「おっ、この主人公の女優綺麗だな」
「ヴィータさんのほうが美人ですけどね」
「このアクションシーン、かっこいいなー」
「ヴィータさんが戦ってる姿の方がカッコいいですけどね」
「……あたしは率直な感想すら言えないのか」
映画が始まって数十分。初めの掴みと言わんばかりに、主人公の女優によるど派手なアクションシーンが連続して映し出される。
映画館と違い気を使わなくていいと思っていた。だがそう思っていたのは、何もヴィータだけではなかった。
カイズの言葉は弾んでるものでも、冷静なものでもない。ただ当たり前のこと当たり前に言っているというテンションだ。
いや、先に喋りだしたのは自分の方だ。それに文句を言うのは筋違いだということはヴィータにもわかっていた。
ヴィータは一時停止のボタンを押す。そして顔だけをカイズのほうに向けた。
「よし、ここからは少し黙ってみよう」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。ちょっと集中して見たいから、カイズも少し黙っているように」
「えーっ、それじゃあヴィータさん分を補充できませんよ」
「後ろから抱きつくだけで十分だろう! とにかくもう再開、あんまり余計なこと言ったり、あたしのこと褒めたりしないこと!!」
「えっ、俺今日一回もヴィータさんのこと褒めたりしてませんけど??」
ただ目の前の真実を言っただけだ。カイズはキョトントした顔をする。ヴィータはそんな愛しの旦那様を無視すると、映像を再開した。
◆
しばらく映画を見ていると、自信を持って勧めてきた理由がわかる。
先ほど見たように掴みは完璧。そこから一気に日常パートに持っていき、説明口調に見せないように世界観の説明。子供向け作品であるからこそ、大人が見ることでその理解はかなり深くなっていった。
「…………おおっ」
その証拠がカイズのこの驚きの声だ。喋らないようにと釘を指したからか、会話や単語などをあげることはない。
だが時折口からこぼれる感嘆は、彼ののめり込み具合をよく表していた。
また主人公たちがピンチのシーンでは、自分を抱きしめる腕の力が強くなる。そのたびにカイズがどれだけ緊張しているか伝わってくるかのようだった。
しかしそんなカイズと違って、ヴィータはと言うと。
(…………ううっ、こそばゆい)
カイズが息をする度に、耳の裏のあたりに息が吹きかけられる。そんなむずむずも規則性があるのなら、まだ耐えられる。だが映画に集中しているカイズは、そのシーンごとに呼吸が荒くなったり、長く息を吐いたりする。
そんな時の首筋を走る息に、ヴィータは全身がブルルと震えそうになった。
抱きしめられると、カイズの胸板が背中に押しつけられる。随分とたくましくなったと思う。初めてであったときは、どことなくひょろっとしたイメージがあった。それが嘘のようだ。
(…………なんかやばい気がする)
そんなことを考えていると、何か変なスイッチが入った気がした。何をするわけでもなく、ただ抱きしめられるのはいったいいつぶりであろうか。
いや、そうでなくてもこんな長時間初めてのことだ。
「……お、おお、はあぁぁぁ~~」
「ひゃっ!?」
緊張のシーンから一息、カイズが安堵の息をもらす。ヴィータはそのこそばゆさに思わず声を上げてしまった。
「どうしましたヴィータさん?」
「な、なんでもねえよ。ちょっとびっくりしただけだ」
「確かにこのシーン、かなり緊迫してましたね。いや、正直子供向けって舐めてましたよ。すごいですよこれ」
「あ、あははは。そうだな」
とても映画どころではない。と言えるわけもなく、ヴィータは愛想笑いを浮かべる。
だが一度スイッチの入ってしまった体は、そう簡単には落ち着いてくれなかった。
カイズの息がかかるたび全身が震えそうになる。
カイズの抱きしめる力が強くなる度鼓動が早くなる。
極めつけはお尻に感じている感触だ。
(全然、ふにゃふにゃなんだけどな……)
きっと布地が薄い部屋着ということが災いしているのだろう。
