艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第四話 7 光武・海 起動!

翌朝、日が開けた直後の横須賀鎮守府。

自主的に訓練を開始する艦娘たちの声もまだまばらだ。

本格的な稼動には幾ばくかの時間が必要となるだろう。

 

そんな中、演習場近くの岸壁には山崎真之介率いる技術部の面々と大神の姿が居た。

藤枝改め山崎あやめ、山口海軍大臣の姿もある。

 

「大神くん、自分が居なくなった後の君たち花組の活躍は米田さんから聞いている。都市エネルギーを利用した霊子甲冑天武でさえも上回る戦闘力・戦闘結果を光武で成し遂げたということも。だからこの光武・海も基本コンセプトは光武と同じく霊力変換効率の最大化を狙っている」

「はい」

 

戦闘服に着替えた大神は霊子甲冑を装着していく。特に脚部の固定には気を使っているらしく足を入れると自動的にフィットするようになっていた。

腰部の霊子核機関とタービンもかなり広い面積で固定するようになっている。

 

「君の霊力が高くなればなるほど、光武は力を発揮できるはずだ。あと、君の触媒と言う霊力の特質上、艦娘と心を通い合わせることで君と艦娘の力を上昇させられるということだったね」

「はい、その通りです」

「まだ開発中だが、将来的には艦娘と深く心を通い合わせることでより強く力を上昇させられるように機能を追加する予定だ。装着は完了したかね?」

 

何度か手を握り締め、試しに歩いてみようとする大神だったが、篭手と具足の重量感は思ったよりあり動きが鈍い。

 

「ちょっと気が早いぞ、大神くん。光武・海の霊子核機関はまだ始動していない。今のままではただの重い装備一式だよ」

 

どこか気が逸っている大神に苦笑する山崎。

気が逸っていた自分に気が付き、大神もつられ苦笑した。

 

「失礼しました。大神一郎、光武・海の装着完了しました!」

「よし、では先ず起動試験を始める。技術部は計測準備を、妖精さんは大神君のサポートを!」

「妖精さんですか?」

「ああ、この光武・海も艦娘の艤装と同じく工廠で作られたものだからね。妖精さんが宿っているのだよ」

 

山崎の言葉に応え、光武・海の腰部ユニットから妖精さんが現れ大神の肩に上った。

 

「ヨロシクヨロシク」

「ああ、よろしく頼むよ」

「妖精さんのサポートで光武・海は最大2日以上の安定した戦闘起動が出来る計算だが……そこは実測した方が早いな、大神くん起動を頼む!」

「了解しました。大神一郎、光武・海、起動します!」

 

聞いた手順の通り、腰の前で手を交差させて霊力を高める。

 

「リョウシカクキカンキドウ キドウ」

「霊子核機関、起動成功しました!」

 

はじめてみる霊子核機関の起動に技術部の面々が沸き立つ。

 

「みんな落ち着きたまえ。大神くん、起動状態はどうだい? 霊的な負荷は?」

「問題ありません。光武二式を起動させているときより楽なくらいです」

「装備の重さは?」

 

言われ、大神は手を握り締めたり、歩いてみたり、その場でジャンプしてみたりする。

装備の重さは驚くほど感じられなかった。

 

「まるで感じません、生身で動いているかのようです」

「よし、重力低減も慣性相殺も予定通り機能しているようだ、続いて最大出力の確認を行う! 大神くん限界まで霊力を高めてくれたまえ!」

「了解です!」

 

必殺技を放つときの要領で霊力を高めていく大神。

 

「部長、すごい数値です! こんな数値初めて見ます!!」

「スゴイスゴイ」

「いや、彼ならもっと高い数値を叩きだせる筈だ。大神くん、実際に必殺技を撃ってもいい、最大まで霊力を!!」

「分かりました!」

 

山崎に応えながら神刀滅却、光刀無形を抜刀する大神。

一瞬いくつか技の候補が頭を駆け巡る。が、大神はこの一つを選ぶ。

光武にサポートされた大神は人には不可能ほど天高く舞い、雷撃を帯びた一撃を繰り出す。

 

「狼虎滅却 無双天威!!」

 

以前生身で放った時が一条の雷だったとするならば、此度の一撃はまさに轟雷。

雷撃が空気を切り裂く轟音が鎮守府中に響き渡る。

 

「信じられません……かなり余裕を持って計器を持ってきたのに、計測限界ギリギリです部長、こんな数値を人が出せるのですか?」

「ああ。しかし、大神くん……」

「はい、何でしょうか?」

 

二刀を納刀しながら、振り返る大神。

 

「もう少し音の小さい技はなかったのかね? コレでは多分――」

 

鎮守府中が騒ぎ出しているのが分かる。

先程の無双天威の雷撃の音を爆撃音と勘違いしてしまったのかもしれない、一悶着ありそうだ。

 

