ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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信じるべき人

 初めからこの街で過ごしていたように滞りなく日々を送っていく。だがそう思いながらも、元の世界のことは片時も忘れなかった。

 

 ヴィータは家のソファーに体を預けるとぐぐーっと体を伸ばす。

 

「あーもー、あたしたちはどうしてこの世界に来ちまったんだー。無力化して襲ってくるわけでもない。徐々に記憶を改竄して取り込んで行くわけでもない。理由が全くわからねえ!」

「もう三ヶ月を超えましたしね。でも正直どうしよもないことに変わりないんですよねー」

 

 ソファーに座っているヴィータの頭にカイズはボスンと顎を乗せる。決して楽観視しているわけではない。だがするべき努力をしてどうにもならないのだ。これ以上何をどうしていいかわからない。それが正直なところだ。

 

 今日も今日とて当たり障りのない日常を過ごしてくのだろう。そう思っていた二人にその日は確かな変化が訪れたのだ。

 

――――コトン。

 

 テーブルの上に固い何かが落ちる音が聞こえる。そちらに目を向けると、先に声を上げたのはカイズだった。

 

「イ、イノセントハート⁉」

 

 ヴィータも声こそ上げなかったが見間違えることはない。このチェーンに通された二振りの待機モードデバイスはヴィータ達八神家が作り上げ、プレゼントしたものなのだから。

 

 ここはブレイブデュエル内ではない。ちゃんと実体のあるそれを手に取るとすぐに画面が表示された。

 

『どこまで世界に干渉されずに済むか分からないため、演算に優れるカイズ君のインテリジェンスデバイスを勝手に使ったこと。そして足跡を辿るのに三日もかかってごめんなさい。時間がないため、取捨選択し出来るだけ手短に話していきます』

 

 映像に映し出されたのは高町なのはの姿だ。その後ろでは見知った顔が何やら慌ただしく作業をしており、それだけで今が緊急事態であることが見て取れた。世界の干渉とは? と二人は思うがこれはあくまで映像だ。ヴィータは口を挟むことなく、食い入るように映像を見た。

 

『一つ目、二人と連絡が取れないようになってから海鳴市でロストロギアの反応が見られました。でもそれはロストロギアと言うにはあまりにも微弱でロストロギアの欠片、もしくは種と言っていいレベルでした。捜索チームの間ではこの存在をシードと呼称してます。……今までの視察でこのような反応は一切見られなかった。なのにどうして二人が巻き込まれたかは目下解析中です』

 

 映像のなのは人差し指と中指をあげ画面に見せる。

 

『二つ目、二人がいる場所がどどのようなところかはこちらではわかりません。ですがそこは幻覚や記憶改変などではなく、確実に存在する世界、そうであっても私たちの存在しない場所。平行世界だと思われます』

 

 カイズはその言葉に覚えがあるのだろう。息を飲むのがわかる。

 

『その世界は存在しており、そこにいる人々はその生活があります。なのでこちらの世界からの介入や実力行使は出来るだけ避けたいと言うのがこちらの考えです』

 

 避けたいと言うことはその気になれば介入行動は可能なのだろか? いや、この世界にカイズのデバイスを送れたのだ。どちらにしても時間の問題ではあるだろう。だがなのはの考えにヴィータは心の底から感謝した。

 

「あたしだってここの人たちに迷惑かけたくねえもんな」

 

 ヴィータの言葉など聞こえているはずもなく、なのははさらに薬指を立てる。だがその瞬間じわじわと映像が乱れ始めた。

 

『三つ目、ヴィータちゃんたちが平行世界に行った際にロストロギアの欠片、シードもそちらの世界に渡っているはずです。シードは元々はこちらの世界で観測されたもの。それをそちらの世界で何とか解析し座標を確認して、何とかこちらにコンタクトをシ、シシ、テテテテテ』

 

――――ザアアアァァァァァァ!

