ペルソナカグラ FESTIVAL VERSUS -少年少女達の真実- 作:ゆめうつつ
2009年 4月16日 朝――――
「それで、何か申し開きは御座いますか? 結城さん、お義兄様?」
「「むしゃくしゃしてやった、後悔はしているが反省はしていない」」
「OK、歯ァ食いしばりなさい!」
昨夜の大騒動から明朝、斑鳩は理と村雨、二人の姿を見て驚愕することになる。二人は全身ボロボロ、顔面に青痣を付けていたのだ。
斑鳩は己のシャドウを受け入れ、ペルソナを手に入れた直後に気絶し、先程目が覚めたばかりである為、事の経緯を知りもしない。何事かと思って問いただせば、何と喧嘩をしたのだという。
「何故に?」
「……以前コイツにこっ酷くやられたからな。年上として、教育的指導だ」
「……それをやり返しました」
その余りにもあんまりな言い分に斑鳩は眩暈を覚え、二人を正座させて、後は冒頭の通りである。危うく習得したばかりのペルソナ能力を暴発させそうになったが、そこはまだ慣れていなかったのが幸いした。
くどくどと説教を垂れる斑鳩を見上げながら、理は昨夜の、斑鳩が倒れてからの場面を思い返していたのだった。
◆
「お前、ワザとだろう?」
「……何が?」
『真影結界』も解除され、元の忍部屋に戻ったところで斑鳩はぷっつりと緊張が解けたのか、その場に倒れ込んでしまった。理は彼女に《ディア》を掛けると、後の世話を飛鳥達に委ねる。
飛鳥達も初めは訝しげな顔をしていたが、「あの人と話がある」と弁明すると、何とか納得して貰えた。男同士で募る話でもあるのだろうと思われたのかもしれない。
兎に角理は、村雨と二人きりで、落ち着いて話せる機会を得たのだった。
「惚けるな。お前は、
「……」
沈黙は肯定だ。まさかこうまで容易く見破られるとは、理も思っていなかった。尤も彼は初めから、バレようがバレまいがどうでもいいと思ってもいる。
……ただ、何となくではあるが、それが斑鳩に知られるのには気が引けるとも感じていた。理には、その理由が分からないのだが。
「……俺とて、あのシャドウとやらを抑え込むには、斑鳩自身が如何にかしないといけないのは分かっている。
だが、お前はそれを成すために率先して自己犠牲に走った――――。何とも殊勝な心がけだな、反吐が出る」
村雨は鳳凰財閥次期社長という、人の上に立つべき人間だ。その彼から見れば、理が取った行動は度し難い物に見えるらしい。
「お前みたいな奴は長生き出来んぞ。死ぬ気か?」
「……俺の生き死にはどうでもいい。大事なのは、斑鳩先輩――――仲間達の方だ」
「ふん、なるほど。やはり貴様は馬鹿の様だ」
そんな村雨の暴言にも、理は眉ひとつ動かさない。愚直なまでに仲間達の事を想っているのか、或いはこの手の暴言に慣れているのか。恐らくはその両方だろうと、村雨は判断する。
ただでさえ聡明な彼だ。結城理という人間のプロフィールを知らなくても、推察することは出来る。村雨は瞬時に、理が人間関係に対するトラウマを有しており、尚且つ現在の仲間である斑鳩達に信頼を寄せているのだと把握した。
そしてそれだけではなく、理のもう一つの価値観、その死生観についても思案を巡らせる。脳裏に浮かぶのは、昨夜の理の発言。飛燕を奪還しに来た際、彼との衝突した際に聞いたあの言葉――――、そこで村雨は思考を打ち切る。流石に、これ以上踏み込むのは無粋であろう。
「まあ、斑鳩を護るというのならそれはそれで構わん。お前に任せるとしよう」
「……分かった」
「だがな――――」
「っ!?」
突如として、理の《心眼》が警鐘を鳴らす。その気配は、背後から迫っていた――――! 咄嗟に床に突き立ったままの苦無を蹴り上げ、両手に握り、それを迎撃する。
理が迎撃したそれは、撓る鎖によって操られる鎌であった。勿論この場において、この武器を担う人物は一人しか居ない。
「よしよし、良く防いだ。これくらい出来ない様じゃ、斑鳩は任せられんからな」
「……ふぅん? これは所謂、『お前の力を確かめてやる』的な?」
「分かってるなら話は早い。俺が稽古をつけてやる」
そう言って鎖鎌を構える村雨を、理は胡乱な眼で見つめる。今の彼の脳内では、『イラッ』や『ムカッ』等と言う音声が流れているに違いない。
理も無言で二刀の苦無を構え、迎撃態勢をとる。その姿を見て、村雨は口角を釣り上げた。
(ククク……、この前は散々してやられたからな。今度は俺が勝つ番だ!)
