艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第六話 10 離島攻略-忘れない

「私に如月ちゃんを説得させてください!」

「説得? 睦月、何を言い出すの?」

「深海棲艦を説得するだなんて、聞いたことがないわ!」

 

睦月の提案に、異論を唱える艦娘たち。

けれども、睦月の言うとおり、如月は睦月の言葉に反応していた。

榛名たちの陽動にも限界がある、このまま手をこまねいている場合ではない。

大神は決断する。

 

「分かった。睦月くん、君に如月くんを任せる! 如月くんへの呼びかけを行なってくれ!!」

「隊長さん、本気なの?」

「睦月くんの志願を認め攻略隊に入れるといったのは俺だ! だから、俺は信じる! 睦月くんを信じる!!」

「大神さん……」

「でもでも、睦月一人で相対するなんて無茶デース!」

 

金剛の指摘ももっともだ、あの巨砲で狙われれば睦月はひとたまりもない。

 

「いや、俺も睦月くんのサポートに回る。睦月くん、敵の砲撃は気にしないで良い!」

「え? それってどういう事ですか、大神さん?」

「それは、『庇う』サポートシステム、リミッター解除」

『リミッター解除、以降リミッター復帰まで急加速を含め主機能に制限が課せられます』

 

睦月の問いに、大神は光武・海の機能を一時的に制限する。

これで同一対象を連続で庇う事が可能となるが、機動力も大神の防御力も段違いに落ちる。

いわば諸刃の刃のようなものだ。

だが、その事を大神は口にはしない。

 

「睦月くん、君への砲撃も攻撃も俺が全て引き受ける、庇いきる! 君は如月くんを、如月くんの事だけを考えて行動してくれ!」

「大神さん……はい、分かりました!」

「金剛くん、武蔵くん、長門くんは離島棲鬼を作戦『火』で撃滅を! 加賀くん、翔鶴くんは離島棲鬼の航空攻撃をそのまま封じてくれ! 瑞鶴くんは俺と一緒に睦月くんのサポートを!」

「「「了解!」」」

 

その言葉を以って、艦娘たちは自らのなすべきことを再開する。

 

作戦『火』により火力限界から開放された戦艦の三式弾は昼戦であっても離島棲鬼には壊滅的な一撃となる。

 

「さあ、行くぞ! 撃ち方……始めっ!!」

「ギャアァァァ!」

 

武蔵の砲撃を直撃で受け、憎しみの声を上げる離島棲鬼。

随伴も既に一人残らず始末している、こちら側の勝利は時間の問題だ。

 

 

 

あとは、睦月の説得にかかっている。

 

「如月ちゃん!」

 

睦月の声に再びこちらを見やる如月。

煩わしいと、近付くなとばかりに、巨大な深海棲艦がその主砲を打ち放つ。

 

「きゃっ!」

 

至近弾を受けるが、睦月の身には衝撃はない、水飛沫一つ降りかかる事はない。

大神が庇ったからだ。

 

「大丈夫だ、睦月くん。君への砲撃は俺が防ぐ、君は俺が守る!」

「はい!」

 

やがて、飛び交う砲弾も、怒号も、全てが気にならなくなっていく。

睦月の目には如月しか映らなくなっていく。

 

「如月ちゃん、久しぶりだよね。こうやって海で一緒になるの」

「…………」

 

睦月の声に如月が応える事はない。

いや、身体は反応しているが、声を以って答えはしない。

それでも、睦月は絶えず声をかけ続ける。

 

「私、如月ちゃんのおかげで海にも戦いにも大分慣れたよ。こうやって攻略部隊に参加できるくらいに。今回は無理を言っちゃったけど」

「…………」

「チカヨルナ、カンムス!」

「睦月くん!」

 

再度の深海棲艦の主砲。

今度は睦月に直撃せんと飛来するが、大神の霊力で作られた分身体が睦月を庇う。

徐々に睦月は如月に近付きながら、声をかける。

 

「如月ちゃんがつきっきりで面倒を見てくれたから、励ましてくれたからだよ。ずっと、ずっと感謝してたの!」

「…………ちゃん?」

「チカヨルナトイッテイル!」

「睦月の邪魔はさせないわ! 艦載機!」

 

