艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第五話 4 道中いろいろ

電車は街を離れ、ガタンゴトンと音を立てて走り続けている。

街中のみんなの見送りに涙した艦娘たちであったが、電の、

 

「たい焼きがちょっとしょっぱくなっちゃったのです、でも美味しいのです」

 

と言った一言に促されて気持ちの整理をつけようと、

涙目のまま風景を見たり、

渡されたたい焼きを食べきったりしていた。

 

しかし始発列車の車内に数多くの乗客、通常であれば駅弁を売りに来る人間もいるはずだったが、誰を乗せた列車なのか分かっているのだろう。

艦娘たちの車両に売りに来る車内販売、駅にて駅弁や駄菓子を販売している人間のすべてが、

 

「みんな、ありがとうね。頑張っとくれよ」

 

と、お茶を、駅弁を。

 

「私らはもう大丈夫。だから! 日本を、世界を頼むよ!」

 

と、商売度外視で駅を越す度に思い思いの品を手渡してくる。

 

「皆さん、悪いのです……」

「皆さん、気にしないで下さい」

 

その度に涙目になる電の代わりに、途中から大神が対応しようとするが、

 

「良いんだよ、隊長さん! 私達が好きでやってる事なんだ。旅立つあんた達相手に商売なんかできるわけないだろう!」

「あんたになら、電ちゃんたち艦娘を任せられる。頑張っとくれ!!」

 

と促される。

 

「ありがとうございます、必ず世界の平和に全力を尽くすことを、世界に平和をもたらす事を約束します!」

 

大神にできる事は今後の世界をよりよくしていく事を約束するのみだ。

中にはグシグシと涙目をハンカチで拭いて、殊更この場を盛り上げようとした者も居たが、

 

「ぐすっ、イェーイ、那珂ちゃんオンステージぃ! みんな、私の歌を聴――いったーい、川内ちゃん、いったいよー」

 

流石に空気を読まな過ぎだろ、と、成敗されていた。

そんな騒動を車内で起こしているうちに海岸を走っていた電車は内陸に到達し、やがて艦娘の涙が乾ききる頃には新幹線との連絡駅に到着しようとする。

 

「みんな次の駅で乗り換えだから、遅れずに付いて来てくれ」

 

大神の言葉に、荷物を手にする艦娘たち。

本来であればこの駅で駅弁を買っていくつもりだったが、もはや彼女達の手にそんなものは必要ない。

 

それぞれの手に沿線で手渡された採算度外視で作られた特製の駅弁があったからだ。

東京まで3時間強。

 

駆逐艦娘には少々多すぎるかもしれない量だが、残すつもりなど毛頭ない。

 

「勝負なら受けてたつ覚悟です!」

 

そう、受け取った想いの大きさに比べればこんなの然程大きいものではない。

 

 

 

そして、新幹線を待つ事、十数分。

分かりやすい艦娘の制服に身を包んだ彼女達への視線にも慣れてきた頃合になって、折り返し始発の新幹線が到着する。

車両は最後尾。席数が少ない事もあり、並んでいる人間の列からも艦娘たちと大神で貸しきり状態となっている事は一目瞭然。

 

最後尾車両へ乗る人間が、自分達のみであることが分かって安心していく艦娘たち。

 

そうすると、我欲が湧いてくると云うものが、人と、艦娘のサガである。

 

「隊長、隣の席いいデースカ?」

 

涙ぐんだ、感動の渦から一早く復帰した金剛が大神の袖を引っ張って誘いの声をかける。

 

「金剛……おそろしい子!」

 

出遅れた神通と、翔鶴、瑞鶴が白目蒼白コラのような表情をしていた。

だが、

 

「ごめん金剛くん。6駆の子と、もう席を一緒にするって約束してるんだ」

 

大神の反応はつれない。

 

「金剛さん……そう云うこともあります」

「ぷぷぷ、出遅れお疲れさまー」

「瑞鶴、笑うなデース!」

 

瞬時に真っ白に燃え尽きた金剛の周囲を出遅れた神通たちが慰めの言葉をかける。

しかし、車内に入った大神を待っていたのは、

 

「あ、隊長こっちー」

 

と、対面2×2席に座っていた暁たちの声。

大神が視線をやるが当然席は6駆で埋まっており、大神の座るスペースなどない。

 

「暁くん、自分は何処に座ればいいのかな?」

「え……あぁっ!?」

 

と今更声を上げるが、席は概ね埋まっており今更3×2席を作る余裕などない。

すかさず、周囲の艦娘たちから誘いの声が上がる。

 

「えへへ……隊長、こっち来るデース!」

「お姉さま!?」

 

「隊長、こちらの席はどうでしょうか?」

「え? えぇぇぇぇぇっ! 翔鶴ねぇ。隊長さん呼んじゃうの!?」

「嫌なの? 瑞鶴?」

「え、べ、別に嫌って訳じゃ……むしろ歓迎だけど……」

 