(とか考えてるんだろうな。…………どうでもよくない)
互いにピリピリとした、しかし何処か和やかな雰囲気を漂わせ、理と村雨はぶつかり合う。その光景をもしも斑鳩が見ていたのならば、こう評したに違いない。
この二人、
◆
そうして、理は意識を現実に戻す。隣では相変わらず説教をされて萎縮している村雨が居り、どう見ても兄の威厳などあったものではない。しかし、それもまた兄弟の交流であろうと理は思う。
正座を崩して立ち上がり、自身に《ディア》を施して怪我を治療した。なお、念のために村雨も治療しておく。ハッキリ言ってムカついていたが、流石にそこは脇に置いておいた。
依然説教中である為、斑鳩はギロリと睨みつけてくるが、生憎と彼は時間が差し迫っているのだ。
「結城さん、まだ話は――――」
「いえ、俺はもう登校時間です。話はまた今度にして下さい」
「あっ――と、そうでしたね。申し訳ありませんでした。どうぞ行ってらっしゃいませ」
昨日は学校から忍学科に直帰したため、鞄や勉強道具等は準備してある。手早く身支度を整えると、理は半蔵学院に向けて登校していった。
その後ろ姿を、斑鳩・村雨兄弟はしっかりと見送るのだった。
「……凄まじいな、アイツは。学業とシャドウ退治を両立する心算なのか?」
「その様ですね……。結城さんには、もう少しご自愛頂きたいのですが……」
二人して溜息を吐く。今では斑鳩もペルソナ能力に目覚めたと言えど、現状でシャドウ討伐に最重要となる彼が潰れてしまうのは許されることではないのだ。
それを理解しているからこその、村雨の稽古付けである。やや不穏な内心は有れど、村雨は本心から理を鍛えようと思っており、実力の近しい彼との模擬戦はこれからも十分に理の糧となるであろう。しかし、勿論それだけでは不十分だ。
「戦闘面では俺達が見てやるしかないな。後は、あの不安定な内面を如何するか……」
「こればっかりは、結城さん次第ですから……」
村雨は模擬戦を通じて理の内面に触れ、斑鳩は資料によって理の過去を把握している。ある意味でこの二人は、現時点で結城理の最大の理解者なのかもしれなかった。
勿論それだけで理のトラウマを払拭出来る等と、彼らは楽観視していない。今後も結城理を死なせない為に、更なる経過観察が必要なのだ。村雨はそこで、隣の斑鳩をチラリと見やり、ニヤニヤとした笑いを浮かべた。
「な……、なんでしょう……?」
「いやな、お前があの餓鬼とくっつくなりしてくれれば、多少はあの心情も改善するかもな」
「…………な、ななっ、何を言ってるんですかぁっ!」
「おゴォっ!?」
瞬間、顔を真っ赤にして兄を迎撃する妹という、ベッタベタな展開が催された。忍術によって強化された殴打によって吹き飛ばされ、折角理に治療された怪我を再度負う羽目になった村雨である。彼は割と本気でさっきの発言を行った為、理不尽だと思いながら気絶するのだった。
斑鳩は興奮冷めぬ顔を覆いながら、恋人関係となった理との関係を想像しようとして――――、飛鳥への想いからその想像を断ち切る。
(駄目駄目、駄目です! 飛鳥さんは結城さんを想っているのです! わ、わたくしが結城さんとなんて――――!)
