艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

202 / 227
第十四話 終 黒鬼会 五行衆が一人 火車

そうして渾作戦に始まる長い戦いを終えたパラオ泊地。

しかし大神にはあと一つ、やらなければならない事が残されていた。

 

「ぶっすー、直前まで夕立の出番だと思ったのに……放置っぽい?」

 

そう、大井に合体技の出番を掻っ攫われた夕立の機嫌を直すことである。

時雨の次は自分に違いないと期待していたのに、この仕打ちは確かにない。

とは言うものの、

 

「夕立くん、こればっかりはその場の流れもあるからさ。敵の首魁があの発言をしてきた段階で、一番衝撃を受けた大井くんに移ってしまうのもしょうがないと思ってくれないかな?」

 

大神の言う事も尤もだ。

合体技はその時点で最も絆の深いものと行った方が、その性質上威力も高くなる。

 

「つーん。何それ、じゃあ、あたしじゃ不足っぽい?」

「そんな事はないよ。夕立くんと俺の間には確かな繋がりを感じるだろう?」

 

未だむくれたままの夕立を抱き寄せて耳元で囁く大神。

でも顔を真っ赤にさせながらも夕立は止まらない。

 

「でもでも、夕立、隊長さんと合体技をしてもっと仲良しになりたかったっ! ステキなパーティしたかったっぽい!!」

 

夕立は大神に縋り付いて上目遣いで懇願する。

ああ、これはもう合体技をやらない事には収拾が付かなくなりそうだ。

大神は覚悟を決めるしかないようだ。

 

「分かったよ、夕立くん。今は難しいけど、有明鎮守府への帰還途中で合体技をしよう」

「隊長さん、それ、本当っぽい?」

 

更に身を乗り出して大神に縋る夕立。

そのまま大神を押し倒してしまいそうだ。

 

「ああ、っぽいじゃなくて、本当の事さ。パラオに戻って、それから有明に戻る途中でしよう」

「やんっ、野外でだなんて、新しい遊びっぽい? 夕立、もてあそばれちゃうっぽい?」

『時雨姉と、夕立姉だけだなんてずるい……あたし、も……構って』

 

そこにパラオで待機中の山風から通信が入ってきた。

 

「いいっ!? 山風くんは未だ艤装の調整が終わってないから――」

『戦闘外の事、なんでしょ? なら関係ない……あたしも感じるもん……隊長との繋がり』

 

そう言いながら山風はなくしたはずの左腕でお腹をさする。

山風、その仕草は誤解を招くぞ、きっと。

 

『ちょっと、隊長! 山風ねえに何やったんだよ!?』

「いや、俺は山風くんを治して浄化しただけで、それ以外の事は――」

『大神さんに、抱かれて……大神さんの、胸の中で……泣いたよ? いっぱい……』

「隊長さんっ。夕立、放置は嫌っぽい! あたしをいっちばん構って欲しいっぽいっ!」

 

そうしていると今度は、今大神の腕の中にいる夕立が不満の声を上げる。

そりゃあ、抱きしめられているのに放置されれば誰でも普通怒る。

二人の不満の声を聞きながら、冷や汗を流す大神。

 

結局、二人の不満を宥めているうちに敵艦隊を撃破した空母機動部隊が合流した。

そして更に火種は拡大する。

 

「ガーン! 時雨に先を越されただけじゃなくって、夕立にも越されるの? あたしいっちばんじゃないの?」

「隊長ー。ここまできたら、白露型フルコースを召し上がれ♪」

「ふふふふふ……早速海に沈められたいようですね♪ 一郎くん♪」

 

結局埒が明かないと長門と武蔵が一喝するまで、夕立の機嫌取りに始まるてんやわんやは終わらなかった。

結局、帰還中に合体技をやる艦娘は夕立の他にもう何人か増えるようだ。

 

 

 

 

 

その頃、海軍では関中将が自室を急ぎ片付けていた。

731部隊への視察と言う名目で明日からの日程は埋まっていたが、自分が通信をしてしまったせいで月組の動きが早まった可能性がある。

 

「不味いですね。艦娘爆弾にされた艦娘を工作艦 明石に調べられては、事が露見してしまいます。渥頼に奥の手として与えた艤装の爆弾化と、艦娘爆弾の根本が同じである事に、かつて艦娘を自爆兵器『火乱』として用いていた私の真の正体に」

