ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実- 作:ゆめうつつ
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今回の内容は半蔵学院メンバーとのコミュ。そして閑話的なコミュ活動故、本編とは違い具体的な日時が伏せてあります。
さて、そうしてこうして忍学科の寮に移り住む事となった結城理であるが、当然の如くその生活模様は激変することとなる。
今までは男の一人暮らしだった者が、いきなり5人の少女が住む寮内に放り込まれたのだから当たり前だ。
そして、一つ屋根の下で男と女が生活する以上、多少のトラブルは避けられないものである。
それでは、とある日の理と彼女達との生活ぶりを、ご覧頂こう――――
◆
~飛鳥の場合~
「じゃあ結城くんっ、私と一緒に特訓しよう!」
「いきなり何、飛鳥?」
あくる日、自室で休息していた理は、突如として部屋に乗り込んできた飛鳥にそう宣言される。
イヤホンで音楽を聴きつつくつろいでいるという、彼にとってはそれなりに至福のひと時を邪魔をされたのだが、相手が飛鳥ならそれも許容範囲内だ。
無論それはある程度といった所までであり、少なくともこれがアポイントを取らずにの提案であるならば、その時点で理はにべも無く拒否しただろう。
しかし――――
「前に約束したでしょ、結城くんに武器の扱い方を教えてあげるって!」
「……ああ、マジシャンの時か」
記憶を探り、飛鳥のその提案が確かに以前交わしたものであると思い出す。確かあれは、マジシャンとの戦闘中、彼女の武器を借り受けた時のモノである筈だ。
尤も、理はその約束に「はい」か「いいえ」等と言う前に、斑鳩達の「イチャつくな!」という罵倒により中断させられた筈でもあるが。
とはいえ、現状でほぼ唯一シャドウを倒すことの出来る理が成長することに、忍学科に居る全員が異論は無い。理は知らないが、葛城もまた彼に稽古をつけることを密かに企んでいたりするのだ。
理自身もまた、特訓することに異存は無い。並のシャドウ相手ならば兎も角、忍とでは絶対的なまでに戦力差が有る。ペルソナ能力に覚醒したとはいえ、依然彼女たちに挑んだとしても敗北するのに変わりはないのだった。
「それじゃあ訓練場に行って、稽古をつけてあげるね♪ うーん、まずは何からすればいいかな?」
「……前みたいに、竹刀で打ち合うだけでいいんじゃない?」
「それもいいけど、そもそも私達と結城くんとじゃ身体能力が違いすぎるんだよね……。それなら、技術の方を鍛えないと。……うん、そうしようっ♪」
「能力的に、俺は後衛向きの筈なんだけど……」
なお、武器の扱い方や基礎スペックの違い、ついでに飛鳥自身の趣味もあるが、理の戦闘技術の
飛鳥の『半蔵流剣術』の様に、彼はしっかりとした流派を持たない、我流の剣術であるからだ。
いや、それは剣術と呼ぶべきものではなく、愚直なまでの『戦闘術』とでも言うしかない。広く浅く、武器を選ばず、魔法を駆使し、己の命すらも賭けとして使う、危ういまでの彼の戦い方。
何時果てるとも知れぬその戦い方を、彼女は見過ごす訳にはいかないのだった。
「言ったでしょ? 私は何もしないで、仲間が死ぬのが怖いって」
「……なるほどね。つまりはお節介ってワケ?」
「あはは、手厳しい~♪」
飛鳥は、本当に屈託なく笑う。理を鍛えるために―――死なせない為に、本気で特訓しようと考えている。その朗らかな笑顔は、観ていて飽きることが無いだろう。
理はその笑顔を見て、胸の内に言い表せれない感情が渦巻く。今の彼には、それを言葉にする術を持たない。だが、それでも――――
「……行く?」
「うんっ!」
今はただ、飛鳥と共に、彼女達を守り抜く力を得るとしよう――――
