ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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本当に大切な他人

 夕飯を食べ、お風呂を済ませ、床につく。そしていつものようにベッドで目覚めたヴィータは強烈な違和感に襲われた。

 

「…………あれ、もう朝か?」

 

 窓から射し込む光は確かに朝を伝えている。しかし自分たちは先ほど眠ったばかりではなかっただろうか。

 

 備え付けの時計を見ると時刻は八時。ちょうど二人が起床する時間だった。

 

「別に眠気もないし、いやむしろ好調なくらい頭がスッキリしてるんだよな。……おーいカイズ起きろー」

 

 隣にいる彼を揺するとほどなくして目を覚ます。カイズは頭に疑問符を浮かべたままヴィータを見た。

 

「あれ、どうしましたヴィータさん? 寝る前に何かし忘れたことでもあったんですか??」

「いや、そうじゃなくてよ。……実はもう朝なんだよ」

「……………えっ?」

 

 カイズは目を大きく見開くと、先ほどのヴィータのように時計を見る。そして「あ、あれぇ?」と声を漏らした。

 

「何だかさっき寝たばっかりな気がするんですけど。でも時間ならデバイスのアラームが鳴るはず。…………って、あれ、ええっ⁉」

 

 カイズは自身の体をまさぐり顔面蒼白になる。その行動でヴィータもあることに気づき、そのふくよかな胸に手を突っ込んでいった。

 

 そう今の彼女は大人モードなのだ。寝るときだけは普段の姿に戻っているはずなのにだ。さらに大人モードでいる疑問がもう一つあった。

 

「グラーフアイゼンが……ない……」

 

 胸が邪魔で見つかり辛いなどの話ではない。首回りにはチェーンがついてらず、確かにデバイスがなくなっていたのだ。

 

「ならどうして大人モードを維持できてるんだ。……何だこれ。何が起きてるんだ」

「ヴィータさん!」

 

 カイズが声を上げるとはやて部屋の机を指さす。そこには四角い物体とカートリッジなようなものが各二つずつ存在してた。黒色のケースに白い羽のようなものが装飾されているそれに見覚えがのない、カートリッジも同様だ。何かのヒントになるかもしれない。二人はそれを手に取るとリビングへ向かう。そしてその内装を見てお互いに目を合わせた。

 

「ヴィータさん、はやてさんの家ってこんな感じでしたっけ?」

 

「……いや、違う。家具の配置とかは似てるけど、はやての家にこんな家具はなかった。あっ!」

 

 ヴィータはハッと目を向けベランダへの窓を開ける。そして玄関口を見ると信じられないと目を見開いた。

 

「車いす用のスロープがなくなってる。家の中もそうだ。こんなに家具があったらはやてが自由に移動できないはずなのに。……ここは、どこなんだ?」

 

 ヴィータがそう口にしたと同時に、家の奥からカイズの声が響く。

 

「俺たちの私物はあるみたいです! ……魔法関係を除いてですけど」

 

 デバイスも通信機器も行方知らず。これではミッドチルダに連絡を取る方法もない。ヴィータは両手で頭を抱え家の中に戻った。

 

「とにかく着替えて外を見に行くぞ。もしかしたらこの海鳴市でとんでもねえことが起きてるのかもしれねえ!」

 

「りょ、了解です!」

 

 二人は寝間着から普段着に着替えると、見えない何か急かされるように外へ向かうのだった。

 

 町中に出るとその差異に不安がさらに高まる。今までは思い違いで済ませていた景色が、注意して見れば様変わりしていることに気づく。

 

 もちろん正確なデータと照らし合わせたわけではないのでハッキリとは断定できないが。

ヴィータは分かれ道の前に立つと左の方を指さす。

 

「あたしは左から、カイズは右からだ」

「……この状況で別れても大丈夫ですかね」

「よくねえかもな。ただどうやら今のあたし達はデバイスがなければ自力での魔法も使えねえみたいだ。……相手がやる気ならとっくに二人ともやられてると思う」

「確かに、そうですね」

「今は少しでも情報が欲しい。集合場所はこの先にある石田先生が働いてる病院。お互い何かがあったら病院から迂回して相手のルートへ、いいな」

「はいっ!」

「――カイズ!」

 

 ヴィータはカイズの顔を引き寄せると短い口づけを交わす。

 

「絶対無事に視察を終わらせるからな」

「了解です!」

 

 二人は左右に別れて駆け出す。

 

 

「あたしが知ってる海鳴とは随分と違ってるみてえだな」

 

