朝潮の薄い本あったら教えてください。
今の自分なら社会人パワーで一冊残らず買う、買い漁る!
朝潮に顔を埋めて、朝潮の匂いを胸いっぱいに吸って窒息死したいw
朝食からしばしの時間が経ち、艦娘たちの午前の訓練が始まろうとしていた。
巡回、遠征に命じられた睦月型や吹雪型、天龍型は既に鎮守府を後にしている。
今日は地方の巡回が多く、任じられた艦娘もいつもより多い。
まして今日に限って彼女たちの目的とする地は有明から遠い、彼女たちの帰着は遅くなる筈。
MVPを取って大神の昼食の隣の席を確保するには、数少ないチャンスの日と言って良いだろう。
しかし、足柄と共に戻ってきた朝潮は、もじもじと所在なさげに身を強張らせている。
「お、おおがみさん……おおがみさ――おおがみおおがみ、おおがみおおごめおおたまご」
「どうしたのよ、朝潮? 顔が真っ赤じゃない?」
同型艦にして同じ8駆の満潮が、いつもと異なる不気味な隣の朝潮の様子に、たまらず声をかける。
おおがみおおがみと小刻みに呟く朝潮の様子は明らかに不審極まりない。
今朝、足柄と連れたって食堂を後にしたとき、言い様もなく嫌な予感がしたがやはりだったか。
今更ながらにその時呆然と二人を眺めていた満潮は止めるべきだったかと後悔に襲われるが、今は目の前の挙動不審な朝潮をどうにかしなければならない。
「みっ、みちしお!? 今日は負けません! 絶対に負けられないんです!!」
「朝潮……私たち、今日の演習では同じ艦隊よ…………」
今日の演習の艦隊分配も忘れてしまったというのか。
ため息混じりに満潮は答える。
「そういう意味ではありません! MVPは朝潮がいただくという意味です!!」
「ちょっと、そんな言い方をしたら……」
同伴艦が黙ってはいないはず。
なぜなら今日満潮、朝潮と轡を並べるのは――、
「あら、それは私たちを出し抜くという意味でよいのかしら?」
「Hey、朝潮~。このBattleShip 金剛と一航戦相手に挑戦デースか~。いい度胸デース、足柄に弟子入れしたって私に及ぼうなんて百年早いデース!」
「駆逐艦と空母、戦艦との差、そう簡単に埋められるとは思わないことね」
「ぱんぱかぱかぱかぱんぱかぱーん。朝潮ちゃん、気合入れるのは良いけど、あんまり入れすぎちゃダメよ?」
愛宕、金剛、赤城、加賀の4人。
特に後者3人に至っては、もはや、大神のシンパと言って良い存在。
MVPを取得し、大神の隣の席で昼食を取る至福の時を得るためなら彼女たちは手段を選ばないだろう。
ただでさえ打撃力のある金剛、空母を相手にしてどうしようと言うのだろうか。
「大丈夫です! そのための秘策を用意いたしました!! 次の特訓のためにも朝潮は勝たねばいけないのです!!」
「――あ、そう。頑張ってね」
朝潮の様子から、「あ、これはロクな事にならない」と直感した満潮は朝潮のそばから数歩離れる。
響、睦月、如月でもあるまいし、噂の通り自分たちが隊長を好きになったところでどうにかなるとも思えない。
朝潮たちが機械標的がセットされた演習場の位置につく。
「お、みんな、頑張ってるみたいだね」
と、午前にしては珍しく、大神の姿が演習場へと現れる。
ざわめきだす演習場。
「Wow! 隊長~、この金剛の勇姿を見に来たのですか~? 待っててくだサーイ、すぐにMVP取るのデース! 昼食の隣はこの金剛が頂きなのデース!!」」
「寝言はそこまでにしておく事ね、赤城さん!」
「ええ! 隊長の隣は私と加賀さんで決まりです!!」
大神へと向き直り自分をアピールする3人。
その次のタイミングで演習開始のアラームが鳴る。
「行きます!」
大神に向き直ってタイミングの遅れた3人をよそに、水面を快調に駆け出す朝潮。
だが、駆逐艦の射程からは程遠い、戦艦・空母の射程の標的がしばらくは続く。
最初遅れたからといってこのまま遅れっ放しの3人ではないだろう。
しかし、ここで足柄の秘策が炸裂する。
「お、おぅっ、じゃなくて、お お が み――大神隊長、好きですーっ! 大好きーっ!!」
艦娘たちの衆目が注目する中、朝潮は叫んだ。
羞恥心を捨てて心の限り。
朝食後、海に向かって叫んでいなければ、間違っても今までの朝潮にはできなかった事だ。
「「「ぶふっ!」」」
その宣言にほぼ全艦娘が躓く。
まさか、こんな演習の中、艦娘が集う中、ほぼ全員の見守る中で宣戦布告を、告白をする艦娘が果たしているだろうか?
