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ヴィータと別れカイズは車通りの多い道を走っていた。
「駄目だな。こっちだと違いがほとんどわからない」
何か変化がつきそうな場所はないか。カイズは右へ左へと視線を動かしていく。すると公園のほうで目が止まった。それは公園に何か変化があったからではない。一つの木の上に見覚えのある後ろ姿が見えたからだ。
「――――えっ、ヴィータさん⁉」
その木の上に愛する女性の姿があった。自分とは逆方向に行ったはずなのにどういうことだろうか。木の上のヴィータは洋服で汗を拭うとフゥと一息ついていた。
「よっしこれで、あ、ああ、わわっ⁉」
その時だ。油断をして体勢を崩したのがすぐにわかった。今の自分たちは魔法を使えない。このまま落ちたら大惨事だ。
「間に合え!」
考えるよりも先にその場から駆けだす。公園前の芝生を一足飛びし、全力で走りながらも綺麗に木々を避けていく。そしてヘッドスライディングで彼女の元に飛び込んでいった。
「イッ、ッツ‼」
落ちるヴィータを抱きしめるが、勢いを殺せずそのまま木に激突する。背中にかなりの痛みを覚えるが、何とかギリギリセーフのようであった。
抱きしめられたヴィータはシュンとした目でカイズを見る。
「ご、ごめんなさい。それと、えと、ありがとうございました」
「何のこれしき。次元一可愛いヴィータさんを守れたなら軽いものですよ」
「か、可愛い! あたしのこと⁉ そ、それにどうしてあたしの――――」
「それはもちろんヴィータさんのことですよ! ヴィータさんは俺にとって唯一無二、次元一、銀河一可愛い俺の奥さんですからね‼」
カイズは少しおちゃらけながら言葉にする。ここ最近夢見が悪いせいかヴィータの表情が少し暗かった。そこに来てこの状態だ。少しでも元気を出して欲しい。そんな無垢な願いを込めて言葉にした。
だが彼女の顔は暗いどころではない。カイズの胸元から覗くその顔は上から下まで真っ赤になっていた。その照れようはまるで出会ったばかりのようにウブな反応だった。
「あ、ああ、あたしがお兄さんの、お、おお、奥さん??」
「えっ、あれ、ヴィータさん?」
「あ、あわわわ、あわわ‼」
ヴィータはジタバタ暴れるとカイズの腕から抜け出し立ち上がり、両手を自身の胸に持って行く。そしてどきまぎした表情で答える。
「す、すすす、すすす、少しだけ、その、えっと考えさせてください!」
ヴィータは赤い三つ編みとランドセルのキーホルダーを揺らしながら慌てた様子で去っていく。その姿を見てカイズはようやくあることに気づいた。
「あれヴィータさん。……大人モードじゃない」
さっきまで魔法が使えず大人モードから戻れないと困っていたはずだ。
「それにあの赤いランドセル。……あの時の記憶が蘇るな」
ヴィータちゃん五歳、八歳の思い出がふと蘇る。だが今それは関係ない。とにかく状況をまとめようといったん立ち上がった。その時頭上から鳴き声が聞こえた。
――――ピピピピピ、ピヨピヨピヨ!
先ほどヴィータがいた木を見上げる。そこには鳥の巣があり、親鳥が我が子に顔をすり寄せていた。きっと彼女は落ちた雛鳥を戻して上げたのだろう。
「あぁ、ない頭で考えても仕方ない。とにかく今は言われたことをこなそう!」
泥を払い落とすとカイズは公園から走り出して行く。しかし車通りが多い場所ではやはり明確な変化は見られない。カイズは病院の前につくとヴィータの姿を探す。
「ヴィータさんはまだ来てないか。…………あっ!」
青い髪の白衣の女性、石田先生がロビーにいるのを見つけるとすぐに駆け寄っていく。
「石田先生! ヴィータさん見ませんでしたか!」
「えっ、ヴィータちゃん? ここ最近ヴィータちゃんは見てないけど。……貴方誰ですか?」
「俺です、カイズですよ。ちょうど月頭に近くのコンビニで会いましたよね」
カイズがそう言うと石田は怪訝そうな顔した。
「いえ、会っていませんが。貴方八神さんちとどんな関係なんですか」
「…………えっ」
何だろうこの違和感は。いや朝起きた瞬間から違和感などいくらでもあった。カイズはそうあってほしくないと願いを込めながらも質問をした。
「すみません。……今ヴィータさんって何歳でしたっけ」
「ヴィータちゃんは『小学三年生』でまだ八歳のはずよ。……ねえ貴方」
「――――すみません失礼します!」
「貴方、ちょっと待ちなさいよ!」
背後で石田先生が怒りの混じった叫び声をあげる。だが今は説明できる状況でなければ時間もない。静止の声を振り切り病院を後にする。
「何だこの感じ。やばい、やばい、やばい。何か凄くやばい予感がする!」
こういう時の直感をあまり外しが事がない。それが外れて欲しいと思いながらも走る速度を落とせなかった。
カイズはヴィータに言われたとおり病院から迂回して商店街通りに入る。町並みの変化など見ている場合ではない。カイズは人の波をかき分けながら必死にその姿を探した。
そして予感は的中した。
「あっ、ああっ、ああ、アアアアアアァッ!」
最近ずっと側にいた大人姿のヴィータが悲鳴を上げている。近くにいる少女の心配の声も届いていないようだ。
だが、だとしても、関係ない。カイズは膝から崩れ落ちる彼女を見ると叫び声を上げた。
「ヴィータさん‼」