艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第六話 3 秘書艦加賀のなんてことない一日 3

午後六時、夕食

 

の時間の筈なのだが、私は自室に戻っていた。

自分の布団を引っ張り出して、自分の身体に付いた大神さんの匂いをたっぷりと付ける。

夕食の匂いで少しでも上書きされる前に、少しでも多く。

こればっかりは時間勝負なのだ。時間が経つにつれて身体についた大神さんの匂いは薄れてしまうのだから。

十分についた筈と確認の為、布団に顔を埋め一息吸うと、大神さんの匂いを確かに感じる。

 

すばらしい。

 

と、後ろから殴られる。痛い。

 

「何変態じみたことしているんですか、加賀さん」

「赤城さん、いきなり殴らないで。痛いわ」

 

今の行為が周りからどう見られるかはよく分かっている。

でも、ここは私と赤城さんの部屋。赤城さん以外の人が見えるわけがない。

 

「全く。夕食に現れないから、何をしているのかと思いきや――」

「遅れて食べに行っても、問題はありません」

 

時間中に食べてしまえば問題はないのだ。

それに秘書艦である以上、夜間訓練はない。

最悪夕食抜きになっても全く問題ありません。

 

それよりも布団に大神さんの匂いをつけないと。

布団にすりすりし始めた私を赤城さんが呆れた様子でみている。

 

「大神隊長が心配していましたよ。加賀さんの姿が見えないと、やはり、加賀さんとの連携訓練は控えようかとも言っていましたし」

「何ですって?」

 

そうなるのは想定外。

まだ、今週は時間があるのだから、連携訓練のチャンスもある筈なのに、これで不意にしたら元も子もない。

夕食後に続きをしようと、食堂へと向かう。

 

自分が夕食を取りに向かうと、大神隊長は食事を食べ終え艦娘たちと談笑していた。

夕食での近くの席は周回制なので、巡回などない限りそのうち回ってくるのがポイント。

今日は睦月、弥生、望月の他、睦月型が集まって座っていたらしい。

らしいと言うのは、食事を取り終えて、夜間訓練前の自由時間を遊ぼうとする艦娘も居るからだ。

 

流石に、食事を取り終えた大神隊長たちの席に着くのは悪いので、一人席について食事を食べ始める私。

一人で食べていると僅かに寂しさを感じる、赤城さんに悪いことをしてしまったかしら。

と、対面に誰かが――って、大神さん!?

 

「加賀くん、座っても大丈夫かな?」

 

吹き出しそうになるのを懸命にこらえると、今度は喉に食べ物が詰まってしまった、凄い苦しい。

 

「大丈夫かい!? 加賀くん?」

 

手渡されたお水を飲んで、ようやく一息つく私。

って、あれ。

私のトレーには持っているのとは別に自分のお水がある。

そして、大神さんの手元にはお水がない。

と言う事はこれって――

 

「ごめん。加賀くんが苦しそうだったから」

 

!?

 

いけない、そう考えると顔が赤くなっていく。

飲んだお水が流れ込んだおなかも熱を持ち始めたように感じる。

でも、嬉しい。

こんな風に大神さんと1対1で対面に座れるなんて。

思いもしなかったところで幸運に巡り合えた。

 

「ええ、問題ないわ。助かりました、大神隊長」

「それなら良かった。夕食で姿が見えなかったから、調子を崩したのかもしれないと思っていたんだ。場合によっては部屋までお見舞いに行った方が良いかもってね」

 

危なかった。

部屋で布団にすりすりしているところを見られたら、恥ずかしくて死んでしまいます。

 

「大丈夫です、夕食前に所用を済ませていただけですので」

「そうか、俺の考えすぎだったみたいだね。すまなかった、加賀くん」

「いえ、大神隊長に心配をかけたようで、こちらこそ失礼しました」

 

大神さんと会話を弾ませながら、夕食をとる私。

そうは見えない?

私にはこれで手一杯なの。

 

 

後日、大神隊長に心配して座ってもらおうと、食事の時間ギリギリまで姿を見せない艦娘が多発して、間宮さん、かすみさんの怒りがまた落ちるのだけれどもそれは別の話。

私のせいではありません、あしからず。

 

 

 

午後八時、自由時間。

 

夕食後簡単な状況確認を再度行い、私達秘書艦の今日の仕事は終了となる。

ちなみに秘書艦でなく夜間訓練もない艦娘は夕食後、就寝時間まで自由時間となる。

 

金剛が夜の紅茶に大神隊長を誘ったり、駆逐艦がゲームやアニメ鑑賞、遊びに誘ったりするのもこの時間。

平日であれば、九時まで甘味処間宮も利用可能。

ただし、入浴時間も基本的にこの時間に済ませることになっているので、遊びすぎは禁物。

 

