ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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ヴィータちゃんは男友達が少ない5 貴方を変える初プレゼント
あたしのするべきこと


――――トントントン。

 

 金髪のショートヘアの女性は、扉の中の人物を気にしてか控えめにノックをする。

 

「ヴィータちゃん。夕食の準備ができたんだけど」

 

「……シャマルか。……今日はいらねえ」

 

「そ、そんなこと言わないでよヴィータちゃん。今日ははやてちゃんがヴィータちゃんのためにって、大好きなハンバーグを――――」

 

「だからいらねえって言ってるだろ!!」

 

 ヴィータは勢いのままに自室の壁を殴りつける。その音は静まり帰った部屋に大きく反響した。

 

 ヴィータは埋もれていたベッドから顔だけを出すと、小さく言葉を繋げる。

 

「……頼む。今はちょっと一人にしておいてくれ」

 

「ヴィータちゃん……」

 

 こんな沈みこんだ彼女の声は聞いたことがない。シャマルはゴクリと唾を飲み込むと、もう一度手を挙げる。

 

 だがその手はピンク色のポニーテールの女性に握り込まれた。

 

「やめておけシャマル」

 

「シグナム。で、でも今のヴィータちゃんは明らかに」

 

「だからこそだ。あいつも私たちと同じ時間を過ごし大人になっている。だからこそ踏み込んで欲しくないこともあるはずだ」

 

「そ、そうかもしれないけど」

 

「別に突き放せと言っているわけじゃない。――――ヴィータ聞こえているだろ。返答は別にしなくてもいい。こちらが勝手に喋っているだけだからな」

 

 シャマルを横にどかすと、今度はシグナムが扉の前に立つ。

 

「お前の夕食はいま主がラップをしてくれている。食べたくなったら食べればいい。だが本当に食べたくないのなら、せめて主が食事を用意する前に連絡の一つでも入れておくべきだったな」

 

「…………すまねえ」

 

「それと私的感情は仕事に持ち込むな。……今日の午後の教導が酷かったというのは、こちらの耳にも入ってきているぞ」

 

「――――ッ!だからすまねえって言ってるだろ!!」

 

 ヴィータはベッドから起きあがると、扉の殴りつける。

 

 だがその音に驚くことなく。シグナムは安心したように目を閉じた。

 

「ヴィータ、一つだけ覚えておけ。仕事のミスは、謝罪一つですまないこともある。だが私たち家族は別だ。たまにぶつかることもあるだろうが、しっかりと謝罪すれば許すことができる。――――そして助けて欲しいなら私たちはお前に全力で協力するぞ」

 

「……シ、シグナム」

 

「だからヴィータが放っておけというなら、今は放っておこう。……私達はまだいい。だが主にはあまり心配をかけないでおけよ」

 

 シグナムの厳しい心遣いを感じると、ヴィータは振り上げていた拳を、ゆっくりと降ろす。

 

 そして本当に申し訳ないと、顔を伏せた。

 

「すまねえシグナム。もう少し頭の中で考えてえんだ」

 

「それならそれでいいさ。――いくぞシャマル」

 

「え、ええ。ヴィータちゃん、元気出してね!」

 

 それだけを言い残すと、二人の足音がゆっくりと遠ざかる。

 

 ヴィータはおぼつかない足取りでベッドまで戻ると、そのまま倒れるように毛布に体を預けた。

 

「……本当に迷惑かけちまったみたいだな。みんな本当に心配してくれたのにイライラぶつけちまって。……でも頭の中がごちゃごちゃで、全然整理がつかねえんだよ」

 

 それでもずっとこのままでいいわけがない。ヴィータは半回転すると、真っ暗な天井を見上げた。

 

「あたしと出会う前のカイズは医者を目指してた。だから頭はいいけど、身体能力は高くねえ。でもそれでもあいつは管理局で働くことを選んだ。……あたしのためにだ」

 

 かくして、カイズは局員になり見事自分と結ばれた。だが彼にとってはそこからが問題だったのだ。

 

「あたしの存在がカイズの夢を奪った。あいつは自身の目標と引き替えに、夢を手放しちまったんだ」

 

 それはどれだけ大きな決断だったのだろうか。学生の頃のカイズを知らないヴィータには、その痛みをしることはできない。

 

「だけど決して容易なものじゃなかったはずだ。あいつが事故にあってからの数年間。人を助けたいと思う無垢な想いはきっと本物だったんだろうから」

 

 それはサクヤの口調や様子を見れば疑いようもない。

 

 それがわかった今。自分はどうするべきなのだろうか。

 

 ヴィータは自分の顔を、両手の平で覆った。

 