「大神さん、お隣どうでしょうか?」

 

確かに、大神は空いた席に座る他ないだろう。

6駆以外の艦娘たちはやったと期待を胸にし、6駆は絶望に打ちひしがれる。

 

「ど、どどどどどどどおっどどど、どうしよう、響。このままじゃ隊長が他の席に座っちゃう!?」

「しょうがないな、大神さん。ここに座ってよ」

 

窓際の席に座っていた響が立ち上がり、席を空ける。

 

「いやいやいや! 俺はいいよ、響くんはどうするんだい?」

「いいんだ、私は大神さんにここに是非とも座って欲しいんだよ」

「「「響!?」」」

 

そう言って響は奥の席を空ける。

 

「ダメだって、せっかく6駆で集まって席を取れたんじゃないか?」

「大丈夫だから、大神さんはその席に座ってよ」

 

ニッコリ笑って、席を空ける響。

 

「やっぱりダメだよ、皆で楽しい時間を過ごして欲しい、響くん」

「いや、だから大丈夫。私に良い考えがあるんだ、皆が幸せになれる方法が。だから大神さんは座って、ね?」

 

席を外そうとする大神だったが響の笑顔につられて6駆の中に座る。

一瞬嬉しそうにする6駆だったが、やはり響に悪いと思ったのか表情が冴えない。

 

「響ー、敵ながら姉妹のために席を譲るなんて天晴れデース。あぶれたもの同士、こっち来るデース」

 

金剛が響を手招いている。

だが、響の反応は全員の予想を裏切っていた。

 

「何言ってるんだい、大神さんの近くの席ならまだ残ってるじゃないか」

「へ?」

 

そう言うと、テクテクと響は大神の前まで歩き、

 

「私はここでいいよ」

 

そう言うと、響は迷うことなく大神の膝の上に座ってみせる。

 

「♪~ えへへ、特等席だね」

「響くん!?」

「響……おそろしい子デース!」

 

金剛、否警備府の全艦娘が某少女マンガの白目蒼白コラのような表情をしていた。

 

「大神さん、大神さんが動くと私落ちちゃう」

 

突然響に膝の上に座られて、身じろいだ大神に響が注文をつける。

 

「ご、ごめん。どうすればいいかな?」

「抱きしめて欲しい……かな?」

 

その言葉にシートベルトのように響の腰に手を回し抱きしめる大神。

だが、これでは大神は何も出来ない。

 

「いや、でもこれだと食事が……」

「大丈夫だよ、全部私が手伝ってあげるから。はい、大神さん、あーん」

「え? あーん」

 

口をあけた大神に冷凍みかんを一房入れてみせる響。

反射的に口を閉じ、もぐもぐしてみせる大神だったが、事実に気が付いて驚愕する。

 

「まさか、これをずっと?」

「えへへ、もちろんだよ、大神さん♪」

 

答えは響の満面の笑みだった。

 

 

そ し て 、

 

 

「はい、大神さん美味しい煮魚食べさせてあげる。あーん」

「あ、あーん。うん、たしかに美味しいな」

「そうだよね、新鮮な魚の煮魚って美味しいよね」

 

 

「響くん、そこのプリッツとってくれないかな」

「ん~、ふぁい(プリッツを口にくわえて差し出す)」

「ひ、響くん? なにを!?

「……(これならプリッツも甘いよ、プリッツ響味召し上がれ)」

 

 

「けふっ、む、むせたっ」

「大神さん? はいっ!」」

「(((く、口移しで飲ませたー!!)))」

「響くん、す、すまないっ!」

「えへへっ、大神さんと口移ししちゃった」

 

 

そして、砂糖を吐く様な響と大神の一時間半を目にして、

 

「もうー、響ばっかりずるいよー!」

 

響の正面に座っていた暁が我慢できずに声を上げた。

 

「なら、代わってあげようか、暁」

「え?」

 

大神の膝の上を満喫した響がさらりと声を上げる。

暁が凍る。

 

「だから、代わってあげようかって言っているんだよ、暁」

「ええ?」

 

が、自分にも目があると思ったものたちの反応は早い。

 

「じゃ、私ガ――」

「嫌なのかい、じゃあ、電――」

 

次いで電が凍る。

その声に、声を上げようと思った翔鶴達の前に、

 

「嫌だなんて、一言も言ってないわ! 一人前のレディーとしてその申し出受けようじゃない!」

「レディーなら受けないんじゃない?」

 

突っ込みは聞かなかったことにした。

無論、膝の上にいる間中そわそわしていて、気が気でなかったのは云うまでもない。

 

 

 

その後、駆逐艦限定で大神の膝の上を順繰りに堪能したが、響ほど大胆な行動を取ろうと思ったものは少なかった。

吹雪は後ろを振り向こうとして、至近距離の大神に轟沈。

睦月もポッキーゲームを仕掛けたのが精一杯だった。




響……おそろしい子!

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