艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第六話 2 秘書艦加賀のなんてことない一日 2

正午、昼食。

 

午前中の業務を終えた私達は再び食堂に向かう。

違うのは、私達が大神隊長の隣には座れないこと。

午前中の訓練で行われた演習でMVPをとった艦娘が座れることになっているのだ。

それでも数が多いので最終的にはじゃんけんとなるのですが。

今日は金剛がMVPを取ったらしく、じゃんけんの前から他の艦娘を全力で威嚇している。

これは決まったかしら、でも、大神さんの食事を邪魔するくらいのアプローチはやめてほしい。

……無理かしら、金剛だもの。

あ、威嚇してる金剛に間宮さんのお説教が入った、当然ね、座りたい艦娘は他にもいるわけだし。

おまけに隣に座る権利も剥奪されて、涙目で大神隊長に抱きついて、もう一度お説教をもらっている。

自業自得ね、けど抱きついているのは正直羨ましい。

まあ、決まったことではあるので、非常に、非常に残念ではあるけれど、仕方なく私は正規空母たちのところに昼の洋定食を持って座る。

 

「朝のあれは何だったのよ~、一航戦~」

「何のことかしら」

 

五航戦が早速私に突っかかってきた。

 

「とぼけんじゃないわよ! 私に視線で勝ち誇ってきたじゃない!」

「大神隊長の隣に座っただけで、他意はありません。隣に座られるだけでそんな風に思うって事は、よっぽど大神隊長の事が好きなのね」

 

肯定するのも面倒くさいので、はぐらかす。

これで頷くような五航戦ではないでしょう。

 

「なっ!? べ、別にそんな風には思ってないんだから!」

 

顔を真っ赤に染めて分かりやすい、実に分かりやすい。

最初、大神隊長への好意をむき出しにして、私に釘を刺した艦娘と同一人物とは思えない。

そういえばその時なんて言ったかしら、いえ、もう忘れました。

 

「……あら、加賀さん香水を使っているのね」

 

そんな風に五航戦の追及をかわしていると、隣の赤城さんが私の方に顔を近付け匂いを確かめる。

ちょっと、赤城さん、今のタイミングでその発言はやめて。

 

「ふーん、一航戦も香水なんて使ってるんだ~。ただの秘書艦なのに~?」

「ただの身だしなみです」

「でも、加賀さん。この香水は確かとっておきと言ってたような……」

「とっておきの香水なんて使ってるんだ~、興味なんて天地がひっくり返ってもありえないって言ったのに~」

 

くっ、五航戦のくせに生意気な。

赤城さんもポイントポイントで五航戦に味方しないで。

 

「別に。私を差し置いて大神隊長にアプローチしやがってだなんて少しも思っていませんからね」

 

しまった、朝の勝ち誇る視線を赤城さんにも見つかってしまっていたらしい。

後で機嫌を伺っておいた方が良いだろうか。

 

 

 

午後一時、午後の業務or訓練

 

開始前のじゃんけんが、本日最大の山場。

ここで訓練に参加できるか、業務を続けることになるかで本日の幸運度が決まるといっても過言ではない。

理由は単純、大神隊長が訓練に参加するからです。

秘書艦は大淀を含め4名、そのうち2名が訓練に参加できる。

 

「一発勝負です。文句はありませんね」

 

筆頭秘書艦として午前の業務で大神さんと数多く接して、笑みが戻った大淀が取り仕切る。

やはり筆頭秘書艦と言う立場は羨ましい、これが毎日だなんて。

早く艦娘としての立場に戻ってしまえば良いのに。

っと、いけない、今はじゃんけんに集中しなくては。

 

「「「じゃんけん、ぽい!」」」

 

……勝った、歓喜が身を貫く。

もうひとりの勝者は、千歳ね。

敵に幸運艦が居なくて良かった、じゃんけんとなると、勝てる気がしなくなるからだ。

五航戦もじゃんけん勝負となると強くなるし。

 

「はぁ、決まりましたね。それでは勝った方は大神隊長と訓練に参加してください」

 

再び大神隊長との時間を取り損ね、ため息をついた大淀が自分の席に戻っていく。

お生憎様。

 

 

午後の訓練は、大神隊長の下で敵を討つ際の訓練となる。

隊長が直接戦闘に参加するときの指揮は細かく、それぞれの艦に対して砲撃対象の指示やタイミングの指示などもしてくることがある。

作戦の立案や大まかな行動指示はともかく、基本的に実戦の場においては個々の行動は私達の判断に任せていた大塚司令官とは大きく異なる。

 

だが、それが恐ろしいほどに的確なの。

こちらの勝利目的に沿うのは当然の事、相手の射程、行動順までも読みきっての攻撃、移動指示。

大神隊長の下で戦う私達は、正に艦『隊』。

 