その後、訓練場にて、飛鳥に完膚なきまでに叩きのめされた理が居るが、それはご愛嬌である。
~斑鳩の場合~
場所は、半蔵学院忍学科。この日斑鳩は、結城理に関する資料を纏めるために、資料室へと赴いていた。
彼女の目的は、彼に対しての報酬金の増額である。先日彼女が理の所有財産を調べた際、その少なすぎる財産に危機感を覚えた故であった。
今回用いる資料は、これまでの彼女達が受け取った報酬金に関する帳簿であり、それと照らし合わせて彼への適正な――斑鳩は、それにやや色を付ける心算で――報酬金を算出する為だ。
しかし資料室には、意外な先客が居た。
「結城さん?」
「……ああ、斑鳩先輩。失礼しています」
帳簿以外にも、雑多な資料が詰め込まれた忍学科の資料室には件の少年、結城理の姿があった。彼がこの場に居ることは別段不思議ではない。理も忍学科の仲間となった以上、此処の施設は彼にも開放されているからだ。
だが、忍ではない彼が忍の資料室にどうして用事が有るのかは分からない。一応この場には、忍ではない彼には見せられない資料とてあるのだから。
「何故この場に? 此処には結城さんが興味を引く物は無いと思いますが?」
「そうでもないですよ。色々と面白いものが有りますから」
「観られて困る様な資料もあるのですが……」
「ちゃんと分別を付けています。霧夜先生にも確認して貰いました」
理はそう言って、手にしていた資料に視線を落とす。彼が読んでいるのは、忍の歴史書であった。
戦国の世から続く忍の歴史、その始まりと歩み、そして現代に到り、なお形を残す忍の在り方を記した書。
それは所謂、教科書という奴である。無論入学当初の斑鳩も眼を通した資料であり、確かにその程度ならば見られても構わない物であった。
「忍に興味が御有りですか?」
「興味というか……。神話とか英雄譚は、俺の好みですから」
ほう、と斑鳩は理の言葉に興味を引かれる。彼女もまた読書を趣味とする者であり、理がどのような本を読むのか気になったのだ。
因みに、彼女は古典から現代小説まで雑多に読むが、その中でも恋愛小説を好むという年頃の少女らしい嗜好を備えている。
対して理は、ギリシャ、日本、インド、エジプト、ケルト、北欧、ローマ、クトゥルフ等、様々な神話を好む。
彼のペルソナ能力が『オルフェウス』というギリシャ神話の吟遊詩人の姿を取ったのも、もしかしたらその嗜好が原因かもしれないのだった。
そんな最中、理は歴史書の中のある記述に眼を惹いた。
「……鳳凰財閥?」
「ッ!?」
その財閥の名は理も良く知っている。この日本の経済を牛耳るとまで評される程に巨大な財閥の名であり、同時に目の前に居る彼女、斑鳩の生家である――――筈だ。
歴史書の記述によれば、鳳凰財閥は古くから続く忍の名門であり、これまでも多くの優秀な忍を輩出してきたのだという。
それは勿論、この忍学科でクラス委員長を務める斑鳩にも当てはまるのだが――――、理が鳳凰財閥の名を読んだ際、ほんの僅かに身を強張らせたのを彼は見逃していない。
単純な話だ。何某かの不和があるのだろうと、理は推察する。彼は、彼自身がそうであるように、家族関連での確執を悟る能力には長けているのだった。
「……これまでにしますか」
ぱたり、と本を閉じる。理は斑鳩のそんな表情など見たくないからだ。斑鳩もまた気を使われたのを察し、表情を崩し、何も言うことは無かった。
が、ハッキリ言って理は下手を打った。資料室に気まずい沈黙が流れる。理は沈黙を苦としない性格なのだが、この時ばかりは勝手が違った。
ぶっちゃければ、この『気まずい沈黙』という空気を初体験し、どうすればいいんだと思案を巡らせていた。友人知人に対するコミュニケーション不足による弊害である。