「失礼しました! 威力の高い技と言うことで考えていたら自然に……」

「私も神威でその技を受けたから、威力が高いのは分かるのだが……」

「まあまあ、二人ともそこまでにしておきなさい。鎮守府の面々には私から説明しよう。光武の試験を続けたまえ」

 

こうなることを予想、いや期待していたのか楽しそうに二人のやり取りを止める山口大臣。

顔を赤くしてこちらに向かってくる鎮守府の責任者に、説明しに行くのであった。

 

「大神くん、基本性能の調査が終わったら水上戦性能も続けて試験するからね。時間はいくらあっても足りない、覚悟しておいてくれ」

「勿論です、覚悟は出来ております!」

「いい返事だ。みんな、今日中に基本性能と不備を全て洗い出すぞ!」

「「「了解!」」」

 

山崎の声に技術部スタッフの威勢のいい声が帰ってくる。

机上の空論と思っていた霊子甲冑を実際に動かす人間を見て、そして想像以上の性能を見て、気勢が上がっているらしかった。

 

 

 

 

 

一方、早起きして自主訓練に勤しんでいた第七駆逐隊は地上での光景を見ていて呆然としていた。

 

「何よ、あれ……」

 

4人を代表して曙が驚きを口に表す。

 

「あー。あれってうわさの大神少尉じゃない?」

「……うわさの大神少尉? それってなんですか?」

 

思い出したとばかりに噂に詳しい漣がポンと手を叩く。

逆に引っ込み思案な潮は、さっきの轟雷ですっかり怖がってしまったらしい。朧の影からちらちらと地上を見やっている。

 

「ほら、この間警備府が深海棲艦に襲われたことがあったでしょう」

「あったわね、それがどうしたのよ」

「それを救ったのが、着任したての大神少尉ってわけなのさー」

「フン、そんなの私達の犠牲を問わず突撃させれば、誰だって――」

 

作戦成功のために捨て艦として、死ぬことを強要され出撃していった仲間の悲壮な顔が思い出される。

それなのに、提督はこういったのだ。

 

『一隻で済んだのか、燃料弾薬のためなら二隻とも沈んでくれた方がよかったんだがな』

 

あの時、潮が止めてくれなければ、提督の顔をぶん殴り、同じように捨て艦にされていたはずだ。

そうしたら、潮を提督達から守れなくなる。

 

「うん、だからあくまで噂話なんだけどね――」

 

そして、漣は横須賀鎮守府の艦娘の間に流れている大神の噂話を始める。

 

 

――人でありながら、艦娘に劣らない一撃を繰り出せること。

 

――傷ついた艦娘を癒すことも可能なこと。

 

――艦娘を庇い、上官に殴られたこと。

 

――着任早々、負傷した司令官に代わり司令官代理となり、戦艦を含む敵大艦隊を殲滅したこと。

 

――鎮守府近海の海域の深海棲艦を掃討し、一部とは言え海を完全に取り戻したこと。

 

――そして、艦娘を一人たりとも沈めることなく、それらを成し遂げたこと。

 

 

「だから、そんな人がウチの提督になってくれればいいのにねって話」

「何よ、それ。そんな完璧超人、現実に居るわけないじゃない」

 

バカじゃないのと、曙は呆れてみせる。

 

「まーねー。漣も全部は本気にはしてないよ、でもさ、話半分だけでもそんな人が居てくれたらって思ってもいいじゃない」

 

珍しく自嘲するかのような表情をする漣。

この期に及んで、人間に期待してしまっている自分を何処かで情けなく思ってるのかもしれない。

 

「でもっ、あの人がその大神少尉だって言うのなら――横須賀に来てくれるんじゃ、そうしたら――」

「そんなの信じらんないわよ! どうせ、そのクソ少尉も真っ黒に決まってるわ!!」

 

潮の希望に満ちた言葉を否定する曙。

 

そして大神たちに視線を向ける。

 

そうすると、彼は、大神は水の上にその身一つで立っていた。

 

「え――」

 

人は水の上に立てない、それが常識だ。

 

だからこそ、海の上では艦娘は戦いと引き換えに心の安寧を得られることが出来ていた。

 

陸の上に居る限り艦娘は安息を得られることはない。

 

絶えず、ブラック提督によって怯えに満ちた生活をしなければいけなかった。

 

 

なのに、人は水の上にも立つのか。

 

私達の最後の安寧の場所さえ奪うというのか。

 

 

 

その想いが曙を突き動かす。

 

「水上戦はまだまだみたいね。海の上は、ここは、私達のテリトリーなんだって教えてやるんだから!」

「曙ちゃん、何をするの?」

「勿論とっちめてやるのよ!!」

 

威勢のいい台詞とは裏腹に、願いをこめながら。

 

お願い、奪わないで。

 

私達の安寧の場所を、最後の安寧の場所を奪わないで。

 

戦いに満ちた血まみれの生活でも構わないから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その諦念が覆ることを、

 

 

 

曙は、

 

 

 

まだ、

 

 

 

しらない。




前半、超男くさくてすみません。

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