 

 灰色の砂嵐が流れると映し出された画面が消える。カイズは手を震わせながらイノセントハートを握りしめた。

 

「だ、大丈夫なのかイノセントハート⁉」

『問題ありません。ですがこの世界に私はテクノロジーとして存在していないため、起動するには不備があるようです。……しばらくの休養をお許しください』

「……ああ、また元の世界でな」

『サンキュー、マスター』

 

 最後のそう電子音をあげると光がゆっくりと消える。物言わぬイノセントハートをカイズは力強く握りしめた。だがカイズは意気消沈しているわけではない。その目はまるで逆巻く炎のように力強かった。

 

「ヴィータさん!」

「ああ、わかってるよ。あたし達のためにも。この世界の優しい人たちに迷惑をかけないためにも。……絶対シードを探し出すぞ!」

「――――はいっ!」

 

 やるべきこと、やらなければいけないこと、やらせてはいけないこと、全てを理解する。二人は気合いを入れ直すと外に出かけて行くのだった。

 

 

 

 

 二人は足を棒にしながらも移動可能エリアを探し続ける。だがその意気込みをあざ笑うかのように、二人は何の成果も得ることはできなった。

 

 シード捜索から二週間。今日も今日とて走り回っていたヴィータは、休憩のためベンチに座る。そしてパンパンに張った太股をほぐす。遅れてきたカイズはミネラルウォーターをヴィータに渡しその隣に座った。

 

「いやー、見つかりませんねヴィータさん」

「まあ正直どんな姿形してるかわからないわけだし。……そう簡単に見つからねえよなー」

「例えそれらしい物を見つけても魔力がない俺たちには、それをロストロギアだと判別すること事態難しいですしね。……それにシードが人の家や地中深くにあった場合それこそお手上げですよね」

 

 このままなのは達からの第二報を待つべきなのだろうか。だが前回の通信を見る限り、こちらでの一ヶ月はあちらでの一日。連絡待ちで無為に過ごすという考えは、どことなく危ない予感がしていた。

 

 そんな中一つの可能性が浮かび上がっていた。だがそれをして本当にいいのだろうかという思いもある。だがここまでどうしよもなければ、ある程度手段を選んでいる場合ではないのかもしれない。

 

 ヴィータはハンカチで額の汗を拭うと、ペットボトルの中身を三分の一ほど飲み干す。そして決意を固めた。

 

「「一つ提案があ、えっ⁉」」

 

 二人は戸惑いの声まで被ってしまう。互いに目をぱちくりさせると、カイズが「どうぞ、どうぞ」とヴィータ言葉を促した。

 

「あっ、えーっとな。……もういっそ信用のおける現地人に力を借りるしかねえと思うんだ。説明はぼかしぼかしにはなると思うけど、それでもあたしたち二人じゃ限界があると思うしな」

「俺もちょうどそう思ってました。俺たちだけじゃ探せる場所も限られてますし。……それに万が一シードが俺たちの移動可能エリア外にあったらお手上げなんですよね」

 

 この世界の作りからしてそれはあまり考えたくない。だが最悪は想定しておくべきであろう。

 

「あたしはアインスに当たってみようと思う。八神堂の皆に伝えるかはその時次第だな」

「活動エリア内で八神堂さんが味方になってくれれば、かなり顔が利きますしね。……俺は恭也さんに事情を話してみようと思っています」

「なのはの兄ちゃんにか?」

「はい。恭也さんは紳士で口が堅い人です。それに寡黙な方ですけどかなり交友関係が広い人みたいで。機械弄りが得意な彼女さんもいるみたいなので、八神堂さんとは違った意味で顔が広いと思うんですよね」

「……よし、じゃあ決まりだな!」

 

 ヴィータは残りの水を一気に飲み干す。そして疲労困憊の脚に活を入れた。

「善は急げですね!」

「おうっ!」

 

 ペットボトルをゴミ箱に捨てると二人は背を向ける。そして信用に足るべき人の元へと足を運んでいくのだった。

 

 

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