相手が見ず知らずの他人ならばいざ知らず、斑鳩という人生で初めての仲間故に下手な真似など出来ない。どう対処すればいいのか、コミュ障の理には経験が不足――――否、無いのだ。
この空気の中、沈黙を破ったのは斑鳩からである。その気遣いが理には物凄く有り難かった。
「……私は資料室に帳簿を取りに来たのですが、量が多くて……。手伝ってくれます?」
「……了解」
理がこの後、もっと他人と話せるようになろうと誓ったのは言うまでもない。
~葛城の場合~
「おっしゃーっ! 此処だ此処! 此処がアタイオススメのラーメン屋だ! 奢ってやるから腹一杯――――」
「すいません帰っていいですか」
時刻は昼。今日は学院が休みの日であり、昼食は自炊しようとでも思っていた理は、突如部屋に突入してきた葛城に釣られるがまま、東京の街を闊歩する。
その強引さに、そして約束を違えるのに気が引け、拒否も出来ぬままに理は葛城の後を付いていく。
そうして行き着いた先が、葛城オススメのラーメン屋だと言うが、その悪名高き名を理は知っていた。
「遠慮するなって、不満でも有るってのか?」
「このラーメン屋、量が多いことで有名でしょう。俺は小食なんです」
看板の名は『ラーメン○朗』。言わずと知れた、大盛りで有名なラーメン店である。理も名前や大盛りに関しては知っていたものの、実際に足を運んだことは無い。というか、貧乏故に外食の機会自体があまりなかったりする。
理は別にラーメン自体が嫌いなのではなく、一般的な日本人と同じく好物に分類されてはいる。そして彼は宣言通り小食であり、もっと言えば量より質、味を追求するタイプである。
彼がラーメンを食する場合、大抵はインスタント麺を自作アレンジした物に収まっているのだ。尤も、理は麺類ならばラーメンよりもパスタ派だったりするのだが。
「そんなこと言うなよなー。お前メシ食わねぇから、そんな細いんじゃないのか?」
「……そりゃあ、葛城先輩に比べたら細いでしょうけど」
理はそう言って、目の前の少女を観察する。半蔵学院忍学科三年生『葛城』。長い金髪と、惜し気もなく晒し出されるプロポーションが印象的な、活発――否、オヤジ趣味な少女。
18歳という理より一つ年上にしてそのスタイルは、同年代の少女より明らかに豊満である。下手をすれば、男性である理よりもだ。尤もこれは、理が細すぎるのだろうが。
そんなセクハラ紛いな言葉を気にする風でも無く、葛城は理を引きずって店内に連れ込もうとする。
「はっはっは! そう、アタイのこのおっぱいの中には夢と希望とラーメンが詰まってるんだ! 悔しかったら結城も食え食え!」
「別に悔しいとかじゃなくて――――ぐえっ」
……首根っこを掴んで、だが。忍である葛城の筋力には敵わず、理は成す術もなく店内に引き摺り込まれるのだった。
そして――――
「……おぉう」
葛城が勝手に注文し、目の前に鎮座するのは、まさに山。もやし、もやし、キャベツ、もやし、ネギ、もやし、ニンニク、etc――――
野菜ラーメンと言えば聞こえは良いかもしれないが、これはもはや『野菜炒めのラーメン和え』というべきではないだろうか。
そんな馬鹿な事を考えてしまう程に、理は○郎ラーメンに圧倒されてしまっていた。以前彼が買い物中に遭遇した、もやしを購入していた少女が見たら歓喜で卒倒しそうである。
彼女は、僅かに売れ残っていたもやしを理が譲ってあげた際、狂喜乱舞していた程にもやし好きであったのだから。
そして、これでもまだトッピングとしては少量であり、隣に座っている葛城のラーメンに至っては更に大盛りだ。それに凄まじい勢いでがっついている彼女に、理はある種の尊崇の念を抱いていた。
無論、その豪快な食べっぷりと、悲しくなるほどの女子力の投げ捨てっぷりにである。流石に女の子が昼からその量のニンニクはどうなのだろう?
