ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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御神の剣

 

 公園のベンチでカイズと恭也は肩を並べて座る。カイズは買ってきた煎餅を開けると恭也に勧める。恭也もまた自販機で買ってきたお茶を勧めた。

 

「恭也さんどうぞ遠慮せずに食べてください。あっ、もし毒が入ってると思えば恭也さんが選んだものを俺が先に」

 

「いえ、それはもう大丈夫です。貴方という人柄は何となく見えてきましたからだ。それにカイズさんなら八神堂さんを経由して妹から聞いたことがあります。お兄ちゃんみたいな小太刀二刀流を武器に戦っている人がいるって。……それで俺の話はどこから?」

「こちらもはやてさん経由ですね。高町教導、じゃなくて

高町なのはさんは実家が剣術をやっているって話を耳にして。えっと、なのはさんが固定してない紙コップをスプーンで貫通させたって話はどこでも有名みたいで」

「なのは。……危ないからあまり人前でやるなと言っておいたのに」

 

 恭也はやれやれと頭を抱える。本当ははやてに聞いただけでそこまで有名ではない。だが話の種のために『すみません』とカイズは心の中で頭を下げた。

 

 恭也に向けて危険はありませんよと言わんばかりにカイズはお煎餅を口に運ぶ。だが恭也はそれに手を伸ばすことなく申し訳なさそうな顔をした。

 

「剣の使い方ですが。……正直俺には教えることが出来ません」

「いやーそうですかー。……やっぱり駄目でしょうか」

「俺自身がまだ未熟な身ですし、この剣術は血筋でないものに伝える気はありませんので」

「いえいえいえいえ、門外不出の技を盗み出すとか、そんなつもりは全くなくて。とにかく俺の可能性とか見聞を広げたいといいますか」

 

 カイズは仰々しく拝み倒すように頭を下げる。だがその間に恭也から声をかけられることはなかった。カイズは「(流石に駄目か)」と顔を上げると恭也の真っ直ぐな目とぶつかる。まるで心の底まで見透かすような視線が数秒に渡りカイズをのぞき込むと、恭也は申し訳なさそうに頬を掻く。

 

「御神の剣を教えられないのは本心です。ですがそれは貴方に剣を教えられない理由の半分でしかありません」

「その他に何か理由が?」

「服の上からの体つきでもわかります。貴方は自己流で鍛えているわけでなく、ちゃんとした師の指導の元に研鑽を積んできてますよね。そんな人がいるのに俺が口を挟むのは違う気がしまして。……あとこれはただの直感なんですけど、少しご無礼をよろしいでしょうか?」

「えっ、はい?――――⁉」

 

 返事をした瞬間、喉元に突き刺さるような殺気を感じる。カイズは手から煎餅をこぼしながら勢いよく後ろに下がった。すると先ほどまでカイズの首があった場所には恭也の手がある。その手には忍者が持つクナイに似たような暗器が握られていた。

 

 カイズは臨戦態勢のままチラリと背後に目を向ける。そして何があってもいいように逃走ルートを組み立てた。そんな彼の反応を見て恭也は暗器を服の中に滑らせる。そして深々と頭を下げた。

 

「ご無礼、大変申し訳ありませんでした」

「これは、えっと、どういうことなんでしょうか?」

 

 恭也から殺気が消えたことがわかると、おっかなびっくりベンチに戻る。だがカイズは先ほどよりも距離を開けており、軸足には力を込めていた。恭也はその軸足を指さす。

 

「貴方の師は貴方に死なないための訓練をほどこしてますよね。そして貴方自身絶対に死ねないという強迫観念めいたものをお持ちのはずです」

「………凄い、そんなにわかるものなんですか」

「これでも結構いろいろありましたので」

 

 そこで一度話を止める。そして信用の証と言わんばかりに、カイズの手からこぼれた煎餅を口に運ぶ。それを早口で食べ終えるとさらに話を続けた。

 

「貴方が小太刀二刀流を使うのなら、俺の教えは経験になるかもしれません。ですが御神の剣は暗殺を主とします。きっと俺から得た知識は、大切な場面で貴方の判断を鈍らせることになると思います。……これが貴方に剣を教えられないもう半分の理由です」

「それは確かに、そうですね。………って、えっと、俺から押し掛けてあれですけど、暗殺剣とか聞いちゃってもよかったんでしょうか」

 

 もしかしてこのまま口封じをされるのでは。そんなこと万が一にもないだろうが、その一を無視できず体に緊張が走る。

 

恭也はサッと体を動かすと両手から先ほどの暗器を取り出す。それをベンチの上に置き、さらに両手を上げた。それはまるで降伏するポーズのようであった。

 

「もし貴方の覚悟が半端なものならここまで話すことはありませんでした。しかし貴方は砕けたように話しながらも、その目には藁にもすがるような必死さが見られました。だからこそ俺も本気で伝えようと思ったんです」

 

 その真摯な思いを聞いてカイズの体から緊張が解ける。恭也は両手を降ろすと言葉を続けた。

 