いや、居ない。
演習に参加し蹴躓いた艦娘たちは意表を突かれ次々と水面を転がっていく、まるで初練習のときの吹雪のように。
それは、朝潮にとって十分すぎるほどのアドバンテージとなった。
「――っ! いただきです!!」
耳まで真っ赤にした甲斐もあってか、午前の演習において取得した朝潮の得点は過去類を見ないほどのものとなったのであった。
そして、圧倒的なスコアを獲得した朝潮は、昼食時、当然の如く、大神の隣の席に座る事が決定しようとしていた。
意表を突かれ、出し抜かれた形の金剛たちだが点数は点数、異論の上げ様はない。
歯を食いしばり、ぐぬぬと声を上げて、食堂の入り口で大神を待つ朝潮を見やる金剛たち。
その朝潮は、潮風で乱れた髪を梳かしなおし、上品に流れる髪を何度か所在なさげに直している。
ケープを羽織った姿は、深層の令嬢のようにも見え実に愛らしい。
若干不安げに視線を彷徨わせているだけだというのに、男――大神を待つその姿は保護欲を掻き立てるものであった。
まさに魔性というべきか。
やがて、大神たちの姿が食堂に現れる。
ぱぁっと花が咲きほころぶように笑みを浮かべる朝潮。
「おおがみさ――大神隊長!」
朝潮のあまりの可憐さに大神は一瞬はっと息を呑む。
ああ、やはりあなたはロリ神さんだったというのか。
「断じて違う!」
「隊長、何が違うのでしょうか?」
メタなツッコミに小首を傾げるその姿も実に愛らしい。
だが、それはこれまで響や、睦月に感じたものと同種の存在だ。
大神は心の中で気を取り直し、朝潮へと向き直る。
「朝潮くん。待たせてしまったみたいだね、早速だけど昼食を取ろうか」
「いえ、MVPのお隣の席は朝潮は求めません!」
大神を含め、全員の疑問の視線が朝潮へと突き刺さる。
では、なぜ朝潮はおめかしをして大神を待っていたというのだろうか。
「その代わり! 隊長にしていただきたい事がありまして――」
「俺に?」
「はい、隊長以外の方にはお願いできない事なんです!」
僅かの間、大神は躊躇する。
例文化されてはいないこととはいえ、暗黙のルールを破っても良いものだろうか、と。
有明鎮守府がスムーズに運営される上で支障をきたさないものか、と。
大神は朝潮の表情を見やる。
「お願いします、大神さ――たいちょぉ……」
大神の表情から拒絶の気配を感じ取った朝潮の語調が弱弱しくなっていく。
目端にじんわりと涙さえ浮かんでいる。
それを斬って捨てる事は流石に躊躇われた。
まあ、朝潮くんのことだ。以前みたいに――
『接近戦の、小太刀術の講釈をお願いしたいのです!』
とか、そんな内容に違いないか。
と、朝潮が足柄に弟子入りしたことを知らない大神は、
「分かった、俺でできる事なら引き受けさせてもらうよ」
安請け合いする。
その後に起きる事も知らずに。
「ホントですか、ありがとうございます!」
「で、朝潮くんのお願いってなんなんだい?」
「はい! おおがみさ――隊長に! ご褒美の、き、き、ききき、キスをお願いしたいのですっ!!」
「――ええっ!? キス?」
「はい、きき、キスを隊長にして頂きたいのです!!」
食堂が凍った。
あれ、だんだん不穏な雰囲気にw