◆
エレベーターに乗せられヴィータはアインスと共に地下の施設に到着する。
そこに設置された巨大モニターと大勢の人を見て、そのままの感想を口にした。
「ここは訓練場ですか?」
「訓練場? うーん、もちろん訓練をしている子もいるとは思いますが、ここにいる人は皆は本気でゲームをしている子ばかりだと思います」
「ゲーム? …………これが」
モニターにはバリアジャケットに身を包んだ大勢の人がいる。そしてそのエリアの端から端までで熱戦を繰り広げていた。それはヴィータ達がよく行っている模擬戦、いやその熱量は実戦と言ってもおかしくない。
「これが主はやてが言っていたブレイブデュエル。プレイヤー自身が身体を動かし3D立体映像のキャラクターを操作する、次世代体感シミュレーションゲームです」
「……こんな凄いものがこの街に」
当たり前だが自分たちの知っている海鳴市に、こんなハイテクな機械は存在していない。ヴィータは画面に映るプレイヤーを見て既視感を覚えた。
「(あの制服は時空管理局のものだ。あっちは別次元で着ているのを見たことあるし、デバイスだって)」
この世界は魔法というものが存在しない。だが根っこの部分がすり替わっているだけで、鏡写しのような事が多い。
何か、何か他に気になるところはないか。ヴィータがあたりを見ると、突然『自分の声』がステージ中にこだまし、そこでハッと息をのんだ。
「いくぞアイゼン! モードチェンジ‼」
巨大画面いっぱいに自分の顔が映し出される。だがそれは今の大人モードのヴィータではない。本当の意味であどけなさが残る小ヴィータの姿だった。赤いゴシックロリータのバリアジャケットを着た彼女はグラーフアイゼンを構える。
「ラケーテンハンマーー! ぶっつぶせえええぇぇっ‼」
点火したブースターの勢いのままに相手に接近する。途中相手の砲撃を何発かもらうがその勢いは止まることを知らない。相手はシールドを展開するがその時点でもう遅い。グラーフアイゼンの先端部はシールドに突き刺さると火柱を上げる。そしてそのままシールドを砕くと相手を吹き飛ばしていった。
『WINNER 八神ヴィータ』
モニターに表示されると辺り一帯から歓声が上がる。そのあまりの人気ぶりにぽかんと立ち尽くしてしまった。
「凄いですよね。ヴィータは小学生から商店街の大人達、みんなから人気があるんです」
「よ、よくできた子なんですね」
「ああ、そうとも。友達もたくさんいるし、愛嬌もある。塾での勉強をしっかりこなしながら、ブレイブデュエルのロケテストでは堂々の五位。……将来有望な我が家の末っ子だよ」
そう誇らしげに語るアインスを見て、その言葉に嘘偽りはないのだとわかる。
「(あたしがこの海鳴にいたころとは大違いだな。じいちゃんばあちゃんはともかく、人付き合いは最低限だったし、家族以外どうでもいいって思ってた時期もあったしな)」
成長した自分は人付き合いが悪いと言うほどではない。だが様々な人からこんな惜しみない拍手をもらえる人間かと言われたら決してそうではなかった。もしも自分が争いや別れを経験せず、ただの子供として育っていたらこんなふうになれたのだろうか。ありえもしない可能性を感じるとヴィータは小さくため息をついた。
そんな彼女とは全く逆、モニターの小ヴィータは天真爛漫な笑顔でブイサインを作る。
「この勝利は愛しのお兄さんに捧げます! お兄さん見てくれましたかー‼」
愛くるしい彼女のラブコールに会場中がざわめく。「誰だよお兄さんって」「商店街のアイドルをたぶらかしたやつがいるのか」「許せねえ、許せねえよ」とその言葉は様々だった。
恨み辛みが木霊するなか、ヴィータは服は違えど見慣れた後ろ姿を見つけた。
「カイズ!」
「アッ、ヴィー、ヴィーラサンジャナイデスカ」
「どうしてそんな片言なんだ? 何かあったのか??」
「イエイエ、ナニモナイデスヨ」
明らかに何かあるようだが、その態度が聞かないでくれと訴えかけていた。アインスは二人が揃ったのを見るとちょうどいいと声をかけた。
「今見てもらったのがブレイブデュエルです。えっと、カイズさんもブレイブホルダーとデータカートリッジはお持ちですか?」
「えっ、あ、えっとこれのことでしたっけ?」
カイズはポケットから四角いケースとカートリッジを取り出す。アインスは「少々いいですか?」と了承を得てからそれを近くの端末に差異込む。そしてヴィータの時のようにデータを確認した。
「カイズさんもヴィーラさんと同じですね。デッキにはすでにカードが複数枚存在していますが、店舗登録や対戦記録が存在してないようです。あっ、もちろんプライバシーのためにデッキの中身は確認していませんから」
「いやー、この端末のこともデッキのこともよく分かってないから全然問題ないんですけどね」
「もしよかったら店舗登録だけでも済ましていきませんか。T&Hのように我が主も八神堂にも期待の新星がこないかとずっと口にしてましたので」
「なんだかよくわからないですけど、えーっと、どうしましょうヴィーラさん」
そういうとカイズは困ったようにヴィータを見る。ゲームの登録自体別段問題なはい。ただ八神家を前に苦しんでいるヴィータを見ているからこそ、ここで繋がりを作るのを良しとするか悩んでいたのだ。
優しいカイズの想いは言葉にされなくとも受け止めている。だがそれでもとヴィータはデッキケースとカートリッジを取り出す。そしてアインスに訪ねた。
「私たちこの手のゲームにはほとんど触れたことなくて。もし八神堂さんでいろいろ教えてくれるのなら、頑張ってみようと思うのですが。……どうでしょうか?」
その言葉はこの世界、そしてヴィータの知らない八神家に向き合っていくという、大きな決意だった。だがそんなことを知る由もないアインスはただただ嬉しそうに両手を合わせた。
「それはもちろん。私たちにできることなら何でも手伝いますよ。……えっと、それでですね」
アインスは少しだけ表情を曇らせると、控えめに手を差し出した。
「私はヴィーラさんの知り合いでありませんでした。……ですがそれでもヴィーラさんとはこれからも仲良くしていけたらと思っています。だから、その、友達になってもらえないだろうか!」
「それは…………もちろんです!」
差し出された手をヴィータはしっかりと握りしめる。その確かな感触を感じながらアインスは笑みを浮かべた。
「ヴィーラさんの方が年上だと思いますし、敬語も大丈夫ですからね」
「そしたら。……よろしくなアインス、私のことも呼び捨てでいいからな」
「ええ……よろしくお願いしますヴィーラ」
ヴィータがしっかり握りしめた手を、アインスもまた力強く握り返した。そうしてヴィータとカイズの八神堂での一日目が終わっていくのだった。