第十五話 1 過ちを繰り返すことなかれ
時は僅かに遡り、リボルバーキャノンによる大神のパラオ泊地への救援とほぼ同時刻。
欧州への救援要請を終えた米田たちは加山が齎した月組による軍内の調査報告結果を用いて緊急会合を開いていた、その結果は米田たちの予想を超えたものであった。
「なんだと!? 渥頼が大神襲撃の時に白状した黒幕の一人と目される関中将が、あの『黒鬼会』の火車だと言うのか!?」
「はい、間違いありません。関中将の幼少から徹底的に調べ上げました。表には出していなかったようですが幼い頃から生物を虐待する事を趣味としており、提督時代も建造で誕生した艦娘を自爆兵器『火乱』『焼塵』と称して、特攻させる事で深海棲艦との戦いを進めていたようです」
「そんな捨て艦どころではない戦い方、ブラックダウン後も出来る訳が!!」
驚愕した山口の声は震えている、まさか身の内にここまでの外道が潜んでいるとは思っても居なかったらしい。
「関中将自身はブラックダウンより前に深海棲艦の戦いにて功ありと中央へ異動となっています。また配下の艦娘は関中将が中央に異動する際に次の提督に引き継がれましたが、全て深海棲艦との戦いで爆沈し再建造されています。艦娘が生き残っていれば証言とする事が出来たのですが、再建造により記憶が失われている以上それも出来ません。恐らく……」
「艤装に時限爆弾を仕込んで証拠となる艦娘を爆殺したのだろうな。海の藻屑となった以上、死人に口なしと言う事か」
米田の声も震えている、こんなゲスが未だ海軍に残っていたとは予想外だったようだ。
「はい。『火乱』『焼塵』と言う言葉も、書面では用いず艦娘に直接口頭でしか使って居なかったようです。恐らく私達『太正会』の存在を知っていたのでしょう。表側をなぞるだけの調査では被害甚大なれど、深海棲艦との戦いに尽力し国土を守った将官としか見えない筈です。中央に移動した後の勤務態度はごく一般の将官のものでしたから。渥頼が口に出さなければ自分達たちもここまでは調べるにはより時間がかかったと思います」
「なんて事だ、我が海軍に『黒鬼会』のものが居たなんて……」
椅子に力なくもたれ掛る山口、だが調査結果はこれでは終わらない。
「残念ながら、山口閣下。火車だけではありません」
「未だ居るのか、五行衆が!?」
「はい、731部隊の研究者を総括している矢波博士が、関との接触があることから調査したところ、五行衆 木喰の可能性が高い事が分かりました」
「待て、加山。確か『前の世界』では、木喰は『降魔兵器』の開発者だった筈。もしや――」
米田の質問に頷く加山。
「はい、米田閣下の懸念も当たっております。731下の深海棲艦研究所には鹵獲した深海棲艦の他に、艦娘も何人か運ばれた履歴がありました。書類上は深海棲艦との試験陸上戦にて死亡、海葬を行ったとありますが、恐らく兵器としての機械的強化を行う実験台になった可能性が高いです」
「正に悪魔の所業だな……自分や山崎たちがいる以上、もしやと思っていたが悪い予想が当たってしまったか、もはや黒鬼会の他の主要メンバーもいると思って間違いないな。そこに付いては調べられているか?」
加山は今度は首を振る。
「いえ、残念ながらそこまでは。過去数年間に渡って、両者に接触したものは公私を問わず調べ上げましたが、黒鬼会と思わしき者は居りませんでした。以前、海軍に一人だけ6本腕と言う異形の人間が居りましたが、現在は深海棲艦との戦いで既に死亡しています」
「それは五行衆 土蜘蛛ではないのかね?」
「そうかもしれませんが、彼女――渡辺少尉は数年前の占守島防衛戦で艦娘と共に前線に立ち、すべての人間と艦娘が撤退を完了するまで戦い抜いて戦死したそうです。こちらは占守島再奪還後に彼女の死を惜しむ艦娘と同僚達によって火葬されております。警備府の艦娘にもそれに立ち会った者が居るので疑う余地はありません」
「そうか……」
「それに五行衆の土蜘蛛は、人間による迫害から京極に救われた事を理由に忠誠を誓っていました。元は善人であった可能性もあります」
「分かった。山崎たちのように『前の世界』での行動を悔いて改めている者がいる以上、その罪までは問うべきではないな。彼女の気高き死が真実である以上、侮辱するような真似はよそう」
米田の言葉に、太正会の面々が頷く。
「そうだな、問題は今の行動に限定するべきか。火車と木喰たちの所業は間違いないのだな」
「はい、それは間違いありません。しかし、火車は京極と同様の事も企てております」
「まさか!?」
「はい、残ったブラック派将校を自分の下に集めてクーデター『太正維新』の再来を狙っています」
加山の報告にどよめく太正会。
「一度クーデターが始まってしまえば、被害は大きく、収めるのは困難になるか」
「はい、調査をこれ以上引き伸ばすのは危険です。今であれば、憲兵隊と我々のみで済みます。現時点で集めた証拠のみでもブラック派はクーデター参画と言う大罪で捕らえる事が出来ます!」
「分かった」
米田と山口、そして花小路が頷く。
「今から我々は御前会議を行い、クーデター鎮圧の命を出して頂く。加山、お前は命が降り次第、憲兵隊と共にブラック派、いや火車たちを根こそぎ捕らえるのだ!」
「はい!!」
「『太正維新』を、過ちを繰り返してはならない!!」
そして、彼らは動き出す。
過ちを再び繰り返させないために。
説明会。