艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第一話 終 決着後のエトセトラ

帰還した大神たちは司令室に戻ったが、迎撃前に大神が指示したとおりそこはもぬけの殻。

吹雪たちの案内に従い入った艦娘用の保健室で、可動式のベッドに寝て秘書艦の龍田にりんごを剥かせていた。

 

何故か白衣を着た明石の見立てでは、司令官の怪我は内臓部の損傷など致命的なものこそなかったが、肋骨など複数個所を骨折している。

戦闘指揮を務めるには問題があるが、その問題は着任した大神が見事解決してくれた。

今回の結果を以って、戦闘部隊の指揮を大神に一任、正式に隊長にするとのこと。

書類の確認や指示を出したりする分には問題ないので、治癒するまでは警備府の泊りになるがこれでいいと笑っていた。

 

「良かったな、大神隊長。いきなり司令官にならずに済んで」

「はは……ありがとうございます、司令官」

 

既に龍田が持ち込んだ多数の書類の確認を行っている辺り、司令官もまじめな人間なのだろう。

米田司令負傷時の司令代理の経験も、総司令の経験も既にありますとは言えず、苦笑いを浮かべる大神だった。

 

「いや、その心配も必要なかったかの? 少しやってみるか?」

「もう司令官。おサボりは禁物ですよ~。その手、落ちても知りませんよ~」

 

怖い台詞を吐きながらも自分も泊まりこみ覚悟で甲斐甲斐しく司令官の世話を焼く龍田の様子に、秘書艦じゃなくて介護艦を名乗っても良いんじゃないかと保健室に集った艦娘一同が思ったのは言うまでもない。

 

龍田が怖かったので、誰も口の端に乗せたりなどしなかった。

 

報告も終え、若干気の抜けた暁は視線の端にかかるしろがねに気をとられ、隣のベッドに視線を向ける。

そこには眠り続ける銀髪の少女――そう、響がいた。

 

「そうよ。臨時司令官、わたし、響ちゃんの事聞かせてもらってない!」

 

思い出したとばかりに大きな声を上げる暁。

なんだなんだ、と周囲の艦娘たちが暁と響に注目する。

ちなみに大神はもう臨時司令官ではない、大神隊長と呼ぶほうが正しい。

 

「話には聞いていたけど、本当にどう見ても響じゃないか」

「本当だー。響ちゃんだー」

 

この警備府に着任していた艦娘だったこともあり、今警備府に居る艦娘の大半と面識があったらしい。

その容貌を何度も確認して、天龍が、那珂が、いや、ほぼ全員が響に間違いないと口々に賛同する。

 

「やっぱり、響ちゃんだよ……もう二度と会えないと思ってたのに」

 

戦闘前は少しの間しか確認することが出来なかったが、姉妹艦である暁たちが、長い間共にいた響を間違える事などあろう筈もない。

響の白い肌を撫でながら、暁がいとおしそうに呟く。

 

しかし、響は身じろぎ一つすることなく眠り続ける。

当然その口が開かれる事もなく、何故ここにいるのか分かる者はいない。

 

「すまない、暁くん。俺も詳しいことは分からないんだ」

 

大神にしても、初めて戦い討ち取った深海棲艦から現れた少女、それ以上の事は何も分からない。

皆が響と呼ぶ少女にも面識はなく、どういう素性のものかは会話から推測するしかない。

 

ちらりと、大神は響の隣のベッドで同じように眠る鳶色の髪の少女に目を向ける。

 

「……」

 

恐らくは、響と同じように艦娘であろう少女。

天龍、川内たちと年の頃は同じ、いや若干上か。

 

警備府で彼女を知るものは居なかった。

 

「君にも響くんのように、心配する姉妹がいるのかな」

 

大神の問いに答えることなく、少女たちは昏々と眠り続ける。

 

 

 

 

 

「ふう、いい風だ……」

 

その夜、本来であれば大神の歓迎会を行う予定であったのだが、比較的損害が軽微だった川内たち第3艦隊と長期遠征で不在の第4艦隊以外の疲労は絶頂。

会場となるはずだった食堂も少なくない損害を受けていることから、当然のごとく日を改めることとなった。

大神も宛がわれた自室に向かい、着替えと神刀滅却の手入れを済ませると、外に出歩き夜風に当たる。

 

時間は大帝国劇場の夜の見回りを行う頃合。

いつもの癖なのか、不審な人物が居ないか気を配りながら大神は警備府内を歩き始める。

 

「明日は、時間を作って調べ物をしないといけないな」

 

艦娘のこと、深海棲艦のこと、大神には分からない事だらけだ。

今この警備府において、自分以上に物を知らない存在は居ないかもしれない。

見知らぬ場所で見知らぬ敵と戦うことは、いつもの事過ぎて何とかできた。

が、今後を考えれば、可能な限り知識を集めなければいけない。

 

「隊員――じゃなかった、艦娘との訓練も必要か」

 

隊長ともあろうものが、流石にあんな無様を何度もさらす訳にはいかない。

大神は昼間の事と、手に残っていたしがみついた吹雪の感触を思い出す。

最初に握手したときの手の感触と同じ、いや、それよりも柔らか――

 

「って、何考えているんだ。いかんいかん」

 

頭の中からよこしまな考えを追い出すように強く頭を振る大神。

近くに寮があるのか艦娘たちの寝息が風に乗って届く、いびきをかいているのは天龍だろうか。

と、演習場の方から物音が聞こえる。

 

「誰かいるのかい?」

 

不審者かもしれないと演習場を覗き見る。

吹雪が、襲撃の日の夜だというのに、一人標的への射撃訓練を行っていた。

手にした連装砲から演習用の砲弾が放たれるが、大きく狙いは外れ水面に着弾する。

 

「あ、大神さん」

「吹雪くん……こんな時間に何をやっているんだい」

「私、新入りですから。他の皆よりも頑張らないと」

 

表情に疲労の影を残しながらも、いや、だからこそ朗らかに笑う吹雪。

 

全く、この子は――

 

「しょうがないなあ、俺も手伝うよ」

 

大神はシャツの裾を捲くると、水面へと近づいていく。

 

「え、でも、大神さん。悪いですよ」

「士官学校主席って、司令官が言っていただろう? 近接格闘だけじゃなくて射撃も大丈夫だって」

 

月明かりの下、二人は夜が更けるまで訓練に勤しむのだった。

 




ジッサイ大神さんは、弾丸を狙って撃ち抜けるくらい射撃も得意なお人です。
あと自室が襲撃で壊れて吹雪の部屋で寝る大神さんってのも一瞬考えたけど、大神さんはなんかそういうのじゃないから没。

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