 

渥頼が自白で自分の事を吐いていたとしても、裏取りまでの日数を換算すると余裕があったくらいなのだが、つい、艦娘爆弾が炸裂するとあって苦悩に歪む有明鎮守府の面々の顔を見たくなってしまった。

艦娘が深海の技術で爆発すればどんな炎を上げるのか見てみたくなってしまった。

 

「いやはや、バカは死んでも治らないとはいいますが、私の趣味も治りませんでしたね。まあ、私の高尚な趣味は治らなくてよかったですが」

 

今度は愚痴り始める関。

 

「にしても、深海棲艦も渥頼も情けない。艦娘が焼け爛れていく姿も、爆散していく姿も一つも見れなかったではないですか。これなら私が提督をしていた頃の方が良かったですね。私が提督をしていたころはそんな事はなかったと言うのに」

 

そして、自らがいくらでも建造できる艦娘を、否、自爆兵器『火乱』を駆使して海を制していた頃を思い出して悦に浸る。

 

「いくら艦娘を殺しても、いくら艦娘を燃やしても、灰にしても、罪には問われない! それどころか、深海棲艦を燃やせれば思うがまま恩賞をもらえる! 深海棲艦の叫び声が、艦娘の叫び声が渦巻き、嘆きに、恨みに満ちた戦場! ブラックダウンが起きる前の海は最高でしたねえ!!」

 

思い出すだけで絶頂に至りそうな関。

だが、直ぐに最近の海を省みてぼやく。

 

「それに比べて最近の海はつまらない、非常につまらない。だから大神なんぞはとっとと始末すべきでしたと言うのに、渥頼の馬鹿は変に嬲ろうとして失敗する。731で解剖させる予定は握りつぶされる。オマケにわざわざ案内した深海棲艦は狙撃にも失敗する」

 

そうこうしている内に、準備が整ったようだ。

 

「まあ、いいでしょう。とりあえず手勢を纏めて、731のもくじ――矢波と合流しましょうか。私の手勢だけではクーデターを起こすには戦力不足ですからね。矢波の開発した深海棲艦を機械化した『深海棲機』、そして陸に上がった艦娘を有明が保護する前に攫い機械化した『機艦娘』、この両者の戦力で大神が帰還する前の有明を先ず落としましょう。有明の艦娘全てを機艦娘に改造すれば、大神は動けなくなるでしょうし、何体か再び自爆兵器『火乱』に仕立て上げて大神を爆死させるのも悪くないですね」

 

荷物を纏める関、いや――そのかつての名は――

 

「それに今矢波が開けようとしているものが開けば――」

 

そこに加山率いる月組と憲兵隊が突入した。

 

「なんですか、中将の執務室に。失礼ですよ」

 

立場的には関の方が上だ。

だが、その真の名を知っている加山にとって、関が一瞬でも長くこの地位に留まっている事の危険性をよく知っていた。

手を緩める事などあってはいけないのだ。

 

「海軍中将 関――いや、黒鬼会 元五行衆が一人 火車!! お前を逮捕する!!」

 

 

 

 

 

ぴゃん♪

海軍に巣食う外道の首魁 火車たちを捕縛するためについに動いた月組。

だけど、その事を織り込み済みの火車は海軍を火の海にした隙に逃亡してしまうの。

火車以外の主だった敵は捕縛できたのだけど、火車が逃亡した先、731研究所は、

人の携帯火力では倒せない敵に、そして艦娘にもある意味倒せない敵に守られていた。

空を飛んで一早く帰還した大神さんでさえ倒すことを躊躇う敵は一体何なのかな。

 

 

 

そして人の手によって再び深淵の門が開く――

 

 

 

次回、艦これ大戦第十五話

 

「禁忌の門」

 

 

 

「コロシテ……あ……が、の姉、さ……かわ……を、コロシテ」

「ごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさい酒匂! 阿賀野を許してーっ!!」

 

やだな、阿賀野姉を泣かせるつもりなんてなかったのに。




関、もとい火車のゲスっぷりは2の設定どおりです。
火車の設定:放火魔かつ爆弾魔、『爆発物の取り扱いに長けている』
渥頼よりも遥かにゲス。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。