着任時、大神隊長の作戦効果の下に動いた警備府の艦娘と戦い惨敗した私達だが、これが本当の指揮下だったらもっと目も当てられないことになっていたでしょう。

 

何故こんなことが出来るのか、誰か――確か、榛名が聞いてみたことがある。

そのときの回答によると、大神隊長はある程度の広さの戦闘領域までなら、敵味方含めて全ての存在を将棋盤を見下ろすかのように把握しながら戦えるらしい。

音声情報のみでは情報が足りず、目視などによる情報取得も必要となるため、自身が前線に出ていることが必要条件のようですが。

 

大神さんは、正に『私』達を指揮するために生まれてきたとしか思えない。

それを聞いてやたらに凄いです、素敵です、と連発していた榛名はやはり危険だと思いましたが。

 

「早く大神隊長の指揮下で戦いたいわ~」

「そうね」

 

基本的に警備府の艦娘しか、指揮下で戦っていない。

作戦効果と、霊力による能力補正は受けてみたことがあるが、あれは癖になる。

あれをずっと受けて闘っていたなんて、警備府の艦娘はずるい。

私もほしい。

 

 

そして、一通りの訓練が終わった後、最後の、待ち望んでいた訓練が始まる。

『光武・海トラブル発生時の大神隊長との連携訓練』

と銘打っているが、要は大神隊長に抱かれて・もしくは抱いて戦う訓練。

お気に入りの下着にしたのも香水をつけたのも、全てこのた――他意はありません。

この対象になるのが、そう、私達。

どちらが先にやるか迷いましたが、私は後にしました。

大神隊長に自分の匂いを存分に付けたかったし、自分にも大神さんの匂いを付けたかったので。

 

大神隊長はあまり私達とスキンシップを取るような事はしません、大塚司令官も割かしスキンシップはとっていたのに。

そんな、大神隊長が遠慮なく――いえ、やはり遠慮はしますが、私達に触ってくれるのが、そして私達からも遠慮なく大神隊長に触れるのがこのときだけ。

金剛や鹿島、響のように、所構わずベッタベッタ抱きついたり腕を組んだりはできないのです。

それにしたところで大神隊長から触ってくれる事は滅多にない、響たち相手なら撫で撫ではしますが。

とにかく、滅多にないことなのです。

 

また五航戦が悔しそうな目で見てる。

でも、赤城さんも傍にいるので今度は勝ち誇ったりはしない、後が怖いから。

 

「お願いします」

 

そんなことより、今は大神さん、大神さん。

 

「加賀くん、念のためもう一度確認するけど、いいのかい?」

「もちろんです、訓練ですから」

 

大神さんの吐息がうなじをくすぐる。くすぐったい。

 

そして大神さんの手が後ろからおなかに回される。

 

ああ、戦闘服越しとは言え、背中全体で大神さんを感じる。

 

遠慮がちに抱きしめられるからこそ、大神さんの優しさを感じる。

 

幸せで天にも昇る心地、気を失ってしまいそう。

 

いえ、気を失ったらダメよ、加賀。一秒でも多く堪能しないと。

 

「加賀さん、幸せそうな表情をして、悔しくなんてありませんっ」

「う~、警備府の艦娘の特権だったのに~」

 

だまらっしゃい、五航戦。

 

貴方の貧相な身体では大神さんに抱きしめられても男と何も変わりないわ。

 

「加賀くん?」

 

私のように女性として豊かな肉体だからこそ、大神さんを満足させられ――

 

「加賀くん、大丈夫かい? 嫌なら中止にしても……」

「問題ありません。続きをお願いします」

 

この時間を捨てるなんてとんでもないわ。

 

抱き締められるのはある程度満足したけど、抱きしめる方も残っているのだから。

 

胸当ての艤装を展開解除して、胸を押し当ててみようかしら。

 

自分で言うのもなんだけど、胸の大きさにも形の良さにも自信はある。

 

 

大神さんの反応は容易に想像できるけど、それを実際に傍で見てみたい。

 

 

千歳も胸は大きいし、大神さんに少しでもアピールしておくのも悪くない。

 

 

それから十数分、私は大神さんとの『ふたりっきり』の時間を心ゆくまで堪能したのだった。

 

 

今日はお風呂に入るのを遅らせたいわ、いえ、入らないのもありかもしれない。

 

布団に大神さんの匂いを少しでも付けておきたいの。

 

明日、朝早くにシャワーを浴びるだけにしよう。




加賀さん大暴走、おわらなかったーよ。
あと前回の加賀さん、そこまでデレさせたつもりはないんだけど、と作者的には思ってみたり。


あと、戦闘についてはこう考えてもらえば分かりやすいです。
艦これ戦闘の敵への攻撃  :ランダム
大神さん指揮下の敵への攻撃:コマンド選択

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