ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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時空を超えて大出張

 とある日の仕事終了後。ヴィータはなのはに呼び止められ、今後の仕事内容について話を受けた。ヴィータは徐々にしかめ面になると話を断ち切って声を上げた。

 

「はぁっ⁉ あたしが二ヶ月の出張だと‼」

「うん。ちょっと上からお達しがあってね。でもうちはまだ子供が小さいし、フェイトちゃんも家に帰ってこない日も多いから」

「――――ろすぞ」

「ふえっ?」

「ぶっ〇ろすぞテメェ‼ 新婚だってわかって言ってるんだろうな! あぁっ‼」

 

 ヴィータは強烈なメンチを切ると首元のグラーフアイゼンに手を伸ばす。もちろん力尽くで仕事を断ろうとは思っていない。だが一発、二発はぶち抜いてやるとヤル気満々だった。

 

 なのはは全力で両手を振ると「ストップストップ」と早口で話を続ける。

 

「最後まで話を聞いて。今回の話は私たち教導官に下ってきた命令ではあるんだけど、その他にももう一つ条件があるの」

「条件? 条件ってなんだ?」

「落ち着いてー、落ち着いてーヴィータちゃん。ヴィータちゃんにとっても決して悪い話じゃないから。……うっ、おほん。それでもう一つの条件なんだけどね。その出張先が海鳴市なんだよ」

「海鳴ってあたしたちの故郷じゃねえか。今では平和そのものだしわざわざ視察するほどか?」

「うん、私もそう思うよ。――――でもまああまりにも平和過ぎるんだよね。何度もロストロギア事件に巻き込まれたのが嘘みたいにね」

「――――ッツ!」

 

 なのはの言葉に過去に自分が起こした過ちが蘇る。いや忘れたことなど一度もない。あの街では世界を巻き込むほどの大事件『闇の書事件』が起きたのだから。

 

 その顔を見ればヴィータが何を考えているは手に取るようにわかる。なのはは「ごめんね」と一言謝罪をする。

 

「闇の書事件、それにフェイトちゃんのお母さんが起こしたジュエルシード事件。ううん、それ以外にもあの街ではあまりにも多くの事件が起き過ぎた。ただこの何年かは本当に平和そのもので、何かが起きる予兆はなにもない。それはヴィータちゃんも知っての通りだよ」

「じゃあどうして視察に行かなくちゃいけないんだよ」

「それはもうお役所仕事としか言いようがないかな。次元を揺るがす大事件が起きた街を定期で視察する。その役目に今回教導官が選ばれたんだよ」

「まあその二つの条件があるならあたしに白羽の矢が立つのはしかたねえけど。……はぁ、二ヶ月か」

 

 結婚してから三ヶ月強で別れ離れになるとは。ヴィータは本当に嫌だと深いため息をつく。だがなのはの話はそれだけでは終わらない。ニッコニコの笑顔で話を続ける。

 

「そ・れ・で、ここからが本筋なんだけどね。海鳴市出張に関して一人だけ教導官を補佐として連れて行けるの」

「――――⁉ なのはそれって‼」

「せっかくの新婚なんだからさ。たまには教導を忘れてゆったり過ごしてもいいんじゃないかなって思って。それに最近新居探しも悩んでいるようだったし、海鳴の街並みを見て何かヒントになったらって思ったの」

「なのはーー‼ さっすがあたしの上司だ。あたしは初めから信じてたぞーー‼」

「にゃはは、ヴィータちゃんのビジュアルから低い声でぶっ〇ろすぞって言われたときはどうしようかと思ったよ」

「まあそこは気にするなって」

「まあそんなに気にしてないけどね。正直ヴィータちゃんと二人出張もいいなーとも思っていたんだけど、ヴィヴィオもそうだけどフェイトちゃんが特に寂しがっちゃってね。あのままだと時間ができるたびに遊びに来ちゃいそうで困ってたんだよ」

「あー、チビよりもそっちかー。確かに想像つくな」

 

 なのはは出来るだけ軽口で話しているが、心の底では本当に困っていたのだろう。

 

ヴィータは出張の話を聞いて不機嫌にはなった。だが断る素振りがなかったのは、なのはの本心を見抜いてのことだ。お互いの状況を理解すると、ヴィータは次の疑問が浮かんだ。

 

「あたしたちはどのへんで暮らすんだ?」

「ふっふふー、いいところだよー」

「フェイト達が住んでた高層アパートか?」

「ノンノン、ヴィータちゃんたちが住むのは庭付き一戸建て。足の悪い人のためにバリアフリーも完備した住み慣れた我が家のような家だよー」

「住み慣れた我が家って。――――もしかして⁉」

「そのもしかしてだよ。ヴィータちゃん達には二ヶ月間、はやてちゃん達が元住んでいた家で暮らしてもらいます!」

 

 ヴィータの予想となのはの答えが重なり合う。ヴィータは放心したようにほんの少し口を開けると、呟くように言葉にした。

 

「またあの家に住めるのか」

 

 そうしてヴィータとカイズの出張視察が決まるのだった。

 

 

 それから海鳴市視察の準備はとんとん拍子に進んでいく。普通の引っ越しとは違い、必要なものはある程度管理局が用意してくれることも要因だった。

 