大神が、瑞鶴が、絶えず深海棲艦の注意をひきつける。

 

「だから、ずっと、如月ちゃんに言いたかったことがあるの! あのとき約束したまま言えなかった言葉を! 果たせなかった約束を果たしたいの! だから聞いてよ、如月ちゃん!!」

「む……つ、き……ちゃん?」

「そうだよ、睦月だよ! 如月ちゃんの姉妹艦の睦月だよ!」

 

手を伸ばせば触れ合える距離にまで睦月は如月に接近する。

応える如月の声に、光を取り戻した目に、睦月は如月へと手を差し伸べる。

 

「シズミナサイ!!」

「そうよ、艦娘は沈み――なさい――っ」

 

だが、後ろの深海棲艦が叫ぶと、如月の瞳は再び黒く濁る。

睦月から差し伸べられた手を引いて、近寄せると、如月は睦月を片手で持ち上げ、その首を締め上げる。

 

「かはっ」

「睦月くん!?」

 

締め上げに対しては庇うこともできない、大神の焦りの声が響く。

 

「あぅ……如月……ちゃん」

「ダマリナサイ!!」

「だまりなさい」

 

無機質な如月の声。

睦月を締め上げる手には骨も砕かんとばかりに力がこもる。

徐々に睦月の意識は薄くなっていく。

 

『わすれないで……』

 

だが、睦月を締め上げる腕から如月のもう一つの声が聞こえてくる。

 

『如月のこと……忘れないでね……』

 

如月が沈むとき、今際の際に呟いた言葉が、自分の首を締め上げる手を通して感じられる。

その声に睦月の意識が戻る。

 

「――っ! 忘れてなんかいない、如月ちゃん!」

「……う」

「忘れてなんかいない、一瞬だって如月ちゃんの事、忘れてなんかいないよ! 私は、睦月は、ずっと覚えてた! だから戻ってきて! 帰ってきてよ、如月ちゃん!!」

 

睦月の瞳から零れ落ちた涙が、睦月を締め上げる如月の腕をつたって、流れ落ちる。

如月の白い肌をつたって染めていく。

漆黒の闇に光が差し込んだかのように。

 

「如月ちゃん! また、一緒にいよう! ずっと伝えたいことがあったの! それは今でもずっと変わらない、変わらないよ!!」

「む……つ……き……ちゃん」

 

自分を締め上げる手を、それでもいとおしげに撫でる睦月。

やがて睦月を締め上げる如月の目に涙が浮かぶ。

 

「大好きだよ、如月ちゃん! やっと会えた、やっと捕まえた、もう離さないんだからー!!」

「むつ、きちゃん――睦月ちゃん!」

「如月ちゃん?」

 

睦月を締め上げる手から力が抜けていく。

そして、海面に下ろされた睦月の身体を如月が抱き締める。

その瞳には光が完全に戻り、艦娘としての自我を完全に取り戻していた。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい、睦月ちゃん!」

「如月ちゃん! 如月ちゃんだ!! 良かった、良かったよ……」

 

「グスッ。睦月、良かったデース」

「流石に少し感動しました」

 

その光景を見守る艦娘たち。

 

しかし、その場を黙ってみていないものが存在した。

常に如月に寄り添っていた深海棲艦である。

本体とも言うべき存在を奪われ逆上した深海棲艦は、その巨大な手で睦月と如月を握り締める。

 

「オノレ、オノレーっ!」

「きゃあぁぁぁぁっ!」

「いやあぁぁぁっ!」

 

その巨大な手から黒い淀みが、怨念が滲み出て、睦月たちを覆い、黒く染め上げていく。

 

「いやあぁぁぁっ! 入ってこないで! もう、私の中に入ってこないでー!!」

「きゃあぁっ! 何これ、やだあぁぁっ! 如月ちゃん、大神さーん!!」

 

自らの意識を、想いを、何もかも黒き深海の怨念に塗りつぶされそうになって、睦月は如月の名を、大神の名を叫ぶ。

 

「睦月くん!」

「睦月ちゃん! お願い、睦月ちゃんだけでも、放し――」

 

