金剛との再会を喜び合った霧島と榛名。
涙をふき取り、佇まいを直したところで、始めに行ったことは大神への謝罪であった。
「「ごめんなさい、大神隊長。先程の不躾な発言、許してください」」
深く頭を下げ、大神への謝意を表す二人。金剛は満足そうだ。
「勿論いいとも。と言うことは、俺が隊長だと認めてくれると云うことで良いのかな?」
「はい。金剛お姉さまを深海棲艦から解き放った、私達艦娘にもない特別な力の持ち主。貴方を隊長として仰ぐことにもう異論はありません」
「榛名達を金剛お姉さまに会わせて頂き、ありがとうございました! このご恩は今後の働きでお返しさせて頂きます!」
そう言って大神を見つめる榛名の目にはかすかに熱が灯っている。
「そうか、なら加賀くんたちも認めてくれるのかな――」
「いいえ、私達は貴方が隊長と未だ認めません」
金剛たちの再会の様子を見て、呉鎮守府の何人かの艦娘は迷いが生じたようだが、赤城と加賀は平然と否定する。
「いい加減しつこいわよ、一航戦! 私の隊長さんの力がデマじゃなくて本物だって事は分かったんでしょ? 何が不満なのよ?」
瑞鶴が一航戦に食ってかかる。
先程、金剛達と共に乱入してきたことですっかり忘れていたが、勿論大神たちは瑞鶴を呼んではいない。
「そう言えば、瑞鶴くんはなんでここに居るんだい?」
「え? それは……一航戦が大神さんに興味を持ったら……やだなって」
「安心しなさい、五航戦。そんなこと、天地がひっくり返ってもありえないわ」
赤面して消え入りそうに呟く瑞鶴の言葉に、冷静に切り返す加賀。
「そういえば、さっきの問いに答えてなかったわね。答えは同じ、隊長として経験不足だからよ」
「そんなことはない! 着任直後の防衛戦に始まって、近海の深海棲艦の掃討とか、隊長さんはもう十分に経験積んでいるわ!」
「それでも、大塚司令官に比べれば赤子のようなものです」
そこで大神はやっと納得する。
「つまり、君達の望みと言うのは、大塚司令官にこの有明鎮守府の司令官代理になってほしいと云うことなんだね?」
「そうです。百歩譲って貴方の特殊な力の存在を認めましょう。でも、それは戦士としての力ですから。司令官代理は大塚司令官であるべきです」
「しかし、加賀くん、大塚司令官はそれを望んでいないよ」
「何ですって?」
大神の言葉に加賀が慌てた様子を見せる。
「君から渡された親書にそう書かれている、何なら親書を確認してもらっても構わない」
大神の差し出した親書に慌てて目を通す加賀達。
やがて、大神の言ったことが真実と分かると、目に見えて落胆した様子を見せる。
「そんな、バカな……」
「大塚司令官にその気がない以上、君たちの案は実現することはない。そろそろ――」
「まだです。大塚司令官に鍛えられた私達があなたの艦隊より練度が上であることが分かれば、大元帥だって考えを変えていただける筈」
赤城と加賀の目には未だ諦める気配がない。
それは一航戦の誇りによるものかもしれない、だが大神にはそれはもはや驕り・慢心にみえていた。
「未だ云うデースカ!」
「いい加減諦めなさいよ!」
「五航戦に、戦艦・重巡もろくに居ない艦隊、私達が負けるはずありません」
「なんですって!?」
金剛たちの言葉にも耳を貸す気配を見せない加賀たち。
親書にも痛い目に合わせてかまわないと書かれていた、今がそのときなのだろう。
それに自分ならいくら言われても構わないが、自分を信じてくれる艦娘まで良いように言われて少々大神も頭に来ていた。
「いや、もういいよ。金剛くん、瑞鶴くん」
「隊長?」
「事ここに至っては、闇雲に言葉を交わすより、一度刃を交えた方が早い。加賀くんたちの望みどおり演習で決着をつけよう」
そう言うと大神は立ち上がる。大神の気迫に気圧された赤城と加賀が一歩下がる。
「Oh 隊長が少しAngryネー」
「大淀くん、彼女達の望みどおり艦隊戦の演習を行いたい、訓練中の艦娘に一度休憩を。入渠はしなくても良い、俺が回復させに行く」
「はい、分かりました!」
大神の指示を受け、大淀が訓練場に小足で駆けだす。
「加賀くん、演習は戦艦・空母を交えた重艦隊戦でいいね」
「ええ、こちらは私達に大和、妙高、羽黒、那智で行くわ、あと一つ注文が」
「なんだい、加賀くん?」
「今回の演習、大神大佐の参加はなしでお願いするわ、あなたがいればそれだけで決着が付き兼ねない」
デマだと思っていた大神の逸話が本当なら、開始早々の必殺技でまとめて一掃されかねない。
けど、艦娘同士の戦闘なら負けるはずがない。そう考える加賀。
「いいだろう、瑞鶴くん、金剛くん、良いね?」
「勿論デース!」
「ギッタギタにしてあげるわ! 一航戦!!」
大神の確認に気勢を上げる金剛たち。
「あと、こちらの艦隊は、翔鶴くん、瑞鶴くん、金剛くん、神通くん、そして、暁くんと響くんでいくよ」
「重艦隊戦に駆逐艦2隻? あなた、正気?」
「いいや、正気だよ、これで構わない」
「やっぱりあなたは経験不足ね、勝ちは頂いたわ」
それが如何に愚かしい無知によるもの、勘違いであったか、加賀は未だ知らない。
ちょっと短いですが、演習パートの前で一旦区切ります。