 そして一ヶ月後。二人はなのはやはやての生まれ故郷、地球の海鳴市に足を踏み入れた。ヴィータは赤いキャリーバッグを転がしながら馴染み深い道を歩いていく。そして一切迷うことなくその家までたどり着いた。

 

 二階建ての見慣れた色の屋根、入り口は車いすが通りやすく段差ではなく緩いスロープになっている。ヴィータはもう戻ることはないだろうと思っていた、あの頃の帰る場所を見上げた。

 

「この土地に帰ってきた瞬間、急に何かがこみ上げてきたけど。……家を前にしたらその比じゃねえな」

 

 もう何年振りにもなる始まりの我が家を見てヴィータは目に涙を浮かべる。さらに胸の中にポカポカと熱い何かが沸き上がるのを感じた。

 

ヴィータの感情変化にまだ気づいていないのだろう。カイズは和やかな笑みで八神家を見る。

 

「いやー、あの時のままで全然変わらないですね」

「へっ?」

「えっ?」

 

 まるで修学旅行帰りの学生が我が家を見たような反応を見て、ヴィータの出かかっていた涙が引っ込む。カイズはヴィータの反応を見て目を丸くする。だがすぐに「ああっ!」と手のひらを叩いた。

 

「そ、そうですよね。ヴィータさんにとっては数年ぶりの我が家ですもんね。なんかつい数か月前にヴィータさんやはやてさん達と一緒に暮らしていたからあまり懐かしく感じなくて」

「い、一緒に暮らしてたってどういうことだ??」

「あれですよ、デスイーターの件でヴィータさんの夢の中に入ったじゃないですか。クリスマスまでの数か月間ずっとこの家で暮らしていたんですよ。その時にヴィータさんも居たから何だか変な感じといいますか、何とも言えない感じといいますか」

 

 デスイーター。その名前を聞いてヴィータは理解に及ぶ。カイズは数か月前、ロストロギアにより睡状態にあったヴィータの記憶の中に入ったことがある。その時に現実世界ではほんの数時間、だがカイズにとっては何か月もの時間をこの家で過ごしていたのだ。

 

 クリスマスイブ、カイズはデスイーターとの死闘を繰り広げた。そしてその日までカイズの衣食住を支えたのが夢の中のヴィータなのだ。

 

 資料としてヴィータはそのことを理解している。だが自分の記憶にない、間違いなく『本物の自分』が体験した出来事は到底納得の域に行きつくことはなかった。

 

 そんなヴィータの反応を見てカイズは慌てふためいたように言葉を続けた。

 

「前にも話しましたけど夢の中のヴィータさんとは何もなかったですからね! 俺はいつだっていま目の前にいるヴィータさん一筋ですから信じてください‼」

「…………なんで急にそんなこと言ってるんだよ」

「いや、だってヴィータさん顔が」

「顔?」

 

 顔と言われてヴィータは八神家の窓ガラスを見る。そこには頬を少し膨らましジト目をした自分自身が映し出されていた。自分の姿を実感した瞬間、ヴィータの頬はぼっと赤く染まっていく。

 

「(だあああぁぁぁ、あたしはまた夢の中の自分に嫉妬してるのかーー! カイズは相手があたしでもしっかり断ってるし、今はもう結婚だってしてるんだぞーー‼)」

 

 負けるどころかもともと勝負にすらなっていない夢の中の自分にいつまで嫉妬心を持っているのだろうか。ヴィータは恥ずかしさのあまり髪で顔を覆い隠してしまう。

 

 そんなヴィータの反応を見るとカイズは背中越しに彼女を抱きしめた。

 

「大丈夫、大丈夫ですから。俺は本当の心の底からヴィータさんを一番愛していますからね!」

 

 カイズが叫ぶようにそう伝えると、周りからクスクスと声が聞こえる。周りにいる奥様方は「若いっていいわね」や「幸せなそう夫婦ね」など思い思いの感想を述べていた。

 

 周知から羞恥の的になっていることに気づくと、ヴィータはカイズを跳ね除ける。

 

「分かってる、分かってるからな! と、とにかく家の中に入るぞ‼」

「待ってくださいヴィータさん。俺の想いはまだこんなものでは――――‼」

「とにかく家の中に入るぞ!」

 

 ポケットから鍵を取り出すとズカズカと玄関へと向かう。その途中ヴィータはもう一度窓ガラスに映る自分の姿を見た。

 

 そこには頬が燃えるように赤くなった自身の顔。そして見慣れない長い手足と胸に大きな膨らみが映っていた。そう、これこそがヴィータを抱きしめたカイズが通報されない理由だ。

 

「(変身魔法はあまり得意じゃねえけど。とりあえずは大丈夫みてえだな)」

 

 ヴィータの服装は上は黒の七分袖のタートルネック、下は薄ピンク色の膝下のフレアスカートだ。さらに普段は二つに分けている三つ編みは一つにまとめられ、彼女の腰のあたりでたなびいていた。

 

「待ってくださいヴィータさーん!」

 

 彼女に置いて行かれないように、カイズもまた家の中に入っていくのだった。

 

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