艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十五話 4 現れる深海棲機、そして……

通信終了後、有明にて研究所の資料を受け取った永井司令官は、渾作戦で動員されなかった艦娘から研究所制圧のための艦娘として2艦隊分の艦娘を選出した。

内訳は以下の通りである。

 

第1艦隊:陸奥 龍驤 妙高 那智 由良 天津風

第2艦隊:伊勢 雲龍 阿賀野 能代 矢矧 曙

 

資料によると、研究用として運ばれた深海棲艦は駆逐、巡洋艦が殆どで空母、戦艦級はない。

だが、万が一の事も考え永井は戦艦、空母も艦隊に選出した。

彼女達は有明に到着した陸軍の兵士運搬用トラックに載せられて、郊外の研究所へと向かっていく。

トラックに載せられた彼女達の表情は硬いが、それは仕方がないだろう。

港湾に作られた要塞などとの戦闘・訓練はこなしているが、陸上で行う戦闘はやった事がない。

 

「大丈夫です、艦娘の皆さん。研究所から深海棲艦が出てこない限り皆さんの出番はありません。待機スペースでコーヒーでも飲んでいて下さい」

 

不安に駆られる押し黙る艦娘たちの表情を見て、陸軍の兵士が声をかける。

 

「あらあら、そんなことしてていいのかしら?」

「ええ、構いませんよ。こちらこそすいません、こんな陸の上での治安維持にあなたたち艦娘をお呼び立てして。本当は私達だけで片付けるべき案件ですのに」

「いえ、深海棲艦が現れてしまったら、そちらの火器では有効打は与えられないわ。確認できたら速やかに呼んで下さいね」

「ええ、その時はお任せします」

 

と、陸奥はとある兵士と会話をしていたが、会話が一段落したらその兵士は周囲の兵士に「くそう、俺も艦娘に話しかけたかったのに!」とか、「先を越しやがって!!」などとからかわれていた。

どうやら兵士側が沈黙していたのは、想像以上に可憐な艦娘の容姿に圧倒されていただけらしい。

その事に気が付いた艦娘たちの緊張が和らいでいく。

 

「兵士さん、気を使わせてしまってごめんなさい」

「いえ、あなた達のようなたおやかな女性と接する機会はなかなかないものでして、英雄殿が羨ましいですな」

「でも隊長さんはそれだけのことを、自ら傷つきながらもやり遂げた人ですから」

「ええ、W島の奪還、AL/MI作戦の成功、そして欧州の開放、もう歴史に名を残すレベルの業績ですよ。うちの娘などは『英雄さんのお嫁さんになる!』などと言い出して困ったものです」

 

思わず笑みがこぼれる由良。

 

「あら、可愛いですね。でも、残念ですけど隊長さんはあげませんよ」

「ははは、そういわれると思いましたよ」

 

会話をしていると、トラックが研究所近くに到着する。

トラックから降りる艦娘と兵士達。

 

「ここからは何があるか分かりません、念のため皆さんには艤装の展開をお願いします」

「ええ。みんな艤装展開、いいわね?」

 

そう言うと、陸奥に続き艦娘たちはその身に艤装をまとう。

艦娘たちの意識も戦場に出たときのものと等しく、引き締まったものとなる。

 

 

 

その様子を研究所内の火車と木喰――矢波博士がモニターで眺めていた。

 

「火車、わしの計算通り艦娘共が来よったわ」

「そのようですね、木喰。では……」

「ああ、わしの開発したもの達の出番のようじゃな。ああ、まずは挨拶をせんとな」

 

そして外部に向けたスピーカーのスイッチをONとする。

 

『よく来た、艦娘の諸君! ワシが研究所の総括をしておる矢波博士じゃ! して何の用かの?』

「矢波博士! あなたと関海軍中将をクーデター首謀者として逮捕する! 研究所は既に陸戦隊に包囲されている! おとなしく投降を!!」

『うるさいのう、貴様らのような陸軍の雑魚共には用はない! 数だけ集めてもムダじゃ』

「なっ!?」

 

陸軍をコケにした矢波の発言に、激昂する陸軍たち。

 

「私達の目的も同じよ! 深海棲艦を使って怪しげな研究をしていたみたいだけど、そんなものはムダだって教えてあげるわ!」

『ほう、言うのう、艦娘が! なら、試させてもらおうかの』

 

矢波の言葉と共に研究所のシャッターが開かれ12隻の深海棲艦が現れる。

すべての頭部にアンテナユニットが埋め込まれている。

 

『深海棲艦としての自我を奪った木偶じゃ、まずはこいつから試させてもらうぞ』

 

だが、すべては駆逐艦だ。

機械的に強化された形跡もない。

 

「バカにしないで! 陸軍の皆さんは下がって下さい! 私達が相手します!!」

「分かった、頼む!」

 

下がった陸軍の変わりに前に出る艦娘たち。

 