 ヴィータはこの二か月弱で通い慣れたはずの、見覚えの薄い商店街を走る。

 

「ところどころ同じ店があってもやっぱり違う。ここはいったい――‼

 

 どこなんだ。という言葉を思わず飲み込んでしまう。そしてその後ろ姿を見てヴィータは足を止める。

 

「えっ、ええ……」

 

 その腰まで届くきめ細かな銀髪に覚えがある。動揺のあまり動けずにいると、女性は道の角を曲がり姿を消す。

 

「待て、待ってくれ!」

 

 夢の時とは違う。声は出るし脚も前に進む。ヴィータは角を曲がると銀髪の彼女に向かい叫び声を上げた。

 

「待ってくれよアインス!」

「…………はいっ?」

 

 銀髪の女性がゆっくりこちらに振り返る。その顔、その赤い瞳、忘れるわけがない。彼女はずっとヴィータ達と共にあり、一心同体の存在と言っても過言ではないのだから。歩みを止めた彼女にヴィータは駆け寄る。

 

「ア、アインス、本当にアインスなのか⁉」

「えっ、はい、私は八神リインフォースアインスですけど。……どこかでお会いしましたっけ?」

「ぐっ!」

 

 無垢で真っ直ぐな疑問に心が引きちぎられそうになる。だがヴィータは叫ぶことをやめなかった。

「あたしだよ、ヴィータだよ!」

「えっと、ヴィータはもちろん知っているのだが、えっとその」

「あっ、そうか、この姿は初めてだよな。元の姿に戻れば」

 

 と思いデバイスに手を伸ばそうとする。だがグラーフアイゼンを持っていないこと。そして大人化が解けないことを改めて痛感する。

 

 ヴィータはどうしたらいいのかと狼狽する。だがヴィータと同じくらいアインスも困惑していた。その時、二人の均衡を破るように柔らかい声がかけられた。

 

「お帰りアインスー」

「――――我が主!」

「もうその主っていうのはやめてって言ってるやろ~」

「しかし主は主ですから」

 

 主と呼ばれた少女にヴィータは目を向ける。その姿を見間違うわけがない。だがそうであってもそれはあまりにも懐かしい姿だった。

 

 大人モードのヴィータの鳩尾ほど身長しかない。だが確かに八神はやての姿がそこにあったのだ。

 

 立て続けに事が起こりすぎて頭の中がぐちゃぐちゃになる。そんなヴィータにはやては声をかけた。

 

「アインスの専門学校のお友達ですか? 初めまして、私はこの商店街の古書店の店長を務めてます八神はやてと言います。お姉さんのお名前は?」

 

 優しい声色と共に崖から突き落とされた気分だった。ヴィータは頭をガシガシとむしるように掻いた。

 

「がっ、ああっ、ああ…………」

 

 地面の設置感がなくなる。いま自分が立っているのか倒れているのかわからなくなる。

 

「ど、どうしたんですかお姉さん」

「主はやて、どうしました」

「はやてちゃんどうかしたの!」

 

 なかなか戻ってこないはやてを心配したのだろう。店内からピンクのポニーテールの女性と金髪の女性、そして青い毛並みの狼が現れた。

 

「(シグナム、シャマル、ザフィーラ)」

 

アインスとはやてとの僅かな会話。そしてそこにいる皆の顔を見る。それだけで長きに渡る付き合いのヴィータにはその差異がすぐにわかってしまった。

ここにいる彼女たちはきっと辛い事件も、悲しい別れも体験していないのだろう。無垢で純粋で心の中に憤りや陰りが見えないその表情を見てヴィータはうめき声をあげた。

 

「あっ、ああっ、ああ、アアアアアアァッ!」

 

 締め付けるように顔面を両手で覆う。見たくはない、感じたくはない、考えたくない。そう思いながらも脳裏からある考えが離れなかった。

 

「(あたし達は皆ずっと頑張ってきた。悲しいこともあったけど、それでも全力を尽くして結果を出してきた。……でもあたし達のそれは『最良』の結果であるだけで『最高』の結果じゃない)」

 

 カイズと出会い結婚し、この海鳴市に来てヴィータは今が一番幸せであると思っていた。だがそれとは違うと。誰も傷つかず誰もが笑顔であるこの空間は、彼女の思いが間違いであると否定しているようだった。

 

「あ、あの大丈夫ですかそこのお姉さん!」

 

 はやてが他人行儀に心配の声をかける。だが彼女の言葉でももうヴィータの耳には届かなかった。ヴィータは目に涙を浮かべながら膝から崩れ落ちていくのだった。

 

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