時は僅かに遡る。
場所は東京都江東区、東京臨海副都心の一部をなす有明に大神たちは来ていた。
近代的な建物が立ち並ぶ中、逆三角形が4つ並ぶ会議棟が印象的な東京国際展示場、いや、東京ビッグサイトの一階にて、大神たちを乗せた数台の車が止まる。
「米田閣下、確かに海にほど近い場所ですが、ここが本拠地なのですか?」
正面玄関・エントランスホールから外に伸びるペデストリアンデッキに佇み、巨大な建物を見渡しながら、大神は米田に尋ねる。
「そうだ! ここ東京ビッグサイト――いや、帝國ビッグサイトこそが提督華撃団の本拠地だ!」
「では、ここから轟雷号か翔鯨丸で!」
「いや、轟雷号も翔鯨丸も帝都防衛のためのものだ。云っただろう、『東アジア防衛思想』と」
『東アジア防衛思想』と再び聞いて、大神の脳裏にかつて巴里で展開された『欧州防衛思想』が蘇る。
同じく広範囲を守護する防衛思想。ならば――、ここにあるものは?
「では、あるのですか! リボルバーカノンが!?」
「そうだ、ある! リボルバーカノンを元に、艦娘による艦隊を瞬時展開できるようにした新兵装、九十三尺超々距離輸送砲、ビッグサイトキャノンが!! 大神、今こそ、言い放つときだ、『提督華撃団! 出動!!』と!」
「了解しました!」
敬礼を取り返事をすると、ここまで付いてきた艦娘たち、長門、武蔵、7駆を見やる。
艦娘たちの意思は、その視線で分かる。言葉で確認するまでもなかった。
「みんな、いいな! 提督華撃団! 出動!!」
「「「了解!!」」」
大神のその言葉と共に、帝國ビッグサイトに電流が走った。
『緊急警報!緊急警報! ビッグサイトキャノン展開のため国際展示場 西・東展示棟、アトリウムの方は避難してください!』
聞き覚えのある声の緊急警報と共に4つの逆三角形で構成された会議棟が4つに分断され、放射線状に大きな機械音を立てて移動する。
そして、中央部に空いた50m強の穴から砲身が天に向かって伸びる、その長さ、実に1キロメートル。
会議棟の4つの逆三角形はその向きを変え、砲身に沿う。
『ビッグサイトキャノン照準合わせ……警備府海上にセット!』
また別の聞き覚えのある声がビッグサイトに響き渡る。
そして、警備府に照準を合わせるためペデストリアンデッキは回転しながら砲身を傾けていく。
その動きがしばらくして止まる。
「これが、ビッグサイトキャノン……」
「大神! 済まないが、輸送砲弾への搭乗の自動化は未完成だ!艦娘と共に乗り込んでくれ!」
「分かりました、みんな行くぞ!」
砲身中央部に近付くと上下に分割された輸送用の砲弾があった。
近くに居た、やはり見覚えのある制服に身を包んだ少女達が、大神を手招きする。
「大神さんこちらです!」
「かすみさん、由利くん、椿くん、メルくんにシーくんまで!?」
「説明はあとでします。大神さん、ここに入ってください! 艦娘の皆さんは背中の艤装を一度解除を!」
かすみの指示に従い、大神たちは砲弾の内側に入る。そこには宇宙船のように身体を固定する器具が7人分セットされていた。
腰掛に座ると、整備員が艦娘たちの背の高さにあわせていく。
「今回ばかりは手動で悪いな、隊長さん!」
「中嶋親方も!」
やがて全員のセットが終わったらしく、上部砲弾と下部砲弾が連結される。
「ひっ」
一瞬、暗闇に包まれ潮が怯えた声を出すが、
「大丈夫だ、潮くん。俺を、俺達華撃団を信じてくれ!」
隣の大神に手を握られ、その暖かさに安心し頷く。
やがて、うっすらと明かりが点り、慣性相殺が働く。曙は何故か不満げだった。
『大神さん、準備はいいですか?』
「勿論だ!」
「大丈夫です!」
聞こえるかすみの声に答える大神、続いて艦娘たちが答える。
『了解です、司令、じゃなかった、閣下。ビッグサイトキャノン発射準備完了です!』
『よし、ビッグサイトキャノン――発射!!』
慣性相殺のおかげか、内部にかかる衝撃はリボルバーカノンより少ないもののように大神には思われた。
「隊長……」
「暁くん、遅くなってすまなかった」」
涙ぐみ自分を呼ぶ暁に視線を向け、それを背後の比叡へと向ける。
「比叡くん、暁くんから手を離してくれ」
光武・海に身を包んだ大神の言葉に反射的に手を離しそうになる比叡。
「何やってやがるんだ、比叡! お前は俺の指揮下の艦娘だろうが!!」
「違う、渥頼大佐。貴方には、いや、もう貴方達ブラック提督に艦娘を意のままに操る権限はない!」
そういいながら、大神は懐から書状を取り出す。
