艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第六話 終 眠り姫の帰還

深海までも清められた静かなる海。

そこは、もう深海棲艦が生息できる環境ではない。

この海域は完全に人間達のものだ、そよぐ潮風すらもどこか神々しい。

 

「みんなー、集まってきてくれ」

「どうしたんだ、大佐?」

 

そんな中、大神は攻略艦隊を自分の中心に集める。

 

「いや、いつものやつをしようと思ってね」

「あー、なるほど。ひっさし振りだもんね、こんなに勝てたの!」

 

その言葉に瑞鶴たちがうんうんと頷く。

どうやら瑞鶴たちもしたくてうずうずしていたらしい。

 

「いつもの? なんだ、それは?」

 

訝しげな表情をする長門たちだったが、瑞鶴たちがすぐに手ほどきを行なう。

 

「まあまあ、いいのっ! こうやってノリに合わせて――隊長さん!」

「よしっ、いくぞみんな! せぇの――」

 

 

 

「「「勝利のポーズきめっ!」」」

 

 

 

と、決めたまでは良いが、肋骨が折れた状態で、リミッター解除しての連続の『庇う』、擬式・二剣二刀の儀、合体技と立て続けに放ち、消耗した大神は意識が揺らぎ一瞬崩れ落ちそうになる。

 

「「大神さん!」」

 

寄り添っていた睦月と如月は慌てて両側から大神を支える。

 

「ふえぇぇぇ……大神さんの身体、男らしいのですぅ……」

「うわぁ、この男らしい肌。あはっ、もっと近くで見たいかも」

 

しかし薄手のコート一枚では、大神の身体の感触を素肌で接しているのと殆ど変わらない。

初めての感触に赤面する二人。

 

「睦月くん、如月くん、俺は大丈夫だから。離れても良いよ」

 

もちろんそれは逆についても同じこと、睦月と如月の瑞々しい肢体と発育途上ながらも柔らかな感触を感じて赤面する大神。

だが、離れてまた大神が崩れ落ちたら元も子もない、二人は大神にぴったりくっついて離れない。

 

『大神さんのバイタルチェックは……大神さん、こんな状況で戦ってたんですか!? 無茶にも程があります!!』

 

崩れ落ちかけた大神の様子に光武・海が送る大神の状況を確認して、憤る明石。

果てはこのままお説教かと思われたが、

 

『明石さん、それは隊長が戻ってからにしましょう。私も言いたいことが山程ありますので』

 

ニコリとしながらも、目が全く笑ってない大淀。

その目を間近で見ている明石の背には冷や汗が浮かぶ。

声色だけでも、逃げ出したくなる程だ。

 

『そうですね。大神さん、帰ってこられたら検査も含めてきっちり入院していただきますから。覚悟してくださいね』

「あはは……分かったよ」

 

がっくりと肩を落とす大神。

どうやら帰還後、二人がかりのお説教が待っているのは避けられないらしい。

そんな大神の様子に瑞鶴たちがクスクスと笑っていた。

 

「Hey! 睦月に如月ー! そんなにぴったりくっついたままじゃ、隊長も緊張して休めないのデース! 一旦W島に連れて行って休ませてあげるのデース!」

「あっ、そうですね! 金剛さん! でも、敵地の中で休んでも大丈夫でしょうか?」

「隊長と睦月たちのfinisherで敵は一掃されたのデース! 他の艦隊が集まるまで時間もありますし、多少休憩しても問題ありまセーン!」

 

金剛の言葉に大神は頷く、やはりかなり無理をしていたようだ。

よく見ると顔色もあまりよくはない。

 

「そうだね、悪いけど、少し休ませてもらおうかな。あと、他の艦隊にも連絡しておこう。対潜第一、第二、支援艦隊、聞こえるかい?」

「響、聞こえるよ」

「神通、聞こえております」

「はい、榛名は大丈夫です!」

 

大神の声に各艦隊の旗艦が答える。

 

「敵艦隊は全滅した、合流後、陸海軍の基地設営隊の到着を待って帰還することになるけど、合流前に敵艦隊が居た海域を捜索してくれないか?」

「え、どうしてだい?」

「敵艦隊は9艦隊も居たんだ。響くんや、金剛くん、如月くんのように、深海棲艦に囚われていた艦娘が居てもおかしくないだろう?」

 

確かにそうだ。

9艦隊も霊力で浄化したのだから、一人くらい囚われていてもおかしくない。

 

「……でも、第一次W島攻略作戦で沈んだのは如月だけの筈だよ、大神さん」

「W島本来の防衛戦力は一、二艦隊が良いところだよ。他の艦隊は他海域から移動した筈さ。だから、居る可能性は低くないと思っている」

「うん、わかった。大神さんがそういうなら、捜索を行ないながらW島に向かうよ」

 

通信を終えると、大神はW島の海岸に座り込む。

やはりかなり疲労していたらしい。

 