しかし、一度走り出した想像は止まらない。幼いころから修行に明け暮れ、恋愛など本の中でしか見たことが無い彼女だ。無駄に発達したピンク色の想像力――或いは妄想力――により、キャッキャウフフな恋人生活が思い描かれる。
その妄想を思い描いているうちに、斑鳩はある事実に気が付いた。
「これなら―――――! ッ、いえいえ、これはあくまで、結城さんへのお礼の一環です。ええ、一環なのです……」
ぶつぶつと呟きながら、早速その作業に取り掛かる為に部屋を出ていく斑鳩は、壁に埋め込まれた義兄になど最早目もくれていない。意識を取り戻して、壁から這い出してきた村雨は再び溜息を一つ吐き出すのだった。
「全く……、婿探しも党首としての責務の一環だろうに……。あの二人をくっつけるには、骨が折れそうだ」
未だ不安定とはいえ、結城理は人を救う力を持った人間だ。村雨もその恩恵に与った一人であり、彼が居なければこうして義妹にツッコまれる日常など有り得なかっただろう。
また同時に、彼には人を惹きつける魅力が有る。今でこそ半蔵学院忍学科内に留まっているが、アレは近い将来様々な女を惹きつけるに違いないと、村雨は確信していた。
「……まあいい。お前の行く末を見届けさせてもらうぞ、
村雨は理の事を、此処で初めて名前で呼ぶ。それは、彼が理を対等な存在であると認めた証だった。因みに、理が村雨に対しタメ口で話しかけているのも、実は内心で対等だと認めている証拠だったりする。
年上に対して不遜だと言いたい気持ちが無い訳ではないが、鳳凰財閥の次期社長という自分に対し、こうも対等に接する知人を始めて得たのは初めてだった。彼は決して認めないだろうが、理に感謝しているに違いない。……男のツンデレなど需要は無いのだが。
「取り敢えずは、俺も大学に行くか。レポートを早めに切り上げて、結城のカリキュラムを組んでやろう」
村雨もまた、己の日常に帰ることにする。そこには新たに一人の人間が含まれており、しかし決して不快なものではない。彼もまた、理に惹かれた人間の一人であった。
斑鳩、そして村雨。法令や規律を厳守し、しかし信頼と優しさ、思いやりを持つ、人を導く者――――『
――――後日、結城理用の特別カリュキュラム、勉学用のプリントを用意し、簡単な小テストを受けさせた村雨だったが、彼は其処で理の才能を垣間見る事となる。
「……オイ、お前マジでうちの会社に来いよ。給料とか融通してやるぞ?」
「内定ゲットだね。有り難く頂戴するよ」
そんな世の中の就職困難者が羨む会話が有ったとか無かったとか。
◆
2009年 4月16日 昼――――
「失礼いたします」
昼休みになって凡そ数分後、理が在籍する2年E組の教室に入室する者が現れる。途端に教室内は、昼休み特有の喧騒が静まり、入室してきた少女――斑鳩の美貌に誰もが見惚れていた。
斑鳩はそんな観衆に眼もくれる事無く――というか、気が付いていない――、真っ直ぐに理の下へと向けて歩いていった。丁度、理と談笑していた友人達も呆けて斑鳩を見つめている。勿論、理はそんな彼女の色香にやられる事など無く、寧ろボケっとした眼で彼女を見つめていた。
「……斑鳩先輩、
「ええ、別に制限など有りませんので。……そ、それよりも結城しゃん!」
「(……噛んだ)ええと、何でしょう?」
そこで斑鳩は真っ赤な顔をして、手に提げていた包みを理に差し出した。その手はプルプルと震え、今にも取り落としそうであった為に慌てて受け取るが、その際に斑鳩の手に触れ、彼女の身体が大きく跳ねる。
「おっとと……。コレは?」
「お……お弁当です! 結城さん、昨日の夜色々あって、お弁当を作れなかったようなので――――」
「「「お弁当!? それに夜に色々あった?!」」」
何人かのクラスメイト達が、斑鳩の言葉に過敏に反応する。何か盛大に勘違いされているようであったが、これはそう簡単に弁明出来るものではないと判断し、今は無視することにする。
理にとっては、クラスメイトよりも斑鳩との交流の方が幾分か優先すべきものであった。
「そ、それでは失礼しました! 後で感想を聞かせて下さいね、結城さん!」
斑鳩はふらふらとした足取りで教室を後にした。残されたのは、高級感溢れる黒い包みに
そこで漸く再起動したクラスメイト達が、一斉に理の机の周りに群がった。
「オイコラ結城! お前あんな美人さんと一体何時の間に知り合ったんだよ!」
「しかも弁当を作って貰える仲だとッ!?」
「うちの学校にあんな美人が居ただなんて……! しかも巨乳ッ!」
詰め寄ってくるクラスメイト達――主に男性陣である――をあしらう為、理は当たり障りのない言葉でこの場を切り抜けようとする。
斑鳩は忍という裏の世界の住人である為、必要以上に目立つことは好ましく無い筈だ。ならば、こう返答すべきであろう。
「……どうでもいいだろう?」
「「「どうでもいいことあるかァッ!!!」」」
駄目だった。男性陣だけでなく女性陣からもツッコまれたことに首を傾げているあたり、理のコミュ能力の改善は遥か未来の事の様である。
