ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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ヴィータちゃんは男友達が少ない海鳴市視察編6 胸に宿るそれぞれの願い
差異と可能性


 

リビングのテーブルでカイズとヴィータはお互いにメモ帳を取り出す。まず口を開いたのはヴィータの方だ。

 

「街の様子が違うのはもう言うまでもねえよな。この二週間、行ける範囲は確認してみたけど、明らかに違う点がいくつもあった」

 

「俺たちの知ってる海鳴市はここまで近未来的な場所ではなかったですしね。ましてやブレイブデュエルなんて技術、あの世界で実現化されるのは相当先だと思いますし」

 

 ここまでは間違いないと、ヴィータはさらに話を続ける。

 

「次にこの街で『あたし達が行ける範囲』の話だ。この家や商店街、石田先生が働いてる病院が大体の範囲か?」

「あと車の通りが多い表通りと、公園なんかもそうですね。この二つの場所は元の世界とほとんど変わっていないと思います」

「……しっかし移動範囲が限られてるって、もう完全に異質な世界なんだよな」

 

 腕組みをするヴィータはハァとため息をつく。

 

二人がその異質に気づいたのは八神堂のことから三日目も経ってのことだ。あらかた調べたヴィータ達は、満を持してそれを広げようとした。だがある一定のところまでいくと世界が途切れてしまっていたのだ。

 

 反射する水面のような壁がそこにはあり、何をどうしても二人には通ることができなかった。この現象が魔法によるものなのか、ほかの何かによるものなのか。それを調べる術は今の二人にはない。だが私見を述べることだけは可能だ。カイズは軽く手を挙げた。

 

「この感じ少し覚えがあるんですよ。ヴィータさんがロストロギア『デスイーター』に取り込まれた時がありましたよね。俺がヴィータさんの夢の中に入ったその時に似てる気がするんですよね。さらに世界が区切られてるって言うのも」

「あの世界にもあたしでないあたしがいたんだもんな」

「けどあの世界はヴィータさんの記憶にないものは存在しませんでした。それに俺が何かしても結局のところヴィータさんの記憶通り出来事は進んでいったんですよね」

「その点は全然違うよな。……八神堂の面々とはしっかり交流できてるし、アインスの夢が建築家なんてあたしの記憶じゃ欠片だって思えないだろうしな」

 

 この二週間、八神堂には何度も足を運んでいる。その中で八神家のメンバーと交流を深め、その際にアインスの夢の話を聞いた。空に還ったアインスがそんな夢を持つなど意識、無意識関係なくヴィータは絶対に思わない。それは彼女と会ったことのないカイズも同様だ。「俺からはこんなところです」とカイズがメモ帳を閉じると、今度はヴィータが話し始める。

 

「覚えがあるのは闇の書事件の時のフェイトの資料だ。闇の書が覚醒を始めた時に、なのはとフェイトがアインスを止めてた。だけどその戦闘中にフェイトが闇の書の中に閉じこめられちまったんだよ」

「あー、確かにそうですね。でもその時のことってあまり詳しく知らないんですよね。俺はヴィータさんの記憶の映像を見ていただけですし、事件の資料自体おいそれとみれる訳じゃないので」

 

 そうは言っても俯瞰的に事件を見ている分話が早い。ヴィータは昨日のうちにまとめておいた資料に目を向けた。

 

「闇の書の中では夢を見せられていたらしい。ジュエルシード事件を起こしたプレシア・テスタロッサや姉のアリシア、アルフやリニスに囲まれた何不自由ない生活。何もかもがうまくいった幸せがそこにあったみたいだな」

「何もかもがうまくいく。……それって今の世界と似ていますよね」

「言葉だけならな。だけどその世界は主観的な幸せだからこそ抗い難いものだったらしい。……今あたしたちが見ている自身が存在しない俯瞰的なものとは違うんだよな」

 

 そう言葉にするとヴィータの胸がズキリと痛む。だがその感情もこの二週間で些か慣らすことができた。ヴィータは一呼吸置くと話を続ける。

 

