ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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その時俺に出来ること

「おら、行くぞカイズ!」

 

 廃墟の市街地にヴィータの声がこだまする。地上を走っていたカイズはそれが聞こえると同時に三方壁に囲まれた狭い路地裏へと飛び込む。そしてベルカ式ミッド式の二振一対のデバイスを構えた。

 

「イノセントハート、対空中防御」

『すでに構築中です。2、1、アクション!』

 

 イノセントハートはベルカ式の魔法弾を空中に設置。そして視認できない形でミッド式のバインドを設置する。

 

「ヴィータさんは直線的な動きが多い。ここで待ちかまえてれば後の先が狙えるはずだ」

 

 来るならいつでも来い。一周の瞬きもしないぞと空を仰ぎ見る。

 

 ドン、ドン、ドン!

 

「……んっ?」

 

 何かが砕かれる音がカイズの耳に届く。

 

 ドンッ、ドンッ! ドドンッ!

 

 その破砕音はほんの数秒で耳をつんざくほどに変わる。そしてコンマ数秒遅れてカイズは自分の失態に気づいた。

 

「おっせえっ!」

 

 最後の壁抜きをするとラケーテンハンマーを構えたヴィータが一気に迫る。カイズはベルカ式の黒刀を咄嗟に構える。

 

「(この一撃を捌いて罠がある空中にすぐに逃げて)」

「あめえっ!」

 

 そんな考えなどお見通しだ。そう言わんばかりにグラーフアイゼンのブースターがグイッと横に向く。鍔迫り合いなどするまでもない。ヴィータは地面スレスレまで体を傾けると、流れるようにカイズの背後をとる。

 

「終わりだーー‼」

 

 ラケーテンハンマーのドリル部分がカイズの後頭部に振り下ろされる。その一撃はカイズの魔力障壁を物ともせず一瞬で打ち砕いていった。

 

――――ピタッ‼

 

「お、おおおお!?」

 

 攻撃は寸止めされる。だがその衝撃は強烈な風を起こし、カイズは体勢を維持できずそのまま尻餅をついてしまう。ヴィータはカイズの鼻先にグラーフアイゼンを突きつける。そしてニッと誇らしげな笑みを浮かべた。

 

「これであたしの五戦五勝、今日はこんなところだろ」

「い、いえ、まだまだ、あ、っつ」

 

 無理矢理立ち上がろうとするが、その場で足がもつれてしまう。ヴィータはまるでそれが分かっていたかのように綺麗に抱き寄せた。

 

「もう魔力もからっからだろ。詰め込めばいいもんじゃないってのは、今までの訓練でよくわかってるだろ」

「…………はい、今日はここまでですね」

「おう、分かればいいんだよ」

 

 カイズはヴィータの腕から離れるとデバイスを収納する。そしてきちっと踵を揃えるとその場で姿勢を正した。

「ありがとうございました。ヴィータ教導官!」

「おう、お疲れさま」

 

 周りに他の訓練生がいなくてメリハリはしっかりつけておく。カイズは最後に綺麗な敬礼をする。……そしてそのまま倒れるように座り込んでしまった。

 

「あっ、す、すみませんヴィータさん」

「そんな気にすんなよ。正直終わりの挨拶が出来ただけでも上出来だと思うぞ」

 

「そ、そうでしょうか」

「昔のカイズなら模擬戦二回だってもってねえよ。ほんと随分と成長したな」 

 

「そうなら。…………嬉しいです」

 

 何もカイズに気を使っている訳ではない。ヴィータは順調に成長しているカイズに素直に喜んでいた。彼女とのつき合いは長い。嘘偽りないその言葉は、そうであるが故にカイズの心に重くのし掛かった。

 

「す、すみませんヴィータさん。ちょっとしばらく動けそうになくて」

「どっちにしても今日はあたしが夕飯当番だしな。自分のペースでゆっくり戻ってこいよなー」

「…………はい、わかりました」

「お、おぅ?」

 

 カイズの態度にヴィータは疑問符を浮かべる。だがそれ以上突っ込むことはなく、八神家の一室から出入りできる模擬戦場から離れていった。

 

 ヴィータが完全にいなくなったと分かるとカイズは大の字に寝ころんだ。

 

「イノセントハート、この模擬戦の率直な感想を聞かせてくれ」

『レベルも経験も何もかもが足りません。相手になると思うほうがおこがましいと思います』

「……OK、最高の評価だよ」

 

人工的に作られた雲一つない青空を見つめる。カイズはギュッと拳を握りこむと本当に小さくため息をついた。

 

『ただしマイクリエイターの言うようにマスターの実力は確実についています。落ち込むほどのことではないと思いますが?』

「まあ二人がそう言うんだからそうなんだろうな。……うん」

『さてマスターに答えたところで、今度はこちらの疑問に答えてください。……マスターはどうしてこの模擬戦にマイクリエイターのデータを使用しなかったのですか? 私の中にはマイクリエイターのデータが膨大に入っています。最後の一撃も教科書通りの対応を要求されていなければ、予測可能でありましたが?』

 

 淡々とした電子音のはずだが、どことなく怒っているよう聞こえる。それはイノセントハートの思いか、カイズ自身がそう思い込んでいるのか、もしくはその両方であろう。

 

「……公園で恭也さんに会ったときに思ったんだ。実戦は模擬戦のように何度もチャレンジできるわけじゃない。ほんの少しの判断ミスが最悪の結果を招くことがあるって」

 

