最後尾の車両をほぼ貸し切り状態で移動する事、数時間。
新幹線は東京駅へと辿り着く。
ここから電車を乗り継いでいくわけだが、現在の東京に慣れてない大神たちには酷な話かもしれない。
と、云うことで新幹線の到着に併せて、案内役が来ることになっていた。
実際に、新幹線のホームに見覚えのある艦娘が立っている。
大神の姿を窓越しに視認すると、嬉しそうに大神に手を振っていた。
「鹿島さんだったのか」
「む~、危険な雰囲気の艦娘デース」
鹿島は士官学校や新任の艦娘相手の任務がほとんどと云うこともあって、警備府の艦娘と面識がないようだ。
となると、士官学校の間だけとは言え面識のある大神が対応せざるを得ない。
だが大神を見ただけで、あの嬉しがり方。艦娘達の心に不安が広がる。
「じゃあ、俺が最初に降りてこれからの移動方法とか確認するよ。みんなは俺の後に降りてきて」
「分かった。あの、大神さん?」
「どうしたんだい、響くん」
妙に嬉しげな鹿島の様子に不安になって、袖を引っ張って尋ねる響に振り返る大神。
「あの艦娘と二人で何処かに行ったりしないよね?」
「しないって!」
そして、ドアが開いて大神が新幹線からホームに降りた直後、
「大神くん! こんなに、こんなに早く、私の事呼んでくれるなんて! 大神くん、わたし、とても……うれしい!!」
鹿島が助走をつけて大神に飛びついて抱きつく。
だが、そこは鍛えた男の肉体。大神は飛びついた鹿島をバランスを崩すことなく受け止める。
そこが更に鹿島の琴線に触れたらしく、そのまま大神の頬に自分の頬を擦り付ける。
「「「あー!」」」
まるで映画のような二人の再会のシーンに艦娘たちが声を上げる。
「いいっ!? 鹿島さん?」
「もう~、大神くんは隊長さんなんですから、私の事は『鹿島さん』じゃなくて『鹿島』と呼んでください」
「鹿島さん、顔っ、顔近いですって! あと、前にも言ったとおり、『鹿島くん』が限界です!」
「ふふっ、大神くん、かわいいっ。あ、いけない、私も『大神さん』って呼ばないと。ね、大神さんっ♪」
今思い出したように呼び名を改める鹿島。
それは、まるで恋人同士の睦言のようで。
「もう~、いつまで隊長に抱きついてるデースカ!」
我慢できなくなった金剛が二人を引き離す。
「……そうですね、大神さんに会えたのがあんまり嬉しくてはしゃいじゃいました。ごめんなさい、ふふっ」
ペロッと舌を出しながら、遅れて新幹線を降りてきた艦娘たちに謝る鹿島。
「う~、何か、余裕の笑みされてマース」
「……ハラショー」
「自己紹介が遅れました、練習巡洋艦の鹿島です。大神さんと、皆さんを有明鎮守府まで案内いたしますね」
「ああ、よろしくお願いしま――お願いするよ、鹿島くん」
記憶の内の事とは言え、仕官学校時代、ずっと「さん」付けで呼んでいた相手だ、どうもやりづらい。
いかんいかんと首を振って、認識を改めなおす大神。
「うふふっ、有明までのルートは一任されてますので、ゆりかもめを使って説明しながら向かいますね」
そんな大神の様子さえも、見ていて楽しんでいる鹿島。
「あ、あの、鹿島さん? 当たっているんですが……」
「だーめ。大神さん、その『さん』づけを止めて貰えるまで離しませんよ、ふふっ♪」
「鹿島……くん、当たっているんだけど……」
ごく自然に腕を組んで、胸を押し当てて大神の反応を楽しんでいる。
「勿論当てているんです。さあ大神さんっ、皆さん、こちらの階段を上がりますよ」
大神と鹿島が二人の空間を作れば作るほど、後を付いて行く艦娘の集団の気が微妙なものになっていく。
「大神さん……」
響は負けじと大神の反対側の袖を引っ張っているが、腕を組む鹿島ほどには注意を引き付けられない。
そして、一団は東京から山手線に乗り換え、新橋で更にゆりかもめに乗り換える。
ゆっくりとした移動速度のゆりかもめから覗く臨海副都心の説明を、一つ一つ鹿島が行っていく。
しかし、その説明は、
「大神さんっ、ここがレインボーブリッジといってですね、夜景が綺麗な場所なんですよ~。大神さんは車の免許は持ってましたよね?」
「ああ、一応持っているよ」
「じゃあ、こんど大神さんの運転する車で夜景を見に来ましょうね♪ うふふっ、楽しみ!」
とか、
「ここがお台場です、鎮守府からは一番近くのショッピング街になるのかな。鎮守府設立に伴って私たちの服とかも多く取り扱ってくれるようになったんですよ~」
「鎮守府からは歩いて来れるのかな?」
「一番早いのは臨海副都心線ですけど、大神さんとのデート専用の服だから、大神さん以外の人には見せたくないかな。今度歩いていきましょうね、お散歩しながらも悪くないですよ。ふふっ」
などと、大神と鹿島がデートに行くこと前提で話を進めているのだ。
新任の少尉だったから、自分達以外に親しい艦娘なんていないだろうと思っていたのだが、こんなの完全に予想外だ。
このまま黙っていたら、本当に鹿島に大神を掻っ攫われてしまうかもしれないと、艦娘たちの間に危機感が漂う。
しかし、
「あ、あの! 大神さん、私も今度水着とか見に行きたい……かな」
と、響が必死にデートに誘っても、
「良いですね~、みんなで水着を大神さんに選んでもらいましょうよ。わたしも負けませんから、うふふっ」
「いいっ!? 全員分かいっ?」
「勿論ですっ。これから全艦娘の隊長さんになるんですから、よろしくお願いしますね。大神さんっ」
いつの間にか全員で行くことに話をすり替えられてしまっている。
響というか駆逐艦相手なら、まだ微笑ましいと云うか、そういう空気が漂っていたのだけど、鹿島が相手となると本気にならざるを得ない。
いずれ訪れるであろう水着選び(決戦の時)に向け、自らを磨くことを誓う艦娘たちであった。
「……」
瑞鶴、明日に希望はきっとあるぞ。
ずっと鹿島のターン。
あざとい、鹿島超あざとい。