 伸び悩んでいるカイズを、このまま教導の道に歩ませ続けるか。それとも今からでも医療の道に導くべきか。

 

「…………考える必要なんてねえよな。あいつのことを思ったら、道なんて一つしかねえんだ」

 

 なによりもう一度自分に出会うという目標を彼は達しているのだ。なら、今から医療の道に戻ろうとも、彼と自分の間にできた絆が切れるわけでもない。

 

 ただ会える時間が相当削れてしまうだけ。

 

 たったそれだけのはずなのに。

 

 ――――チクリ。

 

 カイズとあまり会えなくなる。

 

 そう思うと胸に突き刺さる痛みが強くなる。

 

 カイズを教導していた時に別れを感じた時の比ではない。悲しみ以上の感情に、ヴィータは堪えていた。

 

「だけど、本当にあいつのことを思うんだったら」

 

 答えなど一つしか存在しない。

 

 だからこそ決意するしかなかったのだ。

 

「…………喉乾いたな」

 

 空腹は感じない。だがずっと泣いていたからか、乾きだけは異常なほど感じていた。

 

 ヴィータはベッドからそっと起きあがると、部屋のドアを開ける。

 

 だがいざ部屋を出ると、冷蔵庫にたどり着くためには家族と顔を合わせなければいけないことに気づく。

 

 覚悟は決めた。だがまだ顔は合わせずらい。

 

 ヴィータは玄関まで移動すると、静かに玄関のドアを開けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜の海ってのも気持ちいいもんなんだな」

 

 行くあてがあまりないヴィータは、その足を自然と近場の海へと運んでいた。

 

 この海ではザフィーラとともに、地元の子供にシューティングアーツなどの格闘を教えている。

 

 だからこそ体が動くままにこの場所に来てしまったのかもしれない。

 

「そういえば最近カイズと会ってばかりで、あんまりチビ達の相手してやってねえな」

 

 だが彼が医療関係の道に行けば、必然的に子供達に割く時間も増えるだろう。

 

 

 

――――ズキン、ズキン。ドンッ!!

 

 

 

 ヴィータは痛みをあげる胸を思い切り殴りつける。

 

「コホ、コホ。これで少しは黙るだろ」

 

 とにかくいまは喉を潤そう。ヴィータはあたりを見渡すと、自販機を見つける。

 

 何でもいいから、とにかく水分を取りたい。ヴィータはポケットに手を入れた。

 

「……って、財布も何も持ってきてねえじゃねえか。……なにやってるんだあたしは」

 

 ないならないでもういい。

 

 どうせ一日何も飲まなかったからといって死ぬわけではないんだ。

 

 そう自分に言い聞かせると、家に帰ろうときび返した。

 

 ――――ドゴン。ドゴン。

 

 そんな彼女の尾を引くように、飲料が買われる音が響きわたる。ヴィータは人の気も知らないでと、足を早める。

 

 だが缶を二つ持った人物は、彼女に追いつくためにその場から走り出し、ヴィータに近づく。

 

 そしてキンキンに冷えたジュースを、ヴィータのほっぺたに押し当てた。

 

「ひゃう!だ、誰だ。こんないたずらするやつは!」

 

 人が落ち込んでいるのだから、そっとしておいて欲しい。

 

 怒りのままにヴィータは目の前の女性を睨みつけた。

 

 そんなヴィータの顔を見て、ブラウン髪の女性は「あははー」と愛嬌のある笑顔を見せた。

 

「堪忍なヴィータ。そんな驚くとは思わなくてな」

 

「は、はやて。どうしてここに。い、いや、それよりも今は夕飯の時間じゃ」

 

「そんなの温めなおせるからいつでもいいんよ。……なあ、ヴィータ。ちょっと私と砂浜でも歩かへんか?」

 

「え、だけど……」

 

「ええやんか。最近はずっとカイズ君のことばっかりで、あんまり私に構ってくれへんかったやろ。だからな、いこ、ヴィータ」

 

 はやては言葉を全て言い切ると、返答を聞かずに砂浜に向かう。ヴィータはしばらく考えるようなそぶりを見せる。だがはやてを置いて帰るなどという選択肢など存在するはずもなく。ヴィータははやての後を追った。

 

 そういえば、最近はやてと一緒にいる時間も減ったよな。

 

 カイズに出会う前は、リインに負けず劣らずはやてにべったりだったはずなのに。

 

 それが彼氏ができた途端離れている時間が多くなるなど、なんて自分勝手なのだろうか。

 

「ほら、ヴィータ早くー」

 

「……うん。わかった」

 

 はやての顔を見ると、ヴィータは心の決意を固める。だからこそ、カイズに伝えようと思った。

 

 あたしの、いまの気持ちを。

 

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