こういう人もいたんじゃないのかな、という妄想

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 ピンク色のキャラクターが世間の注目を浴びている昨今。

 

 街頭の大型ヴィジョンには毎日。

 毎時。

 毎分、と呼べるくらいにそいつが映り込んで愛想を振りまいている。

 

 対して可愛くもないくせに。

 ちやほやと。

 素晴らしいともてはやされて、今や知らない日本人などいないという勢いだ。

 

 ただの犬。

 少し垂れてて。

 少し目が大きくて。

 少し憎めない顔つきをした。

 どこにでもありそうなデザイン。

 

 誰でも思いつきそうな物なのに、何故これが売れる?

 他の誰にも思いつけない私のキャラクターは誰からも評価されず、私のスケッチブック以外の場所では見られないというのに、何故あんな落書きレベルの物が品切れ続出という自体になるのか?

 町中のゲームセンター内、入り口を入ってすぐの右手側にある何も入っていない、ただ『マロミ品切れ中』という張り紙がしてあるだけの箱を見て私は一人、妬みに妬んでいた。

 

 たかが一つの商品。世の中に多くあるオリジナルデザインのキャラクターの一つ。

 それがマロミ。

 

 不思議ちゃんを気取った小娘が生み出した犬。

 世の中の人間全てから愛される、どこが可愛いのかわからないマスコットキャラクター。

 私が憎むべきモノ。

 

 何故こうまで憎いのか?

 同じデザイン職について私のほうがキャリアが長いというのもある。

 けれど理由はそこではない。 

 今や売れっ子となった若手デザイナー。

 正確に述べればアニメキャラデザイナーという職業。

 表舞台に出て脚光を浴びるような仕事ではないが、それでも表舞台に顔を出し、マロミに負けない不思議なキャラクターが受けに受けて、引っ張り蛸となったあの女。

 

『鷺月子』

 

 毎日を忙しく、充実していそうな暮らしぶりをしているくせに、世から浮いて、世を捨てているかのような態度でリポーターに返すあの女。

 マロミと同じくTV向けに作ったキャラを被っているだけのくせに。

 カメラの奥では愛想良く笑い、もてはやされるのを楽しんでいるくせに。

 そんな姿は一切見せない計算高いあの女。

 

 私が本当に憎いのはマロミではなく、彼女なのかもしれない。

 

 

 

――人気デザイナー、通り魔に襲われる――

 

 心に醜い嫉妬を覚え、愛されて欲しいキャラクターを生み出してはスケッチブックの中に閉じ込める毎日、代わり映えのない、変わるはずのない毎日の中に突然飛び込んできた、とある吉報。

 数日前にいきなり湧いた嬉しいニュース。

 あの鷺月子が襲われたというニュースが、私の目と耳から嫉妬に満ちる脳内へと伝わっていた。

 どのテレビ局に変えてみても報道される話はソレばかり。

 第一報を聞いた瞬間は思わず舞い上がり、充てがわれたデスクを蹴り上げてそのままビルの屋上から飛べるかもしれないと感じられるほどに喜んだ。

 だが、事件から数日、一週間、二週間と過ぎても流れるあの女の事件。

 あの童顔女の後に続いてしまった被害者のせいで、退院し、今ではただの人気デザイナーに戻った鷺月子の話題が日本から、町中から、私の脳内から消えることはなくなってしまった。

 

 後に続いた、続いてしまった哀れで胸糞悪い被害者達。

 週間噂マガジンとかいう売れない週刊誌のルポライターも。

 下校途中の小学生も。

 その家庭教師も。

 

 皆が皆、鷺月子の人気も、証言も立証させるために襲われましたというタイミングで今話題の通り魔『少年バット』にぶん殴られていく。

 世に認められ輝くあの女のように、輝かしい金色のローラーブレードを履いて、子供らしい姿を残したままのあの女のように、小学生くらいの姿で現れるという謎の通り魔。

 そんなただの子供が私の歪みを現したように、くの字に折れ曲がった金属バットを話題に上がった奴等の頭に振り下ろした事件。

 連日報道されるこの事件と、その犯人の容姿を見聞きして、私は思わずニヤニヤと笑ってしまった。

 

 心から。

 腹の中からニヤニヤと。

 次第に肩を揺らして笑い始めてしまった私。

 昼間、それも社内だというのに声を荒らげて嗤ってしまった私。

 同僚からは奇異の目で見られ、上司にその日は帰された。

 

