですから夏までは勉強時間はかなり限られたものになります」

 

棚に目をやると、優勝杯やメダルなどが並んでいた、多分剣道でのものだろう。

 

「大会でもよく優勝とかしているみたいね、そっちでの推薦入学は目指さなかったの?」

「自分は海軍に入って人々を守りたいと考えています。だから、そっちの進路は考えもしませんでしたね」

「人々を守りたい……か。ねぇ、一郎くん? いざって時は私の事も守ってくれる?」

「勿論です。大井さんは自分の大切な先生ですから」

 

『大井さんは大切な人です』と言う言葉にドキッとさせられる私。

落ち着け、落ち着くのよ自分、他意はない言葉なんだから。

 

でも、その言葉は、その日の家庭教師を終えてもずっと胸に残ったままで、眠りにつけなくなったりした。

 

 

 

そんな感じで家庭教師をするうちに徐々に親密になった私と一郎くん。

彼が剣道部を引退する前の夏の大会に呼ばれたので、北上さんと一緒に見に行く。

彼と彼の友人の強さが本当に飛びぬけていて、連戦連勝!

 

「一郎くんっ、スゴイスゴイ!!」

「大井っち~、私は大神くんじゃないよ~」

 

彼の勇ましくも凛々しい様子を見て、はしゃいだ私は隣の北上さんに抱きついたりする。

彼の竹刀が敵を打ち据え、一本取る度に大騒ぎしてしまった。

 

そして試合は最終戦、彼と彼の友人の戦い。

 

実力は伯仲、お互いに有効打を与えられないまま、時間が過ぎていく。

フェイントを多用する彼の友人に対し、あくまで王道を行く一郎くんの剣は揺るがない。

でも、本当にギリギリの戦いでホンのちょっとした事で天秤はどちらにも傾きかねない。

そんな戦いで場が静まり返る中、私はつい、

 

「一郎くん、頑張って!!」

 

と声援を送ってしまった。

周囲の視線が自分に向けられる……ごめんなさい。

 

でも、一郎くんは私の声援を受けて自然と動き出した。

 

そして、無駄の一切ない一撃が、彼の友人へと吸い込まれていき――

 

「面っ!」

 

審判の旗が上がる、決まった!

試合は一郎くんの勝ち。

 

試合場を降り、防具を取った一郎くんの事を、同じ部の後輩や、先ほど彼に負けた友人たち同輩が祝福する。

その中には女の子の姿もあった、ちょっと不満かも。

でも、一郎くんは真っ先に私の方に視線を向けた。

 

「大井さん! 俺やりましたよ!!」

 

そう言って笑う一郎くんの笑顔を見て、私は顔を真っ赤にしてしまう。

胸がドキドキして止まらない。

 

 

 

そうか、

 

 

 

私、

 

 

 

一郎くんの事が好きなんだ。




ついにやっちまった、合体技なのに前後編w
後編に続く!!(脱兎)

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