このままでは睦月まで深海棲艦と化してしまう。

それだけは避けようと、巨大な深海棲艦に話しかけようとする如月。

しかし、その返答は――

 

「いやあぁぁっ!!」

 

もうお前は必要ないとばかりに、如月を握りつぶさんと力が篭められた深海棲艦の手。

如月に出来る事はもう何もない――いや、一つだけ出来ることがあった。

 

「司令官さん! お願い、睦月ちゃんを助けて! その刃で私を討って!!」

「如月くん! 何を言っているんだ!」

 

深海棲艦に握られたまま、大神へと自らの殺害を懇願する如月。

そんなこと、大神が承服できるわけがなかった。

 

「このままだと睦月ちゃんまで深海棲艦と化してしまう! そんなの絶対ダメよ! だから私だけでも討って! 睦月ちゃんだけでも助けて!!」

「……如月ちゃ……ダメだよっ!」

「睦月ちゃん! お願い、司令官さん! 睦月ちゃんが深海棲艦と化してしまう前に! 私を!」

 

黒き怨念に徐々に染まり、ぐったりとした睦月。

もう一刻の猶予も許されていない。

 

「二人とも諦めちゃダメだ! 打つ手はある筈だ!」

 

そう如月に返す大神だったが、深海棲艦そのものと化していた如月と、化しつつある睦月に、霊力技がどう作用するか確実な事はいえない。

最悪、二人とも死なせてしまうかもしれない。

もちろん、砲撃するなど以ての外だ。

 

何か手はないかと焦燥に駆られる大神。

 

そんな大神の視界にふと二刀が入る。

 

次の瞬間、大神の脳裏を二剣二刀の儀を用いて魔を鎮めた時の事が過ぎった。

二剣二刀の儀ならば、二人の身体から怨念だけを打ち払うこともできるだろう。

 

だが、出来るだろうか。

二剣なき、この身一つにて。

 

「いや、出来る出来ないじゃない! やってみせる!!」

 

その時の構えと等しく、二刀を振りかぶる大神。

 

「No! 隊長!?」

「隊長さん、やめて! 二人を傷つけな――」

「金剛さん、瑞鶴、隊長を信じましょう」

 

睦月、如月の二人に向かって二刀を振りかぶった大神に混乱する瑞鶴、金剛だったが、翔鶴は大神を信じて押し留める。

 

「狼虎――違う」

 

今必要なのは、全てを滅ぼし消し去る狼虎の力ではない!

 

今必要なのは、邪なモノのみを破り、滅ぼし消し去る力!

 

今ここに二剣はない。だが、二刀はこの手に確かに存在する!

 

「睦月くん! 如月くん! 二人とも今助ける!!」

「大神さん!」

「司令官さん!?」

 

だから神刀滅却よ!

 

光刀無形よ!

 

応えてくれ!

 

「我に一度の! 破邪の力を!!」

 

大神の意思に、叫びに応えるかのように、構えた二刀が剣狼の如く、刀虎の如く唸りを上げ大神の霊力に共鳴する。

 

気付けば常とは異なる掛け声を、大神は叫んでいた。

 

「破邪――滅却! 悪鬼退散!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

擬式・二剣二刀の儀、発動。




サクラ大戦2をプレイした頃から大神さんにずっと言わせたかった半オリジナル必殺技。
20年越しでようやく言ってもらうことが出来ましたが、オリジナルなだけに反応が怖いw





あと、作戦『火』+三式弾の恐ろしさについて

武蔵のフル改修、46砲*2の火力が191、好感度補正入れて217ですが、
火力キャップ(昼戦火力150、夜戦300以上は激減する艦これのゲーム仕様)のため、
装甲150の離島棲鬼には昼戦では一桁ダメかカスダメしか入りません。

ところが作戦『火』ではこの仕様を無効化する上、攻撃力1.5倍
更に三式弾装備していると陸上型深海棲艦に火力2.5倍
更に弾着観測射撃の連撃で1.2倍攻撃を2回

結果、(217*2.5*1.5*1.2 ー 150)*2 = 1652

のダメージを叩き込めます。
ちなみに離島棲鬼のHPは450なw

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