艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第四話 8 クソ……少尉――

大神たちの光武・海の試験は地上での基本性能取得を終え、水上へと場所を移していた。

指示に従い、大神は岸壁近くの水上を動いてみせる。

 

「よし、水上歩行も通常の水上滑走も問題なく出来るようだね」

「しかしやはり変な気分ですね。水上でも地上と同じように行動できるというのは」

 

小波に合わせて軽く上下する自らの身体に違和感を感じる大神だが、無理もない。

今までは艦娘に抱きついて、初めて水上を移動できていたのだから。

 

「それが出来て初めて、人間は艦娘・深海棲艦と同じ領域に立てるからね。寧ろ、ここがスタート地点だ、大神くん。それに、光武・海はそれだけじゃないよ」

 

ニヤリと笑みを浮かべて、光武・海の次なる機能を説明しようとする山崎。

だが、

 

「ちょっとあんた達! 海の上で何してんのよ!」

 

威勢の良い艦娘の声が、それを遮る。

声のほうに視線を向けると、長髪を花の髪飾りでまとめた艦娘――曙が腕を組んでいた。

 

「提督たちから聞いていなかったのかな? 今日から数日間、演習場の一角を借りる予定になっているのだけど」

「聞いてるわ、でも、海の上を使うなんて聞いてないわよ!」

 

山口大臣が曙に説明しようとするが、曙は相対しているものが誰か知らず否定する。

大臣が僅かに困ったような表情をすると、隣に居た鎮守府の責任者がそれを察し怒声を上げる。

 

「この、バカ者が! 大臣閣下が直々に依頼された事だぞ! その程度の気配りも出来んのか!!」

「え――えぇっ?」

 

戸惑ったような声を発する曙。

自分が罵声を浴びせていた相手が誰だったのか、始めて気づいたらしい。

 

「曙、お前は前からそうだ! 身分を弁えなさすぎる、とっとと陸の上に上がれ! 念入りに修正してやる!!」

 

曙は青褪める。

知らずとは言え、大臣へ罵声を浴びせてしまった――また、殴られる。

恐る恐る陸へ近付きながら、何をされるか怯え、恐れる曙。

 

「曙ちゃん!」

 

曙が酷い目にあわされるかもしれないと気づき、7駆の面々が近付いてくる。

とは言え罵声を浴びせた相手が相手だ、言って止められる訳がない。

 

「いえ、自分も彼女――曙くんたちに海の上も借りることを言っていませんでした。自分達のミスでもあります、ですから曙くんだけを責めないでください」

 

そんな雰囲気の中、大神が責任者に頭を下げた。

 

「曙くん、だったね。説明せずに海に、君たちのテリトリーに入ってすまなかった」

 

そして、曙にも頭を下げる。

 

「え、あ、その――」

 

大神に、人間に頭を下げられ混乱する曙。

 

「いや、君たちは、大臣の命で、動いていたんだ――艦娘なんかにわざわざ頭を下げなくても」

「良いじゃないかね。これから数日間同じ演習場を使う身だ。いざこざが残るよりは良いだろう」

 

曙同様に混乱する責任者を言いくるめる山口大臣。

 

「そうだ、これから霊子甲冑の水上戦闘を考慮した調整・訓練をする予定なのだが、彼女達に罰を与えるのなら今日の相手になってもらえないだろうか」

 

付け足すように山崎が、代案を提示する。

責任者が与えようとした罰よりかは遥かに軽いが、大臣が良いといっているのなら良いだろう。

納得したように頷くと責任者は踵を返して立ち去っていった。

 

 

 

 

 

そうして、曙は、大神と対峙する。

距離は12.7cm連装砲の射程の少し外、大神の装備は二刀のみ、勝負になる筈がない。

 

「見てなさいよ、コケにされた分仕返ししてやるんだから!」

 

連装砲を構えなおし、気を引き締める曙。

対する大神は二刀を納刀したまま、抜刀すらしていない。

 

「始め!」

 

朧の合図で両者が動き出す。

曙の見立てでは両者の速度は同程度、これなら深海棲艦と対峙したときと同じだ。

 

「蹴散らしてやるわ、いっけー!」

 

大神が連装砲の射程内に入ったことを感じ、予測偏差を行った上で射撃を行う。

だが、

 

「行くぞ!」

 

咆哮と共に、大神はそこからタービンジェットを用いて急加速してみせる。

砲撃は大きく外れ、大神には水しぶき一つかかることはない。

 

「うそっ!」

 

大神は加速の勢いのまま急接近している。砲弾の再装填を待っている余裕はない。

曙は大神の急加速を加味して3連装魚雷を発射し大神の接近を妨げようとする。

 

