艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第三話 終 せめてよき眠りを

夕日が水平線に隠れだす頃、警備府港での戦いは終わりを告げた。

 

「大神さん、大丈夫?」

 

心配そうに見上げる響に大神は笑って返すが、ところどころ傷つき血の滲んだ大神を放っておけるわけがない。

とは言え、今回提督の命令でこそ対峙こそしたが、力なくしゃがみ込んでいる比叡たちも放っておけない。

 

「暁」

「任せて、響」

「隊長さん、響、お疲れ様。あとは私たちに任せていいのよ」

 

響は気心の知れた6駆の仲間に声をかける。

心得たとばかりに暁たちは他の駆逐艦たちと共に比叡たちを助けに向かおうとする。

 

だが、この状況を認められない人間がまだ一人だけ残っていた。

 

「立てよ! 俺が立てって言ってるんだよ!」

 

岸壁で地団太を踏む渥頼。絶えず比叡たちに罵声を浴びせている。

海面に膝を突きながら、比叡たちは悔しそうな表情をしていた。

 

「そこまでじゃ、渥頼」

 

と、ようやく司令部から、天龍と龍田に付き添われて司令官が現れた。

 

「司令官、外に出られても大丈夫なのですか?」

「済まん、ワシがこんな身体のせいで無理をさせたようじゃな」

 

二人に支えられて歩く司令官。

 

「分かったじゃろ、渥頼。大神少尉が如何に稀有な存在であるか」

「――くっ! ……死にかけのジジイがでしゃばりやがって」

 

流石に公に上官に対して暴言を憚られるのか声を小さくする渥頼。

 

「まともな調査機材も持ってきておらんのじゃろう。明石が調査したデータが嘘偽りでないことが分かったのなら出直すのじゃな」

 

確かに大神の成してきた事は、知らない人間から見れば嘘偽りを疑っても仕方がない。

だが渥頼は司令官の言葉に図星といった表情をしていない。

自分たちの地位を脅かしかねない大神を抹殺するためだったのか、渥頼は口にしようとしなかった。

 

「覚えて居ろよ、大神。この屈辱は必ず晴らしてやるからな」

 

そう吐き捨てると、渥頼は一人警備府を後にしようとする。

 

「渥頼大佐。彼女たちは、比叡くん達はどうするんだ?」

「知ったことか、そこらへんで適当に夜を明かしてから明日戻って来い!」

 

その言葉を最後に渥頼提督は警備府を去って行った。

 

暁たちに曳航されて、港に力なく座り込む比叡たちを残して。

 

「大神さん、そのままだと傷口が化膿しちゃいます。手当てしないと――」

 

救急箱を持って明石が大神に駆け寄る。

 

「いや、明石くん俺のことは後でいいよ。それより――」

 

大神は明石を制止すると、比叡たちに歩み寄る。

 

比叡たちは近寄る大神の様子に困惑と僅かばかりの恐怖をあらわにした。

 

相手は響とあれほど心を通じ合っていた人間。

とは言え、先程まで敵対しあれ程砲撃を浴びせ傷つけた人間でもあるのだ。

当然の報いかもしれない、けど何をされるか分からない。

 

そして、比叡たちを見下ろすまでに近寄った大神が声を発した。

比叡たちは思わず目を閉じる。

 

「狼虎滅却 金甌無欠」

 

が、大神から放たれたのは優しい光。

失った力が見る見るうちに回復していく。

 

驚きに大神を見上げる比叡たちに、大神は手を差し伸べる。

 

「命令とは言え、さっきはすまなかった、比叡くん。ここで良ければ休んでいってくれ」

「……ごめんなさい……ごめんなさい!」

 

涙を滲ませながら比叡が、山城が、次々に謝罪を口にする。

日が沈み、夕闇に染まる中のことだった。

 

 

 

 

 

そして夜の帳が下りた頃、

 

「暇だな」

 

大神は自室で暇を持て余していた。

いつもであれば警備府の見回りをする時間であるのだが、今晩は明石によってドクターストップ。

早々に休むように言われたのだが、まだ眠気は襲ってこない。習慣とは恐ろしいものである。

 

とは言え、自室で鍛錬などしたことが明石にバレたら何を言われるか分かったものではない。

就寝時間までどうしたものか、思い悩む大神。

 

「大神さん」

 

と、ドアの外から大神を呼ぶ声が聞こえる。

どうせ眠れないのだからと、大神はドアを開けて迎え入れる。

 

「響くん?」

 

それは今日買ったばかりのパジャマに身を通した響であった。

水玉模様にナイトキャップが愛らしい。

 

「どうしたんだい、こんな時間に。疲れているんだから早く寝た方が良いんじゃないかな?」

「うん、そうなんだけど……」

 

響の答えは歯切れが悪い。

何か言いにくいことがあるのだろうか。

 

「みんな早々に寝てしまったんだけど、みんなの寝息が聞こえてきたら、一人で寝るのが怖くなってしまって……」

 

無理もない。今日は響にとっていろいろな事がありすぎた。

響が寝入るまで誰かが見ているのがいいのだが、寝入った暁たちを起こすのは気が引ける。

 

「良ければ俺のベッドを使うかい? 響くんが寝るまで見ていてあげるよ」

「そんな、そうしたら大神さんはどこで寝るんだい?」

「そこの椅子で寝るさ」

 

大神の指差した椅子は、ただのデスク用の椅子だった。

間違っても寝るためのものではない。

 

「ダメだよ、それじゃ大神さんが休めない。ごめんなさい、やっぱり部屋に戻って寝るから」

「眠れないんだろう? 俺のことは気にしなくても良いよ」

 

そうは言っても、大神を椅子で寝させるなんて出来るわけがない。

しばしの間考え込む響だったが、やがて、おずおずと話し出した。

 

「そ、それじゃあ……一緒に寝てくれないかな?」

「え? 流石にそんなわけにはいかないよ。響くんだって――」

「大丈夫、だよ、大神さんなら。それに、大神さん言ったじゃないか、『俺を信じて、俺に身を任せてくれ』って」

「それは……」

「大神さんには、もう身を任せたんだもの。寝ることくらい……どうってことないよ」

 

そして、二人は一つのベッドで夜を共にするのであった。

響が寝入るのを確認すると、大神にも睡魔が襲ってくる。

そのまま睡魔に身を任せ、大神も瞳を閉じた。

 

 

しばらくして――

 

 

 

 

 

「……大神さん?」

 

 

 

 

 

「隊長……隊長さん……少尉さん……やっぱり大神さんが良いかな」

 

 

 

 

 

「……聞こえてないよね? 大神さん?」

 

 

 

 

 

「大神さん……  ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、比叡たちを見送って、しばしの平穏を取り戻した警備府。

 

だが、事態は絶えず揺れ動いている。

 

 

 

やがて、一通の、大神宛の命令書が届くのであった。

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

研究部隊からの出頭命令を受ける大神さん。

私たち艦娘の心配をよそに、大神さんはお土産を約束して警備府を留守にした。

訓練に身が入らない私たち。神通さんの叱咤もどこか元気がない。

そんな中、警備府を訪れる一人の軍人。

大神さんと思って迎えた私たちの前に現れたのは――

 

次回、艦これ大戦第四話

 

「彼の居ない警備府」

 

暁の水平線に勝利を刻むよ。

 

 

「Я хочу встретиться(会いたいな)」




昨日の合体攻撃で精神的に疲れてしまったので今日は短めです。

次話は少し間を空けることになるかと思います。
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