艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第三話 3 暁を追って

暁を追いかけ保健室を飛び出す大神。

横に振り向くと、暁は酒保の方へ走っていた。

天龍たちと話している間にその姿は大分小さくなってしまっている。

 

「暁くん!」

 

暁を呼びながら大神は後を追って走り出す。

 

「暁くん、待ってくれ!」

 

だが、暁は大神の言葉に反応した様子が見えない。

そのまま走り続けて先の角を曲がる。

曲がった先で程なくして大神は暁を見失った。

 

「暁くん、どこに?」

 

酒保の方に行けば、明石が暁を見かけているかもしれない。

そう考えて大神は酒保へと向かった。

 

 

「あ、大神さん、今さら何のようですか?」

「大神隊長、急いでるみたいですがどうしたのですか?」

 

酒保にはいつもどおり明石と、何かを買いに来たのか神通の姿があった。

明石は、先ほど酒保をスルーした事で拗ねているようだ、扱いが悪い。

だが、今は明石の機嫌を直すことよりも重要なことがある。

 

「暁くんがこちらにやって来なかったかい?」

「いいえ、来ませんでしたけど」

「私も見かけては居ませんが、大神隊長」

「そうか、手間をとらせてごめん」

 

完全に見失ったか。

大神は暁を探すため酒保を後にしようとする。

 

「大神さん、暁ちゃんに何かあったんですか?」

 

大神の様子に平常ならざるものを感じ取ったらしい。

明石も佇まいを直し、大神に向き合った。

 

「ああ、実は――」

 

いずれ響が目覚めたことは分かるだろう。

ならばと大神は考え、二人に話し始めた。

 

 

「そうだったんですか……」

「6駆のみんなは建造されたことないし、響ちゃんが沈むまでずっと一緒だったから、知らなかったのね」

 

大神の話に表情が沈む二人。

 

「あ……でも、それなら暁さんたちが行きそうな場所に心当たりがあります」

「神通くん、本当かい!」

 

大神は神通の手を握り締める。

 

「あ……え、はい、本当です。……だから、手を……」

「神通くん、ゴメン!」

 

大神に手を握られて、神通が顔を赤くする。

慌てて、大神は神通から手を離す。

 

「それで、暁くんが行きそうな場所は?」

「ええ、それはですね……」

 

神通の話を聞いて、大神は再び走り酒保を後にした。

 

「大神さん。暁ちゃんのために、あんなに一生懸命」

「そうですね……」

 

そんな大神の後ろ姿を二人は優しい目で見ていた。

 

 

 

 

 

「ひっく……ぐす……」

 

暁は港湾施設の先、埠頭の先端に腰掛けて涙を流しながら海を眺めていた。

艦娘にとってある意味故郷でもある、海。

叱られた時のように海を見ていれば気持ちが落ち着くかと思ったのだ。

でも、そんな事は全くなかった。

 

「ふぇぇ……」

 

叱られた時、この場所から海を見たときも6駆はみんな一緒だったのだ。

あの時とは違う、あのときの響はもう居ない。

 

そう考えるだけで涙が止まらない。

 

「暁くん」

 

後ろから、自分を呼ぶ声が聞こえる。

だけど、ダメだ。振り向く気すらおきない。

 

「暁くん」

 

再度自分を呼ぶ声、そして、肩に置かれる大きな手。

ようやく暁は振り返るとそこには大神の姿が居た。

自分を探し続けていたのだろうか、軍装は乱れ息を切らしている。

だが、暁を見つめる表情はやさしい。

 

「隊長……」

 

縋りたかった。

そう考えたら、止まらなかった。

暁は大神の胸に飛び込み、再びポロポロと大粒の涙を流す。

 

「隊長……!」

 

大神の大きな手が頭をなでている。

 

「すぐ……泣き止むから……もうこどもじゃ……」

 

涙混じりにいつもの言葉を零す暁。

だが、大神の手は止まらない。

 

「いいんだよ、暁くん、子供とかは関係ない。悲しいときは泣いていいんだ」

「うぅ……」

 

大神の服を握る手の力が知らず、強くなる。

 

「うわあぁぁん!」

 

そして、暁は大神の腕の中で泣くのだった。

泣き疲れて眠りに落ちるまで。

 

 

 

 

 

「え?」

 

暁が気がついたとき、既に夕暮れだった。

開けた窓から夕日が差し込み、潮風が髪をくすぐる。

 

港に居た筈がどうして、と疑問に思い周りを見ると、駆逐艦寮の6駆の、自分たちの部屋だった。

雷、電の姿が傍に居る。

そして、天龍と川内、大神の姿も。

 

「暁くん、目が覚めたようだね」

 

目覚めた暁に気がついた大神が声をかける。

 

「隊長、私、港にいたはずなのに」

「ああ、暁くんが疲れて眠ってしまったから、風邪を引かないように部屋に運んだんだよ」

「お姫様だっこだったよ、よかったね、レディ扱いしてもらえて」

 

「え? 隊長、ありがとう……」

 

赤面しながら、お礼を言う暁。

心の中にあるものを吐き出して、暁も少し気力が出たらしい。

大神たちは少し安心する。

 

「電、雷もゴメンね、お姉ちゃんなのに」

「いえ、いいのです」

「私たちも泣いちゃったし」

 

起き上がろうとした暁の手をとる、電・雷。

 

「響は?」

「響は今、明石が検診しているぜ。初めてのケースだから、数日かけて診断するみたいだ」

「それが終わったら保健室から出るわけだけど……この部屋はキツいよね?」

 

6駆の声が止まる。

 

「……ううん、私たち4人で6駆なんだもん。同じ部屋でも大丈夫……響の記憶がなくても」

 

やがて、絞り出したような声で暁が答える。

全く大丈夫そうには見えない。

 

「それなんだけど、一つ良いかな?」

 

暁の様子を見てられないと、天龍と川内が止めようとするが、大神は手で制し、話し始める。

 

「響くんの記憶、望みがあるかもしれない」


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