ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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紅き台風の目

「リライズアップ!」

 

 その言葉とともに着慣れたバリアジャケットとグラーフアイゼンが装備される。

 

ブレイブデュエル。この世界で流行の兆しを見せている体験型VRゲーム、それを今ヴィータはプレイしていた。

 

 初めは八神堂メンバーとの会話の切っ掛けくらいと思っていた。だが実際にゲームを始めてみると、なかなかどうして侮れないものだった。

 

「(デバイスや魔法の力がなくなって、イメトレぐらいしか出来ないって困ってたけど。……これはかなりの練習になるな」)

 

 管理局での訓練に負けずとも劣らないそれは、実戦勘を養うには最適だった。唯一の難点をあげるとすれば、技やデバイスのモードチェンジをするときに専用のカードが必要になるということだろう。

 

 通常、デバイスはゲーム開始時にランダムに割り振られるらしい。そしてゲームを楽しむ行程で多くのスキルカードを手に入れられるようだ。

 

 しかしヴィータとカイズはこの世界迷い込んだ時からデッキホルダーとカートリッジを持っており、すでにデバイスとスキルカードを数枚所持していたのだ。

 

「おっと、ちゃんとゲームには集中しねえとな。スキルカードスラッシュ『ラケーテンハンマー』」

 

 相手プレイヤーの接近を感じるとカードを取り出しそれを読み込ませる。グラーフアイゼンはその形を鋭利なものに変えていく。

 

『ラケーテンハンマー』はヴィータが初めから所持していたスキルカードだ。この他にも数枚のカードを所持してはいた。

 

「(でもやっぱり、手数が少なすぎるよな)」

 

 馴染みのあるスキルがあるとは言え、歴戦のヴィータにとってスキル数に限りがあるのは少し辛いところだ。また幾度と続けた訓練によって、対応するカードがないのに考える前に反射的に体が動いてしまうところも今だけは足枷となっていた。

 

 スキルを増やすためにはゲームを遊びポイントを貯める。またはローダーと言われるガチャを回さなければいけない。

 

 ヴィータ達の懐具合は元の世界と通貨が同じなこともあり十二分なものだった。だがいつまでこの世界に滞在しなければいけないか予想がつかないこと。

 

さらにガチャというのは言ってしまえば運だ。商売として行っているのだから仕方がないことだが、出来ればはまりたくないと言うのが二人の考えだ。

 

「それに――――なっ!」

 

 ラケーテンハンマーのブーストをうまく使い敵プレイヤーの攻撃をかいくぐる。ヴィータはそのまま無傷で接敵しとバリアを避け、そのまま相手プレイヤーをぶち抜いていった。

 

相手のHPが0になったことを確認すると、グラーフアイゼンをトントンと肩に当てる。

 

「それくらいのハンデで負ける気はねえんだよ」

 

 ブレイブデュエルにおける戦闘に慣れておらず、ワンテンポタイミングがずれることはある。だがそれで後れをとるほどヴィータが潜ってきた修羅場は甘いものではない。

 

『WINNER ヴィーラ‼』

 

 ヴィータの顔が大画面に映し出されると大きな歓声があがる。その声は小ヴィータの時とは違い、些か大人びたものが多かった。

 

『破竹の三十連勝』『紅き台風の目』『大人のお姉さんなら八神堂にお任せ』など様々な言葉が客席で交わされる。きっと最後のははやてが流行らせたものだろう。

 

正直普段の自分の姿を噂されるなら羞恥心もあっただろうが、今の自分は偽りの姿だ。その仕込みに逆に申し訳ない気分になってしまう。

 

「少しでも店の役に立ってるならそれでいいだけどな」

 

 今日はこれくらいにしておこう。VRルームから退出すると見慣れた銀髪の女性と目があった。

 

「お疲れ様ヴィーラ」

「おっ、アインス。今日はまだ学校はいいのかー?」

「まだ少し時間に余裕があって、少し顔を覗いておこうと思ったんだ。あっ、そうだ。我が主がこれを渡しておいてくれと言っていたんだ」

 

 アインスに渡されたのは『和食大全』と書かれた専門書だ。先ほどはやてが言っていたおすすめの本だろう。ヴィータはそれを受け取る。

 

「これいくらだ」

「お金はいいみたいだぞ」

「いや、流石にそう言うわけにもいかないだろう。道楽で店をやってるわけじゃないんだし」

「それは我が主から個人的なプレゼントのようだよ。ほら、付箋がいくつも張り付けてあるだろ」

 

 アインスにそう言われ改めて専門書を見る。使い込まれているのか表紙はかなり折れ曲がっている。さらに張られていた付箋には『おすすめレシピ』などのメモも書かれていた。これは確かに私物のようだ。だとしてもヴィータは貰いあぐねてしまう。

 

「うーん、そうは言ってもただでもらうのは」

「我が主はその本の料理を全てマスターしているから問題ないと言っていたよ。それに誰彼かまわずこういうことをしているわけではない。今店を盛り上げてくれている。そして私の友達であるヴィーラだからこそ気にかけてくれているんだと思うよ」

「うーん、そう言われると貰わないってわけにはいかねえんだよなー。じゃあありがたくもらって、今度お裾分けでも持ってくるってことで」

「ああ、私も楽しみにしているよ」

 

 本当に楽しみにしていると表情でも伝えてくる。するとアラームの電子音がアインスのポケットから聞こえてきた。

 

「もうこんな時間か。さて本も渡せたところで私はそろそろ学校に向かおうと思うがヴィーラはどうする?」

「私も今日はこれくらいにしておこうと思ってたんだ。じゃあ途中まで一緒に行くか」

「ああ、そうしよう。あれカイズさんは?」

「今日は別行動。何をしているやら」

 

 ヴィータがそう言った瞬間、物陰からスッと青い毛並みの狼、ザフィーラが姿を見せた。

 

『そういうことなら俺がついて行こう』

「おっ、ありがとうなザフィーラ……さんっ!」

 

 呼び捨てにしそうなところを何とか持ちこたえる。ザフィーラは特に気にしていないようだ。彼は歩き出す二人に対しつかず離れずの距離を保ち始めた。そんなザフィーラをチラリと見ながらヴィータは「うーん」と首を傾げた。

 

「(この世界って魔法とかないのに、動物が普通に喋ってるんだよな。ほんとなんかよくわからない世界だよな)」

 

 そんな世界で出来るだけボロを出さないように、ヴィータは細心の注意を払いながらアインスの隣を歩いてくのだった。

 

 

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