「本日、早朝を以って艦娘人権保護法が成立した。艦娘に対する命令に艦娘の権利を著しく侵す恣意的なものは認められない! 今のお前のような、暁くんを、そして艦娘を辱めるような行為は断じて認められないんだ!!」
「なんだと……そんなの、そんなの俺は聞いてない!」
大神の言葉に、気迫に、渥頼は一歩下がる。
現実のことと思えないのか、視線があやふやになっている。
「そして、艦娘は全て日本近海の全ての国を守る『東アジア防衛思想』に基づいた政府直属部隊『提督華撃団』の所属となる! 貴方の指揮下の艦娘はもう存在しない!」
「そんな、ウソだ! 俺の命令は元帥から金で買った正式なものだ!! それ以上の命令があるわけ――」
そこまで一気に言って、渥頼は一つの事に気づく。
「まさか――」
「そう、その通りだ」
信じられないと首を降る渥頼の問いを肯定するかのように大神は頷く。
「まさか、まさかまさかまさかまさかまさか!?」
「そう、本命令は――勅令である! これより、艦娘は大元帥閣下の下に入る!!」
「うそだうそだうそだうそだーーっ!」
大神の宣言に顔を掻き毟り首を振って否定する渥頼、皮膚が破れ血が流れ落ちる。
だが、しばらくすると、急に渥頼は笑い出す。
「ふは、ふはあはははははははははっは! この新人少尉め、勅令を偽造しやがった! 万死に値するぞ!!」
「渥頼大佐――貴方は、自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「当たり前だ、おい比叡! 大神少尉を、この大罪人を砲撃しろ! 偽造文書ごと抹殺するんだ!!」
勅令さえ――証拠さえなければ、未だ自分の思い通りになる。
そう考えた渥頼は比叡に砲撃を命じる。
「嫌よ! もう貴方の命令を聞くなんて――お断りよ!!」
しかし、命令を聞く義務がないことを知った比叡は渥頼の命令を拒絶する。
「このっ!? 比叡、お前、分かっているのか!? お前が云うことを聞かなければ金剛は――」
「ダメダメ、夜戦じゃないからって私達のこと忘れちゃー」
「金剛が何だっていうのさ、この、クソ――本当のクソ提督!!」
「な、何だってー!?」
渥頼が振り返ると、7駆と川内型3姉妹が従卒の手から金剛を取り戻していた。
「くそーっ! なら山城! 加古! 千歳! 千代田! 龍驤! 誰でもいい大神を殺せ!!」
だが、彼女達は誰一人として動こうとしない。武蔵と長門に睨まれて動けないと云うのもあるが。
「お断りや! 前から、前からずーっとこう言いたかったんや、このゲス野郎!!」
「龍驤ーーっ! この野郎、ならお前らも道づれにしてやる!」
そういうと渥頼は懐から一つのスイッチを取り出す。
「お前らには知らせてなかったが、こういう時のためにお前ら6人の艤装には爆薬が仕込んでいるんだよ!!」
「な、なんやて?」
「こんな浅瀬じゃ沈めるには事足りないが――お前らの肌を焼くには十分だ!」
驚愕する6人だったが、艤装の何処に仕込まれたか分からない状態では、取り外すこともできない。
「焼け爛れた、醜い姿になりやがれーっ!」
「渥頼大佐っ! 貴方って人はーっ!!」
しかしタービンの音ともに閃光が走る。
押そうとしたスイッチの反応がなく、渥頼は自分の腕を見て――
「ぎゃああああっ! 俺の、俺様の腕がーっ!」
渥頼の腕が、手首から先が切断されていた。
落ちようとしたスイッチをキャッチする大神は持ち歩いていた3本目の刀、天龍の刀を振り下ろす。
刀についていた血糊が地に吹き散らされる。
「組織を潰さず両断しました。縫合すれば、その手は問題なく使えるはずです」
「大神はん――」
「渥頼大佐。艦娘保護法違反、勅令の無視と隠滅、そして、艦娘爆破未遂の罪で捕縛します! 憲兵!!」
大神の声に応え憲兵達が渥頼を取り押さえていく。
勅令の隠滅、艦娘の爆破を図ったとあっては重罪は免れない。
もう艦娘は安全だ。
そこまで考えて大神は一つ溜め息をついた。
ビッグサイトキャノンの名前及び展開形式、我ながらめちゃくちゃやっている自覚はありますが、これこそミカサから連なるサクラ大戦の様式美www
なんで、サブ組は年齢そのままなのかって? サブだから問題ないのじゃ。
あと九十三尺砲が着水したら衝撃、水飛沫はそんなもんじゃねーだろーというツッコミもなしでお願いします。
中に華撃団が乗っている輸送砲だから衝撃を和らげる構造になっているんです。
最後に活動報告でも書きましたが、明日から土曜日まで不在となるため次の更新は日曜日頃となります。