「ふひゃっ⁉」
予想外の出来事に思わず声がうわずってしまう。ヴィータは導かれるように後ろを見るとそこには懐かしい顔があった。
青いショートカットと柔らかい表情の女性。白衣を着ていなくともわかる。その人は誰よりも八神はやてのことを、そして家族であるヴィータ達を気にかけてくれた恩人なのだから。
「い、石田先生!」
「やっぱりヴィータちゃんなの。しばらく会っていないうちに随分と大人びちゃったわね」
「石田先生は昔のままで全然お変わりないようですね」
「あらあら昔みたいにもっと砕けた話し方でいいのよ。その方が私も嬉しいから」
「そ、それじゃあ。……久しぶりです石田先生!」
「うん、お久しぶりねヴィータちゃん。え、えっとそれで」
石田先生の視線を追うとカイズにぶつかる。ヴィータは二人を交互に見る。そしてようやく現状を理解した。
「ぴゃ、こ、これはその!」
抱きしめていたカイズの腕を離すと弾かれるように距離をとる。だが彼の腕に胸を押しつけている現場はばっちり見られてしまっただろう。
ヴィータは頭の先まで赤くなると、左右の指を絡めてもじもじした。
「そ、そのこれは、えっと、変な開放感があったというか、少し困らせてやろうかというか、その、あぅ」
「もしかしてこの人がはやてちゃんの手紙に書いてあった旦那さん?」
そう問われるとカイズはぺこりと頭を下げる。
「はい。不肖の身ながらヴィータさんと結婚させていただきましたカイズです。石田先生、お噂はかねがね聞いています」
「あらあら悪い噂じゃないといいけど」
「そんなことありませんよ! はやてさんが病気と闘ってこられたのは、何よりもずっと側にいてくれた石田先生のおかげだと思っています」
「手紙にあったように本当に真面目な人なのね。ヴィータちゃん、本当にいい人見つけたみたいね」
話を振られると二人の視線が集まる。ヴィータは恥ずかしそうに俯くとつぶやくように「……はい」と言葉にした。
石田先生はそれだけ聞くと満足そうな笑みを浮かべる。そしてカイズの荷物を見て思い出したように声を上げた。
「さって私もご飯を買って病院に戻るわね。でもヴィータちゃんの幸せそうな顔を見れて本当によかったわ」
「――――‼ 今度ははやてと皆で遊びに来るから、だからその時は」
「ええ、その時はまたゆっくりお話ししましょう。……カイズ君、ヴィータちゃんのことしっかりよろしくね」
「はいっ! この命に代えても‼」
ビシッと敬礼する姿を見て石田先生は「あはは」と頬を掻く。だがカイズのノータイムの反応を見て心底安心したようだ。
「また時間が出来たときにはやてちゃんたちの話も聞かせね。じゃあ今日はこんなところで」
「石田先生も仕事しすぎて体壊さないでくれよ!」
「そうね、体調管理はしっかりするわ。それじゃあお二人さんまたね」
石田先生は手を振るとスーパーの中に入っていく。カイズはその後ろ姿を見届けると「いい先生ですね」と口にする。
ヴィータは「そうだな」と短いながらも力強い肯定の言葉を口にする。そしてカイズの空いているほうの手を握りしめた。
「それじゃあ帰るか、あたしたちの家に!」
「…………はいっ!」
二人は手を繋ぐと真っ直ぐ帰路につくのだった。
◇
「(ヴィータさんの夢の中で何度か手伝いをしたんだけどなー)」
慣れない文明での料理やその他の家事は彼が思っているよりも疲れが溜まったようだ。先にお風呂から出たカイズはベッドの上で横になっていた。
「しかしまあ。……怒られはしないだろうけど、何かちょっと背徳感があるよな」
背徳感。その単語を口にする理由は今横になっているベッドにある。八神家は二階建ての広い家であり、ヴォルケンリッターに割り当てられるほど多くの部屋数が存在していた。
だがいくら部屋があろうともカイズとヴィータは新婚ほやほやだ。今までがそうであったように八神家でも当然二人で寝る予定だ。そして二人で寝るなら一番広いベッドを使うのは道理であろう。
「……昔はここでヴィータさんとはやてさんが一緒に寝てたんだよな」
あの頃はやてはヴィータのことを、時には友達、時には妹、そして時には娘のよう慈しむように節していた。
そんな二人はこのツインベッドで毎晩共に就寝しており、大それた言い方をすれば一種の聖域といっても過言ではないかも知れない。
「果たしてそんなベッドで俺が寝てしまってもいいものなのだろうか」
もしかしたら自分の気にしすぎなのかもしれない。いや初めはカイズ自身そこまで考えてはいなかった。だがヴィータを待つ空白の時間が余計な思考をかき立ててしまったのだ。
――――コンコン!