「警備府襲撃の際に行われた暁たちの陸上戦レポートは見たわね? 私達は陸上で動きながらの砲撃戦は向いていないから、固定砲台として撃滅するわよ!」

「「「はい!」」」

「各艦、目標合わせ……撃てーっ!!」

 

大神の加護により底上げされた砲撃は、たった一撃で駆逐艦たちを吹き飛ばす。

 

「すごい、これが艦娘……」

 

戦車砲でもロケットランチャーでも有効打を与えられなかった深海棲艦を、一度の砲撃で難なく撃破する艦娘に驚きの声を上げる陸軍。

だが、矢波博士にとっては想定の範囲内だったらしい。

 

『さすがじゃの、自我を奪った程度の深海棲艦では手も足も出ないか、ならこちらはどうじゃ?』

 

再び研究所のシャッターが開き、今度は12隻の軽・重巡洋艦が現れた。

先程のものとは異なり、頭部のアンテナユニットの他にも腕や身体、足のあちこちが機械化されている。

深海棲艦なりに保たれていたデザインは歪に崩れ、その動きも生物離れしたものとなっていた。

 

「これは……」

 

敵とは言え、歪に改造された姿に哀れみを覚える艦娘たち。

 

『ふはは、さっきのようにはいかんぞ、艦娘。これこそがワシの開発した新兵器! 『深海棲機』じゃ!! 機械的に強化されたその能力は従来の深海棲艦を大きく上回る、量産も可能! これさえあればもう艦娘など無用の長物じゃ! さっきの様にはいかんぞ!!』

「ガ……ギ……」

 

その砲口が陸奥に向けられ、そして放たれた。

 

「陸奥さん!?」

 

砲弾は陸奥に直撃し、炸薬の煙が陸奥の姿を覆い隠す。

 

『はっはっはっはっ! 見たか、戦艦さえも打ち破る深海棲機の力を!』

 

自らの研究成果が成し遂げた成果に興奮する矢波。

しかし、陸奥の姿を隠していた煙が消え去ったとき、そこにあったものは――

 

『バカな……無傷じゃと…………』

「あら、無傷ではないわよ。髪が汚れてしまったし、肌も煤けてしまったもの」

 

それはもはや傷の内には入らない。

 

『そんな、計算と違うぞ! お前たち戦艦の装甲でも深海棲機は撃ち抜けるはずじゃ!!』

「そうね、昔の、誰も信じられなかった私だったら大怪我してたかもね。でも、今は違うわ! 大神さんが居る! 大神さんを信じることが、大神さんを想う事が私に力をくれる! そんな歪な機械化した程度では今の私は倒せないわよ!!」

『ぐぬうううぅっ! また、大神か、ワシの計算を狂わせるのは!!』

「全艦一斉射撃! あんな歪なもの葬るわよ!!」

 

再度全艦による砲撃が行われ、矢波自信の作品であった深海棲機をも一撃で葬り去る。

 

「で、あなたの切り札はこれで終わりかしら? あらあら、この程度でオシマイなの? もう勝てないって分かったのならおとなしく投降したら?」

『くっ、ぐぬ……仕方あるまい、こちらの方を出すとするか』

 

再度研究所のシャッターが開かれる。

しかし、今度は3体しか居ない。

歪な体である事は先程同様だが、先程よりもかなり幼く見える。

そして全員が仮面を被っている。

 

「もう、無駄って分かってるでしょ? 深海棲機は私達艦娘に勝てないって!!」

『それは認めるしかないようじゃな。だが、まだ時間は必要なんじゃ。稼がせてもらうぞ』

「しょうがないわね、みんな、目標合わせ……」

『ほう、これを見ても、おぬし達艦娘に彼女達が撃てるかな?』

 

矢波の言葉と共に3体の深海棲機の仮面が落ちる。

そこから見えたものに、艦娘全員が凍りついた。

なぜなら仮面の内側に隠されたものは、

 

「オトシタイ……こんなの、オトシタイヨ……」

「「「時津風!!」」」

 

腕が持ち上がらないほど、巨大な砲塔を直接取り付けられた時津風。

 

「クビ……クビ……クビ……、こんなクビ……いやぁ……」

「「「初風!!」」」

 

首を切断され360°回転できるように改造された初風。

 

「ビャアァァァ、カタメガ……カタメガ、ないっ!」

「「「酒匂!!」」」

 

片目を抉り出され、チューブを突っ込まれた酒匂だったからだ。

それは全員研究の際に死亡し、海葬された艦娘だった筈。

いつかは大神が救ってくれると、また会えると信じていたのに、何故こんな事に。

 

『ひゃーっはっはっはっ! 艦娘に撃てるかな? 機械的に強化された元艦娘、『機艦娘』を!!』

 

矢波博士の笑い声が艦娘たちを打ちのめそうとしていた。

 

 

 

 

 

深海棲機:全能力+40




さて、反応が怖くなってまいりました。

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