「大神さん、如月ちゃん以外にも艦娘が居るって話、本当なの?」

「確信はないけど、可能性はあると思っている。捜索を怠って救えなかったとしたら悔やんでも悔やみきれないからね」

 

やがて、榛名たちから連絡が届くのだった。

 

「大神さん、大神さんの予想通り艦娘を発見しました! 髪を結わえてはいませんが、この黒髪の姿は多分――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな喧騒にW島が、鎮守府が沸き立つ中、一人病床についている艦娘が居た。

未だ、心の病から抜け出きることが出来ず、安静を余儀なくされている艦娘。

 

大井である。

 

明石の的確な投薬とカウンセリングにより、錯乱したり、幻聴が聞こえたりするなどの重篤な症状からは抜け出る事は出来たが、問題ないと言い切れる状態になるまではまだ一歩が足りない。

大井も、明石も、そして舞鶴の艦娘もその一歩となるものが何なのか分かっていたが、こればかりは必要だからといって用意できるものでもない為、少しずつ穴埋めをしようとしている。

 

だから、今回のW島攻略に際しても、そんな大井についてはあまり情報を与えられていなかった。

 

部屋の外から聞こえる歓声からすると、大勝利を収めたのだろう。

いや、もしくは勝利を収めた大神たちが帰ってきたのだろうか。

 

でも、今の大井にとってはあまり関係がない。

今の大井がなすべき事は、心身ともに休息を取り、健全な状態へと戻ること。

焦りを覚えないわけではなかったが、焦りこそが禁物である。

 

「……少し寝ようかしら」

 

そう一人呟くと、大井は横になる。

しばしの時間を置いて寝息を立てる大井。

やがて、そんな大井の部屋に一人の艦娘が入ってくる。

 

場所は違えど、部屋にあるものはその艦娘にとって見覚えのあるものだ。

懐かしさを覚えながら、彼女は寝入る大井の下へと近付く。

 

そして、大井の姿を見下ろす。

 

今の大井は、十分な休養を取り、治療を受けている。

目の下の隈等はなく、艦娘として着任した直後の美しさを取り戻していた。

 

「良い隊長に巡り合えてよかったね――」

 

自分がいなくなるとき、それだけが心配だった。

でも、これなら大丈夫だ。大井も、自分も。

 

「大井っち」

「ん……」

 

自らの名を呼ぶ声に、大井がうっすらと目を明ける。

そこには、いる筈のない艦娘の姿があった。

 

「……幻を見るなんて、症状が悪化してしまったのかしら? お薬を飲まないと……」

「違うよ。幻じゃないよ、大井っち」

 

手を伸ばし、症状が悪化したとき用と処方されていた薬を探る大井。

その手を両手で握る艦娘。

 

それは髪を結わえてこそいないものの、間違いなく北上であった。

 

「そんな筈ない、ある訳ない……だって北上さんは……沈んで…………」

「遅くなってしまってすまない。けど、大井くん、約束を一つ果たしたよ」

 

北上の後ろから大井に声がかけられる、大神のものだ。

 

「約束?」

「ああ、僥倖ではあったけど北上くんを救うことが出来た」

 

信じられないと顔に貼り付けながら、目の前の北上の顔を、身体を触る大井。

北上の温もりが感じられる。

 

「本当に、北上さんなの?」

「そうだよ、大井っち」

 

見る見るうちに大井の目に涙がたまっていく。

 

「……本当の本当に?」

「うん、本当の本当に」

 

しゃくり上げながら、何度も北上に尋ねる大井。

北上は微笑みながら、大井の問いに答える。

 

「北上さん……北上さん!」

 

やがて堪えられなくなった大井は北上に抱きつく。

 

「北上さん、本当に北上さんだ!」

「ごめんね、大井っち。ずっと一人にして。大変だったって聞いたよ」

「いいの! 北上さんがいてくれるなら、こうやって傍にいてくれるなら良いの!!」

「うん、これからはこの有明鎮守府で一緒に頑張ろうね」

 

互いに涙を浮かべ再会を喜ぶ二人に、今は自分は邪魔になる。

そう考えた大神は静かに部屋の外に出る。

 

「よかったな、二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

有明鎮守府、初の大作戦は大勝利に終わりました!

でも、戦いに参加できた艦娘と朝潮、何が違うのでしょうか?

訓練量なら負けてないつもりなのですが。

そんな中、艦娘の間に一つの噂が持ち上がります。

――隊長を好きになればなるほど強くなれる、と――

好きになれば朝潮も……でも、『好き』ってどんな気持ちなんですか?

 

次回、艦これ大戦第七話

 

「こころのたまご」

 

ご命令とあらば、暁の水平線に勝利を刻みます! 

 

 

 

「隊長……朝潮に、新しい秘密の暗号を……教えてください……」




朝潮型はガチ。

そして狼が動き出す。
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