◆ sideヴィータ
八神堂に行くときには常にカイズと一緒だった。そのため今ヴィータの足取りは少し重めだ。
「(いや、これもいい機会だな。……よし、頑張ろう!)」
この世界の八神家に関わっていくと決めたのは自分自身だ。太股を軽く叩くと自身に活を入れた。
「(この世界から抜け出す突破口が見つからないいま、人間関係の構築は何よりも優先するべきことだ。特にこの狭いエリアで、八神堂の存在は一際大きな存在だからな)」
この二週間で通い慣れた道を進んでいく。そして迷うことなく八神堂へ入店した。
「あっ、ヴィーラさんいらっしゃーい!」
はやては髪を前から後ろにかきながすような謎のポーズで出迎えてくる。毎度のことながら元ネタが分からないが、「また来ましたー」と小さく手を振って応える。
「ヴィーラさん、今日もブレイブデュエルやっていきますかー!」
「はい、そのつもりです」
「いやー、連日ありがとうございますー。ヴィーラさんみたいなボンキュボンな女性がプレイするだけで、八神堂は今日も大盛り上がりですー」
「あ、あははは、それなら、ええと、よかったです」
ヴィータは少し乾いた笑いをあげる。開幕セクハラももう慣れたものだ。だが「よかったです」という言葉に偽りはなかった。
この二週間で分かったことなのだが、ブレイブデュエルをできる施設は大きく分けて三つ存在するらしい。
一つはなのはやフェイトが所属する(らしい?)ショップT&H。二つ目にブレイブデュエル総本山と言われるグランツ研究所。最後にこの八神堂だ。
T&Hは期待の新星であるなのは、すずか、アリサの存在。そして観客を取り込む見事な実況をするアリシアと男女問わずファンが多いフェイトの存在がショップを盛り上げている。
グランツ研究所は総本山と言うこともあり、腕に覚えがあるメンバーが出向いているようだ。ブレイブデュエルのロケテスト第一位がいるのも看板としてはかなり大きいようである。
そんななか商店街や子供たちには圧倒的人気を誇るが、八神堂はどこかパンチが欠けているようである。小ヴィータの人気は以前に感じたが、その他の八神堂のメンバーが大学や専門学校の都合もあり、なかなかブレイブデュエルに参加出来ないことも要因らしい。
「(さらにはやては古書店もやってるんだもんな。……そりゃ手が回らねえよ)」
ヴィータの考えなどつゆ知らず、はやては楽しそうに話を続ける。
「本当に感謝してるんですよー。ヴィータがお子さまや商店街に人気を取り、ヴィーラさんがお兄さんお姉さんの人気を得る。ふっふっふ、八神堂は安泰やー」
「わ、私自身あまり感じてませんけど、それなら何よりです」
「あー、それはそれとして、私の方がずっと年下ですから、敬語でなくて大丈夫ですよ」
「……いえ、年は関係ありませんよ。はやてさんは立派な社会人ですし、このままでいさせてください」
「うーん、いけずやなー」
ブーブーと抗議されるがその境目を崩す気はない。見た目こそ昔のように幼いが、今目の前にいる人物は自分の知っている『八神はやて』という存在にあまりにも近すぎる。
もし一人称を戻してしまったら。もしいつも通りの話し方をしてしまったら。きっとどこかでボロが出てしまう気がした。この世界のことがよくわからない状態で、自分がヴィーラではなくヴィータであるとバレるのはできれば避けたかった。はやては頬を膨らませたまま言葉を続ける。
「でもアインスにはタメ語なんですよねー」
「あー、それはその。……昔の友人にそっくりだったので、その流れで」
「ブーブー、私もヴィーラさんの友達にそっくりだったらよかったですー」
本当はそっくりどころか、違いを見つけるほうが難しいくらいだ。ヴィータはどうしたものかと思いながらも、もう一つの用事を口にした。
「そっ、そうだ。実はカイ、ん、んんっ、夫が最近料理にはまってまして。それで何か料理本を見繕っていただけると助かるんですけど」
無理矢理話の梶を切る。はやてのほうもこれ以上冗談混じりでもふてくされは失礼だとわかっているようで、すぐにレジから身を乗り出してきた。
「カイズさんにプレゼントですか?」
「いえ。…………旦那に負けないように私が勉強しようと思いまして」
「あー、なるほどです。お嫁さんとしてはそれはちょっとプレッシャーですもんねー。ちなみにどういった料理がいいですか?」
「……和食がいいですかね。昔、大切な家族によく作ってもらったので」
「あっ、和食なら私も得意ですよー。私が参考にしてるレシピ本があったと思いますから、ブレイブデュエル後にでもお渡ししますねー」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ毎度ありがとうございますー。あっ、お客さんが来たみたいですので、ここらへんで。楽しんでいってくださいねー」
はやてはにこにこ声を上げヴィータに手を振る。そして「いらっしゃいませー、八神堂へようこそー」とお客さんに対応していくのだった。
その小さくも頼もしい背中を見送ると、ヴィータは地下のブレイブデュエル施設へと向かうのだった。