艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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説明会となります。


第四話 3 その名は『太正会』

「米田司令!」

 

扉を開けると同時に師の名を呼ぶ大神。

珍しく感激を表情に表している大神だったが、米田はそれをやんわりと留める。

 

「残念だが、大神よ、今ここにゃ華撃団はないんだ。お堅い話だが米田司令じゃなくて米田閣下と呼んでくれないか」

「分かりました、ということは米田閣下は陸軍中将と言うことで宜しいのでしょうか?」

 

大神の問いに、米田は被っていた帽子を恥ずかしそうに直す。

 

「……ちげーよ。こういうのも自慢になっちまったみたいで嫌なんだが、今の俺はよ、陸軍大臣なのさ」

「大臣!ですか」

「ああ。おかげで、お前の731部隊への献体命令なんてバカな情報を掴むのに時間がかかっちまった。よくねーな、現場から離れると」

「正直焦ったよ、大神くん。君の存在が失われてしまうんじゃないかとね。その為、急遽新規命令をでっち上げさせてもらったよ」

「大神君、君の存在は今のこの世界において、必要不可欠なものなのだ」

 

「山口閣下、花小路伯爵……」

 

周囲からかけられる声に、大神はようやく周囲を見渡す余裕が出来る。

高級な絨毯が敷かれ、荘厳な執務机に座る花小路伯爵、その左右に米田と山口が座っていた。

 

「それに、今の世に華族は存在しなくてな、私は正真正銘ただの政治家だ。伯爵呼びはやめてくれないかな?」

「失礼しました 花小路……閣下で宜しいのでしょうか」

「何いってんだよ、お前さんが今の日本のトップだろ。花小路 頼恒……内閣総理大臣閣下」

 

「!?」

 

大神は驚き、一歩踏み下がろうとする。それを後ろから押し留める一本の手。

 

「何やってんだよ、大神、驚くのは未だこれからだぞ」

「加山!? お前までここにいるのか?」

「俺たちだけじゃないぞ。今日はな、『太正会』の会合の日なんだ。だからな――」

 

隣の部屋から幾人かの人が現れる。

 

「ようやく来たか、大神少尉、待ちわびておったぞ」

「神崎 忠義会長……」

「無事で何よりだ、大神くん」

「迫水大使……」

「元気そうね、大神くん」

「かえでさん……」

 

全て大神が知る人たちだ。

華撃団の総司令を継いだ後、個人的な交友を結んだ人たちでもある。

警備府での日々が、戦った深海棲艦の存在がなければ、大掛かりな悪戯を疑ってもおかしくない。

 

「あと、常任メンバーじゃないがフランスにイザベル・ライラック大統領が、アメリカにマイケル・サニーサイド財閥会長が――」

「そして、この場に現れる事は出来ない方が一人いらっしゃる」

 

総理大臣でさえいるこの場に現れられない方とは誰なのだろうか。

一瞬疑問に思う大神だったが、

 

「あとは――」

 

現れた次の人物達に大神は顔を強張らせる。

なぜなら彼らは、

 

「真宮寺 一馬大佐……」

「またこうして会うことになろうとはな、大神少尉」

 

『武蔵』の内部で鬼王として死闘を演じたさくらの父親、真宮寺一馬。

 

そして、

 

「あ……や……め……さん?」

「コラ、大神くん。そんな呆けた顔しないの」

「あやめ……さん」

 

呆けた大神の額を、かつてそうであったようにつつく。

喪われれた筈の、助けられなかった筈の女性。

藤枝あやめの姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

「!?」

「響ちゃん、大丈夫?」

 

気を失っていた響がおもむろに起き上がる。

響を介抱していた電たちは喜ぶが、響は言いようのない不安を感じていた。

 

「なんなんだろ、この気持ち……」

 

「なんなんでしょう、不安な気持ちが止まりません」

「レ、レディーはこんな気持ち持たないんだからっ」

「大神さん……」

 

明石、暁、睦月が胸に手を置いて同じく不安を露にしていた。

いや、これは――不安じゃなくて――

 

 

 

 

 

「すまないが、家内に色目は使わないでもらいたい。大神少尉」

 

呆けて藤枝あやめを見やる大神にかけられる声、大神は慌てて振り返り叫ぶ。

 

「お前は! 葵叉丹!!」

 

さすがにこの場で抜刀は出来ないが、神刀滅却に手をかけ臨戦態勢を取る大神。

が、葵叉丹いや、山崎 真之介は一切戦う気を見せない。

怪訝に思う大神をあやめが制止する。

 