抱きしめられる度に、ぐっ、ぐと押しつけられるそれ。普段エッチな雰囲気になった時の硬さとは違う。今の彼にやましい気持ちなど一切ないことはヴィータにだってわかっていた。
だがやましさがないからと言って、やましさを感じないかと言われれば嘘である。
普段と違い自己主張しないそれは、右へ左へとヴィータのお尻を撫で回した。
「うおおっつ!!」
「わひゃっ!?」
映画もクライマックスシーン。今までで一番、それこそ両手両足ではがいじめするように、カイズはヴィータを抱きしめる。
全身を彼に包み込まれると、心臓の高鳴りが本日最高潮になる。
エッチをするときは、それが終わればもちろん落ち着くことができる。だが三時間近い超大作のそれは、その長さだけヴィータの緊張を引き延ばしにしていった。
無論時間としては三時間だ。しかし実際どのタイミングで映画が終わるか、初めて見るヴィータにはわからない。きっと彼女は体感三時間以上ドキドキと戦っていただろう。
だがそんな時間にももちろん終わりがくる。黒のバックにスタッフロールが流れ出す。
カイズは「ふぅー」と息を吐くと、ヴィータの拘束をゆっくりと解いていった。
「いやー、すごい映画でしたね。これ映画館で見れたらもっとすごかったんでしょうね。って、ヴィータさん?」
「………………」
頬に熱を帯びたヴィータの顔を見て、カイズは困惑の声を上げる。
「も、もしかしてトイレとかでしたか!? す、すみません集中しちゃってて、全然気づかなくて」
「…………しよ」
「えっ?」
「もっと、その。……いちゃいちゃしよう」
初めはその意味がよくわからなかった。
だが瞳にほんのり涙を浮かべ、頬を上気させ、さらにもじもじとふとももを擦りつけている姿は、明らかに明らかな姿だった。
なぜ子供向けの映画を見ていただけでこんなことになってしまったのか。当の本人であるカイズには訳が分からなかった。
「え、えっと、でもヴィータさんこれからお仕事、ん、うむむ」
とりあえずそのことは今はどうでもいい。と言わんばかりに、ヴィータはカイズに唇を重ねていく。
それはいつもの軽いものではなく。唇を這うような濃厚な口づけだった。
ヴィータはそのまま彼をベッドに押し倒す。そして先ほどまで自分のお尻に押しつけられていたそれに、そっと手を伸ばした。
「え、ええ、ヴィータさん? あれ、ええ??」
「まだ仕事まで時間あるから。……大丈夫だ」
「大丈夫って、あ、ああぁぁっーーー!?」
嫁の初めてみる攻めの姿勢に、カイズはただただ流されるしかなかった。
◆
その日の晩、合宿上についたヴィータは、なのはに映画のディスク返す。
なのは興味津々に目を輝かせた。
「ねっ、ねっ、この映画どうだったヴィータちゃん!!」
「…………すごかった」
「ねー、ほんと子供向けとは思えないよね。私も初めはヴィヴィオに教えてもらったんだけど」
なのはは興奮気味に映画の感想を話し出す。
だがなのはとヴィータの『すごかった』は全く違う意味で。楽しく話すなのはに申し訳ないと思う。
今日のことを思い出すと、ヴィータの顔は茹でダコのように真っ赤になるのだった。
※映画のネタばれはございません。
そんなわけで一年を超えた更新になります。
映画が、映画がものすごくよくて、こんなテンションあがりまくるしかないじゃないですか。
公式からの餌がなくて、リリカルなのは欲が低い日が続きましたが、たった一回の映画でかなりチャージされました。
最近はクトゥルフのリプレイ動画やFGOの小説の販売などをしていましたが、また細々とヴィータちゃんも書いていけたらと思います!
TRPGリプレイ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25388366
FGO小説
http://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ192894.html
(今なら60%OFFでっす!)
それでは~ ノシ