「貴方はどうして力を求めているんですか」

 

 また全てを見透かすような目でカイズの瞳をのぞき込む。だが真摯に向き合ってくれた恭也に隠す思いなど何もない。カイズもまた真っ直ぐな視線を彼に向けた。

 

「一生を賭けて愛したい女性がいるんです。でも今の俺は彼女を守るどころか守られるばかりで、足手まといにしかなってません」

 

 カイズは悔しそうに手のひらに爪を食い込ませる。

 

「それが恥ずかしいとは思ってません。それだけの実力の差があるのは確かなんですから。でも、だけど、本当に逃げられない戦いがあったときに、俺は足手まといになりたくない。せめて、ほんのひと欠片でも、一握りでもいいから彼女の力になりたいんです。そのために可能性があるのなら俺は何だって掴みたいと思っています」

 

 自分の弱さは自分が一番よく知っている。カイズは下唇を噛みしめると叫びだしたい気持ちを必死に抑えつけた。そんなカイズを見て恭也は小さく肩をすくめた。

 

「愛した女性のために力が欲しい。……強いですね。俺にはまだそこまでハッキリ言ってあげられる覚悟がありませんから」

「恭也さん?」

「ですが話したとおり貴方に剣を教えることはできません。きっと御神の剣を習うことは貴方にとってマイナスになると思いますから」

「……そうですよね」

 

 カイズはがっくり肩を落とす。だが恭也の言葉はそこで終わりではなかった。

 

「なので俺は俺として、カイズさんはカイズさんとして、一緒に鍛えていきましょう。暗殺剣の俺だからこそ、もしかしたらカイズさんが気づけないことに気づけるかもしれませしね」

「えっ、そ、それじゃあ⁉」

「俺も付きっきりというわけにはいきませんけど、しばらくの間一緒に頑張っていきましょう」

「――――ありがとうございます‼」

 

 何度も何度も頭を下げる。恭也は「頭を上げてください」とカイズの上体を起こした。その時目にした彼の顔はうっすらとした笑みを浮かべているように見えた。

 

 

 

 

 特に待ち合わせをしたわけではない。だがヴィータが家の前に着くと反対方向からカイズが歩いてくるのが見えた。

 

「……あれ、おかしいな?」

 

 いつもなら自分の姿を見た途端「ヴィータさーん!」と駆け寄ってくるはずだ。だが今のカイズは駆け寄ってくるどころか、いつもより歩みが遅いくらいだった。

 

「って、ええっ⁉」

 

 いつもとは逆にヴィータが急いで彼に駆け寄る。そしてすぐに肩を貸した。

 

「ど、どうしたんだよ! 全身ボロボロじゃねえか!」

「いやー、あははは。魔法がない世界は世界でめちゃくちゃハードなんですねー」

 

 そう言葉にするカイズは服が泥だらけだ。さらに打ち身をしているのかいつもより体を縮込ませているようにも見えた。普段ならある程度はやせ我慢するカイズが、素直に貸した肩に体重を預けている。それは限界である証拠だろう。ヴィータは眉をひそめると不機嫌そうに声を上げる。

 

「言ったよな、無理なことはしないって」

「いやー無理なことしているつもりなかったんですよ。少なくともあちらは今日は軽い準備運動くらいの気持ちでしたし。…………それに無理をしたのはお互い様ですよね」

「……………えっ」

 

 その言葉にヴィータはギクリとしてしまう。カイズは彼女の目元に触れるとやっぱりと言う。

 

「何度も顔を洗ったみたいですけど、目が凄く腫れていますよ。すみません、やっぱり今日も一緒に行けば……」

「それは違うぞ! アインスと二人だからこそ話そうって、聞いてみようって、そしてこの世界を認めようって決心できたんだ! だから……変に責任感じるなよな」

「本当にですか?」

「ああ、本当だ。今更カイズに嘘なんてつくかよ」

「…………ですね」

 

 そう言うとお互いに笑みを浮かべる。

 

 ヴィータはカイズの全身が思った以上にボロボロだったので慌ててしまった。だがこの態度からするにカイズはカイズでヴィータとの約束をしっかり守っているのだろう。二人は文字通り肩を並べ家へと向かっていく。

 

 今日のことをどこから話していけばいいだろうか。互いにそんなことを考えていると、カイズは思い出したように声を上げた。

 

「今日は結構動いたのでお腹ペコペコで。夕飯は何の予定なんですか?」

 

 その言葉を聞くとヴィータは左手に持った『和食大全』をキュッと握りしめる。

 

「それは出来てからのお楽しみだ」

「えーっ、凄い意味深ですね。教えてくださいよヴィータさーん」

「ふふーん、内緒は内緒だよ」

 

 と悪戯っぽい笑みを浮かべながら玄関の鍵を開けていくのだった。

 この日、二人は確かな一歩を踏み出した。そして久しぶりに心の底からの笑みを見せあったのだった。

 

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