理に出来るのは、もう「どうでもいい」と思考を放棄し、眼前の
「……それにしても、人生最初の
「ぶぼっ?!」
ふと湧いた疑問を口に出すと、葛城が思いっきり咽込む。
よくよく思えば、女子と休日に食事に出かけるのはどう考えても『デート』に分類されるのではないだろうか。そう思って口にした疑問だったのだが、予想以上に葛城にダメージのある話題だったらしい。
げほげほと気管支からスープやもやしを追い出し、漸く呼吸を落ち着かせた葛城は、真っ赤な顔で理に詰め寄った。
「ででで、デートかよっ!? これデートなのかよッ?! なあオイ結城っ!」
「……少なくとも、休日に女の子と食事に出るなんて、俺は初めての経験ですけど?」
「~~~っ?!(そういえばアタイも同年代の男とメシ食うのなんて初めてだッ?!)」
葛城は口をぱくぱくと開閉を繰り返し、完全にフリーズしてしまっていた。そんな彼女を横目に、理はどうでもいいとばかりにラーメンを食べ始めた。鬼畜である。
だが、流石に野菜の量が多く、どれだけ食べても減ったような気がしない。
このラーメンは、全てを受け入れる『寛容さ』、正しくペース配分する『知識』、肉の群れに突っ込む『勇気』、食べ続ける『根気』を兼ね備えないと完食できないのではないか。
なお、理はそれらのステータスは兼ね備えてはいたが、根本的に胃の容量が足りなかった。数十分後、込み上げてくるモノを堪えつつ、かなりの量を残して理はギブアップしていた。
「まったく、結城はだらしないなー?」
「……うぷっ」
けらけらと可笑しそうに笑う葛城に、理は反論することが出来ない。喉元までせり上がったラーメンが発声を阻害しているのだ。
彼女は先の動揺から既に立ち直っており、元気にラーメンを啜っている。その光景に理は世の中の不条理を感じた。
「残すくらいなら、コレ貰うぜ?」
「……まだ食う気ですか。ご自由にどうぞ……」
「へっへー、じゃあ頂き――――」
「……間接キス?」
「ブッ?!」
葛城、本日二回目の噴出。もはや、色気もへったくれもあったモノではない。
そんなこんなで色々と悶着はあったものの、こうして理と葛城の初デート(?)は終わりを迎えるのだった。
……寮へと帰還した二人が、メンバー全員に「くさい」と言われて敬遠されるのは、この三十分後の事である。
~柳生の場合~
「……」
「……」
もそもそ、もそもそ、と互いに無言のまま、スルメを咀嚼する音だけが流れている。
場所は野外訓練場の一角であり、二人は日当りの良い地面に座っていた。
理と柳生、この二人は元より沈黙という物を苦にしない、口数の少ない性格である。
傍目には仲良く日向ぼっこと見えなくもないが、二人の間に流れる空気はそんな甘いものではない。
「……」
「……」
ちらり、と理は隣に座る少女を見やる。
そもそもこの状況とて、散歩していた理が唐突に柳生に呼ばれ、何も言わぬままに彼女の隣に座ったという経緯だ。
珍しいことも有るものだ、と理は思った。彼の知る限り、柳生という少女は何時も雲雀と共に行動していた筈であった。
とはいえ、出会ってまだ一月と経たない彼女らの行動範囲を理は知らないし、そもそも二人の関係だって知り得ていないのだが。
「……不思議か?」
不意に、柳生は口を開く。理の疑問に答えるようなその言葉は、何やら非難めいた色が混じっている。
「オレとて雲雀から離れるのは不本意だが、お前とは一度話しておきたかったのでな。こうして場を設けた訳だ」
「……そうか。なら、要件は?」
柳生はまず咳払いを一つし、理の眼をしっかりと見据えて言い放った。
「言いたいことは二つ。まず一つ、オレはまだお前を信用していない」
「まあ、妥当だね。出会ってそんなに日が経ってないし」
「……」
「ん、どうしたの?」
「……いや、信用されていないことを肯定されるとは思わなかった」
柳生は毒気を抜かれた様に、理に向けていた僅かばかりの敵意を霧散させる。
ここで彼女が理を信用していないといったのは冗談交じりだ。柳生の真意は、彼がその言葉を聞いてどのようなアクションを起こすのか確認する事だった。
先日の大型シャドウとの戦いを通じて、柳生も理に対する信用はある程度得ている。尤も、後述の理由によってこの忍学科内ではやや低めだが。
だが、その言葉を臆面もなく肯定されるのは、彼女にとって予想外にも程があった。
「“まだ”って言ってくれるあたり、ゼロって訳じゃないんだろうけど」等と全く気にした風でも無い理の態度に、やや罪悪感さえ抱くほどである。
閲覧した彼の資料から察するに、恐らくこの少年は、この様な敵意や害意を向けられているのに慣れてしまっているのだろうと、柳生は判断した。
「お前は、飛鳥や葛城とは仲良くできていると思ったが……?」
「あれは飛鳥や葛城先輩が特別なだけだよ。俺は、自分から話すのは苦手だから。……柳生もだろう?」
「……まあな」
自分達のコミュ能力不足を再確認し、重苦しい空気が流れ始める。最近の理には、失言属性が付与されている気がしないでもない。
気を取り直し、柳生は改めて理に向き直る。彼女の二つ目の要件、実はこちらの方が本題だったりする。
「二つ目は――――、雲雀に手を出すなということだっ!」
「…………は?」
人差し指を此方に突き刺し、柳生は大声で宣言する。だが、理には一瞬その内容が理解できなかった。或いは、理解を拒否したというべきか。
取り敢えず理は、柳生のその言葉の文面を受け入れ、彼女が何を言いたいのかを分析し、答えを出す。
「……雲雀を信用するな、ってこと?」
「何故そうなる?!」
やはりコミュニケーション不足の弊害か、この手の話題に関しては理はズレた答えを出してしまう。
歪曲的にでも雲雀を貶された為か、柳生は怒気を含ませながら雲雀に対しての己の感情を話しだしたのだった。
曰く、一生懸命な強さを持っている。
曰く、お菓子が大好きなところが可愛い。
曰く、オレは雲雀が大好きだ!