「おーい、入るぞー」
部屋の扉がノックされるとヴィータが寝室に入ってくる。その姿を見てカイズはほんの少しだけ落ち着きを取り戻せた気がした。
「寝るときは流石にいつも通りなんですね」
「まあ魔力消費は大したことはねえけど、休めるときには休んでおかねえとな」
そこには大人の姿でなく見慣れた少女の見た目をしたヴィータがいた。海鳴市についてからずっと大人モードのヴィータと接していたからか、見慣れていたその姿に体の緊張が解けた気がする。
だが普段のヴィータを見てそんな態度をとっては変な誤解をされるかもしれない。カイズは心境を気取られないうちに話を続けた。
「休める時って言えば、家に帰ってきたら変身を解いてもいいんじゃないですか?」
「いや、それは駄目だ。道路越しに見られるかもしれねえし、急な訪問で変身し忘れることもあるかもしれない。とにかく細心の注意を払って常に大人モードでいる気でいねえとな」
「そういうものですか」
こと今回の任務においてヴィータは慎重すぎるほど慎重だ。魔法の概念がないこの時空において、ほんの少しぐらい普段のヴィータを見られてもリカバリーは利くと正直思っていた。そんなカイズの考えがほんの少しだけ顔にでてしまったのだろう。ヴィータは少しだけむっとした顔をする。
「とにかく今回の任務中はそれくらい警戒してていいんだよ。 だってよ…………」
そこで言葉を切るとヴィータはズンズンとベッドの方に進んでくる。そしてその勢いのままにカイズに口づけする。唇と唇がくっつくだけのソフトなキス。それを終えるとヴィータはうらめしそうにカイズを見た。
「カイズと一緒に暮らせるこの二ヶ月を最後まで楽しみたいんだ。――おやすみ‼」
ヴィータは毛布を掛けるとそのままベッドに入ってしまう。だがチラリと見える耳が真っ赤になっていることがすぐに理解できた。
「……そうですよね。俺だって、俺だってこの二ヶ月全力で楽しみたいです‼」
自分との時間を楽しむために最善をとってくれていた。カイズはその想いを胸一杯に受け取ると、ヴィータを後ろから抱きしめた。
「ありがとうございますヴィータさん。でも、いや、だからこそヴィータさんも気を張りすぎないでくださいね。……俺も全力でヴィータさんの支えになりますから」
「……………おうっ」
ヴィータは小さな声で肯定するとカイズの方に向き直り、そのままもう一度ソフトな口づけを重ねた。そして互いに目を合わせると二人してはにかむように笑みを浮かべた。
「おやすみなさいヴィータさん」
「おやすみカイズ」
そう挨拶を交わすとドッと疲労がのし掛かってくるのが分かる。久しぶりの異世界で疲れた二人はそのままぐっすりと眠りにつくのだった。
ほんとーーーに久しぶりの投稿でありながら、ここまで読んでいただきありがとうございます!!
皆さんあったかくて凄く嬉しいですーーー!!
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それでは~ ノシ
HN:白翼
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