ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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高町恭也

 海鳴商店街に店を構える喫茶店翠屋。カイズは足を踏み入れると店内を見渡した。

 

「(ヴィータさんの夢の中でここのデザートは食べたことあるけど、店内に来たのは初めてだな)

 

 長年経営している店らしい年季具合が所々に見られる。しかしそれはマイナス要素でなく、店内の雰囲気作りに一役かっていた。そう見せられるのは絶え間ない経営努力の賜物だろう。

 

その一つのテーブルにヴィータとカイズは案内される。そして案内した高町恭也は深々と頭を下げた。

 

「この度は大変ご迷惑をお掛けしました」

「いえいえ、あたしが勝手に勘違いしただけでそんな頭を下げてもらうことじゃないですよ」

「いえ。あんなものを持って姿を現せば警戒しますよ。……完全に気配を消していたつもりでしたけどよく気づけましたね」

「そんなたまたまですって」

 

 ヴィータと恭也は互いにペコペコと頭を下げる。そんな無限謝罪が続く中、喫茶みどりやの店長兼パティシエである高町桃子が顔を出した。見た目三十代にしか見えない彼女は、あの高町なのは、そして目の前にいる恭也の母親である。

 

 桃子は銀のトレイに載せたショートケーキとコーヒーをカイズとヴィータの座るテーブルに置いた。

 

「うちの恭也がごめんなさいね。これよかったら二人で食べてね」

「そ、そんなちゃんとお代は払いますよ」

「これは迷惑料みたいなものだから気にしないで、お金はちゃんと恭也からもらっておくから」

「はい。そういうわけで遠慮なくいただいてください」

 

 と言って二人に促す。今の会話の流れのどこに遠慮なくいただける要素があるのだろうか。だが恭也と桃子のにこやかな笑みに充てられると「ありがとうございます」と二人はフォークを持ちケーキを口に運んだ。

 

「――――ッ⁉」

 

 食べた瞬間ふんわりとした生地が口の中で溶けていく。さらにトッピングの生クリームは濃厚、いやそれを飛び越え特濃と言っていいだろう。そのバラバラな個性が組み合わさることによりとんでもない深みのある味わいを作り出していた。

 

「ヴィータさん、これ物凄くおいし――――」

「んんっーーー‼」

 

 カイズより大きな一口を食べたヴィータは悶えるように空いている手足をジタバタさせる。男のカイズですら思わず声に出すほどだ。もともと甘いものが好きなヴィータが喜ばないはずがなかった。

 

 ヴィータはキラキラと目を輝かせると桃子のほうを見た。

「桃子さんすっごくおいしいです!」

「あらあらありがとうねヴィータちゃん」

「それに恭也さんもありがとうございます。もともとどちらが悪いってわけでもないのに……」

「それはもう言いっこなしと言うことで。……そうだ、こちらにはまだ滞在しているんですか?」

「はい、まだ当分海鳴にはいる予定です」

「そしたら今度なのはの話でも聞かせてください。あっちでの仕事が忙しいのか、やりがいがあるのかあまり帰ってくることがないので」

「――――はいっ!」

 

 ヴィータの快諾を得ると恭也は薄っすらと微笑んで見せる。と同時に店の入り口から来店を告げる鈴の音が鳴り響いた。どうやら団体のお客のようだ。

 

桃子は「いらっしゃいませー」と小走りで厨房に向かう。恭也はその後姿を目で追いながら、もう一度今度は浅く頭を下げた。

 

「それではゆっくりしていってください。俺も少し厨房のほうを手伝ってきます」

「はい、ではまた近いうちに」

「はい、よろしくお願いします」

 

 恭也はそのまま厨房の奥に入っていく。そんな二人のやり取りを見終えると、カイズは再びケーキを口に運ぶ。今まで味わったなかでこのケーキは最上位に入るものだ。そんなケーキを心の底から美味しいと思いながらも、彼の中では小さなモヤモヤが渦巻いていた。

 

 別段ヴィータと恭也が仲睦ましく話していたからではない。ヴィータは終始敬語だったし、恭也の薬指には銀色の指輪が見えたからそこは全く心配ではない。

 

 表面ではヴィータにバレないように笑みを作る。だが心の中で深い深いため息をついた。

 

「(この数年、経験と訓練を重ねて強くなったつもりだけど。……俺は恭也さんに全く気づけなかった)」

 

 海鳴市にやってきた平和ボケしていたから仕方がない。そう思えればどれだけ楽であろうか。だが現実としてヴィータは恭也の存在に気づきいち早く反応していた。

 

 ヴィータを守れる男になりたい。だが今回のことで残酷なほどの差が浮き彫りになってしまった。

 

「(ヴィータさんと楽しく過ごす、海鳴市の視察もする。……そして自己鍛錬もしっかりしていかないとな!)」

 

 表情には決して出さないように心の中で気持ちを新たにする。カイズはケーキを口に運ぶ。そして失礼のないようにしっかりと味わい楽しんでいくのだった。

 

 

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