ひとしきり語り通した後で、柳生は正気に戻り――――否、彼女は正気のままで雲雀への愛を語っていた。
理もその言葉を聞いていたが、結局は最後の言葉に収束される。要は、雲雀に悪い虫が付かない様にしているのだ。
「……悪い虫扱いされるのはどうでもいいけど、この手の話って結局は本人次第じゃないの?」
「なんだと!? 雲雀が貴様などに惚れるものかぁーーーっ!!!」
そして、剣呑な雰囲気を発し始めた柳生を理はなんとか落ち着かせて、この益体の無い話は終了する。
柳生もこの頃になれば流石にバツの悪い顔をして、先程までの痴態を反省していたのだった。
「すまん……、ちょっと熱くなり過ぎた……」
「別にいいよ。柳生がそれだけ雲雀を想っている、ってことだからね」
「そ、そうか! やはりそう思うか! ははっ、すまなかったな結城、これは詫びと礼変わりだ、取っておいてくれ!」
そうして柳生は、「雲雀成分が切れた!」等とのたまって、足早に学院の方へと駆けていくのだった。
理は手渡されたそれを、どうしたものかといった思いで見つめることとなっている。
「……スルメか」
柳生の好物であるそれを手渡されたという事は、ある程度の信頼を築けたという事なのだろう……か?
釈然としないままに、理はスルメを咥えてみる。彼女が好物とするだけあって、確かに美味いのだが――――
「一人で食べると、味気ないな……」
次に会うときはもっと和やかな空気で、こうしてスルメを食べ合うような会合になりたいと、理は切に願うのだった。
~雲雀の場合~
「やったーっ♪ これで雲雀が十連勝ーっ♪」
「……また負けた」
理と雲雀、二人は今、寮の雲雀の部屋でゲームで遊んでいる。経緯としては、雲雀は以前の約束を果たすために、理を自分の部屋に連れ込んだのだった。
時刻はとうに太陽が沈む頃であり、夜分に女が男を自分の部屋に連れ込むという行為など、見る人が見れば誤解しかねない。
その筆頭である柳生に釘を刺されたばかりであるというのに、天真爛漫の笑みを浮かべる雲雀を見て、理は仕方ないと溜息を吐き、彼女の部屋に入ることを了承したのだ。無論、打算もあるのだが。
「ほらっ、これが結城さんに渡すパソコンだよっ♪ 大事に使ってねっ♪」
「ああ、ありがとう、雲雀」
「えへへ~っ♪」
雲雀に手渡されたパソコンはやや旧式のノートパソコンであり、言ってしまえば彼女のお下がり品である。
とはいえど、実はマジシャンに潰された先代ノートパソコンは、これより性能がさらに二つ三つも落ちてしまう。
元々は数年前、学業用にどうしても必要だった為に四苦八苦して捻出した資金で買ったパソコンだ。だが、それだって当時から見ても型落ち品なのだ。
当時から貧困に喘いでいた理にとっては忌むべき記憶の一つであり、無残に潰れてしまって清々したという想いがあったりなかったりする。
そんな彼が中古とはいえ新しいパソコンを貰って喜ぶ姿は、どう見ても玩具を買ってもらった子供のそれであったと、後の雲雀は語った。
「で、こっちが結城さんに上げようと思ったゲームだけど――――」
「……ゲーム機持ってないから、そっちはいいよ」