しかし、大神はその場で跳躍すると、空中でタービンジェットを使ってこちらへと急加速する。

当然魚雷は命中することなく、空中を駆ける大神の下を通り過ぎる。

 

「なんなのよ、それ! 反則じゃない!!」

 

こちらの水上機動に対し、一時的なものとは言え三次元的機動が出来るだなんて反則もいいところだ。

三次元起動する相手ならば魚雷は全くの役立たずだ。

 

「だからって!」

 

艦娘とて、深海棲艦との航空戦のように三次元的機動を行う相手との戦闘経験はある。

大神を自分と同じ艦娘としてではなく、敵航空機と同じように考えれば――

 

そう考え直す間に大神は再度急加速する、至近戦距離まで近付かれて交差する二人。

大神の姿を見失い、曙は急ぎ振り返ろうとしたがその前に首筋に刀を当てられた。

 

「曙くん、できれば君を傷つけたくはない――降参してくれないかな」

 

大神の、その声が放たれた時点で既に決着は付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、7駆の部屋にて曙は大いに荒れていた。

 

「あーもー、ムカつく!!」

「曙ちゃん、お、落ち着いて」

 

相手の大神のことを知らなかったとは言え、初戦の完全敗北っぷりにキレてしまった曙。

大神に再戦を何度も挑み、そして光武・海の機動に慣れていく大神に一撃も当てられず黒星を重ねていった。

 

このままではマズいと思った7駆が曙の代わりに挑み、機銃を織り交ぜた戦い方を見て頭を冷やさなければ今日は一撃も当てられなかったかもしれない。

 

――それに、結局大神はその二刀を振るうことはなかった。

接近され、刀を当てられた状態での降参勧告。それが勝負の決まり手だった。

 

明らかに手加減された状態での決着。

 

 

『曙くん、できれば君を傷つけたくはない――降参してくれないかな』

 

 

「ムカつく! 何、格好付けちゃってんのよ! ただの少尉の癖に!!」

 

ぬいぐるみを壁に向かって投げつける。

黒髪の人型のぬいぐるみはどこか大神に似ている気がする、以前まではお気に入りだったのだがその一点だけで当り散らしたくなって仕方がない。

 

「曙ちゃん、ぬいぐるみがかわいそうだよー」

「だって……」

 

潮にたしなめられ、ぬいぐるみを拾うが、今までのように抱いて寝るなんて考えるだけで怖気が走る。

しょうがなく、枕の横にぬいぐるみを曙は置くのだった。

 

「でも、大神少尉強かったねー、かっこよかったねー」

「ど・こ・が・よ!!」

 

若干頬を染めた漣の言葉を念入りに否定する曙。

 

「だって結局わたしたち、大神さんに負けまくりだったじゃない」

 

『今日はありがとう、曙くん、朧くん、漣くん、潮くん』

 

本日予定していた光武・海のデータ取りが一段落して、再調整が必要な箇所を修正するために引き上げようとしたとき、大神が握手を求めてきた。

曙は「フン!」とそっぽを向いたが、他の7駆は快く応じていた。

 

「そんなことない! 明日はぜーったい二刀を抜かせてやるんだから!」

 

明日も大神と訓練することを疑っていない口調で、曙は言い放つ。

明日、大神と訓練するのが自分達とは限らないのに。

その意味に気づいた7駆の面々は苦笑する。

 

「それにさー、大臣まで居たあの場でさ、曙ちゃんを庇って頭を下げるなんてなかなか出来ないよ?」

「それはそうだけど……」

「噂は本当だったんだね、あれが大神少尉かー」

 

何処かうっとりとした表情で思いにふける漣。

曙もつられて、責任者に問い詰められ助けられた場面を思い出す。

 

 

『いえ、自分も彼女――曙くんたちに海の上も借りることを言っていませんでした。自分達のミスでもあります、ですから曙くんだけを責めないでください』

 

 

『曙くん、だったね。説明せずに君たちのテリトリーに入ってすまなかった』

 

 

「なんなのよ、なんだったのよ、あの、クソ……少尉――」

 

いつものように人間につける筈の『クソ』と言う言葉。

 

だけど、大神にそうつけるのは、少し躊躇われた。

 

何故かは、曙には分からなかった。




戦闘描写難しいですね

大神さんの水上での機動については、艦娘同様の水上滑走に加え、腰部タービンジェットによるダッシュ、ダッシュキャンセル、ジャンプ、ジャンプキャンセル、空中ダッシュ、短時間の飛行等が可能です。
一言で言えばバーチャロン・オラトリオタングラムを想像していただければ、分かりやすいかと思います。
敢えて言いますオラタンであるとw(異論は認める)

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