ヴィータちゃんは男友達が少ない   作:白翼

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あの日のあの場所で

◆sideヴィータ

 

 八神堂に来るのは習慣と化していた。だがここまでの緊張感は初めてだった。ヴィータは店の前で何度も何度も深呼吸をする。そして頭の中で会話をシミュレートした。

 

「はぁー、いきなりこんな話して変に思われるだろうなー」

 

 この数ヶ月で信頼と信用を重ねた。それ故に突拍子のないことを話すのは少しはばかられた。

 

「まあそれも今更かもな。こっちは初対面で思いっきり醜態さらしてるわけだし。……悩んでてもしょうがねえ、行くか!」

 

 気合いを入れて八神堂に足を踏み入れる。そしてヴィータの覚悟を試すかのように、すぐにアインスと対面した。

 

「こんにちはヴィーラ、今日もブレイブデュエルかい?」

「いや、今日は個人的なことを相談に来たんだけど。いま大丈夫か?」

 

 そう言われるとアインスはレジのはやてをチラリと見る。はやてはそれに気づくと「ごゆっくり~」と笑顔で手を振ってくれた。

 

「そしたらどこで話そうか? 相談だったらうちのリビングの方がいいかな?」

「いや、出来れば誰もいないか、あまり人が立ち寄らない場所が都合いいんだけど。どこかそんな場所あるか?」

 

 声のトーンとその表情から何かを感じ取ってくれたのだろう。アインスは真剣な眼差しを向ける。

 

「そうか、それなら。……ちょっと一緒に来てくれないか」

「……わかった」

 

 アインスに連れられ地下へのエレベーターに乗る。そのままブレイブデュエルの会場に着くと、いつもとは逆方向に歩いて行った。

 

『スタッフオンリー』の札が付けられた扉を開けると、そこにあるブレイブデュエルの筐体を指さした。

「ここにあるのは緊急時に私たちスタッフが使う専用筐体なんだ。ちょっと待ってくれ、今設定を弄るから」

 

 アインスは近くの端末に手を添えると、慣れた手つきでキーボードを叩いていく。そして『プライベートスロット』のアイコンをクリックする。その作業を終えると『1』と『2』の筐体の扉が解放された。

 

「今オフライン状態でこの二つだけを繋いだ。これで外部から盗み聞きされることもないだろう」

「……ありがとうなアインス」

「なに、誰でもないヴィーラの頼みだからな。……それに何となくこんな日が来るとは思っていたんだ」

「えっ、アインスそれって……?」

 

 ヴィータの言葉に返答せず、アインスは『1』の筐体に入る。ヴィータは何となく歯切れの悪さを感じながらも『2』の筐体に入ってくのだった。

 

 

 雪が降りしきり、木々が街頭に照らされる夜の風景。アインスは黒いバリアジャケットに身を包みながら、その空を儚げに眺めていた。

 

 その景色は、その光景は、ヴィータの心の中に色濃く残っている。いや忘れるはずがないのだ。それはアインスが空に還っていったあの時とまるで同じ状況だったのだから。

 

 見せつけられた光景に息が詰まりそうになる。だがそれでも踏み出さなければいけない。ただの偶然なわけがない。きっとアインスは何かを知っているのだろう。ヴィータは一歩一歩踏みしめるように進んでいく。そしてアインスの隣に並び立った。

 

「ヴィーラ、君はこの景色に覚えがあるんだな」

「アインス、もしかしてお前…………」

 

 ヴィータがそう問いかけるとアインスは首を横に振る。

 

「私には覚えがないんだ。なんて言えばいいんだろうな。……私、八神リインフォースアインスとしてこの場所は『記憶』にない。だがどうしてか覚えはないのに『記録』としてこの景色が鮮明に残っているんだ」

「…………どうしてこのフィールドを私に」

「ヴィーラならこの景色のことを知っているという予感があった。私がこの景色を浮かべるようになったのは、あの日八神堂の前でヴィーラに……」

 