『それは当然です。だからこそ私とマスターは基礎と知識を学び、多くの模擬戦を繰り返す。それが最善の道だと思われます』

 

「……分かってる、分かってるんだ。今俺が求めるものは一足飛びの向こう見ず、そんなことをしても自力には繋がらないし、大きな事故を招く結果にだってなるかもしれない」

 

 カイズは足に力を籠めるとその場から立ち上がる。まだ少し体は怠いが歩けないほどではないようだ。

 

「俺は絶対に死ねない。俺の命は俺だけのものじゃない。ヴィータさんの管理者権限だってこの命に重なっているんだ」

 

 それは結婚式の前にはやて達に示した答え。ヴィータに悲しい顔など絶対にして欲しくない。敵わないと分かれば何が何でも絶対に逃げる。その想いは今でも変わることはない。

 

「でもたまに思うんだ。もしその絶体絶命の時にヴィータさんが一緒に居たら……その時俺は逃げることしか出来ないのかなって」

 

 ヴィータとの実力差を考えれば逃げることが最善だろう。自分がいては確実に足枷になってしまう。

 

「だが、だとしても俺が逃げてしまって、その後にヴィータさんが大怪我をすることがあったら。……その時俺は逃げたことを後悔しないでいられるだろうか。いや危険な相手を目の前にしてヴィータさんを置いて逃げ出すことができるかだって正直怪しいと思う」

『だから個人のデータで対策をせず、自身の知識と経験のみで模擬戦を行ったんですね』

「そうだ。……まあ結果は散々だったけどな」

『それに関してはマスター一人が落ち込むことではありません。私の情報処理と知識と対応力不足も顕著ですからね』

「イ、イノセントハート?」

『……共に強くなる道を模索しましょう。お互いがマイクリエイターに応えるため』

「――――ああ、そうだな!」

 

 カイズは両頬をパンッと叩くと自身に活を入れる。出たところ勝負では駄目。確実に堅実に、そうであっても着実にヴィータに追いつくために様々な道を模索する。

 

 カイズは気持ちを新たにしシュミレーションルームから退出していくのだった。

 

「ありがとうございましたー」

 

 店員の声に見送られるとヴィータはコンビニから出る。

「マイバックを忘れて卵だけなのにビニール袋買うことになっちまったけど。……まあビニールはビニールで生ゴミの処理に使うからいいか」

 

 そんな家庭的なことを考えているとヴィータは自然と頬を緩ませる。

 

「なんか新婚みたいだな~」

 

 いや自分たちは間違いなく新婚なのだが、改めて口にすると顔が赤くなってしまう。ヴィータは両頬に自分の手を添えると恥ずかしそうに顔を左右に振った。

 

 その時ヴィータの目には今自分が歩いている海鳴市の町並みが映った。夕暮れに照らされた我が故郷。都市開発が進みながらもどこか懐かしさを覚える町並みは変わることなく。きっとこの町は古きと新しきが共存してこれからも発展していくのだろう。

 

「発展していくか。……カイズのやつ大丈夫かな」

 

 本人は隠しているつもりであろうが、彼の様子はどこかおかしかった。本格的に気づいたのは模擬戦をしていた時だが、よくよく考えればみどりやでもどこか余所余所しい気がした。

 

「まあカイズはまだ発展途中だしな。昔の六課のメンバーみたいに悩むこともあるよな」

 

 だが、だとしても彼は大きな過ちを起こすことはないだろう。それはヴィータが誰よりも理解していた。

 

「あいつはあたしを悲しませるようなことはしない。それもで、もし何かの弾みであいつが間違えることがあったら。……ふふ、その時はあたしがしっかり正してやらねえとな」

 

 どちらにしてもまずは栄養補給だ。レパートリーは少ないが花嫁修業としてはやてから教わった親子丼を振る舞おう。ヴィータは卵の入ったビニール袋を握りしめると、料理手順を頭の中で復唱していくのだった。

 

 

 夕飯とお風呂をすませ二人同じ床につく。やはりカイズは何か考えているようだ。だが考えているだけで悩んでいるようではないとわかると、ヴィータは安心して眠る準備が出来た。

 

 明日はどこに行こうか、何をしようか。いや仕事でこの海鳴市に来ているのであまりのんきなことばかり言っていられない。だがそう思ってしまうほど、この街は平和で何かが起こる予兆すらなかった。

 

「すぅー、すぅー」

 

 隣から旦那様の規則正しい寝息が聞こえる。普段なら寝る間にしばらく話をしているが、模擬戦の連続で疲れてしまったのだろう。そんな彼の寝顔を見ながらヴィータは頬を緩ませた。

 

「……本当に幸せだな」

 

 心の奥底から自然と出た嘘偽りない言葉。はやて達と海鳴市に住んでいたときも、ミッドチルダに行き機動六課で皆と過ごしていたときも、新しい実家でたまの休みに子供達にストライクアーツの指南をしていたときも確かに幸せだった。

 

 もちろん幸せの価値など比べるものではない。だがカイズがずっと隣にいてくれる今この時この瞬間が一番幸せだ。それはこの海鳴市に帰って来てから、何かに後押しされるかのように、強く大きな想いに膨らんでいた。

 

「……………んっ」

 

 溢れ出る想いを抑えきれず彼の頬に軽く口づけをする。そして「おやすみカイズ」と小さく伝え瞼を閉じていくのだった。

 

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