今日の私は夕食前の続きを、布団に大神さんの匂いをつけることに勤しんでいた。

何分か擦り付けては、大神さんの匂いを確認して幸せを感じる。

赤城さんの呆れきった視線も気になりません。

ああ、大神さんの匂いに包まれてすごく幸せ。

心地よい。

だんだん眠く――

 

「あらあら、加賀さん眠ってしまってますね」

 

 

 

午後十時、就寝。

 

この時間を以って、司令室、保健室などの一部施設を除いては基本、常夜灯の点灯となる。

完全に明かりを消すと、一部自称レディが怖がってトイレに行けずに大神隊長を呼んだことがあるので、常夜灯は点灯させることとなった。

 

そして、自由時間中に寝入ってしまった私は一人遅れての入浴をしていた。

寝入っていた際に若干寝汗をかいてしまい、身体から大神さんの匂いが薄れてしまったからだ。

布団には、まだ大神さんの匂いが残っていたからしばらくは大丈夫。

若干名残惜しいが、髪の毛を洗った後身体を洗い始める。

 

スポンジで洗っても良かったのだが、大神さんに抱きしめられた手の感触を思い出せる今日は特別。

手でボディーソープを泡立てると、手で直接身体を洗い始める。

目を閉じて大神さんの手の感触を思い出しながら。

今はお風呂場に誰も居ないのだし大丈夫。

 

先ず、大神さんに触られている気分になって、首筋をなぞる。

 

「!」

 

それだけで、全身が軽く反応する。

 

続いて、身体、訓練では大神さんは胸を触ろうとはしなかったが、今なら触られた気分になることが出来る。

 

手でソープを泡立て、胸に、ゆっくりと触れる。

 

「――っ!」

 

それだけで全身が切なくなる。

 

大神さんなら、私の胸にどう触ってくれるだろう?

 

やはり優しくシャボン玉を扱うようにゆっくりと触れるだろうか、それとも訓練の時おなかに回された手のように力強く鷲掴みにしてしまうだろうか。

 

そう考えながら時には優しく、時には力をこめて身体を洗っていく。

 

そんなことをしていたら、上半身を洗い終える頃には全身がどうしようもなく切なくなってきてしまった。

 

まずい。

 

こんな状態でこのまま下半身を洗ったら、色々と大変なことになってしまう。

 

流石にこれ以上はダメだ。一旦洗い流して、普通に洗おう。

 

目を開けて風呂桶を手に取ろうとすると、

 

「はい、加賀くん。風呂桶だよ」

 

と、風呂桶が手渡される。

 

「ありがとうございます、大神さ――」

 

――え?

 

慌てて振り向くと、そこには、私服の大神さんの姿。

 

なんで?

 

なんでそこにいるんですか?

 

いつからそこにいたんですか?

 

叫び声を上げないと。

 

「あ、あの――」

 

早く出て行ってもらわないと。

 

「その――」

 

そう思っても唇は動いてくれない。

 

ダメよ、加賀。

 

覗かれていたのだから、ここは大声を上げないと。

 

 

そうして、やっと動いた唇は、こう呟いた。

 

「大神さんも一緒に入られますか?」

「ええっ?」

 

私の言葉に大神さんの方が驚いてしまっている。

 

でもでも、ここは二人しか居ないし、

 

大神さんの背中を流せるチャンスだし、

 

そんなことを考えていると、大神さんの呼び出しが行われる。

 

「大神隊長、司令室にお戻りください。連絡が入りました」

「わ、分かった。今向かうよ。加賀くんすまなかった!」

 

そう言い残すと、大神さんはお風呂場から飛び出て行く。

 

 

呆然として取り残される私。

 

しばらくして気が付いた私は一人呟く。

 

「――残念」

 

でも、あの時大神さんが頷いて居たらどんなことになっただろうか。

 

考えるだけで顔が真っ赤に染まる。

 

ああ、もうこんなんじゃ、明日大神さんにどう顔を合わせたら良いのか分からない。

 

身体を洗って早く眠ってしまおう。

 

翌日、気恥ずかしさで顔を合わせづらくなった私と大神隊長を見て、全艦娘――特に五航戦が疑いの眼差しを向けたのだけど、何が起きたかなんて言える訳がなかった。

 

 

 

そして、もう一つ私が忘れていたことがあった。

 

それは自室の布団にたっぷりつけた大神さんの匂い。

 

色々と思い出してしまって、日付が変わってもしばらく眠れなかったのは云うまでもない。

 

 

 

 

 

そして最後に、司令室に呼び出された大神さんは、

そのまま翌日陸海軍との作戦会議に呼ばれ、結果W島の攻略が決定されるのだった。




ね? なんてことない一日だったでしょう?

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