◇side カイズ
「ヴィータさんは大丈夫だろうか」
少し後ろ髪引かれる気持ちはある。だが自分が緩和材になり続けてはヴィータは前に進めない。さらに自身もこのままではいけないという想いが彼に一つの決意をさせた。
目的地に向かう途中、メモ帳を取り出す。そしてそこに書かれた『対戦成績』の項目の○を数えた。
「個人戦は三十戦十九勝十一敗。やっぱりここ最近負けが込んできてるな」
デバイスがない今、ブレイブデュエルは二人にとって頼れる練習施設となっている。そのなかでヴィータは連勝を重ねてメキメキと頭角を現していた。
だがカイズの成績はあまり振るわなかった。いや、勝率で言えば六割越え、そこまで悲観するほどではないだろう。しかしそうであっても最近は頭打ちを感じていた。
もちろんカイズ自身の実力もあるだろう。だがそれとは別に、ここぞというところで決めきれないことがここ最近多かった。
「ブレイブデュエルはあくまで体験型ゲーム、プレイヤーはそれぞれ本気で遊びに来てるんだ。……一切危害のない安全なゲーム、だからこそ皆必死の全力で向かってくるんだよな」
普段のカイズは管理局の訓練とヴィータによる扱きを受けている身だ。普通ならそう易々と他に遅れを取ることはない。だがその二つの訓練は強くなることと同時に、『生きて帰る』ということが常にセットになっている。カイズ自身、結婚式前にはやて達に宣言したように絶対に無理をしないと心に誓っている。
「だからこそ俺は土壇場で逃げ腰になる。最近はそこを突かれて負けることが多いんだよな」
ブレイブデュエルのプレイヤーは当然ながら死を恐れていない。ゲーム内でどんなにダメージを受けようが、脳にも体にも心にも問題はないからだ。それ故、一か八かの捨て身の特攻を仕掛けてくるプレイヤーが多くみられた。
「特に俺くらいのランクだとそれが顕著なんだよな。まあそれもそうだよな。どれだけ被弾したって最終的に勝ったものがゲームを征するんだから」
ランキング上位の小ヴィータであっても、勝てると思ったときは多少の被弾も辞さない。それは初めてブレイブデュエルを見たあの日から変わりなかった。
そう、負ける理由がわかっているならカイズ自身もそうするべきなのだ。だがそれではわざわざブレイブデュエルをする意味がない。目先の勝ちにこだわりスタイルを変えてしまっては、本当に大切な時にきっと迷いが生まれてしまう。
「俺が俺のままで強くなる方法。……本当は直接向かえればよかったけど、街の境目からは抜け出せない。けどあの時と同じ曜日ならもしかしたら」
カイズは小ヴィータと初めて出会った、大きい公園へと足を運ぶ。
「やっぱり俺の知っている海鳴市とは少しだけ違う。……確かあの時はあの辺から出てきたよな」
微かな記憶をたぐり寄せて歩みを進める。カイズは木々が重なり合い表通りから死角になっている場所をしらみつぶしに探す。そしてようやく目的の人物に見つけることができた。相手に気づいてもらえるようにわざとらしく物音を立てると、その人物がカイズを見た。
「…………誰ですかこんなところで」
年齢は高等部くらいだろう。まだ幼さの残るその顔から射抜くようなまなざしが向けられる。
「(高町教導官が初等部ならまだそうでもないかと思ったけど…………これは)」
それは余計な考えだった。いや今の彼は若いからこそ熟練した大人にはない鋭さが見えるくらいだ。
カイズは背負っていたリュックに手を突っ込む。そして四角いそれを取り出すと男の前に構えた。その瞬間男が臨戦態勢を取る。だが関係ない。カイズはそれをズズイと前に出すと。――――その場で仰々しく土下座をしていった。
「高町恭也さん! どうか俺に剣の使い方を教えてください‼」
カイズは敵意はないと頭を垂れる。そして老舗の高級煎餅の包みを恭也に差し出した。
「……………う、うん??」
臨戦態勢の恭也もさすがに毒気を抜かれてしまったようだ。彼は小太刀を持ちながらではあるが、「まずは頭を上げてください」とカイズに駆け寄ってあげるのだった。