 翌日には私のデスクはなくなっていた。

 私はまた笑った。

 昨日とは違って、乾いた笑いが喉から溢れた。

 

 満員電車に揺られ通い先が無くなった毎日。

 それでも変わらず自宅で創作活動に耽る毎日。

 会社のデスクに座り、埋まらない、何も書かれる事のないカレンダーを見ながらしていた仕事時と左程変わらない毎日を自宅で過ごす中、BGM代わりにつけていたTVから、今度は悲しいニュースが流れ、私の脳へと響き渡った。

 

――少年バット逮捕、犯人は中学生―― 

 

 思わず拳を握ってしまった。

 昨今騒がれる犯罪の低年齢化がどうだとか、中学生が何故こんな凶行をだとか、そういった正義感から握られた拳ではなかった。

 これでまたあの女が脚光を浴びてしまう。

 事件の被害者から、狂言者扱いになってきたあの女の正当性がまた復活してしまう。

 私はその事に対して強い憤りを覚えて強く、手の平がうっ血し、爪の先が僅かに赤らむ程に拳を握りこんでしまっていた。

 

 平手を眺め感じる自身の心。

 社会から切り離され、私がいなくとも社会も、この世も、なんの問題もなく回り機能している事に感じる、ほんの少しだけの無念さ。

 いてもいなくても構わない。

 社会の枠組みにハマり、壊れたら交換される歯車にもなれなかった私とは違って、あの女は‥‥

 たったひとつのキャラクターや、たったひとつの証言だけで世の中を回していくあの女との違いを感じて、私は‥‥

 

 

 

 

――少年バット自殺、警察関係者は事件の重要参考人を――

 

 ホテルのTVから流れる音声を聞いて、私はまた握る手を強くしてしまった。

 私に跨がり腰を振るホテトル嬢、昔の同僚が宛てがってくれた私の鬱憤を発射する相手が、営業用の色めく声から痛いという素の声色に戻ったことで、自身の手が力強くなっていることに気がついた。悪かったと腰を突き上げ、溜まっていた白く濁る想いを吐き出して、少しだけスッキリとした後、用済みのモノを追い返し、キングサイズのベッドに一人横たわる私。

 そこで何故またと考え始めていた。

 

 会社勤めをしていた頃に一人だけ仲が良かった同僚、そいつの名前が不意に携帯電話に映り、なんの感情もなく手に取り会話をした。

 突発で申し訳ないが少し手を貸してくれという話、M&F(エムアンドエフ)という私がいた会社の同業であり重要な取引先、あの女が務めている会社だ。

 オカマ臭い喋り方で話すそこの上司、鳩村 真裕が交通事故を起こして死んでしまったという話。私と同年代でありながら部下を持ち、あの陰気臭い有名デザイナーの仕事まで面倒みていた鳩村、それなりに仕事が出来る男が死んだことでM&Fも私のいた会社も立ち行かない、とまではいかないが軌道修正が大変な状態になってしまったようだ。

 勤続年数だけはそれなりにあった、どちらの会社でも名前だけは知られている私、功績もないのに長く居座りやがってと後ろ指を刺される事ばかりだった私に、今回舞い込んできた仕事は都合が良かった。

 

 両方の会社の責任逃れの先になってくれ。

 関係各社に頭を下げて、本来私が受ける必要のなかった誹謗中傷や暴言をこの身に浴びてきてくれという仕事。

 体の良い代理人となってくれ、という話。

 

 私はこれを躊躇なく引き受けた。

 用意された歯車としての役割。

 確実に壊れ、交換される事のない使い捨ての歯車だったが、誰かに必要とされたことがほんの少しだけ嬉しく、同時に、仲の良かったあいつから振られるのもこういう時だけかと強い諦めを覚えた頃、ホテルの廊下から何かの音がした。

 ガァーガァーと何かが滑る音。

 遠くから聞こえ、私の部屋の前で止まった音。

 ルームサービスを頼んだわけではない。

 帰った風俗嬢が忘れ物でも?

『ダブルリップ』という店舗名だけが入る名刺を片手に、私はドアスコープを覗きこんだ。

 そこに見えたのは数個のバッジがついた野球帽と、ニヤニヤと口角を上げて嗤う子供の顔。

 子供?

 と考えた瞬間にくの字にひしゃげたバットも見えて――――……




久しぶりに見たら書きたくなったので、なんとなく

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