まあそれは兎も角、早速この弁当を頂く事にしよう――――、そう思い、理は弁当の包みを解いていく。何人かのクラスメイトも、開封作業を興味津々に見つめていた。
……そして次の瞬間、理を除く彼らの絶叫が、教室中に響き渡った――――
「……………………妖○グルメ?」
何とか声を絞り出した理の第一声はそれであった。ほのかに香る料理の匂いは食欲をそそり、出来立ての暖かい物だと察することが出来る。
弁当箱も漆塗りの重箱であり、高々弁当に使うようものではなかった。彼女の家柄上、仕方の無いことだと内心可笑しく感じてしまう。
しかし、そのビジュアルが全てを台無しにしていた。何処から如何見てもモザイク必須の悍ましいモノであり、所々から触手――恐らくイカかタコ、というかそうであって欲しい――がうねうねと伸びている。
このビジュアルを直視してしまったクラスメイトは漏れなくSAN値直葬され、意識を手放している。酷い場合は虚ろな目で虚空を見上げて、いあいあと外なる神に祈りを捧げる始末だ。
因みに、理の呟いた言葉は邪神に献上すべき食物の名前だったりする。
「……コレ、食うのか?」
辛うじて発狂を逃れたアゴヒゲ帽子のクラスメイトが、心配そうに理に話しかけてくる。
無論理だってコレを口にするのは勘弁してもらいたい。許されるならば、食材となった筈の動植物に対して懺悔をするよう説教をしてやりたい程である。
……しかし、……しかしそれでも、この料理は仲間である斑鳩作なのだ。仲間への恩義と、冒涜的な料理への忌避感を天秤にかけ、理が掲げたのは――――
「……いただきます」
この斑鳩作の弁当を、食することであった。その覚悟に、発狂を逃れたクラスメイト達は押し黙っていた。
震える箸で弁当? を突っつこうとする様子は、まるで未知の生物や物質を採取する科学者のそれだ。惜しむらくは、その採取するモノが食材であり、己の胃袋へと保管しなければならない事か。
箸の先にほんの少し、最早元が何であったのかさえ分からないナニカを掬い上げ、ゆっくりと口元へと運んで行く。普段から無表情である筈の理でさえ、この時ばかりは顔を青くしていた。
そしてそのナニカを、意を決して口内に放り込む。誰もが呼吸さえ忘れてその所業を見入っていた。
――――彼らは祈る。深淵を垣間見て、狂気へと墜ちたクラスメイト達が崇拝する邪神群でなく、人類に救済を齎す神々へと祈るのだ。
嗚呼願わくば、この愚かにして偉大なる少年にどうか慈悲を与えたまえ――――(※注:メシ食ってるだけです)
「あ、結構イケる」
「「「嘘ォっ!?」」」
果たして、その祈りは願い届けられたのかは定かではない。
◆
深い森の中、少女はただひたすらに己を磨き上げていた。肉体を、精神を、技量を。彼女が眼差すものはただ一つ。
『最強』――――、言葉にすれば陳腐だが、その称号を手に入れるためには、彼女はどんなものでも投げ打つ覚悟があった。
だからこそ彼女は今、己の身体を酷使し、切磋琢磨し、その武芸を研磨しているのだ。その技量は、確かに日進月歩で成長しているのだろう。
しかし、それでも彼女は満たされない。
(つまらない。来る日も来る日も訓練ばかり――――)
そう、所詮彼女が行っているのは、実践を伴わない単なる訓練でしかない。
長く艶やかな金髪を靡かせて、彼女の脚が頭上に吊るされていた的を蹴り砕く。それは、今回の修行が終了したことを示していた。
だが勿論、彼女の顔が晴れる事など無い。寧ろ、追加のトレーニングメニューを組もうとしている。
「斑鳩もペルソナが使える様になったんだ、アタイにだって……!」
彼女――――葛城は仲間であり、ライバルであり、親友でもあった
つい最近になって表れ始めた化け物『シャドウ』。葛城はその存在に恐怖を覚えながらも、それを乗り越え、討伐すべきものであると己を鼓舞することが出来ていた。
あの存在を打倒してこそ、己の目指すべき『最強』にへと近付けるに違いない――――、そんな妄執が今の葛城を支え続けている。
「待ってろよ、斑鳩、結城! アタイだって、すぐにペルソナを使える様になってみせるんだからな!」
更なる力への渇望を漂わせ、いそいそと次の的を用意しようとする葛城。その姿を見たならば、仲間達は何を思うのだろう。
葛城は気付く事など無い。その修行が無意味なオーバーワークでしかないことを。今の彼女は最早、自分しか見えていなかった。
そして何よりも、葛城は己が
この作品では、今回からクトゥルフ神話要素が入ります(白目)。元ネタは菊池秀行著『妖神グルメ』ですね。
フラグを立てたと思ったら、速攻で自分で叩き折った少女、斑鳩。彼女のイカモノ料理は恐らく、深海都市に封印された稀代のイカモノ料理人からも絶賛されるのではないでしょうか。
理と割と仲良くなってきた村雨。今作での悪友ポジになりそうです。まあ今回以降、出番はほぼ無いでしょうね。彼、斑鳩関連でしか動かない(動かせない)ので。
そして、次回への伏線ともいうべき葛城の暴走。これもまたありがちな展開ですが、どうかご容赦ください。