「だよねー……。うんっ、じゃあこれは雲雀が持ってるゲーム機で、一緒にあそぼっ♪」
「はいはい」
そんなこんなで始めたゲーム対決であるが、当然の様にゲームの経験が皆無である理が終始圧倒されている。
二人は格闘ゲームで遊んでいるのだが、理が少しでも気を抜けばコンボを叩きこんでくるあたり、相当このゲームをやり込んでいる様だ。
今もまた、画面の中では理が選んだキャラ――このゲームの主人公で、日本刀を持つ灰髪の高校生――が、雲雀の操るキャラ――高校生アイドルで、ヒロインの一人の様だ――によって一撃必殺技を受けているのであった。
別段、理は接待プレイを受けないことに不満が有る訳ではない。というより、彼以上に精神面が幼そうな雲雀にそこまで期待していない。こうして誰かとゲームで遊ぶという初めての経験を、理はただ楽しんでいる。
そして、好きこそ物の上手なれ、という諺も有り、少し経てば持ち前の記憶力や学習能力、応用力を以てこのゲームの操作方法を熟知し、雲雀とも戦えるようになる。
もしかしたら、こういうゲームは彼女達とのコミュニケーションだけではなく、戦闘における反射神経や判断力も鍛えられるのかもしれないと理は思った。
しばらくすれば、理は漸く雲雀から勝利をもぎ取ることが出来た。理は勝利の快感を得て無表情でも満足気であり、雲雀もまた、そんな彼を称えるのだった。
「……じゃあ俺は帰るよ。パソコンとかゲームとか、いろいろ助かった。また改めてお礼をするね」
「うんっ♪ また遊ぼうね~♪」
流石に遊び過ぎて遅い時間になり、理は帰室することにする。雲雀はそう言って手をひらひらと振り、また遊ぶことを約束するのだった。
何と言うか彼女は、年下故か小動物や妹的な雰囲気を持っており、庇護欲を掻き立てられるのだと理は感じた。これでは、柳生が溺愛するのもなるのもむべなるかな。
そう思えば、理は自然と雲雀に向けて手を伸ばしているのだった。
「……ん」
「ひゃっ。……んぅー♪」
わしゃわしゃと、理は雲雀の頭を撫でる。突然の事に雲雀も驚いたようだが、すぐさま目を細めて、撫でられる感触を心地よく思っている様だ。
その様子を見て、彼は犬や猫――――いや、真っ先に思い浮かべたのは
流石に寂しいと死んでしまうという訳ではないだろうが――そもそもそれは俗説である――、これからはなるべく雲雀の相手をしてあげようと理は思った。
そうして手を離し、名残惜しそうにする雲雀に後ろ髪を引かれつつ背を向け、理は自室へと帰っていく。
……その後、我に返り、撫でられていた箇所を触ったまま顔を真っ赤にしていた雲雀が居たことを、理が知る由もなかった。
そんな理も今は自室に籠り、新しいパソコンを立ち上げている。単に場所を移しただけであるので、面倒な設定など必要ないのが有り難かった。
取り敢えず適当なサイトを巡回し、学業に必要なサイトをブックマークしつつ、自分用のパソコンとして設定していく。
なお、元雲雀のパソコンである為、彼女のものと思われるブックマークやデータも存在したが、理はそちらには手を付けていない。何らかの拍子で、これらが必要になるかもしれないからだ。というか雲雀よ、これは普通消しておくべきではないだろうか?