「待って、大神くん。この人は葵叉丹じゃないわ。山崎 真之介っていって――」

「確かに以前その名を使って、君と対峙した事はあった」

「やはり!」

 

「だが、今の私は人に絶望していない。妻も居る。深海棲艦もいる中、世を荒らすようなことはしないと、約束しよう」

「大神、心配するのは分かる。だがな、俺が保障する。こいつは俺の、俺達の仲間なんだ。だから剣を収めてくれないか」

「米田閣下……分かりました」

 

米田の声に応え、構えを静める大神。

一度張り詰めた緊張感が緩和されていく。

 

「っと、雰囲気が乱れちまったが、大体分かっただろう? コレが『太正会』だ。もともとあの時代に居たはずのメンバーの互助会みたいなものさ。もっともみんな出世して、元号が『太正』に変わっちまって、秘密結社みたいになっちまったがな」

「皆さんはどうしてここにやってきたんですか?」

「まちまちだな、一馬やあやめくん、山崎、それに俺たち年寄りは死んで気が付いたらここに居た。おまけに気付いたら若返ってやがる、苦労もしたもんさ」

 

米田が大げさに肩を竦める。

確かに自分も警備府に着任早々いろいろな事があった。

 

「それにここに来た年代もまちまちだ、お前の警備府の司令官が居ただろう?」

「はい、それが――まさか!?」

「そう、あいつも太正会の一員なんだよ。しかも、もともとは華撃団ファンで『伝説のモギリ』大神ファンの少年だったんだ」

「なんですって?」

「大神が華撃団の隊長と知ったときは相当びっくりした上で嬉しそうにしていたぞ、あいつ。まだお前が『こっちにきた』大神か分からない状態でもぜひ自分の隊に迎え入れたいと頼み込んできたんだからな」

「そうだったんですか……」

「今度酒でも酌み交わしてやるんだな、あいつも喜ぶぜ」

「はい」

 

「おっと、話が脱線しちまったな。大神、お前が帝國華撃団総司令だった大神なのは間違いないよな」

「はい、間違いありません」

 

米田の問いに大神は大きく頷く。

 

「それじゃ聞くが、大神。お前、この世界での記憶はあるか?」

「記憶ですか? ええ、深海棲艦と戦って警備府で過ごした記憶なら――」

「そうじゃねーよ。お前が生まれて、士官学校を卒業するまでの記憶だよ」

「それは――」

 

ありません。と答えようとした大神の脳内を記憶の奔流が流れていく。

脳が耐えられないほどの情報に流され、大神は気を喪いそうになるが必死に耐える。

 

そして大神は思い出す。

 

正義を示す男になると剣を振るっていた子供時代、

深海棲艦があらわれ、海軍将校、提督となることを志したことを、

そして仕官学校時代、艦娘との仕事のやり方を学ぶ際、仲良くなった艦娘が居たことを。

ブラックダウン発生以前、一部の士官学校生から過激な悪戯をされていたその艦娘を守り続けるうちに恋心を告白されたことを。

 

『提督さんになったら、必ず私の事呼んでくださいね、うふふっ。ずーっと、ずっと待ってますから』

『鹿島さん――』

『ダメですよ、提督さんになったら私のことは呼び捨ててくれないと、ほら練習してみてっ』

『鹿島――くん。ごめんなさい、これが限界です』

『うふふっ、しょうがない大神くん。でも……そんなところが、好きっ』

『うわぁっ、ダメですって鹿島さん。こんなところ見られたりしたら――』

 

 

 

 

 

「響ちゃん、怖いよ? 大神さんはきっと大丈夫だから――」

 

響、明石、暁、睦月ははっきり言ってムカムカしていた。

電の声にも反応しない。

 

「「「「大神さん……」」」」

 

 

 

 

 

膝を突いて大きく呼吸を繰り返す大神。若干顔が赤いのは鹿島のことを思い出してしまったせいか。

 

「どうやら、思い出したみたいだな。危なかったんだぜ、大神よ」

「どういう……ことでしょうか?」

「これは推測だが、俺たちはこの世界の俺たちに乗り移ったようなもんだ。記憶の整合をしておかないと、二つある記憶の齟齬に脳がやられちまうんだよ」

「脳が?」

 

先程一瞬気を喪いそうになったが、それ以上の負荷がかかるということか。

 

「ああ、俺も一時期やられちまってな、しばらく廃人みたいになっちまった。その経験談だよ」

「そうでしたか、ありがとうございます、米田閣下」

 

呼吸を整えた大神が立ち上がる。

 

「よし、もう大丈夫みたいだな。じゃあ、本題といこうか――」

 




要望があればですが閑話で士官学校の鹿島編あるかも。

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