「今まで現実で起きていたことが実は嘘で、夢の中で起きていることが現実であると思わせるほど幸せな夢。それが闇の書で見せられたものらしい」

「そう考えるとやはり違いますよね。この世界には全く別のヴィータさんが存在します。それに…………ヴィータさんの心情を考えたらとても幸せな夢とは言えませんし」

「まあ、そうなんだよな」

 

 二人は意見をまとめるが、それによって多くの疑問が溢れていく。

 

 まずこの世界は誰かの記憶ではないこと。次にこの世界は夢と現をすり替えようと企んでいるわけでもない。それが狙いなら同一人物の存在や世界に区切りなどを用意する意味がないからだ。最後に自分たちが誰かの罠かかっているという考え。しかし罠にかかった時点で今の二人には対抗手段がない。デスイーターのように夢の中で殺そうとするものがいるならすでに現れているだろう。

 

 どれだけ考えてもこの世界に二人を閉じこめる理由がわからなかった。ヴィータもメモ帳をパタンと閉じる。そしてわざとらしくため息をついた。

 

「正直、手詰まり感が強いんだよな。これ以上調べられる場所がないしな」

「明日はどうしましょうか。また八神堂に出向きますか?」

「正直今はそれくらいしか考えられないよなー。カイズは他に何かあるか?」

 

 そう質問されると、カイズは少し考えるように顎に手を添える。

 

「もし自由時間をいただけるのでしたら、少し出向きたい場所があるんですが大丈夫でしょうか」

「そしたら明日は別行動にするか」

 

 ヴィータは理由も聞かずにあっさり承諾した。その代わりにジーっと彼の方を見つめると立て続けに言葉にする。

 

「……ただし絶対に変な無茶をするなよ」

「それは大丈夫です。俺が無茶をしてどうにかなるなら、もうとっくに解決していると思いますし」

「…………信じてるからな」

「はいっ! ヴィータさんこそ俺がいないところで絶対無茶なことしないでくださいね!」

「わかってるよ~」

 

 今日の会議はこれでおしまい。二人はテーブルから筆記用具を片づけると夕飯の用意に取りかかった。

 

 カイズはまな板と包丁を取り出すと気持ちのいい音を立てて野菜を切り刻ざんでいく。次に深めのフライパンを用意するとそれに熱を通し始めた。

 

「ヴィータさん、中華鍋ってどう思います?」

「またその話かよ。普通のコンロじゃ絶対熱が足りないと思うぞ。あと鍋だけで洗い場がいっぱいになるから面倒だぞー」

「うーん、まあそうですよね。……そうですよねー」

 

 海鳴市にやってきて約一ヶ月、さらにこの正体不明の場所に来て二週間。その間にカイズは料理に、特に中華にはまり始めていた。元々男飯としてチャーハンは嗜んでいたが、ヴィータがおいしく食べる姿を見て火がつき始めたようだ。

 

 カイズは下味をすませた牛の引きもも肉の入ったボールを取り出す。深めのフライパンに油を引きもも肉を油通し、さらに先ほど切ったたけのこ、最後にピーマンを加え炒める。

 

「でも新居の時に業者にいろいろ提案してみれば……」

 

 小さな声でボソボソ言いながら、フライパンの中身を別の皿に移す。その後余分な油を切り、ねぎとしょうがとオイスターソースを入れて軽く炒め、再び強火で皿の中身と共に手早く炒めていった。

 

「押忍! チンジャオロースーの完成です‼」

 

 フライパンから耳心地のいい油のはねる音が聞こえると、深めのお皿にドンと盛られていく。包丁使いもかなり慣れたのか具材はほぼ均等に揃えられているようだ。ご飯が何杯でも進みそうな香ばしい匂いがヴィータの食欲をかき立てる。

 

「(これはあたしもうかうかしてられないな……)」

 

 味噌汁とご飯をよそいながら、嫁という自分の立ち位置に一抹の不安を覚え始める。だが悩んだところで急激に料理がうまくなるわけではない。今は素直に出された食事を楽しもう。

 

「「いただきます!」」

 

 合わせていた手を離し箸を取る。腹が減っては何とやら、二人は夕飯をかきこんでいくのだった。

 

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