 そこで言葉を止める。アインスは少し迷いながらも、どこか確信を持って言葉を続けた。

 

「八神堂の前で『ヴィータ』に会ったときだったからな」

 

 聞き間違えないように力強くハッキリとその名前が口にされる。ヴィータは驚いたように目を見開く。

 

「……いつから気づいてたんだ?」

「確信を持てたのはこの場所を見た時のヴィータの反応だ。だけどそれらしいことはいくつかあったかな」

 

 アインスはポケットからブレイブデュエルのデッキホルダーを取り出す。

 

「ヴィータが初めてブレイブデュエルの施設に来たときだ。二人のデッキホルダーとカートリッジを見せてもらっただろ」

「あ~、そんなこともあったような?」

「その時に対戦成績や店舗登録はしてないが、プレイヤー登録だけはされていると話したのを覚えているだろうか」

「確かに言ってたような、そうでもないような」

「カートリッジに記載された名前はヴィータだったんだ。見た目からしても赤の他人で済ませるほうが難しかったからな」

「えっ、だけど私。……あたしの名前はヴィーラで登録されてたはずじゃ」

「そうだな。ヴィータがなぜヴィーラと名乗るのかわからなかった。だがヴィータが偽名を使うのだから深い理由があると思ったんだ。だからカートリッジを受け取ったときにプレイヤー名をヴィーラに変更しておいたんだ」

 

 そう言えばあの時、カイズのカートリッジを見たときと違って、何やらキーボードを叩いている気はしていた。今になってみれば、アインスは不測の事態を先回りし解決してくれていたのだろう。

 

 開いた唇に指で触れアインスを見つめる。だがそんなヴィータに対し、アインスは年頃の少女のようにクスクスと笑って見せた。

 

「それになヴィータ。ヴィータは気を付けているつもりだったのだろうが、私との会話中、何度も一人称が『あたし』になっていたぞ」

「げっ、本当かよ」

「本当も本当だ。だがそれらのうっかりは今になってみれば後付け程度のレベルの話だがな」

「後付けって。えっ、あたしもしかして、とんでもないうっかりしてたってことか」

 

 うまく擬態をしていたつもりなので、それはそれでショックだ。ヴィータはそう表情に出すが、そうではないとアインスは答える。

 

「初めてヴィータと出会った時、失った自分の一部、自分になくてはならない者と巡り会えた気がしたんだ。それにヴィータと過ごした三ヶ月、まるで八神堂にもう一人家族が増えたようで本当に温かい気持ちになっていたんだよ」

「あたしが……家族……?」

「ああそうだ。一緒に過ごせば嫌でもわかる。ああ、この女性は私にとって大切な人なんだろうなと」

 

 その言葉に迷いや憂いは何一つ見られない。真っ直ぐに向けられた本心を受け取ると、ヴィータは目に涙を浮かべた。

 

 だがそれは今まで流してきた悲しみや辛さから来るものではない。認められたことが。そしてあの雪の日に見送ることしか出来なかった彼女の本心がようやく聞けた気がして、それが本当に嬉しくて、ヴィータは頬から涙がこぼした。

 

「泣かないで欲しい。ヴィータが悲しむと私も悲しくなってしまう」

「……ああ、そうだな。泣いてばっかりじゃまた迷惑かけちまうもんな」

 

 よしっ! と両頬を叩く。そしてこの世界で流す涙はさっきの一滴が最後だと気合いを入れ直した。

 

「これから話すことはほんと突拍子もないことなんだけどよ。……それでも最後まで聞いて欲しいんだ」

「ああ、ヴィータの心ゆくまで話してくれ。私はどこにも行かないよ」

 

 アインスはベンチを指さし二人は座り込む。降りしきる雪の中、二人は互いを気持ちや正体を隠すことなく全てを打ち明け語らっていくのだった。

 

 

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