そしてその中で、理が眼を惹いたものが有る。
「『デビルズバスターオンライン』? ……取り敢えず起動してみるか」
おそらく、雲雀がダウンロードしていたオンラインゲームであるのだろう。
理は好奇心から起動してみたが、どうやら雲雀はこのゲームをあまりプレイしていなかったようだ。彼女の趣味はTVゲームである為、PCゲームには左程食指が動かなかったのだろうか。
その為新規でスタートし、適当に主人公の設定を決めると――名前は何となく『N島』とした――、早速オンラインでゲームを進めようとする。だが――――
「人が居ないな……。過疎って言うんだっけ?」
ネットで得た知識から察するに、恐らくこのゲームは既に衰退し、プレイ人数が少なくなっているのだろう。
ちらほらと見かける僅かな人も高レベルプレイヤーばかりであり、残っているのはファンか廃人のみの様であった。無論、理と同じ初期プレイヤーは一人だって居ない。
「……まあ取り敢えず、フレンド申請をしてみよう」
N島:初めまして。今日からプレイし始めた初心者です。宜しければ友達になりましょうヾ(o´∀`o)ノ
眼についた人たちに向け、片っ端からフレンド申請をする理。しかし当然の様に超初心者が相手にされるはずもなく、何故だろうと理は首を傾げる。
理は気付いていない様だが、ネットで検索した顔文字などを使い、慣れないネットゲームで友達を募集するその姿は物凄く涙ぐましい。雲雀が見ていたら、そろそろ殴ってでも止めていたのではないだろうか。
それでも気にすることなく――正確には気が付けないという――フレンド申請を続けていたら、その中で二つだけ了承の返事があった。
「『cute_hikky』さんと『仏麗』さんか、……なんかスゴイ人達だったけど」
理はフレンド同士と思われるこの二人と僅かな間チャットをしたのだが、そのエキセントリックな言動は、彼にオンラインゲームの凄まじさを教えることとなった。
そんな風に扱われても、彼にとってはネットを通じた他者との付き合いという未知の体験だ。これからも続けようと思っているあたり、肝が据わっている。というか、鈍い。
取り敢えず互いのIDを交換して、連絡が取れるようにする。そして、今日はこれまでとし、『デビルズバスターオンライン』を終了するのだった。
◆
理はベッドに身体を横たえ、眼を閉じ、忍寮に越してきてから今日までの記憶を反芻する。
彼女達に振り回されたり、単に遊んだり、コミュニケーションに成功や失敗したりといった、彼にとって何時ぶりであろう、他者との交流。
随分と奇特な人達だ。彼女達も、そして自分も。それでもそれを、理は確かにこう感じている。
「
久しく忘れていた、『絆』という繋がりをハッキリと感じることが出来る。そしてペルソナ能力は、その『絆』を力とするのを、理は■■■の記憶より理解していた。
彼はきっと、その力を自身と彼女達の為に使うのを躊躇わないだろう。
忍学科――――結城理と彼女達、“シャドウ討伐隊”という集まりにして、未だ歩み始めたばかりの『
先の見えぬその道が、奈落へと続くのか完成された世界へと続くのかは、理自身の手に委ねられているのだから――――
「…………ふぅ――――」
意識が微睡んでいく。ここしばらくは色々とあり過ぎた。お蔭で深夜のシャドウ討伐にも出掛けられていない。大型シャドウを倒したためか、理の知覚に引っ掛かるシャドウこそ少ないが、それでもゼロではないのだ。
ぼんやりとする頭で、明日こそは討伐に繰り出さなければと思い、しかし睡魔には勝てずに夢の世界へと旅立っていく。
喪失する意識の中で理が最後に思ったことは、明日もまたこのような楽しい日々が続く事への、期待なのだった――――
……だからこそ、理は気付かなかった。この忍寮へと這いよって来る、その悪意に。
「くく……斑鳩め、待っていろよ。飛燕は、俺の物だ――――!」
暗がりの中、寮へと忍び込もうとする怪しい影。敵意や殺気などに敏感な理ならば、或いはその存在を感知できたかもしれない。
だが如何せん理は疲労しており、今はぐっすりと熟睡している。尤も――――
「……む、これは忍び込むには少し骨だな。まあ、この俺に不可能は――――ん? ぬうぉおおおっ?!」
忍寮に仕掛けられたトラップが発動し、あっという間に怪しい影を撃退してしまう。この寮に潜入するには、悲しいかな明らかに実力が足りていない。
「お、覚えてろよおおぉぉぉっ!!!」
無様に敗走するその気配に、夜が明けてトラップ類の反応履歴を確認するまで、理はおろか寮内の誰もが気が付かないのだった。
遅れた原因を一言で言うと、ネタ不足でした。
ある程度本筋(ゲーム、アニメ)に沿って肉付けをすればいいだけの本編ならば兎も角、
コミュ話は自由に書いていいという故にどう書けばいいのか分からないという有様です。
その迷走した結果がこれだよ! すいませんでした。次からはもっと頑張ります……(し○むら感)
なので、もしよろしければネタの提供を受け付けます。
理とあのキャラをこうして絡ませたいとか、あのキャラだったら理にこうやって絡むだろうとか、理があのキャラとどのように長い夜を過ごすのか(!?)とか。
そして最後に登場した侵入者、一体町内鎖がま大会第何位なんだ……?